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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第7章 ~神の炎の恐怖~
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台湾の騒然

―8月29日(土) TST:AM06:30 台湾首都台北 大統領官邸地下統合国防情報室―






「…………」


 ……私は口を軽くあけたまま文字通り固まった。

 そして、その視線は、この国防情報室のメインモニターに集中していた。

 私だけではない。

 黄首相、金国防大臣、その他統合参謀長や軍幹部などの情報室要員。

 この場にいた全員が、まるで魂でも抜かれたかのようにそのモニターに釘付けになりつつ固まっていた。

 そして、その表情は暗い、通り越してもはや呆然そのものだった。


 そのモニターには、ついさっきまで戦争勃発後初の声明を発表する中国の長の周主席がいた。しかし、今はほかの戦況情報を表示している。

 中国でマスコミが報道しているもので、どうやら世界に向けての声明のようだった。

 わざわざ世界に向けて声明など、あの中国がこんなところで降伏するわけもないのにいったいどのような意図があるのか。

 最初不思議でならなかったが、その疑問はすぐに解決することとなった。

 というよりも、この声明自体が、もう直接我々に問いかけるものでもあったのだ。


 だが、その内容がとんでもないものであった。

 如何ともしがたい。怒りに震える内容だった。


 しかし、それと同時に大きな恐怖を覚えた。


 私だけでなく、この場にいた全員がそうであるはずだった。


 未だにモニターでは中国でのその声明が報道されている。

 国際放送。下に多言語での通訳がなされているようになっているが、もとより中国語と台湾語は同じなのでそれはしない。

 それをみつつ、沈黙を保っていた空気を黄首相がやっと破った。

 だが、その声は大きく震えていた。


「……か、」









「核を……、我が国に……ッ!?」









 中国の発表のすべては、この一言に集約されていた。


 そう。中国は我が国に対して、核による脅しを仕掛けてきた。


 我が国に核を突きつけ、これ以上の進攻を今すぐ止めろといってきた。

 そして、これを納める代わりに、中国の属国に戻れという条件を提示してきたのだ。


 直接いうのではなく、わざわざマスコミを使って世界に向けてもその意思を伝えるあたり、中国の行動の予想外さと意味深さを際立てている。

 この、マスコミを使った声明に何の目的があるのかわからないが、それでも、今はそんな些細なことに頭を使っている暇はなかった。


 今、我々は、核を突きつけられているのだ。


 聖なる光にも、悪魔の光にも化ける、神の炎だ。


 それを、今我々は、一瞬にして首元に突きつけられたも同然の状況に陥ってしまったのだ。


「……そ、そんな……、核だと!?」


 黄首相のその言葉を沸点として、その場が一気に大パニックになった。

 皆口々に悲鳴に似た声を上げ、周りにいたもの同士でどうすればいいのか叫び声を上げて言い合っている。……というか、半ば言い争いになってしまっていた。

 だが、責めるべくもない。状況が状況だ。

 いきなり突きつけられたらこうなるのも無理はない。私も本心ぶっちゃければ発狂したいくらいだ。

 だが、この大統領という立場上、そんなことは決して許されない。

 台湾という一国のリーダーたる私が取り乱しては周りにも悪影響が及んでしまう。もちろん、心理的な面でな。


 だからこそ我慢はするが、それでも、この突きつけられた条件を飲み込むことは難しかった。


 周りも同意見だ。驚きを通り越してもはや怒りくるってしまった金国防大臣は、思わず目の前にあるテーブルを右のこぶしで思いっきり叩いた後、その怒りを口で大声で叫びつつぶちまける。


