〔F:Mission 18〕『第3次台湾海峡海戦』 敵のミサイルは通常にあらず 3/3
―TST:PM13:48 台湾海峡 同海域 日台連合艦隊日本艦隊DCGやまとCIC―
「艦を止めるだと? 一体何を考えている?」
艦長も疑問を呈した。
だが、それには答えずさらにいった。
『説明は後で艦魂あたりからでも聞いてください。とにかく、時間がありません。今すぐ艦を取り舵10度にとって緊急停止してください。事態は急を要します』
「ぬぅ……、わ、わかった。航海長」
早口に、しかも少しだが威圧というか気迫前面で出されたため、艦長も半ば押される形で航海長に指示を出す。
航海長もそれに答えた。
「り、了解。取り舵10度。5秒後に機関停止。軸ブレーキ換」
「取り舵10、5秒後に機関停止。軸ブレーキ換」
とりあえずいわれるがままに艦を止める。
10度ほど傾けた後、すぐに機関制御パネルの停止ボタンを押し、さらに軸ブレーキを換に設定。
これで艦はすぐに止まった。10度ほど左に傾いた状態でとまった艦は、敵ミサイルに右舷側を少しさらす状態になった。
……で、
「……ここからどうする気です?」
航海長が艦長に半ば投げやりに聞いたが、
「そうは言われてもなぁ……、砲雷長のほうで何か考えがあるんだろうが……」
まあ、当たり前だが艦長もどういうわけかわからない。
しかし、わざわざこの状況で艦を止めるとはどういうことだ?
普通ならむしろ艦の速度を上げて、敵ミサイルを振り切るなりするのが当たり前だ。
だが、砲雷長はむしろ逆にとめた。
何かわけがあるんだろうが、一体どういうことなのか……?
「やまと、CICのいってることに意味わかる?」
俺はあいつに聞いた。
砲雷長もとりあえずあいつに聞けって言ってたし、とりあえずそのとおり聞いてみた。
まあ、あいつが知ってるとは限らんが……、
“えっと……、3行で済ませますと”
「うむ」
“艦を止めて敵ミサイルのシースキミング飛行の経路を最大限限定させます”
「うむ」
“敵ミサイルに対して真正面の方向に魚雷を2発ほど放ちます”
「うむ……、うむ?」
……What?
“ですから、魚雷を2発ほど……”
「いやいやなんで魚雷!?」
あの、今対空戦闘中であって、対潜戦闘ではないんですが?
魚雷って対空戦闘で使い道なくね? 何をする気だ?
“まあ、言葉で説明より見たほうが早いってやつなんですが……、で”
「お、おう」
“……その最終段階で”
「おう」
“敵ミサイルの直下で自爆させます。これでお分かりですか?”
「いえ全然わかりません」
ま、待ってくれ。その最終段階がそれかいな。
ちょっと待とうか。放った魚雷2発の使い方間違ってるだろってのもあるが、そもそもこれできるか?
確かにさっきの波でも落ちたし、魚雷を海面ギリギリで爆発させたらでっかい爆発とともに水柱も立つし、確かに壁はできるだろう。それもうまく当てれば、確かに敵ミサイルはバランスを崩すかもしれない。艦を止めたのも、あいつが言ったように敵ミサイルがそのままの針路できてくれるようにするためか。
だが、当たり前だが今までやったことない。
これで回避できなかったらもう後はない。
いくらやまとの装甲でも、どこまで耐えれるかわからなかった。
一応装甲強度試験のときにASM-3つかって実験はしたけど、成功はしたとはいえあれはM3,2くらいだった。
これはそれ以上。ギリギリで無理にしか思えない。
艦長たちに報告したら思いっきり驚かれた。
艦長曰く、理論的にはできないことはないけど可能性は未知数以外の何者でもないとのことだった。
……まあ、そうだろうね。なんせやったことないんだし。
すると、
「ッ! 右舷魚雷発射管より魚雷発射確認。2発です」
右舷の魚雷発射管から魚雷発射。それも2発。
あいつの言ったとおりだった。
放たれた魚雷はそのまま敵ミサイルがくる方向に相対する角度で向かっていった。
このとき、敵ミサイルが弾着するまでもう1分をきった。
相変わらず前甲板から速射砲弾がひっきりなしに飛んでいくが、一向にぶち当たるわけもなく。
魚雷は海面ギリギリを敵ミサイルに真正面から突っ込む針路で向かっていくが、このとき魚雷が敵ミサイルの直下を通過するまで後30秒もない。
