〔F:Mssion 20〕澎湖諸島空挺強襲! ……side『IJYA team』
―8月26日(水) 台湾海峡 澎湖諸島北東60海里地点
高度10,000ft第1空挺団A部隊護衛機隊―
《護衛部隊隊長機よりA部隊輸送隊、これより危険空域に入る》
《A部隊輸送隊、了解》
護衛部隊隊長機ことIJYA隊隊長がそう警告した。
台湾遠征3日目。
少し遅れて台湾に進出した僕たちは、今度は澎湖諸島に対する空挺強襲の護衛につくことになった。
というのも、ここの澎湖諸島にはどうやら予備の指令施設が設けられ、そこを生かしておくのはやっぱりまずいだろうということだった。
そこで、僕たちと同じくつい昨日進出したばかりの第1空挺団の一部の部隊に対してその強襲作戦を観光させることになったというわけ。
今回投入される第1空挺団の部隊は、先の沖縄戦での伊江島空挺作戦でも実績を上げている部隊で、まあ同じような任務だからピッタリだろうということだった。
その部隊は今C-2輸送機10機の中にギッチギチに詰め込まれ、その周りを僕たちが護衛する。
ちなみに、その先頭のC-2には妹も乗ってるらしい。
なお、僕たちIJYA隊のF-15MJ6機のほかに、台湾空軍から6機のF-16Cが護衛部隊として送られてきていた。
すでに彼らとも合流し、今は護衛任務についている。
で、今から敵の勢力圏の空域に入る。
危険空域というのはこれのことで、ここからは敵の攻撃がわんさか来るぞという警告。
そのため、先ほどから編隊をより密にして、護衛もガッチリ固めていた。
僕もレーダーを凝視する。
……といっても、遠方のやつは上空にいるAWACSからのデータリンクに頼ってるけどね。
《『アマテラス』より護衛部隊全機。空挺開始まであと10分》
こちらは日本国防空軍より援軍にきたAWACS『アマテラス』です。
4機あるうち1機が送られ、こうして現場指揮支援に赴いています。
《日本部隊護衛隊了解》
《台湾部隊護衛隊》
後10分で空挺降下開始。
ここでの彼らの空挺場所は澎湖諸島の中心地馬公市。
そこの中心に予備の指令施設があるらしかった。
後10分……、できれば敵さんのご歓迎は勘弁だけど、まあ普通に考えてくるだろうな……。
《……後10分だ。日本の皆さんもいる。各員、気を引き締めろ》
というのは、今回台湾から護衛支援に来ているF-16C隊の隊長さん。
結構頼りにされています。負けてられぬ。
それにはこっちの隊長が答える。
《いわれるまでも。なんたってうちには……、あいつがいますんで》
《ああ……。うわさは聞いています。沖縄での戦闘でトップの戦績を誇っているとか》
《ええ。……新人だってのにね》
その言葉に苦笑いするのは誰でもない自分です。
……ハイ。実はこれ、僕のこといってます。
「ですから、それは周りの援護のおかげだとあれほど……」
《周りの援護だけであんなに落とせるんなら俺だって今頃大量に落としてるよ》
そういうのはほかの同僚です。
大量ねぇ……、僕個人で落としたのって数える程度しかないんだけど。
《期待してるよ、日本の未来のエース。なに、君ならできるさ》
「はぁ……、ど、どうも」
台湾の隊長さんからもそういわれる。
そう。実は僕、前の沖縄戦での戦績をいろいろ調べたところ、なんと中距離戦以外でのドックファイトで5機ほど落としちゃったってことが判明しまして。
最初のA艦隊護衛から始まって、その後敵航空部隊迎撃とかに借り出された結果、自分でも気づかないうちにそんなに落としちゃったようで……。
なお、中距離ミサイル戦も含めればギリギリ2桁いく模様。……いつの間にこんなに落としたんでしょうね。
んで、その数は驚くことに沖縄戦で戦闘になった友軍の撃墜数より若干上回っており、これによって撃墜数でいえば友軍内でもトップ。
一応隊長とかも5機以上落としたりしたけど、なんか僕はそれを上回ってしまったようです。師匠を上回る弟子とはこれいかに。
もちろん、5機以上撃墜のため僕も立派なエースの仲間入り。でもまあ、全然そんなの気にかけてる余裕はなかったりしますが。
そして、その情報は日本の中でも結構有名になったらしく、部隊内でも最近それ関係でいじられる始末。
しかも、どうやらこの会話を見る限り台湾にもうわさが飛んでるらしかった。
……台湾って、ある意味日本の情報結構聞き入れてたりするよね。
まあ、とにかくそんなこんなで気づかないうちにエースになった僕は結構周りからちやほやされてる状態だということです。
……でも実際、割と本気でそんなこと気にかけてる暇はなかったりします。「あ、エース? あ、そう」的な感じで基本スルーです。
うれしくないといったらうそになるけど、かといってそれにいちいち気にかけてる心の余裕がね。うん。後は察して?
