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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第6章 ~『好朋友作戦』発動! 台湾の反撃を援護せよ!~
91/168

〔F:Mssion 20〕澎湖諸島空挺強襲! ……side『AB-A1』

―TST:PM13:30 台湾海峡 澎湖諸島湖西郷こさいきょう上空1,000ft

    日本国防陸軍第1空挺団第1普通科大隊第1中隊第1小隊所属C-2輸送機機内―







「降下ポイント確認。降下支障なし。……てめえら、準備はいいか!?」


 そこで私たちは大きくかつ威勢よく返事をする。


 降下まで後少し。

 上空の戦闘機隊の護衛もあって何とか敵地上空にまで差し掛かった私たちは、これまた予備司令施設制圧のために空挺強襲降下していきます。

 降下のための準備はすべて完了。


 後は、思い切って降りるのみだった。


『降下30秒前!』


「了解。よし、台湾でも俺たちの力を存分に見せ付けるぞ。覚悟は?」


「完了!」


「よし、降下スタンバイ!」


 そして降下扉の前に一列に並ぶ。

 私も順番があるのでいつもどおりに。


 ……さて、この戦争で二度目に舞う空か。

 しかも台湾ね。面白い。やってやろうじゃないの。


 女をなめたら死ぬってとこを見せてあげるわ。


 ……と、そのとき隊長が言った。


「いいかお前ら! 新澤の兄から助けてもらった命を無駄にするなよ! 無駄死にしたやつは幽霊になってでも新澤に土下座してもらうからな!」


「ッハイ!」


「はは……、土下座って」


 そう。少し前に私が乗ってるこのC-2が割と本気で落とされそうになったとき、それを寸前で助けてくれたのが私の兄の友樹兄さんだった。

 というか、こっちにきてたのはミサイルだと思ってたんだけど、それ落としたってことはまさか機銃弾?

 ミサイルの音とかは聞こえなかったし、たぶんそうなんだろうけど……。


 ……機銃でミサイルって落とせるもんなの?


『降下10秒前!』


「了解! いいか! 台湾の空に舞うぞ! 俺たちは台湾の希望だぜ!」


「ッヘイ!」


 降下直前にまたこれです。

 ま、この部隊に入ってからよくやってるからなれたもの。

 でも、戦闘前に声をつぶしそうで怖いんですがねそれは。


『……降下時間! そ~ら、飛んで来い!』


「おっけい! っしゃあお前ら行け! どんどん行け!」


 そしてそこからどんどんと身を空に投げていく。

 大量が右手をぶんぶん回して降下を促す中、扉から勢いよく飛んでいく隊員たち。

 私の出番が来る。


 ……どれ、そんじゃ、


「(……友樹兄さんに助けてもらった命、しっかり使わせてもらおうかね!)」


 そんなことを思いつつ、私は扉から思いっきり飛び出し、空に舞い降りた。

 すぐにパラシュートを展開し、目標地点を目指して降下していく。

 対空火器の類は撃ってこない。沖縄戦での伊江島のときと同じく、事前に対空火器は全部沈黙させた上でこうやって降下しているからね。

 降下予定地点は、澎湖諸島こと澎湖県の中心地、馬公まっこう市の上部にある重光里という地区。

 そこは民家とかの邪魔な建造物がなく、かつ砂浜と森ないし道路などの何らかの平地なので降りやすいという利点がある。

 そして、そこから目標地点である馬公市内澎湖県政府庁舎に、結構近い。


 ゆえに、そこに降り立つ。


「(……さあ、まってなさい台湾、そして中国。空挺団のご到着よ!)」


 私はそのまま空から地上へ舞い降りた。








「……よし、これでおけー」


 無事降下した私は、さっさとパラシュートを外して武装確認。

 ……まあ、案の定問題はなく、さっさと右目の前に小型HUDの光学透過型のハーフミラーを下げ、主武装であるヒトキューこと89式5.56mm小銃を構えて伏せる。

 一応上からの航空支援で事前に大分つぶしたとはいえ、敵がいる可能性がある。

 念には念を。こういう戦争の中での戦闘では当たり前のことです。


《……うっし、降下完了。全員いるか?》


 無線が声を発する。隊長の声だ。

 私を含め、この場にいる全員の存在を確認する。


 一応、全員無事降りたようです。ひとまずは無事降下できて何より。


《よし、ではまず敵情を確認する。各員、上空の『アマテラス』にデータリンクをつなげ》


 アマテラス、空にいる日本の空中管制機。

 別に空から指示を受けるわけではないんだけど、空からの情報だけはせめてほしいってことでこうやってます。

 といっても、敵の詳細な戦力まではわからないし、あくまで大体この辺に何かいるってくらいしかわからないけど、まあないよりは幾分もマシ。

 元々は日本のAWACSであるE-767にはなかった機能なんだけど、やっぱりAWACSという空から見れる目は少しでも大いに活用しようということで改修を加えられて、簡単にではあるけど地上の情報も取得できるようになりました。


 すぐにデータリンクが来た。

 寸前まで航空支援が行なわれていた関係か、降下地点近くにはいない。少なくとも、ここより南の市街地辺りにしかいない。


 でも、それも何とか北上しようとしている。私たちも動かないとね。


「最前線の敵、前方1kmの市街地より確認。北上中です」


《了解。ルートAはどうか?》


 ここで言うルートAとは、ここから目的地の湖県政府庁舎までの最短ルートのことで、すぐそこにある『民族路』という道路を使って海岸線沿いに南下すると、すぐそこにもう例の目的地がある。

