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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第6章 ~『好朋友作戦』発動! 台湾の反撃を援護せよ!~
88/168

〔F:Mission 19〕水中の駆け引きと決断 1/2

―TST:PM17:35 台湾海峡 澎湖ほうこ諸島西嶼郷せいしょきょう

        北西22海里地点深度120m SSそうりゅう司令室―







「……で、その潜水艦は未だに動かないのか?」


 私はソナー担当の澤口君に聞いた。


 台湾海峡での航海2日目。


 ここで一応他の敵潜警戒の任務についていたが、そのときソナーが1隻の敵潜水艦を捉えた。

 スクリュー音から察するにおそらくディーゼル潜だと思うが、なんせ遠くで探知した上微速航行中だったのか音が小さかったので解析に時間がかかっている。

 その間に私たちは敵潜により近づいていった。


 だが、その敵潜は少し妙な様子であった。


 おそらく我々と同じく哨戒の任務についているのだろうが、それにしては……、






 最初の捕捉した地点から、一向に動く気配がない。






 航行中ではないということなのだろうか? それとも、目標を確認したから機関停止でなりを潜めているのか?

 スクリュー音が響いていたのも最初の捕捉したときだけだ。それ以降は機関を止めたのか全然音がならなかった。

 現在、敵潜は艦尾をさらす状態で我々のまん前にいる。

 距離は大体8000ほど。

 そして、つい先ほどから我々も機関を止めて敵潜の監視に入っていた。


 未だに、敵潜に動きは見えず。


「動きませんね。さっきからずっとここにたちっぱです」


 澤口君も報告した。

 やはり動かないか。何か目標にでも狙い定めているのだろうが……、


「……しかし妙ですな。ここいら辺は味方潜水艦は我々だけだったはずですし、味方水上艦艇もここにはまだ到達していないはずです」


 そう疑問を呈したのは副長だった。


 確かに、ここいら辺の海域の警戒を任されているのは我々だけだったはずだし、そして主力メインの水上艦隊もまだここまで来ていなかったはず。

 というか、今日の昼過ぎあたりに敵潜がUSM攻撃して味方艦隊にダメージを与えたとき、その敵潜はここよりはるか北にいたはずだ。

 つまり、水上艦隊がここまで来ていないのにわざわざここで待っている必要はない。ということはこの敵潜の目標はそっちではないということになる。

 だがかといって潜水艦もいるはずないし……。


 ……何かがおかしい。一体何を企んでいる?


「……敵潜の音紋解析は完了したか?」


 私は他の解析担当の乗員に聞いた。

 結構小さな音だったので解析に時間がかかったが、もうそろそろ出来てもいいはずだ。


 ……まあ、音の特徴からしておそらくディーゼル潜だろうが。


「まもなく完了します。……あ、解析が完了しました」


「敵の艦種は?」


「はい。艦長の読みどおり、敵潜はディーゼル潜です。音紋、宋型の遠征13号と判明」


「宋型か……」


 敵潜はやはりディーゼル潜だったか。どうりで静粛性が高いわけだわな。

 宋型の遠征13号といったら確か南海艦隊所属の潜水艦だったはず。ではそこから台湾に出張ってきたということか。

 またこの宋型、結構な静粛性を持つことでも知られている。

 いつ時か、アメリカの空母『キティ・ホーク』率いる機動部隊が沖縄近海を航行中に、この潜水艦が5マイルという対艦攻撃できる超至近距離に浮上してきたことがあったらしい。

 ここに浮上するまでアメリカ側は全然探知することは出来ず、これはアメリカのマスコミで取り上げられ宋型の性能の高さを世に知らしめる結果となったが、一部ではこれは「アメリカが中国の軍事的脅威を煽るために流したデマでは?」という説も流れている。

