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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第6章 ~『好朋友作戦』発動! 台湾の反撃を援護せよ!~
84/168

〔F:Mission 17〕地上部隊危機一髪

―TST:AM09:43 台湾台中市ダイジョーンシー龍井区ローンジーンチュイ                       海埔仔ハイブゥズー 省道17号線 中彰大橋ジョーンジャーンダーチヤオ前 第10軍団第765機械化歩兵旅団―





「……よし、橋の前か」


 俺は目の前にした橋を見ていった。


 運のいいことに最前線で一番最初にこの鳥渓ニヤオシイに付いた俺達は、今この中彰大橋ジョーンジャーンダーチヤオの前にいた。

 省道17号線を南下してきたところにある鳥渓は、台中市と彰化県の境界線にもなっている大きな河川だ。

 そこをかかるこの中彰大橋は17号線の道路として敷かれている。

 鳥渓のそばにある海埔仔ハイブゥズーは省道17号線のすぐ近くにある小さな地区で、そこに中彰大橋の北方入り口がある。


 運よく最前線の部隊としてここを通ることになった俺達は、第765機械化歩兵旅団と、日本の西部方面隊第8師団の歩兵部隊とで構成されており、この二つの連合部隊となっていた。

 この日本の第8師団は、俺が昨日戦車部隊を案内したときの向こうの所属している師団だったが、今のこれはあくまで歩兵部隊。あれとはまた違う部隊だ。

 ……ちなみに、この第765機械化歩兵旅団。名前の『765』が、偶然にも日本で売られているとあるアイドル育成ゲームの主人公が所属する事務所名とかぶっており、それをかけてか台湾あたりのネットユーザーからはこの部隊のことを『765偶像オウシアーン旅団』とかいう別名で呼ばれている。

 なお、おれもあのゲームは持っている。クールな歌姫お気に入りです。ハイ。


『よし、偶像オウシアーンリーダーより戦車部隊“偶像01、02”へ。橋に差し掛かり次第進軍開始。急げよ』


『偶像01了解』


『02了解』


 味方の無線が声を発した。


 ……ここでも偶像の言葉が出る。味方同士の認識がしやすいということで採用されたが、まあこれでよかったのかそうでなかったのかは複雑である。嫌いではないが。


 そして、今先頭にいてたった今橋に入り始めた2両の戦車は、台湾で開発された最新型の戦車である『18式戦車』だった。

 元々は旧式化し始め、同時に近隣国の戦車の近代化に伴い行なわれた次期台湾主力戦車選定が始まりだったが、一番の有力候補だったアメリカのM1A2エイブラムズ戦車は60トンという高重量で、台湾のインフラに耐えれるか懸念があり計画は流れていた。

 まあ、それには台湾のインフラの整備状況が悪かったりと耐性が問題視されていたこともあるのだが、同時にエイブラムズには台湾のような複雑な地形には対応できないという声もあり、ほかの戦車を採用するか、またはその技術を提供してもらおうという主張が大勢を占めた。

 そのとき白羽の矢が立ったのが、日本の戦車だった。

 台湾と日本の地形は結構似ており、その日本の戦車は軽く丈夫で高性能。しかもこの山型地形や市街地戦にも対応されているため、これを採用しようということになった。

 だが、日本では最新型の10式戦車の輸出を渋り、その代わり1世代前の90式を挙げようとしたが、そっちはそっちで生産ラインを閉じたのでまた開くとなるといろいろと手間やら資金やらがかかるということで、では折衷案として、その90式や10式に使われている技術や設計の一部を提供して後はこっちで開発・量産するということで手をうった。