 最初は私たちがそこを通る。だけど、ただ通るだけでは簡単に迎撃されるから問題。


 だから、複数方向から攻める。


《ルートA、敵戦力はありますが、まだ市街地内です。距離1100m》


《了解。南はどうだ?》


《復興里におりたBブラボーはすでに行動を開始しています。敵の一部がそちらに向かっており、敵は戦力分散を余儀なくされているものかと》


 復興里ていうのは、馬公中心市街地の南西の隅っこにある市街地に外れたところで、めっちゃ目立たないちまっとしたところ。

 一応そこにも降りられる場所はあるし、まさか敵もそこに降りてくるなんて思ってもいないだろうしで、敵の裏をかくつもりでの降下です。


 そこと、後はチームCチャーリーが東の国立澎湖科技大学周辺に降りたから、それを含めて合わせて3方向からの攻勢にでる。


 互いの連携が重要。後迅速な行動ね。


《よし、では我々も前進を開始する。まずはルートAだ。全員付いて来い》


 隊長の一言とともに、私たち、チームAアルファの行動は始まった。

 といっても、チームAの中でも少し分派して行動するんですがね。それによる部隊編成での私の配属は、A隊隊長直々に率いるA-1アルファ・ワン

 ほかのチームB・Cも同様。


 まずすぐそこにある民族路に入って、そのまますばやく南下。

 右手には澎湖湾の海が見える。今日は風は強くなく、波は穏やかだった。さっきからウミネコも猫に似たような独特の鳴き声を発しながらそこらじゅうを飛んでいる。

 ただいま絶賛戦争中だってのに、のんきなものねまったく。


 ……すると、


「……?」


 右手に今度は小さい民家。

 そこには、『異面店』の文字。

 ……なんからの店かしら。ものの見事に建屋が原型をとどめていた。

 運よく爆撃とかそういう攻撃がされなかったのだろう。なんにも傷がなかった。


「ほう、ここはなんともなかったのか。これが終わったら後で食いに来たいもんだな」


「こらこら……」


 隊長、それをフラグっていうのを知らないのですかね?

 あんたの世代でもすでに知ってると思うんですがねぇ……。


「(……もうすぐ敵がくるはず……)」


 市街地に入るまであと350mに迫ったときだった。

 ここから先は市街地入り口までものすごく縦に長い逆S字を描いているけど、回りは平地だらけで見通しはいい。


 そろそろ敵が仕掛けてくる。一応さっきから味方の戦闘機や戦闘ヘリが飛びまくってるし、時々機銃弾をぶちまけたりロケットなり爆弾なりを適当な場所にばら撒いてるから、そう簡単にこれるとは思えないけど……。


「……ッ!」


 すると、私の視界に何かが出てきた。

 まだHUDのほうからは探知できていない。ここからは400m近くあるけど……。


 そして、そいつらはその建物に隠れて何かを準備してる。

 あの手に持ってるのって……、


 ……ていうか、あの服ってまさか!


 私は考えるより先に口を動かしていた。


「全員伏せて!」


「え、え!?」


「おい、いきなり何を……」


「いいから早く! 死にたいのあんたら!?」


「え、え?」


 私がそうぶちまけつつ伏せると同時に、周りも一斉に伏せた。


 そして、その瞬間だった。


「ッ! っぶな!」


 私の、いや、私たちのすぐ上を目に見えない速さで光の弾が飛んでいった。

 ……いや、光って見えるだけか。


 これは、前方の敵からの銃撃。


 やっぱり、あの建物から顔を出したのは、敵だったんだ。


「全員伏せてろ! 絶対顔を出すなよ!」


 隊長がもてる声を精一杯出していった。

 ……とはいっても、無線あるんだし普通に咲けばなくてもいいって。むしろうるさい。


「クソッ! あいつら潜んでやがったのか! どうします隊長!?」


 羽鳥さんも叫んだ。というか、マジでうるさいから叫ぶな。少し落ち着きなさい。


「どうするもクソもあるか! とにかく、まずはこの制圧射撃をやめさせる。こちらA-1! 誰か! 上空援護できるやつはいないか!?」


 無線で救援要請。

 今ここで上空にいる味方航空戦力は、日本陸軍のAH-1コブラAH-64Dアパッチロングボウが少数。後F-2戦闘機2機が現在指示を待って待機中。

 でも戦闘ヘリコンビは今おくの市街地の敵勢力掃討をしてるからこの場合は……。


《こちらヴァイパーリーダー。援護に回りたい。場所を教えてくれ》


 やっぱり、対艦番長のお出ましね。

 まあ、対艦番長とはいっても普通に対地攻撃もお手の物っていう汎用性の高い機体になってるんだけどね。あと対空性能もそこそこ。

 今回のこのF-2戦闘機2機は完全対地装備でのご出張となっております。


 ヘリが出てこれないからやっぱりこっちが出てくるか。今その轟音はあまり聞こえない、というか、この敵の制圧射撃の音でかき消されてるからわからないけど、たぶん上空を旋回しつつ今みたいな援護指示を待っていたんでしょうね。


「こちらA-1、援護要請のお答えに感謝する。敵の制圧射撃を止めてもらいたい。目標の座標をデータリンクで転送する。ポイントDJ11デルタジュリエット・ワンワン周辺だ」