 まあ、情報源ソースがアメリカのマスコミだけだったためそう言われるのも無理はないが、果たして真相はどうなのやら。

 それは、もちろんアメリカにしかわからない。


 だが、どっちにしろ侮ってはならない相手には間違いない。


 宋型の一部はAIP動力のテストヘッドとして改宋型として改修されているが、この遠征13号はそうではなかったはず。


 まあ、どっちにしろ状況はこっちに有利だ。

 こうやって後ろを取った。もう向こうは攻撃できまい。


「……で、艦長。いかがなさいますか?」


 副長からの問いにもすぐに答えた。

 ここまできたらあれしかあるまい。


「如何するも何も、ここまできたら容赦は必要ないだろう」


「では?」


「……敵の真意がわからんが、何か行動を起こされる前にしとめておこう。敵なら問答無用だ」


 我々味方に対する脅威の芽は早いうちに瞑っておくに限る。

 敵潜は機関を止めてはいるが、だが位置自体はわかっている。

 最初いたところから動いていないんなら、一発ピンガー打って敵潜位置を特定して打つことなんて造作ないことだ。

 艦尾をさらけ出している状態でこっちから見ればそこそこ当てにくいことには違いないが、まあ2発もあれば十分だろう。

 後は艦尾に出来た破口から海水が大量に入ってバランスを失って勝手に沈んでくれるはずだ。


 時間はかけたくない。私はすぐに行動に移った。


「本艦はこの目標に対して攻撃を行う。魚雷戦用意。1番、2番、18式装填。ピンガーを……」


 打て。


 ……と、直ちに攻撃命令を出そうとしたときだった。


「……ッ! 待ってください。ピンガー打たないでください!」


 そう叫んだのはソナー担当の澤口君だった。

 その口調が切羽詰っていた。


 明らかに急いでいる。うそでも何でもなさそうだった。


「ッ! なに? ……と、とりあえず命令中止。ピンガー打つな。魚雷装填も待て」


 とりあえず今やろうとした命令を直ちに消した。

 幸い中止命令が間に合い、ピンガーはまだ打たれていない。魚雷装填もまだだ。


 先ほどまでの沈黙をそのまま継続さている。前方の敵潜にもまだ気づかれていないようだった。


 とたんに、副長が澤口君に聞いた。


「ど、どういうことだね? 何か他の目標でも……、?」


 すると、副長が全部言い切る前に左手を軽く上げて口を制止させると、そのままもう片方の右手をヘッドセットの右側のイヤーパッドにあて、そのままソナーの聴音を清聴する。


 少しの間の沈黙。


 しかしそれも長くはなく、澤口君はその沈黙を破り、確信したように静かに言った。


「……やっぱり、間違いありません」


「? 何がだ?」


「……後方です」


「は?」









「……もう1隻います。後方に、もう1隻の敵潜の音紋を確認しました」









「ッ! なに? もう1隻だと?」


「はい。間違いありません。後方にもう1隻います」


「ッ……!」


 まだ後方にも潜んでいたようだな。

 だが、先ほどまで反応はなかった。


 一体どうやって後方についた……? さっきまでエンジンをガンガン回して航行していたわけではあるまい。


「……どうやってここに来たんだ? さっきまで反応はなかったのだろう?」


「はい。最初は聞こえませんでした。今さっきの、若干の推進音と、メインタンクの排水音でやっと捉えたという程度です。それも、悟られないように配慮しているのか極微弱な音でした」


「ということは、後ろからつけてきたわけではない……、か。敵潜の音紋の解析は?」


「今出ます。……あ、出ました。同じくディーゼル潜、宋型の遠征14号です。以後、前方の遠征13号を敵潜Aアルファ、後方の遠征14号を敵潜Bブラボーと呼称」


「了解。……これも同じか……」


 同型が2隻か。

 同じくここいら辺を航行していたものに違いない。

 もしかしたら、先ほど言った、午後にUSMで奇襲をした例の潜水艦の可能性もある。

 あれは3隻確認されたが、撃沈確認は1隻だけだったはずだしな。

 こにいるのは前後合わせて2隻。少なくともどちらか1隻はそれと同艦の可能性としては結構高いだろう……。


「……一体どうやってここにきた? 我々に悟られないようにするとなると……?」


 すると、副長が言った。


「後ろからつけてきてないとすると、おそらく前々からここに潜んでいた、ということでしょうか。台湾海峡ここも海底の地形が複雑で、所々異様に深く溝のようになっている場所が多々あります。そこに身を潜めれば……」