 その結果が出来たのが、この18式戦車だ。


 形は日本の90式が10式並に小さくなった感じで、まだ少数生産状態ではあったが、中々の高性能振りを発揮してくれた。

 台湾始まって以来の『近代型戦車』といわれたほどだ。


 その18式戦車2両が、橋を横に並んで進軍していった。

 その後ろを、各種装甲輸送車なりなんなりが後を追う形となる。

 俺達の乗っている装甲兵員輸送車も、橋に差し掛かりほかの味方車両についていく。

 俺達はこのまま橋を渡った後、とりあえずその先で進軍を止めてほかの味方の鳥渓通過を待つ予定だった。

 敵に反撃の隙を与えないよう、航空支援や海上からの対地支援攻撃もする。

 そこから先は、進軍の支障となる大きめの河川はほとんどないから進軍自体はラク。

 だが、今ここで戦備を整えないと後々痛いからいったん止まってでも準備するというのが上の判断らしい。


「よし、もう少しで橋抜けるからな。全員準備しとけ」


 この車両に乗っていた俺の部隊の隊長がそういうと、俺を含めほかの兵士は身の回りの準備を始めた。

 俺達の任務は、ほかの部隊が集合中の近辺警戒だ。

 一応、空・海の支援のおかげで最前線の敵地上部隊を大分減らすことが出来たとはいえ、まだまだどこかに潜んでる可能性が高い。

 そのための俺達だ。準備は入念にな。


 車両も橋の半分のところに差し掛かった。先頭も半分を過ぎ、南方の陸地、彰化県域まであと250mほどというところまで迫っていた。


「(……よし、準備完了。後は目的地につくまで……)」


 と、身の回りの準備を終えて、目的に地に着くまで少しの休憩をと背もたれに背中を預けたときだった。



「……ッ!?」



 少し、いや、一瞬甲高い風切り音が聞こえたと思ったら、いきなりドデカイ爆発音が聞こえた。

 同時に、この乗っていた車両が激しく揺れ、とっさに条件反射で座ってたイスのふちをつかんでゆれに耐えた。

 車両もすぐに急ブレーキで止まった。

 この車両だけではないらしい。周りの車両もすぐに止まった。

 ゆれと轟音はすぐに収まった。台湾大震災並の地震でも起きたのかと思ったが、すぐに収まったあたりそれはないと見た。


「い、一体今のはなん……、ッ!?」


 だが、俺はほかの意味で驚愕の表情を出した。

 そして、自分の目を疑う。


 車両の運転席から前を見た。そこには……、






 はるかとおく、先頭の2両の戦車がいた辺りから、大きな黒煙とともに橋の裂け目があった。

 向こう側にある橋の、コンクリートの中身が鉄筋とともに外側にあらわになっていた。





 橋が、ものの見事に崩れていた。







「な、なんだあれ!? 橋が!?」


 この車両内にいた仲間が思わず叫んだ。

 同感だ。一体何があったんだ?

 敵からの攻撃? 橋が爆破でもされたのか?

 だが、そんなことをしているらしい報告はなかった。日本からの衛星画像やその他無人偵察機からの報告でも、敵がこの橋を通るときはなんにもここに工作している様子はなかった。


 ……じゃあこれなんだ? 明らかに敵からの攻撃であることに間違いは……、


「……ッ! うわッ!」


 だが、余計なことを考えている暇はなかった。

 すると、また甲高い爆発音とともに、思いっきり車両が揺れた。

 ふと前を見ると、窓越しにまだ大きいな爆発円とともに、宙に浮き上がる装甲車両が見えた。

 あの中には味方部隊が乗ってたはずだが……、あれじゃもう無理っぽいか。


 激しい揺れと爆発音はこれだけに留まらなかった。

 断続的にそれは続き、俺達が向かおうとしていた進路上、橋の南方側からその爆発が迫ってきていた。


 マズイ、ここにいたらアレに巻き込まれる!


