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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第7章 ~神の炎の恐怖~
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呆然の台湾艦隊、動けない戦乙女

―TST:AM011:30 同海域 日台連合艦隊台湾艦隊旗艦DCG丹陽FIC―







「……結局、我々はどうすればいいのだ……」


私は頭を思いっきり抱えてしまった。


中国から突きつけられた核に撃たれるか属国に戻るかの二択。


この期に及んでとんでもないものを突きつけてきたと思った。

だが、実に効果的なものだったといっていい。

現に、我々はその条件の中の「これ以上進撃したら撃つ」という言い分の元、その足を止めざるを得なくなっている。

幸い、敵も進撃してこない。おそらく、その攻撃の家庭による自分たちのこれ以上の損害に敏感になっているのだろう。


だが、これによって戦線が全然動かなくなった。

進撃もできない。母国の解放もできない。そして、攻撃もされない。


……何もできないのか。こうして振り上げた手を、みすみす下ろすことができないというのか。


そして、我々は身動きができない。

今日の朝から、全然身動きが取れないでいた。


……手足は縛られていないはずなのに、なぜか縛られている。


核という、見えない縄に。


静かなる沈黙を保つ中、やっとほかの部下が私に対して言った。


「……ど、どうします司令? これは……ッ」


その部下も部下で、結構な震え声だった。

顔もこわばっている。自分でも、これに関しては何をすればいいのかわからない状態なのだろう。


……はっきりいって、私もそうなのだが。


「どうするもこうするもあるか……。こればっかりは、私らには手は出せんよ……」


「そ、そんな……ッ!」


「では、このまま黙ってみていろと!? そんなの無理ですよ!」


「だが、そうは言っても核を突きつけられたらどうにもできない……。向こうは撃ってないからこっちから打って出れない。それに、こういう外交は俺たち軍人の仕事じゃない」


「で、ですが……」


「……こればっかりは政治家に託そう。我々は黙ってみているしかない」


「……」


我々は黙ってみているしかなかった。

こればっかりは我々軍人が出る幕ではない。政治家が決めることだ。

……だが、さすがに今の台湾政府も、こんな我が国の未来に関わる重要な決断ができるだろうか。

特にあの首相。別に嫌っているわけではないし、むしろあんな若いのによくあんなでかい仕事につけるなと関心していたのだが、そうは言ってもさすがにこんな大それた決断ができるのだろうか……。