《……データリンク受信。確認した。エリアDJ11、対地支援を開始する。ヴァイパーリーダーよりヴァイパー02、かかるぞ》


《02了解ラジャー


 すると、上空で旋回待機していたF-2が動き出したみたいだった。

 すぐに重苦しくエンジンの轟音がとどろいたと思うと、敵がいるらしい市街地の一角のすぐ近くに機銃で射撃を開始した。

 まずは1機。その後方からさらに数秒の時間を置いてもう1機が飛び掛った。

 上から一気に急降下して、その敵戦力がいるらしいところに機銃弾を浴びせると、そのまま市街地の民家にぶち当たりそうなギリギリの高度を掠めていきつつまた急上昇。

 それをその2機が大体2往復くらいしたとき、やっと新しい動きがあった。


「……ッ! 敵が後退する……」


 F-2からの対地攻撃に耐え切れなくなったらしい。

 すっかりひるんでしまったらしい敵は南に後退していった。

 もちろん、制圧射撃もすぐにやむ。


「よし、いまだ! 各員すぐに移動開始! グズグズするな!」


 隊長の指示の元、さっきまで伏せて身を隠していた私たちも瞬時に起き上がり、また市街地に向けて走り出した。

 まだ市街地まで400mもある。F-2の対地攻撃で敵がひるんでる隙にさっさと市街地に突入してもぐりこませないと。


「……てかさ、」


「?」


 そんなときにいらなく話しかけるのは羽鳥さん。


「……お前、よくここから敵が見えたな。400mもあるんだぞ?」


「……あー」


 まあ、ぶっちゃけ視力がいいだけなんですがね……。

 でも、日本より南にある分空気も乾燥してるし、それだけ見えやすくなってる感じかな?


「まあ、視力は自慢ですので」


「ほ~う」


「だが、今回はその視力に助けられたな。礼を言うぞ。よくやった。お手柄だ」


「どもども」


 と、隊長からもお褒めのお言葉を承る。

 子供のころからの自慢だったからね。この視力は。

 一時期は大樹兄さんあたりから「お前視力1,5以上あるんでねの?」的なことを言われたけど、まあ、さすがにそれはないわね。うん。


 ……とか何とか言ってるうちに市街地突入。

 左手に澎湖県馬公市立文甲国民小学校のグランドと建屋を見る。

 さっきの小物店と違って、こっちは相当な被害を受けていた。

 グランドは爆撃を受けたらしくてめくりあがっており、そして建屋ももはや廃墟同然の状態だった。


 ……なんてことをしてくれたんでしょう。せっかくの子供達の学び舎が……。


 この学校に通っていた子供達の安否が心配でならない。後その親達も。

 現実的に考えて、完全に被害ゼロなんてことは無理にしても……、できる限り生き残ってくれてることを祈るわ。


 民族路に入ってしばらく。

 目的地の澎湖県政府庁舎までもう500mをきろうとしているところだった。

 ここからはもうほぼ一直線。へたすれば先が軽く見えるぐらい。

 市街地に入って4つほど後の曲がり角に差し掛かれば、もう目線の先にはうっすらと目的地の建屋が見えてくる。


 そして、大体2つ目、左から成功路に入れるT字路を抜けたあたりだった。


「……ッ!」


 ここで、また私の優れた視力がものを言った。

 いや、正確にはこの場合は動体視力なんだけど、まあこっちも自分で言うのもなんだけど優れてるし言い回し的には問題ないわよね。


「……今の、まさか?」


 しかし、間違いなかった。


 あの服、やはり敵のものだ。


 一瞬、敵のものらしい兵士と装甲車が、左の成功路と十字路で交差しているこの民族路の東側のお隣にある三多路のほうを南下していくのが見えた。

 あそこは確かこの民族路とほぼ平行に南北に抜ける道で、あのまま行けばこの民族路と同じくまずは陽明路に差し掛かるはず。

 今のこっちの進軍速度を考えると……、ッ! え、ちょ、これヤバッ!