「クソッ! ここもまずい! 反転してる暇はないから全員下りて走れ!」


 運転していた兵士が運転席から降りながら叫んだ。

 言われるまでもなく、俺達は一斉に車両を降りて、来た道を逆走して全力で北方の台中市側の陸に向けて走っていった。


 俺達だけではない。同じことを考えていたのはほかの味方も同じらしく、自分達の乗っていた車両を乗り捨て、来た道を逆走して全力で走っていった。

 後方から俺達台湾軍のあとを追っていた日本軍も状況を瞬時に察したらしい。同じく自分達の乗っていた車両を乗り捨て、すぐに北方へ全力疾走していた。


 その間にも後方からその爆発は迫ってきていた。

 橋を乗り捨てた車両ごとぶち壊しつつ、俺達を確実にその爆発に巻き込んでいった。

 逃げるのが遅れたり、橋のより南方を移動していた味方はどんどんと巻き込まれていった。

 爆発時間は一定ではないため、その空いた時間に少しでも遠くへ逃げた。


 ……だが、


「……ッ!」


 そのうち、俺のすぐ後ろでも爆発が起こった。

 すぐ後ろの橋が一瞬でコンクリートの破片と化し、その下の鳥渓の川に落ちていった。

 他の仲間は少し先を行っていた。俺が少し遅れている。


「(ま、マズイ! これじゃ爆発に巻き込まれる!)」


 そう思い、今までの戦闘ですでに悲鳴を上げている両足に鞭を打ってさらに足を速めようとしたときだった。


「ッ! うわぁッ!」


 すぐに次の爆発が起こった。それも、またもや俺のすぐ後ろで。


 しかも、今回は運が悪かった。


 その爆発の影響で、今俺がいる橋も衝撃に耐え切れず亀裂が次々と起こし始め、そして崩壊を起こし始めた。


 俺はすぐにその切れつつ部分から抜け出そうと足を速めるが、崩壊のほうがほんの少し早かった。

 足元が崩れそうになったとき、目線の先に亀裂目が入っていないあたりを見つけ、そこは崩れないと見た俺は、一か八かで足元が崩れる中その亀裂が入っていない部分に向けて全力でジャンプした。