彼はまだ若い。今頃専門家などを急遽呼びつけて対策会議の最中だろう。

最終決定までに、一週間などという異例の長期間を与えてくれたのが不幸中の幸いというやつか。

何でか知らんが、それはそれでありがたいというものだ。


彼も、できる限り最良の選択をするよう努力するだろうが……。


「(……どっちも選択したくないんだよなぁ……)」


せっかく独立したのにまた昔みたいに属国に戻ってこき使われるのもいやだし、かといって核撃たれるのも勘弁だ。

いくら日本からの技術提供の関係でBMD能力が大幅に向上したとはいえ、撃たれるより撃たれないほうが断然いいことには間違いないからなぁ……。


ぬぅ……、どうしたものか。


この場合、日本やアメリカといったほかの国も手出しができないからほとんど台湾の孤立無援で解決しなければならない。

何か助言はくれるだろう。でも、それで援助とはいえるのだろうか。

助言はくれても、結局最終的な決断をするのは台湾政府だ。

日本も、やっぱりこればっかりは何も手が出せないだろう。

励ましの助言はくれても、それ以上は無理だ。


そして、一番の便りの日本軍も、今回ばかりは役に立たない。


我々と同じく、見ているだけの存在だ。




これがどれほど歯がゆいものか、説明もつかない。




「……我々に与えられた期間は一週間。それまでは何もできないか……」


「とりあえず、哨戒を厳にしつつ、万が一敵の侵入自体は防ぎましょう。向こうが提示している条件はあくまで“これ以上の進攻の停止”ですからね」


「うむ……。まあ、進攻さえしなければ向こうとて文句は言えまい」


向こうも一々進撃するなとか限定的に言わなければよかったものを。

なぜ“攻撃するな”と大きな釘を刺さなかったのか。そうすればこっちとて何もできず戦線が交代していたはずなのに。

……いや、それだと一々この条件提示しての外交交渉に支障をきたすか。戦線移動に対応せねばならなくなるしな。面倒ごとはあまり増やしたくないということか。


「……とりあえず、哨戒ヘリサンダーホークとシーホークからの情報はまだか? そろそろ定期報告のはずだろう?」


「一応、ソナーやデータリンクには反応ありません。少なくとも近海にはいないかと」


哨戒ヘリ『サンダーホーク』とは、我が台湾海軍が保有する哨戒ヘリ『シコルスキーS-70C(M)-1/2“サンダーホーク”』のことだ。

外見は、同じくアメリカが開発したSH-60シーホークに酷似しており、性能もそれに準じたものとなっている。

最近ではさらに改修や増強がされ、今では台湾海軍の主力の哨戒ヘリとなっている。

今は日本のSH-60K・KRシーホークとともに、近海の対潜哨戒に出ている。


「ふむ……。対潜戦闘の専門家スペシャリストの日本もいることだし、とりあえずは安心と見ていいか?」


「とりあえずは。日本も、前の敵潜からのUSM攻撃で露呈した対潜の穴を埋めてきてるでしょうし、もう大丈夫でしょう」


「そうか……。まあ、それならいいんだが」


前の敵潜からの云々というのは、4日前に日本艦隊が受けた対艦攻撃で、あれで日本艦隊にも被害が出たようだった。

汎用駆逐艦が3隻。沈みはしなかったものの、それでも3隻も沈んだのは痛かった。

しかも、そのときのミサイルが通常の中国が保有する速度より格段に早いM3,6というとんでもないものだったらしい。

幸いそのときの戦闘データはもらったので、これを基にして対空戦闘時の対空迎撃システムのデータに組み込んで前もって準備することができたため、もう簡単には撃破することは不可能となった。それはもちろん日本も同様だろう。

だが、それでも事前にこれを察知できなかったのは痛かった。さすがに潜水艦の進入を許してしまったことは擁護しきれないが、それでも向こうも中々我々の予想外のところをつくようになったものだ。

……尤も、予想の斜め上をつくことは度々いろんな分野であったにはあったが。だが、最近はそれが顕著になったな。

これによって多くの死者がでてしまっただろうし、なんとも申し訳ない気持ちでいっぱいだ……。この分は、後でしっかり返させてもらう。


もちろん、再び我々が動き出したときにな。


「陸も空も、戦線は停滞しています。どこも休戦状態で、哨戒での動きはありますが、それ以上の戦闘などは起きておりません。むしろ……」


「?」


「……たまに偵察にでた戦闘機が偶然敵と鉢合わせたとき、互いにバンクして挨拶していたとかそういう報告も」


「なんじゃそりゃ……」


「あと、内陸に出ている日本のOH-1ニンジャとかいう偵察ヘリが、同じく敵の偵察ヘリと鉢合わせたとき、自分の持ってる高機動性を目の前で疲労するなんていう遊び心満載の行為を“独断で”した後、その敵偵察ヘリから“お見事”などという電文を受け取ったとかそんなことも……」


「おいおい……、今は第一次大戦時かよ……」


OH-1といったら日本の独自開発の偵察ヘリで、ヘリに全然似合わない超絶的な高機動性を発揮していたことから、その開発チームはアメリカ以外で初のハワード・ヒューズ賞を受賞することにもなった。

その機動はまさにヘリとはかけ離れており、ヘリなのに垂直上昇、宙返り、果ては後ろ向きでの宙返りといったアクロバット飛行が可能なほか、パイロットが操縦桿から手を話している状態でもホバリングを維持できる高い安定性を誇る。

その高性能と、偵察に使用されるという用途の関係から、まさに“忍者ニンジャ”の愛称にピッタリだ。


それが敵ヘリの前でその機動性を披露か。暇なのかね、まったく。

まあ、落とされなくて何よりだが、あんまり無駄な行動はせんでくれよ……?

