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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第7章 ~神の炎の恐怖~
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前線に渡る動揺

―TST:AM06:40 台湾海峡南方出入口澎湖諸島七美郷西北西30海里地点

  日台連合艦隊日本艦隊DCGやまと艦橋―






「……は?」


 思わず俺はそうつぶやいてしまった。


 その視線は通信を持ってきた乗員に向けられ、その内容がびっくらこいたを通り越してもはや唖然である。


 ……どういうことだよ。






 “核を撃たれるか属国になるかの二択をせまる”とか……。






 とうとう向こうの首脳部の頭がイカれたか? それとも何か目的でもあんのか?

 意味はまったくもってわからんが、俺たち前線部隊に与えた衝撃は違う意味でお察しレベルだ。

 もちろん、これの関係で俺たちの今日の高雄市突入作戦は急遽中止。全員この場で待機状態に移行した。

 で、仕方ないから近海哨戒がてら哨戒ヘリシーホークばんばん飛ばしまくることにしたけど、ぶっちゃけ今は対潜哨戒どころではなくてですね。

 もうそっちでなくてこっちに関心がいきまくりでして。


 そんでもって、その報告を聞いていた艦橋要員も、俺みたく全員唖然とおりこしてもはやセルフ石化です。固まりまくりました。

 声の一つもでない。音も全然ない。

 あるとしたらこのやまとのエンジン音。そして波を切る音。でも、今日は朝から曇ってるとはいえ波は穏やかで、結構快適な航海です。気分的には。

 でも、そのほかの状況的にはどうにも快適な航海とは呼べる状況ではなくてですね。


 ……おいおい、


「(……あいつらマジでやる気か……?)」


 さすがに正気とは思えない。核ミサイルを撃つとかあいつら本気か?

 そのリスクが多大なものどころではないのを承知でないはずはないだろうけど、だとしても事実そんな感じの動きを得ているらしいし、そもそもこんな声明出してミサイル自体が動き出してないなんてことなないし、事実なんか発射点にミサイルと核弾頭っぽいのを移送し始めてるし。