「……なるほど。こっちからの捜索にも引っかかりにくいというわけか……」


「ええ、たぶん」


「ふむ……」


 彼のいうことも中々説得力がある。


 台湾海峡は地形が複雑なことでよく知られている。特に我々潜水艦にとってはこの海底地形というのはとても航行上重要なものだ。

 ゆえに、ここ台湾海峡で時たま演習するときとかにも、台湾海軍からこの地形データをもらっている。

 今もそのデータはこっちにもインプットさせてもらったが、それはどうやら向こうも同じということか。

 ……というか、数年前までここは厳密には中国の海同然だったし、まあ知っててもあながち不思議ではないな。

 そのもっているデータを使って適当な場所に身を潜めて探知を免れていたということか。いくら対潜技術が上がっても、こういう複雑な地形を盾にされたらやはり探知しにくいのには変わりはない。

 そういうときこそ上からソノブイ投げてより隙間がないような探知網を形成するのだが、まだこの海域は敵の影響下にあるし、そんな危険を犯してまでソノブイ投げることなんてできないな。

 となると我々だけで捜索せねばならんが、その場合こんなことにもなる。


 ……ということはだ。


「……この前方にいるのは、“囮”か?」


「ですな……」


 この最初に捉えた敵潜は、わざわざ獲物を食いつかせるための“エサ”か。

 それに食いついたところを後ろから……。


 ……澤口君の警告どおり、先にアクティブ打たなくて正解だったな。

 先に打ったらその音を後方の敵潜に捉えられて先制攻撃を喰らう恐れがある。

 それも、自分達の知らない間に、しかも後ろから突然にな。


 危ないところだった。こればっかりは澤口君に感謝せねばな。


 ……だが、


「……そうなると、我々は見事に前後を挟まれている状態になるということか」


「そうなります。しかも、後方の敵潜はこっちに狙いを定めています」


「積極的に攻撃してこないのは……」


「音紋もわからないのでやはり狙いをうまく定めれないというところでしょうか。ピンガーを打つわけにもまいりませんし」


「なるほどな……」


 あくまで、自分の存在を悟られないようにしつつ攻撃するつもりか。

 万が一逃げられたときに自分の存在をばらされるのも厄介だしな。


 だが、かといってこのままでいるのもちと問題だな……。

 いずれこの後逃げるなり攻撃するなりせねばならんが、こっちからうかつに動けば、それこそ相手も思う壺というやつだ。

 その音を後方の敵潜に捉えられて終わり。こっちが前方の敵潜に攻撃する暇すらも向こうは与えてはくれないだろう。

 かといってここを動かずにいたとしても、それは現状をただただ維持することになる。

 いずれ動かねばならないときがくる。そのときがもう敵が攻撃するときになるだろう。

 つまり……、







 我々は、ものの見事に敵の罠にはまってしまったことになる。






「……どうします? このまま現状維持でいくか、一か八かで全速回避に入るか……」


「回避は無理だ……。どの方向に逃げても前方と後方、どっちからも攻撃できる位置になる。音自体を出したらそこで我々は死ぬ可能性が大だ」


「では……?」


「……」


 私は考える。

 ここからどうやって現状を打破すればいいのか。

 敵は前後に挟まれている。

 ここから動いたら敵に悟られて攻撃されて終わり。

 かといって動かなくてもいずれ同じ道。

 ぶっちゃけこの罠に入り込んだ時点でもう打つ手はなく詰んだようなものなのだが……。


「……海流を使うのも……、今ここじゃ無理か」


「前後挟まれてますから無理ですよ。それに、今海は荒れてます。不規則な海流に任せるのはあんまり得策ではないかと」


「ふむ……」


 となると、もう手が真面目にないんだが……。


 ……いや、まだだ。まだ何かあるはずだ。


 考えろ。他に方法がないかを。


 敵が隙を見せるときとかはないか? 一瞬でもいい。


 出来れば後方の敵潜Bが隙を見せてくれればいいが、何かそうなる条件は……。


「……、ッ! そうだ、これなら……」


 ……そして、考えに考え抜いた結果、私は一つの方法にたどり着いた。


 同時に、私は確認をとる。


「澤口、敵潜Bがいた辺りの敵潜の報告は今までなかったな?」


「? え、ええ……、事前に台湾に確認をとったところでも、この海域での潜水艦発見の内容はありませんでした。被撃沈による報告漏れとか、そういう消息不明の報告もありませんでしたし、おそらく間違いないかと」