というか、日本人ってここまでユーモアあったか……? まあ、昔から何かと“何かが外れてる”のが日本だったりするが。


そして第一次大戦が云々というのは、実は昔の戦争では局地的に、かつ一時的に互いに休戦することもあったということの話だ。

これはどこの国でもに記録が残っていることで、今となってはそんなこと考えられないが、昔はそれほど珍しいことではなかった。

たとえば、たとえ互いに殺しあっても死体がゴロゴロ転がっている状態では戦いたくなかったのか、次の瞬間には互いに一時的に戦闘をやめて共同でそのしたい処理をしたそうな。そしてその死体はご丁重に扱われたとか。

中々いい話ではある。

中には“クリスマス休戦”というのもあって、その当時クリスマスになったら互いにもぐってた塹壕から這い出て銃を捨て互いに健闘を称えあいつつ、酒を飲み交わしたり煙草を交換したり果ては一応は戦争中だというのにサッカーをし始めたりなど、時にはほのぼのな光景も見られたとか。

そして、戦争が終わったら互いに抱き合って喜んだりもしたらしい。日露戦争中、日本の旅順での戦闘にいたっては、ロシアが降伏を決めて停戦すると、昨日まで殺しあっていた日露の兵士たちは銃を捨て、何人かの日本兵は旅順市街に繰り出して露軍兵士と共にどんちゃん騒ぎをしたそうだ。