 おまけに、この核を撃たれたくなければこれ以上進軍するなと釘を指しにもきたもんだ。


 ……まいったわ。さすがに核相手じゃこっちもうかつに動くわけにもいかないし、これじゃこっちからじゃどうしようもない……。


 しばらくの沈黙の後、航海長が目の前の操舵機器や航海レーダーがある計器類に両手を突きがっくりとうなだれた。

 そして、静かに声を発する。

 この沈黙が始まって、初の人間の声である。


「……うそだろ……、奴ら、マジでやる気なのか? 正気とは思えない」


 そういって軽く、かつとても小さく首を横に振った。

 そして、右手で顔を覆った。

 それも、小さくため息をつきながら。


 そして、今度は副長も声を上げた。

 航海長とは真逆にこっちは怒りに震え、両手に握りこぶしを作って震えながらいった。


「クソッ! ふざけてやがる! こんなふざけた声明を発表して、ただで済むと思っているのかあいつらは!?」


 思わず近くにあった艦橋窓のすぐ前にある小さいテーブルスペースを右手のこぶしで思いっきり叩いた。

 周りも思わずそれにビックリするが、でも、その心境はすぐに察することができる。別に彼を責めるべくもない。


 この怒りは当然の怒りだ。このような理不尽極まりない要求を突きつけられたんだ。人によってはぶち切れる。

 普段感情を表に出しやすい副長ならなおさらだ。まあ、自分の感情に素直という言い方もできるけど。


 副長の罵声はまだ続いた。


「馬鹿げている! 彼らは自分達のしたことをわかっていないのか!? しかもなぜ台湾なんだ! よりにもよって! なぜ、台湾なんだ!!」


 副長の怒りの罵声は艦橋にびんびんと響いた。

 性格上、何度か艦橋で怒鳴ったことはあるし、俺もそれに巻き込まれたことはあるが、ここまで激しい怒りをあらわにしたのは始めてみた。

 彼の、この声明に対する怒りの程度が知れる。

 俺たちも、副長に同感だった。

 何もいうことが出来ないまま、悔しさ、悲しさ、その他諸々の感情を感じながら、その罵声を聞いていた。

 全員が全員、その顔は暗いものだった。もちろん、俺も含まれている。


 もう少し彼の罵声は続いたが、さすがに艦長が止めに入った。


「もうやめたまえ副長。……気持ちはわかるが、これ以上ここで言ったって意味はない」


「ですが艦長!」


「聞こえなかったのか? ……もうやめろと言ったんだ」


「ッ……、は、はい。申し訳ありません……、少し、取り乱しました」


 艦長に言われるとさすがに頭が上がらないのが副長だ。

 すぐに冷静を取り戻した。しかし、その表情は周りと比べてもひときわ暗い。

 うつむいたまま、目を思いっきり瞑った。

 まだ体は震えている。両手の握りこぶしも解かれていない。


 ……まだ怒りはたまっているんだ。でも、それをこれ以上周りにぶちまけるのは許されない。

 行き所のない怒りが、彼を支配してしまっている。こんな俺でも、それは容易に察することが出来た。


 ……だって、俺も似たようなもんだしな。


「……しかし、艦長は悔しくないのですか? このような理不尽な要求をされ、しかもこっちからはうかつに手が出せない。それが悔しくないのですか!?」


 副長はそう問いかけた。

 事実だった。この要求が理不尽極まりないのは何度も言うとおりだが、かといって俺たちがどうにかこうにかできるわけでもないのも、これまたさっきも言ったとおりだ。

 ここから核ミサイルを狙撃させれるわけでもない。そもそも、今のやまとにはトマホーク積んでないし、他の一部のイージス艦が積んでるし。

 ちなみに、この時点で今ここにいる日本艦隊は一部日本から来た援軍と交代している。

 詳しくは後々にするが、その中には現場復帰した『こんごう』もいる。

 今頃俺たちやまとの隣で同じく哨戒についているが、向こうも俺たちと似た状況だろう。

 いや、こんごうややまとだけじゃない。

 ここにいる艦隊全艦、台湾本土の陸の友軍、空の味方、そして世界各国の人間全員がこんな感じだろう。

 どこもかしこも、唖然と騒然、そして、喧騒の嵐に違いない。


 艦長も、艦長席に座ったまま、目を閉じて少し時間を置いた。

 微妙に顔を下に向けつつ、また目を開き口をあける。


「……悔しくないはずがなかろう。私も、この年でなければ思いっきり目の前の艦橋の窓をぶち破ってやりたい気分だ」


「うへ~……」


「か、艦橋の窓って……」


 思った以上に情に熱い人だわな。

 だが、そうなるのも無理はない。というか、そうなったらむしろ止めれないというか、もう止めないわ。

 なんなら俺の本音を言ってやろうか? 今すぐこの舵をぶち抜いて床に叩きつけてガンガン踏みつけたいですが何か?

 たぶん皆俺と似たような感じだと思う。

 でもそれだとやまとを破壊しまくることになりかねんので理性を保っての我慢我慢であります。


 艦長が軽くため息をついて続けた。


「……だが、かといってここからは何もできんだろう。これはあくまで台湾相手の、そして世界に公表した、いわば一種の“外交交渉”。これは、我々軍人ではなく、あくまで政治家の仕事だ。それも、中国と台湾、2カ国のな。我々の身勝手な介入は許されんし、そもそもどうにも出来ない」