「隊長! 戻ってください! 敵が先回りしてます!」


「なにッ!? どこだ!?」


「説明は後で! とにかく、今このまま言ったら敵に回り込まれます!」


「クソッ! 全員戻れ! この成功路の影に入るんだ!」


 隊長もすぐに指示してくれて助かった。

 しかも、ここで成功路に逃げ込むというのは大正解。おそらく、敵はアレを狙ってるはずだからね。


 たぶん、隊長も「回り込まれてる」と聞いて大体どこから来るのか瞬時に予想が付いたんでしょう。で、その予想の結果が私と同じになったってだけの話かもしれない。


 私を含め、全員が成功路の影に隠れたときだった。


「……で、どういうわけか説明してもらおうか?」


 隊長からの説明要求。

 でも、時間がない。さっさと済ます。


「三行で済ませますよ」


「おう」


「一、一瞬隣にある三多路を南下する敵が一瞬見えた」


「三多路……、この東にあるもう1本の道路か」


「はい。二、その先はこの民族路と繋がる陽明路に差し掛かります」


「ああ、そうだな」


「三、こっちの進軍速度を考えても、向こうがわざわざこっちに突撃せず、あえて南下して言ったのは……?」


「……ッ! そうか! 陽明路をわたって、俺達の進軍経路をふさぐため……ッ!」


「……そういうことです」


 羽鳥さんがが思わず指を鳴らして納得の声を上げた。

 隊長をはじめ、周りもすぐに納得したらしい。


「なるほどな……。奴ら、最初からこっちの行動を呼んでいたか。確かに、待ち伏せされたらこっちもたまったもんじゃない。ただでさえこっちは戦力全然ないってのに」


 隊長が思わず愚痴をはく。

 今現在のこのA-1の戦力はたったの10名弱。

 これだけで向こうに突入するってんだからもうこの時点で無茶な話なんだけど、まあその代わり周りが最大限敵をひきつけてるって手はずになってるからそれにかけるしかない。

 それに、私たちは第1空挺団の中でも精鋭中の精鋭を集めたチームだからいけるっちゃいける。

 ……もちろん、自分達の力を過信するわけではありません。むしろ私に限って言えばけなしてます。ハイ。


「サンキュー新澤。よく見分けた。危うくやられるところだったぜ」


「いえ、偶然ですから」


 という隊長の二度目のお褒めの言葉を軽く流す私。


「……ですが、これでは厄介です。元のルートAが進めなくなるとなれば、こっちとて大きな進軍経路の変更を余儀なくされます」


 羽鳥さんが言った。

 確かに、ルートAこと民族路直進ルートはこれで寸断されたわけだし、無理に突っ込んでる余裕もないしね……。というか、それだと時間かかる上敵の増援が来たらさらに面倒なことになる。

 それだけは避けないと。しかし、でもどうすれば?


「……とりあえず、すぐにこっちも回り道をしましょう。成功路にはいくつかの陽明路に繋がる細道があります。さらに東に行けばその三多路もありますし、そこを使って……」


「いや。……そこも微妙だろうな」


「え?」


 そんな誰でも考えるようなことを具申した私は即行で隊長から待ったをかけられる。

 でも、ぶっちゃけこれしかないわよ? それに東に行って2つ目の細道を右手に曲がれば、そこからさらに2手に分かれるから敵を撒くにはちょうどいい逃げ道のはずだけど……。


「でも、南下しつつ敵を振り切るにはこれが一番では?」


「それを考えてるのは敵とて同じだろう。……おそらく、少数ながらそれもそっちに入れてきてるはずだ」


「え?」


「……どういうことです?」


 ほかの隊員が質問をぶつける。

 それに即答で隊長は答えた。


「わからないのか? たとえこの民族路で鉢合わせたとしても、そこから後退されればまたおんなじことだ。進撃は遅らせても、根本的な解決にならない。やっぱり、最終的には俺達は殺したほうがいい」


 ふむ、まあそれは妥当な考え。

 進撃を遅らせても、結局空の援護もあるわけだし、長期戦になればなるほど自分達が不利。位置を知らされて上から攻撃されてこの待ち伏せも意味を成さなくなってしまう。

 ……ということは、どこかでまさに“挟んで”確実につぶす必要があるわけね。


 ……となると、


「……つまり、この陽明路から成功路に繋がる3本の道を使ってこっちに分派してくるってことですか」


「だろうな。そして、俺達が完全に民族路の中で、成功路に繋がるT字路と陽明路に繋がるT字路の間に来たとき、そこでまず陽明路からの進入組が攻撃し、俺達が成功路に逃げ込もうとしていくところを、さらにこの陽明路から成功路に分派した奴らを民族路に突入させて挟み撃ち。……これだな」


 隊長の推理はまさに信憑性が高かった。

 確かに、確実に撃破したいならそれしかない。

 しかも、これなら逃げ道はないし、まあ味方が陽明路突入組と成功路突入組で相対してるからへたすれば相打ちの可能性もあるけど、とにかく敵を撃破することを最優先にするならそんなリスク考えてる暇はないわね。


 となると問題は、いったい敵はその道で来るのか。


 まさか三多路で待ち伏せてるなんてことはないわよね。もしそうなら今頃とっくにこっちに来て銃撃戦勃発してるはずだし。

 それに、敵とて陽明路から成功路に繋がる3つの細道すべてを使うわけではないはず。

 それほど戦力があるわけではない。向こうもこんな市街地になれてないし、そんな大量の戦力をこんな狭い市街地で扱うほどやりなれてないはず。

 おそらく1つ、せいぜい多くても2つ使って終わりのはず。


 ……で、どの道を使うのか。そこさえ見分ければ、うまく敵の攻撃を抜けることができるはず。

 本当は上から見てもらえればわかるんだけど、さすがにAWACSといえどそんな細かいところまではわからないし、それに上空援護担当のF-2だってやっぱりそんな細かいこと見分けれるはずもなし。

 戦闘ヘリ組もこっちに気をかけてる暇はない。


 ……こっちの判断がすべてを握っている状態だった。


 もう時間がない。

 おそらく、敵はすでに民族路に手前まできているはずだろう。

 私は隊長に質問をぶつける。


「……隊長、どこから抜けますか?」


「……」


 隊長は少し、いや、一瞬考え、そしてすぐに行動に移した。


「……ここから一つ目だ」


「一つ目?」


 隊長が下した判断はここから一つ目の細道を使うというものだった。


 一番民族路側に近い細道。しかしいったいなぜにそこを?