「(……でも、本当に5機以上も落としたのか……)」
なかなか実感ってものはわかないものでして。
そりゃ確かにそこそこ落とした記憶はありまっせ? 中距離ミサイル戦はそうだし、そんでもって何度か巻き込まれたドッグファイトでも何機か落とした記憶はありますがね、それでももうとにかく落とすことに夢中でどれくらい落としたとか全然ね……。
「(……ま、ぶっちゃけ撃墜数とか興味ないからさっさと敵追っ払って……)」
と、そんなことを思っていたときだった。
《……ッ! 全機、敵さんの歓迎委員会のご到着だ。機種。J-11B6機。方位2-3-0、高度7,000ft距離50海里。敵機なおも上昇中》
どうやら、さっそく敵さんのお出ましのようだ。
J-11B。いつもどおり敵さんの主力戦闘機のお出ましか。
向こうは6機で真正面から。敵さんが中距離対空ミサイル持ってるとしたら、もうまもなく射程に入る。
方向からすると……、たぶん澎湖諸島から直掩の戦闘機隊が出てきたと見たほうがいいかな?
しかし、そうなると飛んできたばかりだろう。上昇中なのもたぶんそれだ。
だが、向こうは先発で確か少数のF-2Aによる対地攻撃があったはずだけど……。それをかいくぐってきたのかな?
……まあいいか。どっちにしろ、ここからならギリギリこっちも中距離ミサイルの射程内。ここは先手を打たせてもらおう。
《『アマテラス』より全機、敵に攻撃させるな。中距離ミサイル戦よう……、ん? 待て》
「?」
指示を出そうとしたときに自分で待ったをかけた。
こっちは疑問に思ったが、すぐにまた新たな指示を出す。
《……どうやら向こうの歓迎はこれだけではないらしい。新たな敵航空部隊探知。J-20A4機。方位2-0-0、高度1,000、距離55海里》
「げっ」
新しい航空部隊か。
しかも、その機種が例の大型ステルス戦闘機のJ-20Aときた。
おそらく、上空のJ-11Bが敵をひきつけているうちに、自分たちは持ち前のステルス性を使って低空から一気に奇襲かける気だったな?