「……で、ですが……」


「わかってくれ副長。……これが、軍人の定めだ」


「……」


 政治には参加できないのが俺たち軍人。

 ご尤もですわな。それは、ぶっちゃけその国の政治家の仕事だ。俺たちが割って入ったりするのは許されない。


 ……だが、そうだとは言えなんとも歯がゆいものだな。

 何も出来ないのか。せっかく助けに来たというのに。台湾がピンチだというのに。


 ……おまけに、この場合は日本政府の介入は出来ないから、最悪そっちに託すとか言うのも出来ない。

 第3国の介入は出来ない。これは、日本の限らず、アメリカを初めとする世界各国もそうだ。


 全員、この後の流れを見守ることしか出来ない。


 すべての判断は、誰でもない“台湾政府”にゆだねられている。


「……歯がゆいものだ。こうして何かを殺し、助ける軍人が、殺しもせず、そして何かを助けることも出来んとはな」


「それも……、自らの目的ゴールを目の前にして」


「うむ……。これほど、自分が無力に感じたことはない」


 艦長が太ももにひざを付き、両手を組んであごに乗せたままうつむいた。

 そして、鼻で深くため息をつき、目をとじてそのままだんまりしてしまう。


 ……人、これを屈辱ともいうのだろうか。


 何も出来ない。軍人として、これほど屈辱的なことはないだろう。

 確かに人は殺す。その代わり、何かを守るのが俺たち軍人だ。

 だが、この場合人は殺さないが、その代わり何かを守ることが出来ない。

 殺さないに越したことはない。だが、それで何かを守れないというのもなんとも苦々しいものだ。



 俺たちは、何もすることが出来ない屈辱を、いやおうなく味わわされている。



「……だが、一つ妙に気がかりなことがある」


「?」


「気がかりって……、何をです?」


 艦長が一つ微妙に話題を転換してきた。

 気がかりなこと。


 はて、いきなり何を言い出すのだいこの方は。


「わからんかね? ……台湾に、この判断を下させるのに、」







「一週間というこの長い期間を提示する意味はあるのか?」







「……あー」


「そういえば……、明らかに長すぎる」


 周りも各々で納得した。俺も含めて。


 確かに、考えてみればそうだ。


 言い方が少しまずくなるが、結局はたかが核撃たれるか属国になるかの二択を決めるだけだ。

 それなのにこんな一週間なんていうクソ長い期間を提示する必要はない。

 中身が中身、という意見もあるだろうが、それでも、この決断に一週間も必要ないだろう。

 それに、決まったらそれはそれでそれ相応に流れる。この期間がなんらこの後の決断に影響を及ぼすわけでもない。


 はっきり言って、“無駄な一週間”だ。


「……私は政治に詳しくないからわからんが、でもこんなに長い期間は必要なのか? 私はそれだけは疑問に感じている」


「どうせ向こうが気を使って重要な決断に長い期間提示しただけじゃないですか? それくらいしか思いつきませんよ?」


 航海長が半ば投げやりに言うが、まあ妥当なところか。

 最初は誰もがこう考えるだろうな。この提示された選択の内容が内容だしな。


 ……だが、本当にそれだけか?


 あの中国のことだ。何か裏があるんじゃねえか?


 俺はそう思えてならない。


「ふむ……、まあ、別にそれだけならそれだけでもいいんだが……、あの中国がそんな理由でこんな“浅はかな”決断をするか?」


「? 浅はか……、とはいったい?」


「うむ。……まあ、私から説明するより、この類の話に詳しい彼に聞いたほうがいいんではないかな?」


「え?」


 そういって艦長は振り返るが、その視線はなんと俺に向いた。


 ……政治関係だからかな? まあ、確かに艦長よりは俺のほうが詳しいかもしれんが。


「俺たちの中での専門家か。……じゃあ、俺から一ついいか?」


 そういって副長が軽く手を上げていった。


「? なんでござましょ?」


「いや……、政治というのかはわからんが、これによって……」




「……戦況には好影響ないのはもちろん、そもそもこれだけ長い期間を与える必要性は?」




 まあ、妥当なご意見である。

 戦況に好影響ないのは当たり前。そもそもこんな長い期間提示したところで戦況が変わるなら今頃逃げに逃げまくって時間稼ぎしてるころだ。

 もちろんだが戦況に影響はない。むしろ停滞する。

 これは全世界規模でそうだ。これ、アジアのすべての戦線が対象らしく、台湾だけでなく、朝鮮半島、東南アジア各戦線も今はこれの声明の関係で止まっている。

 だが、それで戦況が好転するわけもなく。


 ……でも、


「……はっきりいいましょう。“ありません”」


「ふむ……、やはり艦長の言ったとおりか」


「……」


 艦長はまたそのまま考え込むように右手をあごに当てて軽くうつむいた。


 残念ながら、といっちゃあまずいが、この長い期間を与える必要性はまったくない。


 というのも、この長い期間を提示したところでただ単に台湾側の判断期間を長くするだけで、ぶっちゃけ言えば結果は正か否かの二択しかないから“ほとんど意味がない”。

 結果が来た後の流れはもう決まっている。何らかの政治的影響がでるわけでもない。

 むしろ、ある意味では“悪影響”を及ぼす可能性もある。

 こんな長い期間を提示されたら、周りから対策取られてしまう可能性もある。

 一週間もあれば、アメリカだって核弾頭の弾道ミサイル積んだ戦略原潜を近くに派遣できるだろうし、台湾だってじっくりじっくり判断して自分にとっていい結果となる判断をしやすくなる。