「そうだ。敵とて、その成功路側からの突入のタイミングが遅くなるとマズイ。かといってこの一つ目から入ってそっちの準備を待つとなると、それはそれで面倒だ。さっさとしとめたいのに、成功路に入るのが遅かったらいやだしな。だから、奴らは大体2つ目あたりに分派隊を突っ込ませて成功路にいれるはずだ。俺ならそうする」


「なるほど……」


 成功路に突入するタイミングが遅ければ遅いほどその待ち伏せ作戦に支障がでるからね。


 となると、大体2つ目、まあ、または3つ目に入れてもほとんど同じか。

 最初っから三多路から成功路に一部を突入させなかったのもこのタイミングを図るものだろうし、やっぱりそう考えると妥当なところでしょうね。


「では、その線でいきましょう。隊長」


「おう、すぐにこの近くの細道に入る。だが、俺の読みが外れる可能性もあるからな。しかも、ここからは一本道だ。抜け道はない。いつでも撃てるよう準備はしておけ」


「了解」


 そして、隊長を先頭にすぐに行動は再開される。

 すぐに民族路側に近い細道に差し掛かった私たちはいったん止まり、敵が来ないか見る。

 ……でも、どうやらこないっぽい。隊長が顔をニヤッとさせていった。


「……ヘッ、今日の俺の勘はさえてるな。今敵がここを通り過ぎた。ここはやっぱり使わないみたいだな」


 隊長の読みが見事にあたったっぽいわね。

 まさか後続の部隊が遅れてるなんてことはないだろうし、もう通り過ぎたんなら大丈夫でしょう。

 ……こいうか、別に分派させる気もないのに故意に遅らせたりしたら後々集団作戦行動に支障が出るしね。まあ、まずやらないでしょう。


「よし、各員ここからさらに南下するぞ。急げ」


 隊長の号令一下、その細道に突入する。

 敵がいつでも来てもいいようにヒトキューはしっかり構える。何度も言うけど、念には念を。


 しかし、案の定、というか先の隊長の読みどおり。敵は来なかった。

 やっぱりここは使わなかったのね。


 今頃、敵はまず陽明路から民族路に突入して、さらにもう一つが2つ目、ないし3つ目から成功路に突入しているころでしょう。


 ……しかも、


「……おい、俺達はラッキーだ。陽明路に敵がいねぇ」


 もう民族路に突入してしまったのか、敵が全然いなかった。

 おそらく、陽明路に突入した部隊が「じゃあ成功路に入ったのか? じゃあこのまま北上して挟み撃ちだな」とか考えたんでしょうね。

 ……でもそうなる前に成功路に突入した部隊が私たちがいないことを知らせたはずなんだろうけどね。双方の突入予測時間的に考えても。


 ……まあ、この際理由なんてなんでもいいか。

 いないならいないでありがたいし、さっさと南下させてもらいましょうか。


「よし、ここから左に80m全力で突っ走れ。そこから右に入って、次のルートBに入る」


「了解」


 隊長の命令の元、私たちは陽明路に突入。

 そこを左に、つまり東側に進んで、次の十字路にある右に繋がる道に入り込む。

 また、ここで出たルートBっていうのは、民族路一直線コースではなく、少し遠回りをして、民族路の途中にあるさっき通った成功路にいったん入ってそこから途中の2つ目の右への道を使って南下、陽明路を通り過ぎてその先にある忠李路を通って目的地を目指すルートで、少し違うけどそこからルートBに変更でこの忠李路を使わせてもらうことにする。


 陽明路には何度も言うように敵の姿はなく、また再び南下の拍子に出てこないうちにさっさと最初のT字路を抜けて次にある十字路から右に曲がる。

 部隊規模が少ないだけにこういったすばやい行動が難なく行なえるのがこの少数人数部隊の利点。だからこそこういう市街地戦ではその小規模部隊がものをいうのであります。


 無事、A-1部隊隊員全員が陽明路の脱出に成功。

 敵さんには運よく気づかれていない。フフフ、自分達の仕掛けた罠を見事に敵に利用されるとは。策士策に溺れるとはまさにこれ……、って意味これでいいんだっけ?


「全員いるな? ……よし、ではこのまま忠理路を南下するぞ」


 隊長を先頭にまた進軍開始。

 敵にバレることも考えて、さっきよりすばやくいく。

 ここからはほとんど一本道で、他の道に抜けれはするけど、それはほとんどなし。

 しかもここいら辺は高い建物もあるから、上空からも支援がしにくい。

 F-2戦闘機はもちろん、小回りが利く戦闘ヘリにとってもだ。


「B、C、そっちはどうだ?」


 今のうちにほかの部隊の戦況を確認する。


 どこも戦闘は激化しているはず。

 さてどうなっているか……。


《こちらB、激戦が展開されてますが、今敵さんをしっかりひきつけてますぜ。……お~ら! こっちだこっち!》


《こちらC、こっちも激しい銃撃戦の最中ですが、戦況は比較的良好だ。でも敵さん、複数方向から来られて相当焦っている。とはいっても、そう長くもつ保証はない。隊長、そっちが頼りなんですからね。頼みますよ》