だが、残念ながらその思惑は見事に外れたみたいだ。『アマテラス』の目からは逃れることはできなかったわけだ。
だが、問題なのはその敵機だ。
J-20Aといったら中国がもつ最新鋭の大型ステルス戦闘機。その大きさはこのF-15MJすら凌駕する。
大出力のエンジンに並外れた兵器搭載能力は、日本でも脅威の対象とされていた。
……とはいうものの、ステルスという割にはそのステルスを削ぐ結果となりかねないカナード翼を堂々とつけていたり、大型過ぎるゆえに、エンジン自体は大出力でも速度があんまりでなかったり、そんでもってこれまた大型過ぎるゆえに機動性に少し何があるなど、プロトタイプ時代からいろいろ問題というか、ツッコミ所が満載だった機体でもある。今のこれはそこそこ問題は解決し、一回り小さくなっていったとはいえ、まあカナードは健在だし、そして速度もM1,8ほどしかないという……。
後、エンジンは双発でおそらく母機の生存性を高めるためにそうしたんだろうけど、でもその廃棄ノズルがF-22みたいな二次元ノズルじゃなくて全然ステルス性配慮されていない形状で、それはそれでなんか微妙だなぁ……、と思われている機体でもある。
だが、そうはいっても仮にも最新鋭機。油断はできない。
さて、どう動こうか。
《『アマテラス』、敵が2つの方向から来ている。どうすればいい?》
隊長の問いにも、『アマテラス』はすぐに答えた。
《IJYA隊は直ちに降下を開始し、後に出現したJ-20A編隊、敵Bに向かい、中距離ミサイル戦を敢行せよ。Khansa隊は前方の敵Aに対し攻撃を開始。いいか?》
《IJYAリーダー了解。J-20Aの敵Bに対して攻撃を行う》
《Khansaリーダー了解。敵Aに対し攻撃を行う》
《『アマテラス』復唱確認。……では全機、》
《敵の歓迎にお返しをしてやれ》
《了解! IJYA全機、いくぞ! 俺について来い!》
その隊長の後に続くように、編隊を保ちつつ左旋回で敵Bに対して突撃を敢行した。
同時に高度を下げるために急降下。そして急ぐために左手のスロットルを少し前に倒して増速。
こっちはもう中距離ミサイルの射程に入っている。向こうは極限まで気づかれずに近づいて、一気に上昇して攻撃するつもりだったんだろう。
だが、あんまりにも懐に入りすぎたね。気づかれたときのリスクを考えていないとは、読みがまだまだ甘い。
《AAM-4Cスタンバイ。できたやつから順次放て! 全部撃ってかまわん! 初弾で決めろ!》
隊長からの指示だった。
今ここで持ってきてるAAM-4Cは全部で4発。
これが6機だから、全部で24発にも上る。
相手が4機だけだというのに少し過剰すぎる気がするが、だが実際ここでしとめないといけないし、それにここを突破したら目標はすぐそこだし、まあ別段問題ないと思われ。
それに、今んとこほかの敵の反応はない上、今さら来ても間に合わないしな。
「(諸元入力……、よし、準備完了)」
AAM-4C、4発全部の発射準備が完了した。
ほかの僚機とのデータリンクで目標配分をしたところ、どうやら僕は先頭の1機に全部打ち込むことになったようです。
計24発が4機にだから……、1機につき6発か。
はは……、ごめん、僕が受けたらよけれる気がしない。
まあ、でもそれが戦争。残念ながら慈悲はない!
「AAM-4Cスタンバイ。IJYA02、FOX1!」
宣言とともに、胴体下部に直接つけられていた4発のAAM-6が機体から切り離され、一瞬の間をおいて固体燃料ロケットに点火。
一気に加速しつつ、後部に新たに装備された新型のベーンを採用した高機動型ロケットノズルでAAM-4Cは細かい進路修正をしつつ、目標であるJ-20Aに音速を超えて突っ込んでいった。
ほかの僚機からも、ほぼ同じタイミングで同じく4発ずつ全部放たれた。
降下中である上に速度が結構速くなっている関係か、そのAAM-6もいつもより早く突っ込んで言っております。