 そして、こっちもこっちでこれに合わせてイージス艦を増備しやすくなる。あの日本政府のことだ。たぶん、追加で2隻くらい持ってくるんじゃねえか? まあ、あくまで予想だし、日本本土の防衛の関係もあるからそう簡単にこれるとは思わないだろうが。


 こんな感じで、ぶっちゃけ言えばメリットよりデメリットの方が多いんだよ。


「ぶっちゃけデメリットしかないですよ。各々で対策の時間を与えるだけです。アメリカあたりとか、絶対戦略原潜持ってきてるころのはずですし」


「だとしたらこの期間はいったい何の意味が……」


「もしかして、自分達の軍備が整う時間を稼いでるだけとか?」


 ほかの艦橋乗員が言うが、俺はそれ“も”肯定しつつ言った。


「たぶんそれもあると思う。だけど……、そんな見え見えな理由だとは思えない」


「……他にあるってか?」


「たぶんな。……何か、他の理由があるはずだ」


「で、それはさすがに……」


「……すまん、これ以上はもう本人に聞いてくれとしかいえないわ」


 まあ、聞いても教えてくれんだろうがな。


「ふむ……、だが、これの選択には何か理由がありそうだな。もう少し要注意しておくとしよう」


「ですね」


 まあ、ぶっちゃけ軍人が考えるようなことでもないだろうしな。


 俺たちは軍人としてほかのやれることをやるのみだ。


 ……すると、


「新澤少尉、操舵代わります」


 と、操舵の交代の時間だった。

 夜からずっと操舵しっぱなしだったため、もうあんまり眠っていない。

 仮眠はとったけど、それでもぶっちゃけ言えば寝不足気味だった。


 この後は休憩だ。俺も少し休むとする。


「お疲れ様です。では、後はお願いします。新澤、操舵代わります」


「了解。西野、操舵お引き受けします」


 そういって彼に操舵の舵を託す。

 さて、この後は休憩の時間だが……、


 ……まあ、悪いがやっぱりいつものところにさせていただく。どうせ哨戒中でそれほど動きがないから問題ないだろう。


「……ん? なんだ新澤、またいつものとこか?」


「ええ、ああ。……少し艦橋でます」


「おう。ちゃんとハッチ閉めてくれよ」


「了解」


 いつもの、といったら俺がいつも休憩場所に使わせてもらっている右舷露天艦橋。

 外は曇ってる関係で少し暗い。まるで、今の俺達の心境を比喩するかのようだった。

 艦橋から出て、そのハッチを締めたあと、そのまま手すりに背中から寄りかかる。


 そして、腕を組んでそのまま軽くうつむいた。


 視線の先には灰色の露天艦橋の床がある。

 滑り止めの関係で少し規則的に凹凸がある。


「……」


 俺はそのまま考えにふけった。


 ……わからない。奴らの狙っていることはいったいなんだ?

 ただの時間稼ぎにしては大げさすぎる。わざわざマスコミにばらす必要もなかった。

 それに、自分達の軍備をサイド整えることもできるが、それはこっちも同じだ。

 結局、状況はほとんど変わらない。


 ……奴らの目的は何だ?

 何が目的なんだ? 何を狙っている?