「そして、我々でも、ついさっきまで捉えることはできなかった。つまり……、敵潜Bは結構長期間にわたってずいぶんと深く同じ位置にもぐっていたことになる。それも、我々に悟られないように。そして、こうやって浮いてきたのは、おそらく我々が一番最初の獲物だから……」


「ええ……、でしょうね」


「ですが、それが何を?」


「うむ……」


 副長も問いかけるが、私はそれにはすぐに答えずまた少し考える。


 ……そして、これならいける、というかこれしかないとふんだ私は言った。


「……敵潜BはAIPのテストヘッド艦である改宋型の039G1型ではない。ついでに言えば、その前方の敵潜Aもだ。この2隻はそう深いところに長くもぐっていることは出来ない。特に、後方の敵潜Bは、長い間相当深いところに潜んでいた。自らの身を隠すためにな」


「ええ……、そうですが、それが一体なんなので?」


「わからんかね? ……AIP搭載艦でもない潜水艦が、我々AIP搭載艦みたいにそう長い間もぐっていられると思うか?」


「いえ……、ッ! ま、まさか?」


「気づいたかね?」


 副長が私が何をやりたいのか悟ったと同時に、周りの乗員も大体のことを悟ったようだ。

 互いに近くにいたやつと顔を見合わせている。それも、驚いた表情で。


 AIP搭載ではないディーゼル潜はそう長くもぐっていることは出来ない。



「……敵潜Bは、時間的にはそろそろ浮上して気蓄器空気を取り入れなければならないはずだ。艦内空気を取り入れたり、蓄電器を回したりするため浮上したとき、一時的にだがその艦は戦闘不能になる」


「つまり、そのときに急いで離脱を……?」


「ああ。敵潜Bも、すぐに潜航することも出来なくはないが、この後長期戦になるかもしれないのにわざわざ空気取り入れが不十分な状態でまた追っかけてくるとは思えない。おそらく、空気取入れを完全に終えてからだろう。私なら、そう判断する」


「なるほど……」


 敵潜とて、AIPも積んでないのにずっと潜って入られないしな。

 絶対どこかで限界が出るはずだ。そこで浮上したとき、敵潜Bは一時的に戦闘不能。そして前方の敵潜Aも後方をさらけ出していて攻撃はほとんど無理。というか、エンジン回してないのに簡単には捉えられない。


 そのときを狙う。





 敵潜Bが浮上を始めたとき、我々のターンは始まるのだ。





「となると、問題はどこで浮上するか……、ですね?」


「ああ……」


 今現在の時刻、大体午後のPM17:40。もう夕刻だ。


 まさか、もう夕方とはいえこのタイミングで浮上するわけはあるまい。自分のみをわざわざさらすことになる。

 やるとしたら……。


「……日没後、大体PM19:00あたりからだな」


「とすると、大体1時間ごあたりからが……」


「……勝負の時間だな」


 日没後の、完全に夜になったときに、慎重にやる可能性がある。


 まあ、夜といっても敵のレーダーに捉えられる可能性もあるので、すばやくやることに違いはないだろう。


 ……だが、そのときだ。





 そこからが、我々の勝負の時間だ。




「……どれ、では敵潜Bが浮いていくまで待ってみるとしようか…」


「長くなりそうですね……」


「ああ……」


 そういって、私は艦内マイクを手に取り、乗員全員に向けていった。


「諸君、これより、我々は敵の手を逆手に取るべく。この海域で静音待機に入る。一切物音を立てるな。ここからしばらくの間は……」











「我々と敵の、“我慢比べ”の時間だ」












 しばらくの間の、静かなる駆け引きが始まる…………

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