敵のJ-20Aもすぐに気づいた。
まあ、僕たちが進路変更して突っ込んできた時点で気づいてこっちに向かってきたんだけど、まあそれが攻撃に入るより先に行動に入らせていただきました。
AAM-4Cが大量に飛んできたことを受けて、敵はすぐにそれぞれで左右上下様々な方向に回避を始めたけど、それでもやっぱり図体がでかいだけにいきなりの急激な高機動は無理があるっぽかった。
AAM-4Cが敵にぶち当たるのにそう時間はかからなかった。
何発か回避されたけど、それでも追いつかない程度の反撃というのかなんと言うのか、4機すべてに2,3発はぶち当たった。
レーダーから一気に反応が消える。
何とか、J-20Aの4機編隊を叩き落すことに成功した。
まあ、格闘戦とかさせなければ後はこっちにもんだしね。仕方ないね。
中国よ、よく見ておくんだな。結局、ステルス性能付きの大型最新鋭戦闘機といっても、見つかったら後はパイロットの腕次第ということだぜ。
そこらへん、重々承知して置くように。
《よし、敵のJ-20Aを追い返してやったぜ。各機よくやった》
という隊長の声である。
……追い返したというか、叩き落したといったほうが的確なきがするけれども。
ま、いずれにしろ下からの一番の脅威は去った。
後は敵Aだけど、向こうはレーダー見た感じ台湾側が優勢だし、何とかやってくれると思う。
というか、最初の中距離ミサイル戦で結構消耗したらしい。それでいてドッグファイト仕掛けるとかいったい何を考えているのやら。
それほど空挺させたくないのだろう。だが、いくらがんばってもここまでされてはもう限界だろうね。
《『アマテラス』よりIJYA隊、敵Bの全機撃墜を確認。よくやった。敵Aもまもなく追い払える。貴隊はそのまま護衛対象のほうに戻り……》
と、『アマテラス』が指示をしようとしたときだった。
とたんに無線が叫ぶ。
声の主は、今まさに敵Aを相手取っている台湾側航空部隊からだった。
《ま、まずい! こちらKhansaリーダー!》
《敵のJ-11B1機がこちらの包囲網を抜けた! 現在最大速力で護衛対象に向かっている!》
《なにッ! どこだ!?》
《こちらから北西の方向! C-2の編隊に向かっている! ここからでは間に合わない!》
「ッ!」
台湾の戦闘機隊の編隊をくぐり抜けたのか。
レーダーでも確認する。
確かに、台湾と中国の戦闘機が入り乱れてる空域から1機、北西の方向に突出してるのがいる。
これが例の抜け出したJ-11Bか。確かにここからじゃとてもじゃないけど間に合わない。
だけど、かといってここから言っても微妙だなぁ……。今から全速でいってギリギリ間に合うか間に合わないか。
《まずい、『アマテラス』よりIJYAリーダー、そっちからいけるか?》
《無理だ。ここからじゃ攻撃が届かない。AAM-6も使い切っちまった》
《クソッ……。ここからじゃ完全な迎撃が間に合わない》
今さら言ったって遅いだろうに。
レーダー見る限りじゃもうすぐ敵は攻撃はいる。
とっくの昔に中距離ミサイルの射程なのに攻撃に入らないあたり、たぶん向こうも中距離ミサイルのストックが切れたんだろう。
だが、そろそろ短距離ミサイルの射程内だ。
これ、いったいどこを狙って……、
「……、えッ!?」
だが、僕はその敵機の進路先をレーダーで確認したときだった。
思わず、僕は自分の目を疑う。
「……こ、このC-2……」
「……真美の、乗ってるやつじゃ……ッ!」
間違いなかった。
この先、一番先頭にあるC-2に向かっているのは間違いなかった。
これには空挺の主力部隊が乗っているが、その中に、確か真美が……、
「……ま、まずい! 隊長、自分が行きます!」
気がついたら体が動いていた。
スロットルを一気にA/Bまで押し切り、同時に操縦桿を左に倒しながら高度上昇のために一気に引いた。