 俺はわからなかった。奴ら、中国首脳部の狙いが。


 と、そう考えているときだった。


「……やまと、お前はどう思う? 奴らの狙い」


 ふと、視線を変えずに俺はあいつに問いかけた。

 俺の左隣には、いつの間にか同じく背中から手すりにもたれかかっているやまとがいた。

 体の前で手を組んで下げている。


 だが、その表情は暗い。……と、即座に感じ取ることが出来た。

 何も離さない。その呼吸自体も、とても深いものだった。


 ため息まじり。それだけで、こいつの心境が大体わかってしまう。


 一つ大きめのため息をついて、やまとは口を開いた。


「……それ、兵器である私に聞くんですか?」


「すまん……、いろんなやつから意見聞きたくてな。状況はお前もわかってるだろ?」


「……それはそうですけど」


 だが、それ以上はうまく口に出来ないようだった。


 自分でもわからないんだろう。

 政治関係が詳しい俺でさえわからないんだ。

 ミサイル巡洋艦というただの兵器で、軍事関係しかよくわからない自分がわかるわけはない。


 俺も俺だ。そんなのわかってたのに何を聞いているんだ。相手を間違えてる。


「(……俺も、自覚はないけど焦ってるのかな)」


 とにかく答えが知りたい。その焦りがこんな質問をやまとに聞いてしまったのか。よりによって、政治には素人であっても仕方がない“兵器やまと”に。


「……でも、わからないんだよ。あいつらの目的が。いったい何を考えてるんだ」


「……」


「……俺は答えが知りたいんだ。奴らがいったいなにを考えてるのか。それを知りたいんだ。……つっても、お前にこんな質問した理由にはならないか」


「……」


「……」


 その後、しばらくの沈黙が続く。


 ひっきりなしに響く波を切る音。

 そして時たま鳴り響く、哨戒中の哨戒ヘリシーホークのローターの風切り音。

 それ以外、なんにも音がでない。


 沈黙の時間。

 まるで、音が鳴るだけで時が止まったようにも感じた。


「……でも、」


「?」


 そして、それをやまとが破った。

 時間を空けて、やっとその沈黙をぶち破った。


「……それでも、私はやるべきことをやるだけです。撃ってきたら撃ち落す。撃たないならほかのことに役目を尽くす。それだけです」


「……やまと……」


 顔はうつむいていたままだった。だが、その表情は暗くない。

 うまく表現できない。だが、さっきとは違って何かを決意したように、キリッとした表情であったことは確かだった。


「……兵器として、これくらいしかできませんが、それでも……、最新鋭のミサイル巡洋艦として、義務は果たします。……守るべきもののために」


「……」


 ……まさか、こいつからこんな決意に満ち溢れた言葉が聴けるとは思わなんだ。

 これも、最新鋭ゆえのプライドか。いや、かつて守るべきものを守れなかった存在としての意地か。

 真意はわからない。

 だが、その胸に秘めた思いは、とてつもなく固いものは確かだ。


 それは、その言葉と、その決意を固めたような、そんなキリッとした表情がすべて物語っていた。


「……前を向くんですよね? 常に」


「……ああ、そうだ。前を向くんだ」


「でしたら、今はそんな目的とかそういうのより、解決策を探しましょう。今の現状を打開できる、“解決策”を」


「……そうだな。今の俺たちにできるのは、それしかないか」


 前を向けって言ったのは俺だ。

 俺が向かなくてどうする。こんなどうでもいいことに首を突っ込んでる場合じゃない。

 これは政治家の仕事だ。こっちはこっちで、やるべき義務を果たすだけだ。


「……お前も、そんだ大それたこといえるようにもなったもんだな。お兄さんうれしいよ」


「なんですかその妹の成長を喜ぶ兄のようなセリフは……」


「でも、うそではないぜ。昔はあんまり考えれなかったから」


「私昔からどうみられてたんですか……」


「どうみられてたって、かわいい妹のように……」


「えー……(汗」


「あ、すいませんうそです。うそですからそんなに引かないでお願い」


 ほんの冗談でも現代の女子高生みたいな反応するあたり、こいつもすっかり現代人になったものである。


「そもそも俺すでに妹いるって……、今さらそんな風にみないって」


「はぁ……、そうですか」


「はは……、まあ、とにかくだ」


「?」


 俺は一呼吸置いていった。


「……何かあったときは任せたぜ。操作は俺たちがするが、最終的には、すべてお前にゆだねられるからな」


「……ふふ、わかってますよ。最新鋭の意地、」












「しっかり見せてやりますから!」












 俺はその言葉に安心し、ふと空を仰いだ。そして、そのまま願った。




 ……頼むから、過ちだけは犯さないでくれと…………。

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