何度もいうが、当時としては別段珍しいことではない。

昔は、日本で言うところの武士道精神のようなものがまだよく根付いていた時代であり、今みたいに互いに憎しみまくってることはなかったのである。

それが、今現代では国家総力戦になったり、プロパガンダが発達したりと、そのような互いを尊敬する精神はすっかり廃れた。


時代が時代とはいえ、なんとも悲しいものである。


だが、今回はそれがほんの少し芽生えたということか。それに関しては本心うれしいことでもある。


そして、それに対して敵の中国側も一定の理解と行動をしてくれてるあたり、まだ中国は捨てたものではないと思った。

……尤も、その政府はとんでもないクソッタレ野朗ではあるが。


と、話がずれてしまった。


そんなことを思いつつ私は考える。

陸と空。そちらはまだいいとして……、


「となると問題は……」


「ええ……。海の、『施琅シーラン機動艦隊』です」


「だな……」


問題は、この海の敵機動艦隊だ。

これに関しては、先ほどからインドやフィリピンを初めとする東南アジア・インドの多国籍連合艦隊が全力で食い止めに入っているが、それもそろそろ限界が来ている。

米軍の介入はあるものの、その米軍第3艦隊がきたのはフィリピンの太平洋側。

ルソン海峡やバリンタン海峡は中国に封鎖され、いかに米軍といえどもこれを突破するのは至難の業。

損害は必ず起こるだろうし、米軍はそれを嫌ってかそこを通ろうとしなかった。

ゆえに、実質的には米軍はこの敵機動艦隊阻止攻撃には直接参加していない。


あの部隊が来てしまっては、そのときの向こうの損害状況にもよるが、こっちとて迎撃はとても困難になる。

せめて高雄市が奪還確実に成ってからにしてもらいたいが、向こうがそこまで待ってくれるかどうか。

……こっちには日本の援護もあるとはいえ、現実的に考えてどこまで効果があるか。

損害自体は避けられないだろうが、それをどこまで防げるかが問題だった。

沈没艦は出したくない。ましてや、せっかく救援に来てくれた日本に対してなど。


「……まあ、その敵機動艦隊も今身動きできない状況です。艦載機の補充はうまく行ってないみたいですし、水上艦艇の損害も無視できないレベルになってきているようです」


「みたいだな……、とにかく、台湾到着までに少しでも損害を強いらせてくれればいいが……」


「ええ……、ほんとに」


だが、どこまで効果があるかね。

ぶっちゃけそれは東南アジア・インドの多国籍連合艦隊の努力にかかっている。

彼らが奮戦してくれることを祈る。特にインドは、独自の空母を持っているし、それは中国に負けずとも劣らないものだ。


彼らにはがんばってもらいたいが、同時に無理も禁物だ。


それで結局自滅したら元も子もないのでな。


「……とにかく、今は近隣の哨戒をしつつ、状況を見守るしかないでしょう。ここは、我々がむやみやたらにでてくる場面ではありません」


「だな……。状況を素直に見守ろう。ここは、」








「……残念だが、政治家の仕事だしな」








私は素直に、そのまま自然の流れに任せることにした……。




















―同艦橋上―






「……どうしよぅ……」


私はとてつもなく不安だった。

というか、憂鬱だった。


向こうは核撃つって言ってるのに、こっちからなんにもできないというどうにもじれったい状況を身をもって感じている。


こんなときにこそ何か動くべきなのに、こればっかりは自分がただの艦であることに激しい怒りを感じてしまう。……まあ、これに関しては怒っても仕方はないんだけど。


それはもちろん私だけではない。ほかの艦の皆もそうだし、私の妹なんて……、




“……で、あのクソ共はなんだってあんな要求突きつけやがった? 何がしたいんだあいつらは?”


“そ~れがわかったら苦労しませんて……、向こうには向こうなりの考えがあるんでしょうけど”


“クソッ、ふざけてやがるぜ。おまけに一週間なんていう無駄に長い期間与えるし……、意味がわからねえぞ中国。なに考えてやがるんだあんのクソ共は”


「まあまあもうそれくらいにして……」




もうこんな感じで低い声で暴言罵声上げつつその怒りをひっきりなしにぶちまけてる。

朝にこれが発覚してもう昼になる時間帯だって言うのに、まだいってる。

まあ、それほど怒りが大きかったことの裏返しだとは思うけど。


“だけど姉さん。こればっかりはいくらなんでも理不尽だ。なんでこんな要求突きつけられなきゃならないんだよ?”


「それはわからないけど……、けど、だけどここでどうのこうのいっても始まるものでもないでしょ。言ったって仕方ないわよ」


“チクショウ……、ここから何にも手が出せないのは歯がゆいぜ。その間向こうの好き勝手させることになるしな……”


「まあ、かといって戦線が動くわけでもないけどね……」


好き勝手、とはいってもどちらかというとそれは中国政府のほうかな。


でも、向こうもいったい何を考えているのか……。私は軍艦だし、政治はちゃんちゃら詳しくないけど、でもこれがとてもマズイ選択だって言うのはさすがにわかるわ。

どういう意図があるのか、当たり前だけどそれはすべて謎。

しかも、こんな一週間という長い期間。これにも何か意図は隠されてるはず。

でも、それもわからない。


……はぁ。


「(……こんな時に何も出来ない私って……)」


軍艦とはいえ、こんな歯がゆい思いはしたくない。


何か出来ないかと考えたけど、結局何かできるわけでもなく。

政治には参加できないのが艦の定め。


……結局、私にはどうにも出来なかった。


「(……これじゃ台湾まもれないじゃない……)」


私は無力感を感じた。

せっかくもう少しというところまできたのに、後一歩のところで届かない。

いや、届きはするんだけど、“踏み込めない”。


それを解決させることが出来ないのになんとも悔しいというか、何か言葉に出来ない負の感情を覚える。

でも、いくらそう思ったって無理なものは無理。どうにもできない。


……こればっかりは人間の、しいては台湾政府の政治家の皆さんに任せるしかない。

でも、どのような決断を下すか……。ぶっちゃけどっちもいやだけど……。

中国の属国だった時代は、なにやら中国属国時代を体験した艦や、いろんな乗員の話を聞く限り結構いやなことばかりだったらしい。中国にこき使われたりとか。主に政治的な面で。

だからかつては台湾でも独立的志向が高かったり、独立時は喜びが爆発したりしたらしい。

でも、だからって核を撃たれるとなるとそれはそれで問題だし。

私と妹なんて、SM-3撃てるとはいえまだBMD試験すんでないし……。


不安だらけだった。あと、憂鬱の感情も結構あった。


「……私、」








「……どうしたらいいのよ……」










私は「はぁ~……」と大きくため息をつくと、その頭を抱えて大いに悩ませた…………

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