ピーンという音とともにエンジンノズルから赤い火炎が飛び出し、甲高いエンジン音がコックピット内に響きつつどんどんと速度が上がっていく。
同時にGもものすごいかかるが、今はぶっちゃけそんなことにはお構い無しだった。
そっちより、もっち重要なものに対して意識が飛んでいたからね。
コックピットがその甲高いエンジン音でうるさくなる中、無線がこれに負けないような音量で叫んだ。
無論、隊長からだった。
《ッ!? ま、まてIJYA02! 今から言ったって間に合うかわからんぞ!》
案の定の内容だった。
僕はエンジンの音にかき消されないように大きい声で言った。
「御願いします! やらせてください! というか時間がないんです!」
《だ、だがこっちはAAM-4Cないんだぞ!?》
「じゃあAAM-5Bでやりますよ!」
《無茶だ! できっこねえ!》
「あのですね、前にもいいましたよね!」
「即断即決でいけって言ったの! いったいどこのどちらさんですか!?」
無論、今までうるさく言ってきた隊長です。
もう耳にたこができるぐらい聞いたのでね。いやでも覚えるんだなこれが。
そこまで言われると、隊長も納得せざるを得なかったらしい。
《ッ! ……わかった。お前に託す。だが、やるからには絶対守れよ!》
「お任せを! いつどきかの旅客機みたく助けてきますよ!」
いつどきかの旅客機。
この戦争が始まる前、領空侵犯した敵戦闘機が近くを飛んでいた民間旅客機に突っ込んでいったときのことだ。
そういえば、あの時も敵の戦闘機はJ-11Bだったような記憶がある。歴史は繰り返す、というわけではないんだろうけど、これまた似たような状況だね。
しかも、今回の目標はある意味民間機よりヤバイ。ある意味で。
とにかくレーダー確認。
もう今にも敵戦闘機は攻撃に移らんとする状態だった。
時間がない。AAM-5Cの最大射程で撃つ。
最悪4発使ってもかまわない。どうせ敵の攻撃はこれっきりなんだ。弾薬をケチってるひななんてない!
「……ッ! 見えた!」
すると、すぐにその敵戦闘機の機影を確認する。
灰色のSu-27かぶれ。
J-11Bだ。間違いない!
AAM-5Cスタンバイ。
攻撃なんてさせるか!
「……よし、いける。シーカーオープン、FOX2!」
宣言と同時にまず左右両主翼のミサイルパイロンから2発のAAM-5Cを放った。
発射母機がA/Bをぶっ放してる状態だし、それに合わせてこのミサイルも速度マシマシでお送りします。お送りします、てのは文字通りの意味です。
「……頼む、このまま当たってくれ」
いったんA/Bをきると同時にそんなことをつぶやいた。
ミサイルが向かってきているとわかれば、輸送機に対する攻撃どころではないはずだ。
今すぐ回避しなければミサイルが当たる。
そして、それは思ったとおりに進んだ。
敵戦闘機はすぐに攻撃を中止し回避機動に入った。
バレルロール。斜め上方向に上昇をかけ続けることによってスクリューを描く機動。
本来は敵戦闘機の回避などにつかわれるが、これミサイル回避にも有効だったっけか?
だが、いずれにしろミサイルはしっかり敵戦闘機を捉えていた。
もうすぐ、もうすぐ弾着できるはずだった。
「よし、そのまま……そのまま……」
……そう、あくまで、
弾着できる、“はずだった”。
「……ッ! なッ!?」
だが、敵戦闘機も一筋縄ではいかなかった。
敵戦闘機はフレアを放ったとタイミングよく同時に急制動で回避した。
ミサイルが運悪くそのフレアの網に引っかかり、それに巻き込まれた。
その熱源に反応してしまったAAM-5Cは2発ともそこで爆発した。
「げッ! まず!」
だが、そんなときのためにしっかり2発残して置いたのです。
焦ってはいけない。すぐに追加で2発お見舞いする。
敵戦闘機が体勢を立て直す前にAAM-5Cが弾着してくれることを祈るが、しかし如何せんギリギリだった。
頼む、もう輸送機までの距離がない!
AAM-5Cはできる子だ! 何とかその使命を果たせ!