 どうやら問題はそれほどなさそうだった。

 でも、それでも結構戦況自体は激しいみたいね。無線越しに銃撃の音がすごいのなんの。


 しかし、それでこそこっちも安心して進軍できるというものだね。味方のためにもさっさと急がねば。


「よし、もうすぐ目的地周辺だ。頼むぞ」


 そういい残し、隊長は無線を切る。


 この後、運のいいことに敵はほとんど来なかった。

 時々来ても少数の部隊だけで、簡単に蹴散らせた。

 敵さんには申し訳ないけど、私も5人ほど落とさせてもらいました。


 ……すると、


「……ッ! 見えたぞ、澎湖県政府庁舎だ」


 例の目的地である澎湖県政府庁舎の建物が見えてくる。

 そこにも少数の護衛らしき兵士。しかし、それは途中から合流した戦闘ヘリの活躍によって見事に撃退された。


 門は開かれた。


 門を通って、正面玄関にたどり着く。


「正々堂々正面から入ろうぜ。それが礼儀ってもんだ」


「はは……」


 正面から正々堂々入るのが礼儀ですか。それはなんともおもろむごいことを言うもので。


 ……でも、私的には悪くない。むしろ燃える。


「よっし、各員突入! 入れ入れ!」


 扉の前に立つと、その場で立ち止まるわけでもなく勢いに任せて右足で思いっきり蹴飛ばしてあけた。

 ……いや、あけたというよりは、もう文字通り蹴飛ばしちゃった。

 右側の扉がそのまんま外れて中に飛んで言っちゃったし。いったいどんな足してるのよこのゴリラ。


「どうもーッ! おっじゃましまーす!」


「これよりここを奪還させてもらいまーすッ!」


「おらぁぁああああ部外者はさっさとお引取り願おうかあああああ!!!!」


「あんたら……」


 そんなことを叫びつつ全員中に突っ込んでいく。

 いったいどこの突撃バカよ? 敵がいるかもしれないのにそんなに突っ込んだら……。

 てか、仮にも陸軍の精鋭ならそんなアメリカ人みたいに叫びまくって突撃するんじゃないわよ。静粛にしなさいよ静粛に。


 ……って、


「……いないし」


 ちょいちょいちょいちょい、こんな正面玄関にいないとかいったいどういうことよ。

 どこまで戦力がないの? ほかの方面に全部向かわせちゃったの?

 いくらなんでも防備薄すぎでしょ? バカなの? 死ぬの?


 ……あ、この場合冗談抜きで死ぬか。


「よし、ここはもうクリアだ。予備司令施設を探す。安藤、お前は3人連れて上に行け。羽鳥は4人連れて地下を。残りは俺について来い。この階を徹底的に探す!」


「了解!」


 そこからこの庁舎内の司令施設捜索が始まった。

 私は結局羽鳥さんの地下捜索組に加わることとなった。

 というわけで、まずは地下につながる階段探し。そもそもこの庁舎内に地下なんてあるのかわからないけど、まああるかもしれないから探す。

 というか、こういう系の建物って基本あると思うんだけどね。その地下スペース。


 ……で、


「……ッ! あった!」


 やっぱりあった。案の定あった。

 私が見つけたそれは、正面元からは近かったけど、壁に隠れててよく見えないところだった。あたかも隠してたかのように。

 ……でもこれ、たぶんこの壁は後付ね。ばれないようにって言う急造品なんでしょう。でも、それのおかげなのかそうでないのか、あんまりにも大雑把杉。これじゃもうバレバレよ?


「ッ! あったか!」


「はい! ここです! じゃ、私いっちばーんッ!」


「え、ちょ!?」


 私はそのまま階段を真っ先に駆け下りる。というか、3段ほど飛び降りながら。


 地下は1階しかないらしい。すぐに階段の終わりが見えた。

 そこからL字に曲がっていて、左手に通路が繋がっている。右手には通路どころか扉一つもなし。

 どうやら、ここは一方通行のようね。なら話は早いわ。


「よっしゃあ! さっさと出てきなさいこの親友の侵略者!」


 とかどうとか叫びつつその通路の前に出たときだった。


「……って、え、え、ええ!? ちょ、多くない!?」


 狭い通路なのにそこに大量の兵士がいた。ご丁寧にこっちに銃を構えて。

 ……ちょっとまって。多すぎでしょ? いくらなんでも多すぎでしょ!?

 どんだけビッチビチにギュウギュウ詰めにしてるのよ!? いったいなに考えてんの!?


 と、とにかく避け……、


「ッ! イタッ!」


 しかし、避けるのが遅かった。

 すぐに足を右にけって左にあるさっきの階段のところの影に隠れようとしたらその直後、左肩と右足に銃弾を受けた。

 しかし、どっちも感覚的には正確にはかすった程度。痛みはあるけど、大丈夫、致命傷じゃない。


「や、ヤバイ、こっちにくる……ッ!」


 チラッと顔を通路にのぞかせると、敵は結構早足で

 敵が私しかいないと見て一気に叩くつもりね。

 い、いったんここからでな……。


「……うッ、あ、足が……」


 かすり傷とはいえ、結構な痛みはあった。

 致命傷ではなくても、これでは思うように歩けない。

 今から退いても間に合いそうにない。

 でも、私だけであんな大群相手とかどう考えても……、


「クッ……!」


 さすがにヤバイか? 誰か援軍来て!