チャンスは当たり前だけど一回限り。2回目はない。
そのうちに、敵ミサイルはほかの2隻にも牙をむいていた。
「敵ミサイル2発、弾着まで2分をきりました。『たかお』と『あきづき』に向かっています」
CICからの報告を伝達した。
どちらも艦隊の次に前列にいた艦だ。しかも『たかお』はあたご型の中でも後に追加配備された新鋭イージス艦。
ここで失いたくなかったが、ここから支援することはできない。
どうにかして向こうに任せるしかなかった。
「魚雷自爆まであと10秒」
時間を計っていた艦橋乗員が報告する。
すると同時に、
「……ッ! 敵ミサイル確認! 13時半方向!」
見張りが報告した。
13時半方向。双眼鏡越しにではあるが、敵ミサイルがきているらしい小さな黒点を確認した。
早い。やっぱり最初と同型と見て間違いない。
そこの下、海面ギリギリを魚雷が航行しているところだろう。
……時間的にももうすぐだ。
「……3、……2、……1、きます」
時間を計っていた乗員がそういうと同時に、敵ミサイルらしい黒点の針路をふさぐようにまず1つの水柱がでかでかと立った。
一瞬の間すら与えず敵ミサイルがその水柱から出てきたが、そのミサイルはさっきと違って少し上に向いていた。
水柱の勢いを突き抜け切れなかったようだ。
だが、1発では終わらない。
さらにもう1発追い討ちで爆発させた。
軌道修正のために下を向いていた途中で爆発し下から水柱が立って突き上げられたため、もうそれで敵のミサイルは思いっきりバランスを崩した。
その一瞬である。
その一瞬だけで十分だった。
このとき、弾着までもう10秒直前だった。
「今だ! 今なら速射砲とCIWSでもいける!」
「CIC! 対空火器全部ぶっ放せ!」
航海長の言葉に副長が反応するようにCICにいった。
向こうとしてもいわれるまでもないだろう。
速射砲もバランス制御のために速度を落とした隙を見てそこに向けて撃ちまくった。
速度が一時的に落ちていた敵ミサイルは、やまとが誇る高精度の対空火器たちに徹底的に狙われた。
敵ミサイルがまたバランスを取り戻しかけたときだった。
「……ッ!」
敵ミサイルが爆発した。
曇りがかっている空に赤い火炎が一瞬瞬いた。
一瞬CIWSの砲弾が敵ミサイルをと耐えたように見えたし、たぶんそれが止めだったんだろう。
敵ミサイルは俺たちの100m近くのところで爆発したので、こっちにも結構な爆発音や爆風が響いた。
艦橋の窓がガタガタとゆれるが、それだけだった。
破片も飛んでこない。
無事、敵ミサイルの迎撃に成功した。
「敵ミサイル、撃墜! 撃墜しました!」
「よ、よし! 落としたぞ!」
ここにいたもの全員が大なり小なりのガッツポーズをして歓声を上げた。
俺も思わず左手で舵を握りつつ右手で大きくガッツポーズ。
……にしても、まさか本当に落とさせるとは。
魚雷の自爆からのバランス制御のための速度減速を使った撃墜法か。これまたとんでもないことを思いつく。
すると、艦長も次の行動に出た。
「よし、これをすぐに『あきづき』と『たかお』に伝えろ。これは使えるとな」
「了解。すぐに伝えます」
「副長、CICに魚雷自爆タイミングと航行航路の演算をさせろ。こっちのほうがより正確なのを出せる。データリンクをつなげ」
「了解。……CIC艦橋、『あきづき』と『たかお』の分も追加で頼む。2隻が停止した位置を基点に……」
今狙われてる2隻にこれを実践させる。
今現在の通常の方法で撃墜できない以上、これをやらせるしかない。
こっちがまた軸ブレーキを解除して航行を再開する中、対照的にこの2隻はすぐにその場に停止した。
向こうでもこっちの迎撃を見ていたようで、これにかけるしかないと思ったのだろう。
どちらも取り舵で右舷を敵ミサイルにさらした状態で停止した。
これで右舷にいる敵ミサイルに向けて魚雷が楽に撃てるようになる。
“二人とも! そっちに演算いったから後は頼むね!”
やまとがそう叫んだ。
CICでもデータ作成が完了したらしい。
すぐに被目標艦のほうにデータリンクでデータが送られた。
今頃。、魚雷のほうにデータがインプットされているころだろう。
“りょ~かい! やまとさんとこの人もいろいろとぶっ飛んだこと考えるね! ……よっし、魚雷発射!”