「……よし、当たるぞ!」
だが、今回はうまくAAM-5Cが誘導してくれた。
今度こそ、敵戦闘機を捉えた。
もう敵戦闘機側も、また連続で回避する余裕がなかったらしい。回避機動が見るからにおろそかになっていた上、フレアもほとんど巻かれなかった。
たぶん、さっきのが最後の悪あがきだと思って思ったより大量にまいてしまったに違いない。
それだけの覚悟があるならなんで他のに使わないんだ。この突撃自体もはやある意味では特攻と同じだというのに。
「……よし、いける!」
と、そう確信した瞬間だった。
今度こそは、しっかり敵戦闘機に命中した。
このとき僕は敵戦闘機の真後ろあたりにいたので、すぐにその破片を避けるために右足のラダーを軽く踏んで右に横滑りで回避した。
敵機撃墜。
これで、脅威は防がれたはずだった。
「よし、これで……、」
……だが、
「……ッ!」
その横滑りで敵戦闘機の破片を回避したときだった。
その、爆発した敵戦闘機を覆う煙の中から……、
ノロノロと、1発のミサイルが突き抜けてきた。
「なッ!? そ、そんな!?」
だけど、敵戦闘機は確かに撃墜したはずだった。
その結果がこの目の前で起こってるというのに。
最後の悪あがきということか? なんでこんなときに!
もうこっちミサイルないんだけど!? これは明らかに僕のミスだけどこっちもうミサイルストックないのにまだやるっていったいどんな根性してんの!? こんなときに出さなくていいよそんな無駄根性!
え? お前が言うな? 細かいことはいいんだよ!
……だけどどうする?
「(……これじゃ、もう防ぎようがない……)」
一瞬で様々なことを考える。
方向的に考えても、このままではミサイルは先頭のC-2にぶち当たる。
そこには真美が乗っているし、何としても落とさねばならない。
だけど、こっちのミサイル配分ミスで、ミサイル迎撃能力があるAAM-4Cも、AAM-5Bも切らしてしまった。
こっちにはミサイル迎撃手段がない。
もう、術が見当たらなかった。
……ダメだ。どう考えても迎撃手段が見つからない。
このままじゃ先頭のC-2が落とされる。AWACSは1機や2機仕方ないとは言ってたけど、そのときの口調から考えてもたぶん本心認めてないな。
何としても迎撃してほしかったに違いない。
だが、自分達にその能力がないから僕達に託した。
それで、自分から身を投げて言ったってのに……、これじゃ、全然その任を放たせないどころか……、
「(……このままじゃ、真美が……)」
あいつを、こんな空の上で死なせたくなかった。
今まで、僕を支えてきてくれて、その恩返しのためにこうやって空軍パイロットになってあいつを守ろうとしたのに、僕のミスで死なせなたもうあいつに顔向けできないわ、トラウマに残る。
あいつに、そんなことをさせたくない。
だけどどうすればいい?
どうすれば、あいつを助けられる?
考えろ……。何でもいい。この際手段這わない。
何を使ってもいい。どうにかしてあのミサイルを撃ち落す方法は……、
この機体に残っている武装で、何か使えるものは……、
……、あ!
「……そうだ。……まだ、残ってた」
まだあった。使える武装。
そう、“武装”。
ここまでの時間は、ミサイルを確認してからたったの1,2秒。
一瞬でここまで考える自分が怖い。
……だけど、
「……やるしかない」
僕はすぐに行動に移った。
考えるより行動するしかなかった。
スロットルをすぐに押し切って再びA/B全開にし、そのミサイルの後を追った。
敵ミサイルは普通よりノロノロと飛んでいる。ミサイルが出てきたタイミング的にAAM-5C弾着後だったろうし、たぶんそれで不具合を起こしたか?