 ……そう、思ったときだった。


「こらぁぁぁぁああああああ!!!!」


「……え?」









 ……そのとき私は、“変態共”の地獄耳は、戦場でも健在だったことを思い知る。










「貴様ら新澤になに傷つけてんだこらぁぁぁぁああああ!!!!!」


「許さない! 俺はお前らを許さないぃぃぃぃいいいい!」


「てめえらは男としてやってはならないことをした! 恥を知るがいいわぁぁぁぁああああああ!!!!」


「新澤を傷つけるとはいい度胸してるじゃねえか! 気に入った! だが死ねぇぇぇえええええ!!!!!」











「……この変態共めが……」


 一気に階段を駆け下り……、いや、訂正。“飛び降りてきつつ”そんな叫び声をあげたのは、案の定例の変態共だった。

 いったいどこからそんなことを聞きつけたのか、私の一瞬伊丹のあまり叫んでしまったあの叫び声を聞き取ったのか? どっちにしろあんたらもはや人間ではないわね。人間やめましたって今すぐに宣言しなさいよあんたら。

 即行で私の前をとおって曲がり角の壁を盾にしつつ、さっきみたいな絶叫とともに銃弾を問答無用で浴びせる。

 ……まったく、戦場のときくらい忘れなさいよあんたら……。


 ……まあでも、


「……今回ばかりはそれで助けられたんだけどね」


 まさかあいつらに感謝をせねばならない日が来るとは思わなかった。

 ……なんでかしらないけど、なんか屈辱。


「あ、新澤! 無事か!」


「ッ! 羽鳥さん!」


 少し遅れて羽鳥さんも合流した。

 すぐに私の元に来ると「あんまり無理に勝手な突出的な行動をするな」と一言軽く注意すると、すぐに私の今の状況を察する。


「おまえ、怪我してるじゃないか。どこだ?」


「ああ、大丈夫です。左肩と右足をやられただけなんで」


「銃弾突き抜けたか?」


「いえ、かすり傷です。大丈夫です、まだやれます」


「そ、そうか……。よし、じゃあやれるな?」


「はい」


「よし、じゃあとりあえずここの敵をぶったくぞ」


 羽鳥さんが先に壁に張り付き着銃弾をぶち込み始めるとともに、私もハチキューを改めて持ち直し、マガジンがセットされているのを確認した後、また壁に張り付いて銃撃開始。

 敵は中々後退しない。いや、後退しないというか、後ろにいる控えがいすぎて、前にいるのが倒れても倒れても全然減らない。

 結果、戦線膠着状態。


 ……すると、


「おらぁ! お前らまた勝手にへんなとこ行きやがって! どうせ新澤が銃撃受けたりでもしたんだろ!?」


 隊長が部下を連れて遅れて突入。というか、こいつら隊長指揮下だったのね。お疲れ様です。

 というかちょっとまって。そこで私が銃撃云々を予想するあたりちょっとどういうことか説明をもらいたいんだけど?


「隊長、奴ら、ここの防備をクソ厚くしてます。おそらくこの先に」


 その羽鳥さんの報告を聞きつつ、壁を背にしてチラッと敵をみる。

 まだ戦線はほとんど動かない。後ろの人員ストックも結構ある。


「……ああ、これだけいるんだ。おそらく、この後ろが司令施設だ。奴ら、ここで完全に防備を固めるつもりだったな?」


「でしょうね……。とにかく、こいつらをどかさないと」


「ああ、わかってる。全員撃ちまくれ! これなら照準つけなくてもガンガン当たるぞ!」


 そしてそのまま撃てる隊員全員でとにかく撃ちまくった。

 とにかく一心不乱にガンガン撃ちまくる。

 照準つけなくてもどんどん当たる。これこそ文字通り、人間の鎖ならぬ人間の壁ってやつね。


 でも、その壁にも限界がきたみたいね。亀裂が走ってきたわ。


 後ろのストックがさすがに切れてきたみたい。どんどんと戦線が後ろへ後退し始めた。


 そして、そのままさらに時間が経過すると、さらに敵が後退……、




 ……すると思ったら、




「ッ!」


 残りの敵が一斉に突っ込んできた。

 自らの最後を悟ったかな? この時点で敵側の兵力は確認できただけでも妬く5人ほど。


 ……だけど、それほど意味のない突撃はないわ。

 後ろに逃げ道はなかったのかしら? ……あ、ないからこうやって突撃してるのかな?