「クソッ! 中国め……ッ! 汚いマネをしてくれる!!」


 その顔は、普段の彼とは違ってもはや鬼の面である。

 いつもの温厚な彼とは大違いだった。

 それだけ、怒りに満ちているのだと思う。


 黄首相も同意した。


「中国め……、最後の最後で、とんでもない策を……」


「ああ……。まさか、本当にやってくれるとはな……」


 核を使うとは、中国も落ちたものだ。

 ……いや、あの金閉のことだ。おそらく他に理由があるのだろうが、意味がわからない。


 どういうことだ。本当に、あの要求が自分達の本心なのか。


 金国防大臣がまた叫ぶ。


「……奴ら、いったい何のつもりだ! 核をちらつかせ、そしてこの要求をしていったい何をしたいんだ!」


「もういい金国防大臣……。ここで叫んでも意味はない」


「し、しかし……、しかし……ッ!」


 そういってそのまま震えながらうつむいた。

 顔に涙のようなものも流れているが見えた。


 ……相当悔しかったのだろう。彼自身、国を守りたい一身でこの職に就いたというのに、これをされては相当精神的にも来るに違いない。

 だからこそ、さっきまでの怒りがあったのだ。


 その気持ちは、私にも痛いほどわかるというものだ。


 同じ、国を守るものとしてな。


「……だが、このような外交交渉となると、やはり他からの援護が期待できんのがきついな……」


「ええ……。このような交渉の場合は、第3国の介入は認可できません」


「ああ……、困ったな……」


 この場合は、我が国と中国、二国間で解決させねばならない。

 一番期待できる日本も介入はさすがに無理だ。それに、自称世界の警察のアメリカも、このような場合はうかつに手が出せない。

 向こうが撃ってないんだ。こっちから撃つわけにもいかないだろう。

 それじゃあ、こっちが悪役になってしまう。


 それが一番厄介だ。こっちから手が出せず、そして立場もこっちが不利。


 ……核の正しい使い方ではあるが、これが一番我々にとっても問題なのだ。


 すると、幹部達が口々に言い出した。


「……だが、我が国だけで解決すると言っても……」


「まさか、あの要求を呑むつもりですか!?」


「だが、それでは核が……。撃たれたら完全に迎撃できるという確証もない」


「ですが、それではこのまま中国の奴隷になりさがりますよ!? 昔みたいになる気ですか!?」


「でも……、それで核を撃たれてこっちが被害を受けたら、いったいどうなると思う? もう国として再興できるとも思えない」


「今我が国にはイージス艦もありますし、日本にもいます! 彼らさえいれば!」


「だが! 完全に迎撃できる保障はないだろ! これ以上危険を犯すわけにはいかないんだよ!」


「お前ら! 国をこれ以上危険にする気か! 核を撃たれたらどうする気だ!」


「だからってこれ以上向こうの言いなりになるのか! そうしたら向こうの今までの横暴を認めることになるぞ!」


「そうだ! やつの横暴をこれ以上黙ってみていろというのか!」


「じゃあ貴様らは核の餌食になりたいのか! 日本の広島や長崎みたいな惨状になってもいいというのか!」


 この場で大きな口論が勃発した。

 この要求を呑む派と蹴る派、その間で怒号が入り乱れる。

 唯一参加していないのは黄首相と金国防大臣、そして、私だけだった。


「お、お前ら落ち着け! ここで口論をしたって……」


 黄首相が止めに入るも、それを全然きいちゃいないようだった。

 もう完全にヒートアップしてしまい、もう他の周りの声が聞こえていない。


 ……私も、我慢できなかった。


「ええい、お前ら黙れ! ちったあ口噤めぇ!!」


 私は同じく叫んで静止に入った。

 久しぶりにこのおやけの場で叫んだものである。


 この場が一瞬にして静まり返った。


 そして、一斉に私のほうを向く。


「……気持ちはわかるが、少し落ち着け。ここで口喧嘩したって解決する事案じゃない」


 その言葉に、周りも納得はしたが、その代わり顔の表情を暗くしてうつむいてしまった。

 中には、さっきの金国防大臣みたいに涙を流し始めるものまでいた。


 私はそれを横目に見つつ、金国防大臣に言った。


「……とりあえず、30分後の高雄市突入作戦は中止だ。全部隊を一時その場で待機させろ」


「ハッ、すでにそのように」


 はは、準備がいいわな。

 それでこそ国防大臣である。


「うむ……。ならいい。こんなときに侵攻しようものなら、あのいってたとおり本気で撃たれるからな」


 だが、これで作戦は大きく遅れをとることになってしまった……。

 核を突きつけられたからといって、下手に時間を食いたくはない。

 できる限り早く決断したいが……。


「(……どっちもデメリットばかりの選択じゃないか……)」


 進攻を止めること自体はまあまだいい。問題はその突きつけられた核を納める条件だ。

 属国に戻るか、それとも核を受けるか。

 どっちも本音は嫌だった。昔みたいな属国に戻ろうものなら、また中国にこき使われる。だが、それをけったとしても、核をまじまじとうけることにも……。


 ……ダメだ。我々で簡単に解決できるものじゃない……。


「……この事案は、そう簡単には解決できない。もっと時間が必要だ」


「ですが、長引かせるわけにも……」


「うむ……。どうすればいい……」


 あんまり長引かせたくはない。戦争もさっさと終わらせたいし、この我が国での戦闘もさっさと終わらせたい。

 だが、かといっていい加減な決断もするわけにはいかない。それは、短い時間でできるものでもないだろう。


 ……時間をかけて決断したいが、それだと戦争は長引く。



 まさに、ジレンマとはこのことだ。



 黄首相が少し力が抜けたように言った。


「……とにかく、突きつけられたからには、こっちも判断を下さねばなりません。期限は……」


「……一週間、だな」


「……ですね」


 中国から提示された時間は一週間だった。


 なんとも長い期間を提示されたものだが、まあそれはそれでありがたい。

 こっちも判断の期間は長いほうがいい。

 今から一週間。とてつもなく頭を悩ますことになるが……。


「(……とはいっても、なぜ一週間なんだ?)」


 だが、この疑問だけはわからない。

 長いこと自体は、別段判断する側としてはありがたいことには違いない。だが、なぜこんな一週間なんて長い期間を提示したのか。

 こんなに期間を設けても、結局判断を下せばそれ相応の行動が始まる。

 結局決断した後はかわらない。ぶっちゃけ時間が長かろうが短かろうが、結局その展開はかわらないのだ。

 それに、向こうとしては、決断自体は早いほうがありがたいはずだ。

 向こうがこっちの事情に合わせてくれたのか? だが、それでも一週間は長すぎる。


 ……どういうことなのか。この一週間は何の意味がある?


「(……わからん、いったいこの一週間には何があるというんだ?)」


 わざわざ長い期間を与えたのにはもっとほかの理由があるはずだ。私なら長くてもせいぜい4,5日しか与えない。それも、この戦況ならな。


 ……どういうことだ? 奴ら、本当に何を考えてるんだ?


「……本当に、」









「……核を突きつけたいだけなのか……?」












 そんな疑問が、私の脳裏をよぎった…………

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