まあ、だからこそこの発想にいたったといってもいい。
でも、それでも僕からどんどんと遠ざかっている。
時間がなかった。先頭のC-2とも距離が近い。というか、もう目視できる範囲だった。
当たり前だけど、こんなことやったことはない。
訓練ですらやったことない。というか、こんなところまで想定していない。
……いや、やるしかない。
これしか、方法がない。
「……やるぞ」
そして、僕は決断したように言った。
「……ガンレティクルオープン!」
すぐに、ヘルメットのHMDに機銃の照準であるガンレティクルが表示される。
同時に、僕は無線に叫んだ。
「IJYA02よりA部隊輸送隊隊長機! 僕が指示するまで回避はしないでください!」
《え、ええ!?》
《お、おい! いったい何を考えている!?》
隊長が思わず叫ぶが、僕はそれを無視した。
「時間がありません! とにかく僕が言うまでそこから動かないでください!」
《わ、わかった!》
それを聞くやいなや、僕はそのガンレティクル、さらにはその中心のピパーに目線を集中させる。
その先には、敵戦闘機が最後の悪あがきで放ったミサイルが飛んでいた。
一直線に、目の前にいるC-2に突っ込んでいった。
この方法しかない。
これしか、今の僕には思いつかなかった。
機銃で、敵のミサイルを撃ち落す。
「……頼む、しっかり捉えてくれ」
僕は愛機にそうつぶやく。
今まで、幾度となく僕とともに危機を脱してきたたった1機の愛機だ。
少しばかり無理をさせるけど、頼む、これっきりにするからがんばってくれ!
だが、やっぱり機銃にとってはそのミサイルはとても小さい目標であった。
しかも、横を向いていない。後ろの尻を向けてるから余計小さく見える。
ピパーも、中々それを捉えてくれなかった。
「……早く……、早く……ッ!」
しかし、時間は待ってくれない。
もう先頭のC-2は迫っていた。今すぐにでも撃ち落さなければC-2が巻き込まれる。
それに、敵ミサイルもどんどんとこっちから離れていく。いくらこっちがA/Bしたって、ミサイル自体はそれより早い。
だが、それではまずいんだよ。
今すぐに撃ち落さなきゃならない。今すぐ、そう、今すぐにでもだ。
頼む……、お前を信じるから……。早くミサイルを……、
「……早く……ッ!」
……と、そう強く願ったときだった。
「……ッ! 捉えた!」
僕の願いが届いたのか、ピパーが敵ミサイルを捉えてピーッという電子音を発した。
まだギリギリ射程内。
機銃が、うてる範囲だった。
今だ。今ならいける!
「IJYA02、FOX3!」
すぐに右手の親指でガンの発射ボタンを押した。
すぐに機体に設けられた20mmバルカン砲が、鋭い弾道光を帯びた機銃弾を放った。
同時に、僕は無線に向かってまた叫んだ。
「A部隊輸送隊隊長機! 回避!」
《り、了解!》
一瞬前を見ると、ミサイルの影からC-2輸送機が向かって左側上方に回避する様子が見えた。
でかい図体に似合わず鋭い機動なのは、前代のC-1からの伝統を引き継いでいるようだった。
そう。ここまでC-2に回避させなかったのはこれだった。
先に回避されるとミサイルがそれを追うため、こっちが機銃で狙いを定めることが出来ない。
今でさえそうでなくても中々狙いが定まらないのに、それでまたミサイルが余計な機動を取ったらもうどうしようもない。
だから、一種の賭けだし向こうには申し訳ないけど、直前まで回避させなかった。
だが、その場合じゃあずっと回避させなきゃいいじゃんという話になるが、直前で回避させたのは僕の撃った機銃弾が当たるのを防ぐためだ。
あくまで直前に。つまり、敵ミサイルに機銃が当たる直前だからさして問題はなかったんだ。
その僕の思惑通りに、敵ミサイルが弾着する前にC-2が回避機動に入ってくれた。
機銃弾もたぶん当たんなかった分はその横をギリギリ掠めていってるところだと思う。
そして、その瞬間だった。
「……ッ!」