 ……まあ、この際理由なんてどうでもいいわ。ぶっちゃけそんなのは何でもいい。


「こいつらを通すな! 奴らには悪いが、ここで冥界へと送ってやれ!」


 隊長が意気込んでそういってほかの隊員を鼓舞した。


 でも、ぶっちゃけするまでもなかった。


 この5人はただ持ってた小銃をぶっ放すだけで照準は皆無。その点こっちはしっかり照準付けさせてもらったので、確実に、かつ迅速にこの5人を撃破した。


 バタバタと倒れる5人の兵士。

 気が付けば、そこいらじゅうが撃たれた兵士の死体で埋め尽くされていた。

 なんとも気分が悪くなる光景。もうこんなとこいたくないわね。


「よし、クリア! 全員突撃!」


 隊長の叫び声とともに、そのままその通路を直進で突撃。


 すると、途中で一つの扉に行き着く。

 そこは、扉の上野プレートには『倉庫』の二文字があったが……、


「……ここだな」


 隊長がそうつぶやくと、手招きのサインで、羽鳥さんを読んだ後、向かって左側の扉の前に立たせ、自分はその反対側の右側の前に立つ。


 今まさに突入しようとしたときだった。


《こちらB! 敵の攻勢が激しくなってきた! マズイ!》


《こちらC! こっちもだ! 敵拠点の制圧はまだか!?》


 ほかの味方からだった。

 どうやら最初より結構まずいことになってるっぽいわね。


 ……でもご安心を。


「……ああ、それなら、」






「もう大丈夫っぽいぞ?」






 その隊長の一言と同時に、隣にいた羽鳥さんとうなずいて互いにサインを出すと、同時にその扉を思いっきり蹴り開けた。

 それと同時にその中にこの場にいた隊員全員がなだれ込む。


 中には、やはり思ったとおり敵軍のらしい兵士達と、その幹部達がいた。


 周りの兵士達が銃を構えようとする中、それをさえぎるかのように隊長が叫んだ。


「動くな! 我々は日本国防陸軍だ! すでに当諸島は日本陸軍の影響下にある! お前らの逃げ場はない! さっさと投降しろ!」


 いつもどおりの降伏勧告。

 すると、一人の兵士がこっちに銃を構えた。

 それを見ていた私も思わずその兵士に照準を合わせてヒトキューを構えるが……、


「やめたまえ」


「ッ!」


 そういったのは隣にいた幹部らしき人だった。

 ……たぶん、この予備司令部の長ね。


「……いいだろう。我々の負けだ。投降する」


 おとなしく投降してくれた。

 両手に手を上げて、無抵抗の意思表示をする。


 隊長もほんの少し安堵の表情を浮かべつつ言った。


「……理解が早くて助かる。感謝するぞ。……総員、かかれ」


 その命令とともに、私たちもまた動き出した。

 ここのいる残りの兵士達の身柄の確保。後はこの施設にある無線機を使って残りの敵部隊に対する降伏勧告だ。

 もちろん、味方にも司令部制圧を伝える。


 ……そして、各々でいろいろと動き回ってる間、


「……で、それ大丈夫か?」


「ああ、大丈夫です。ただのかすり傷ですので」


 隊長が私の怪我を心配してくれていた。

 一応私は怪我をしているということで少しや済ませてもらっている。


 ……なお、その少し前に。





「大丈夫か新澤! 俺が手当てしようか!?」


「いや、いいから」


「安心しろ! こういうとき唾液って傷口にやるといいって俺のばっちゃが言ってた!」


「いやいやアンタそれ絶対やましいこと考えてるでしょ」


「そんなはずあるか! 俺の唾液をお前に傷口につけてぐへへへとかそんなことは微塵にも」


「思ってるじゃない! おもいっきり思ってるじゃないのこのド変態!」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


「あのさぁ……」


「ハイハイ、お前らはまだ仕事あるからさっさと戻れ」






 ……っていうどうでもいいバカ話があったけどここでは詳しくは省くわ。話す価値もないゆえで。


「だが、あんまり無理に突撃はするな。こうなるかもしれんからな」


「へ~い……、気をつけます」


 以後、善処させていただきます。あくまで“善処”ですがね。


 ……すると、


「はいは~いちょっとどいて~。メディック入りま~す」


 羽鳥さんが救急箱を取ってきてくれた。

 自分の持ってた治療器具でいいって言ったんだけど、自分でそれを治療するのは難しいだろうということで代わりにやってくれることになりました。


「どれ、肩見せろ。左だっけ?」


「はい。……よいしょ」


 とりあえず戦闘服の左肩をまくって見せると、やっぱりかすり傷とはいえまだ血は出てた。

 ま~自分で見るのもなんだけど結構痛々しいです。ハイ。

 ……自分でも見るのやめよ。あんまり見ると気分悪くなるし。


「血が出てるな……。本当は消毒したほうがいいんだが、ここ消毒液ないんだよな……」


「酒でもあればいいんだがな。あれのアルコールは消毒液代わりになるって聞いたことがある」


「でも酒ってアルコール度数低いのであんまり意味内どころかへたすればいらないアルコール吸い込んで逆効果ですよ?」


「……マジで?」


「マジで」


「……あちゃ~、俺今までそれで消毒してたんだけどなぁ……」


「え~……」


 お酒で消毒って……。

 まあ、アルコール使うからあながち考え方的には間違ってないんでしょうけど、はっきり言ってそれはないわ(直球。


「もう水でも付けてればいいんじゃないか?」


「ですね……。どっかに水道水あったかな……」


 そんな会話を聞きつつ、私がふと視線を動かしたときだった。


「……よし、マイクチェックオーケー。無線つなげてくれ」


「了解。無線つなぎます」


 どうやら無線の準備が完了したみたいだった。

 敵兵士から“無理やり”無線の使用方法を教わった後、すぐに準備に取り掛かったけど、それが終わったみたいね。

 すぐに担当になった兵士が降伏勧告を始める。


「……あー、こちらは日本国防陸軍である。現在澎湖諸島にて勇敢に戦っている中国軍兵士諸君に告ぐ。ただいまをもって、この君達の予備司令部は陥落した。よって、君達の司令部も、司令官を初めとする司令部要員も確保した。君達も直ちに降伏されたい。繰り返す……」


 いつもどおりの降伏勧告文句。まあ、伊江島でも似たようなの聞いたしね。


 ……それを聞きつつ、


「(……台湾も、順調に奪還されつつあるわね)」


 澎湖諸島も落ちたし、台湾本島のほうでも戦況は順調みたいだし……。

 台湾の奪還も、時間の問題となりつつある。

 それに、台湾だけでなく、ほかの東南アジアの方面でもそんな感じの事が起きている。


 中国の最初の勢いは完全に消え、代わりに反撃の灯火ともしびが各所で光まくり、それはどんどんと強く、そして大きくなっていった。


 もう、これを止める術や力は、中国にはないんでしょう。

 今の、アジア各国での戦況逆転が、それのすべてを物語っていた。


 ……この戦争も、確実に終わりに近づいていた。


「……もう、」









「……この戦争も佳境ね……」











 私はにわかに確信したようにそういった…………

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