“こちら『たかお』、こっちでも魚雷発射! さぁ、どこまで効果が出るか……”
向こうでも魚雷が放たれた。
この時点でこちらもすでに弾着1分をきった。
そこから魚雷発射は一応俺たちと同じだ。
弾着30秒切ったあたりで魚雷が爆発するとなると、こちらもやっぱりチャンスは1回。
「……にしても、」
「?」
ふと、航海長がつぶやいた。
それも、苦笑い気味で。
「……これ、一体誰思いついたんです? CICの連中には間違いないでしょうが」
「……あー」
副長も思い出したように行った。
……確かに。そういやこれ誰思いついたんだろうな。
カズのやつか? でもあいつこんなぶっ飛んだこと思いつくとは思えんな。
……え? 魚雷回避のやつ思いついたお前が言うなって? あれはそれほどぶっ飛んではいないだろう。うん。
「……で、結局誰の提案なんだ?」
俺はやまとに聞いてみる。
一応、俺がどういうわけか聞いたときに普通に答えれたあたり、ちゃんとCICのほうを聞いてただろうし、たぶんわかると思うんだけど……。
“ああ、それ砲雷長さんの発案ですよ?”
「……え? マジで?」
“マジで”
「……わ~お」
まさかの意外な人物である。
あの人、こんなぶっ飛んだこと考えるのか。なんと意外なことだな。
しかし、その本人自身も相当な賭けと見たであろうな。失敗したらそれイコール被弾で下手すりゃ死亡だからな。
だが、今回は運が味方してくれたみたいだな。
こうやって撃墜できた。そして俺たちは生きてるしな。
今回ばかりは砲雷長に感謝である。
……と、そうしているうちに、
“よっしゃあ! 落としたぁ!”
“『あきづき』あんまりはしゃぎすぎ……、てうぉ!? こっちも落ちた!”
“人のこといえなー……”
向こうでも何とか落としたっぽいな。
双眼鏡で見ると、何本かの水柱とともにでっかい火炎と黒煙が見えていた。
被目標艦であった『あきづき』『たかお』の2隻のすぐそばだった。
見た感じ被害はないっぽいな。
『こちらあきづき! 敵ミサイルの迎撃に成功! やまとの支援に感謝する!』
『たかおよりやまと、敵ミサイルの撃墜に成功した。命拾いしたぜ。発案者にありがとうと伝えておいてくれ』
という、お礼交じりの報告も飛んできた。
乗員のほうでも確認したようだ。これでもう攻撃の心配はないな。
……なぜなら、
『艦橋CIC、哨戒ヘリから敵潜撃沈の報告あり。撃沈1』
敵潜はすでに海のそこに屠ってやったからな。
これでもうUSMなんて撃つことはできないだろう。いや、そもそも浮上すらできなくなったか。
……つっても、これたしか3隻いるよね? もう2隻はどこいったんだ……?
「了解。……ひとまず、これで一安心か……」
「ええ……。とはいっても、まだ2隻見つかってませんが……。
「まあな。だが、この警戒だ。もうじき見つかるだろう」
「ですね。とりあえず、これを発案したやつには後で礼を言っておきませんとな。えっと……」
「砲雷長です」
と、俺が一言。
「ああ、彼か。後で礼を言っておこう。……陣形を戻す。航海長」
「了解。新澤、面舵13度」
「了解。面舵13度」
すぐに転舵して艦隊陣形を戻しにかかる。
艦停止させたりでいろいろ乱れたしな。さっさと戻らないとまたいつ襲撃がくるか。
……にしても、
「……お前もこんなぶっ飛んだことよく冷静でいられるな」
あいつのことだ。思わず「ええ!?」とか言いながらオドオドすると思ったんだが……、
“え? そう見えました?”
「え?」
“……これでもあんまりのことにこれでいいのか迷ったんですけど”
「あ~りゃ」
戸惑い自体はあったみたいです。
でもまあ、それでもこれをしっかり完遂するあたりさすがは最新鋭艦かな。
「総員、対空・対潜警戒を厳に。まだ2隻ほど見つかってないし、またいつくるかわからんぞ」
副長がそう指示するとともに、また警戒についた。
俺も操舵に集中する。
しかし、これ以来しばらくは襲撃があんまりなかったのは後で知ることだった…………