機銃弾が当たったようだった。
C-2のすぐ近くで、敵ミサイルが爆発した。
とたんに結構大きな爆発が起こる。いったいどんな爆薬積んでたんだあのミサイルは。
「……ゆ、輸送機は……?」
僕はA/Bを切りつつ目の前を凝視した。
Gを受けたために必死に呼吸を繰り返している中、その目線は目の前のミサイル爆発時の煙と、その先にいるはずのC-2に向かっていた。
輸送機が顕在ならすぐにでもその姿を……、
「(……まさか、ミサイルの爆発に巻き込まれた?)」
と、思わず心配になったが、
「……ッ!」
……どうやら、その僕の心配は杞憂に終わったらしい。
その煙の影から、向かって左上方に飛んでいくC-2の姿があった。
見事、敵ミサイルを落としつつ、C-2を生かすことに成功したのだ。
「……よ、よっしゃあ! 落としたぁ!」
僕は喜びのあまり思わずコックピットの中でガッツポーズをした。
やった……。何とか落とすことに成功した。
見た感じC-2もなんら問題はなさそうだった。回避をとめ、再び変態に戻ろうと機体を操作しているところだった。
《い、IJYA02! どうだ!? 落としたか!?》
「は、はい隊長……。何とか敵ミサイルは落ちました。機銃でですけどね」
《そ、そうか……。いや、よくやったぞIJYA02、お手柄だ》
「いえ……、とりあえず、僕は先に待ってますんで早く合流のほうを」
《ああ、わかった。脇に言っててくれ。台湾のほうも追っ払うことに成功したみたいだし、もう敵の攻撃の心配はないだろう》
「了解」
どうやら台湾のほうも終わってたみたいだ。こっちに夢中で全然無線聞いてなかったよ。
そんなことを思いつつ、僕は機体をゆるく反転させてC-2の編隊に合流した。
とりあえずほかの味方がくるまではここで待機だった。
ふと、僕は右側を見る。
そこには、さっき助けた先頭のC-2がいた。
今はすでに編隊の所定の位置に戻り、ほかのC-2を率いて飛行している。
「……よし、何とか傷はないっぽい」
見た感じでは、さっきの敵ミサイル攻撃ないし迎撃での傷はないようだった。
まあ、仮にあったとしても今この状態で普通に飛行できてるし、それほどまずいものでもないだろう。
とりあえずは、何とか一安心といったところだった。
《……こちらA部隊輸送隊隊長機。えっと……、IJYA02だったかな?》
「?」
すると、無線がまた声を発する。
内容からわかるとおり、さっき助けたC-2からだった。
「はい、こちらIJYA02、どうぞ」
《ああ、君か。さっきは助けてくれてありがとう。おかげで命拾いした》
「いえ、これが任務ですので。そちらに損傷等は?」
《少しミサイルの破片がぶつかったみたいだが、なに、飛行に支障はないし、問題ない。……君の大事な積荷も、このとおり無事だ》
「そうですか……、ふぅ、よかった……」
何とか守りきれたようだ。
兄として、こんな形で失いたくなかったしね。
《我々はまもなく空挺降下ポイントに入る。もう少しの間、護衛を頼む》
「了解。お任せを」
《……感謝するよ。命の恩人。積荷経ちも、必ず作戦を成功させるといっている。》
「御願いしますよ。陸はそちらに一任しますからね」
《任せてくれ。……では、後の護衛は頼む》
「了解」
そういって向こうからの無線は途切れる。
その瞬間、極度の緊張から一瞬開放され、後ろの背もたれに背中を落とすが、すぐにまた起き上がる。
まだだ。まだ緊張を解くべきじゃない。
もう少しで空挺降下が始まるし、最低そこまで緊張感は保っていないと。
……とはいっても、。ひとまずは山場は乗り越えたし、そこは一安心してもいいかな。
まあ、なにはともあれ、もう少しで最低限の任務は達成だ。
それまで、極度な、とまでは言わないけど、しっかり適度な緊張感は保っておかねば。
「……とりあえずは、」
「隊長たちが来るまで待つか……」
そしてそのまま、僕は輸送機の編隊のそばを飛んで残りの護衛の任務に付いた…………