 手を伸ばし、必死にその部分をつかもうとする。


 ……すると、何とかその亀裂で崩壊しない部分をつかむことが出来た。

 正確にはその橋のコンクリートの中にある鉄筋だが、そのはみ出て外に露出していた鉄筋を何とかつかんだ俺は、両手で必死にその鉄筋にしがみつく。

 細い鉄筋とはいえ強度はあるし、崩れず生き残ったコンクリートにしっかり張り付いているため、崩れて川に落っこちることはなさそうだった。

 だが、そこからのし上がろうにも、背中とかに乗せてる装備がクソ重いわ、そして、その飛びついたときに腕を痛めた関係で、中々橋の上に上がれなかった。

 しかも足も足で、さっき飛び込んだときに破片がぶちあったのか、右足が痛んでうまくいうことを聞いてくれなかった。


 助けを呼ぼうにも、こんなときに近くに仲間なんているわけはない。

 皆退避しているはずだ。俺なんか眼中にあるはずがない。

 そのうち次の爆発……、いや、おそらく状況的に考えて榴弾かなんかか。それも弾着するはずだ。


「……もう、ここまでか……」


 絶望的な状況に、俺は思わず自らの最後を悟った。


 ……だが、


「……おい! 大丈夫か!」


「ッ!」


 そのとき、文字通り救いの手を差し伸べてくれた人がいた。


 台湾の軍服ではない。胸元のポケットのところには白い四角に赤い日の丸。






 それは、日本陸軍だった。


 日本の、陸軍兵士だった。






「急げ! ほら、次が来る! さっさとつかめ!」


 俺に向けて手を差し伸べてくれた彼は、まだまだ若い、顔の整ったそこそこイケメンの兵士だった。

 俺と同じぐらいの、たぶん新米だと思う。


 俺は考える前に先に手を出した。

 差し伸べられた右手に俺の右手を伸ばすと、その手は俺の右手をつかんで一気に引っ張った。

 俺もあいた左手をつかって一気に橋の上に上ると、今度は足の痛みが俺を襲った。

 何とか上ったと思ったら、一難去ってまた一難というやつだった。


「ッ! 足やられてるのか!?」


「あ、ああ……。みたいだ」


「よし、わかった。腕を貸せ。俺も手伝う」


「お、俺はいい。もう次が来るからあんたは……」


「余計なことは考えるな! 今はとにかく逃げるぞ!」


 俺が反論する余地もなかった。

 俺の左腕を自分の肩にまわし、自らの右手を俺の脇に入れて体を抱えると、すぐに俺を抱えたまま走り出した。

 俺もできる限りの力を振り絞って足を動かす。


 すると、今度は向こうからまた一人の兵士が走ってきた。

 これまた日本の兵士だった。こっちはまたこの人とは違って少し年が言っている中肉中背。

 たぶん、隊長かなんかをやっている人だと思う。


「おい! 急げ羽田! もう次かくるぞ!」


「隊長! すいませんが手伝ってください! この人負傷してるんです! 自力で走れません!」


 やはり隊長の人だったか。たぶん、彼の所属する部隊の隊長か。

 俺達の元に来た隊長さんはその言葉に驚く。


「なにッ!? ……クソッ、わかった。すまん、腕借りるぞ」


「え?」


 するとその隊長さんは俺のもう一方の腕を自分の肩に担いで左手を俺の左脇に回して体を抱えると、また走り出した。

 両脇に抱えられて走る。俺も一応軽くではあるが足を動かした。


 考えてる暇はなかった。いろいろとツッコみたいというか、言いたいことはあったが、とにかく俺は無心で足を動かした。


 そのあたりから、また後ろで爆発が起こった。

 しかも、今度は連続して起こった。あの最初の聞こえた風切り音も聞こえてきていた。

 ……やはり榴弾かなんかか。それが弾着しているに違いない。


「もう少しだ! 耐えろ!」


「はい!」


 隊長さんがそういうとそのもう一人の若い兵士も勢いよく返事した。

 俺はそれにも答えてる暇はなかった。それだけ他のことにはかまわずとにかく陸に向けて走ることに全意識を集中させていた。

 陸地が見える。橋の出入り口ゴールには、先に橋を脱出していたほかの味方が必死に手招きしていた。

 そして時折「急げ!」とか「早く来い!」などという叫び声も聞こえてきた。

 どうやら俺達が最後っぽいな。


 そして、陸地がすぐそこに見えたときだった。


「ぐッ!」


 またすぐ後ろで爆発が起こった。

 足場が崩れ始める。俺達が走っているところも急速に亀裂が起こりはじめ、その亀裂がどんどんと避けていった。


「まずい! もうすぐ陸地だってのに!」


「仕方ない! 飛ぶぞ! お前も最後の力振り絞れ!」


「は、はい!」


 いきなり隊長さんに叫ばれたので俺も思わず返事したが、どうやらそれしかなかった。

 陸地では台湾軍の兵士が二人ほど橋と陸地の境で待機していた。俺達に手を差し伸べるためだろう。


 そして、どんどんと足場が崩れ、この走っている場所も亀裂が広がり始めたときだった。


「よし、3、2、1、飛べ!」


 隊長さんの合図とともに、ここにいた俺を含む三人は持てる力をすべて足に集中させ、バランスがうまくとれず問答無用で崩れる足場から思いっきりタイミングよくジャンプした。


「うわああああああああッ!!!」


 思わず俺達三人とも変な叫び声を上げつつ宙に舞った。

 両サイドの日本軍兵士二人は、あいている手を思いっきり陸のほうに伸ばし、その手を陸地にいる台湾軍の味方がつかもうと同じく手を伸ばした。

 そして、若干落下し始め、ギリギリ陸地に届かないか、というところだった。


「グッ! よ、よし、つかんだ!」


 台湾側の味方一人が叫んだ。

 その手には、しっかりこっちから差し伸べられた手があった。


 何とか、この二人の手をつかみ、川への落下を防ぐことに成功したのだ。


「よ、よし! すまん! 引き上げてくれ!」


「了解! お前らも手伝え!」


 一人の台湾側の味方が叫ぶと、そこにさらに2人の日本軍兵士と台湾軍兵士が駆けつけ、俺達を陸地に引き上げた。

 引き上げられた瞬間、俺達は思わず「ふぇ~……」と安堵の息を深くついた。

 同時に、呼吸が激しくなった。

 俺も、まだ心臓が激しく鼓動している。落ち着くにはもう少し時間がかかりそうだ。

 まあ、なんせあんなに走ったんだ。無理もないだろう。……自分で言うのもなんだがな。


「だ、大丈夫か羽田?」


「え、ええ……。こっちは大丈夫です」


「よし……。えっと、そっちは?」


 隊長さんが俺に向けて聞いた。


「足と腕がやられてますけど……、まあ、見てのとおりです」


「よし……、とりあえず、一応は無事っぽくて何よりだ」


「はい」


 とりあえず、ここにいるだけで何とかなったし、これで……。


 ……と、すると周りの味方が騒ぎ出した。


「……で、今の攻撃はなんだ? 明らかに榴弾かなんかだろ?」


「わからん。とにかく司令部に報告しておけ。……おい、全部隊に通達! こっちはもうダメだ! ほかの進軍経路を……」


 台湾軍側でもあわただしくなった。

 この攻撃に関してだろう。


 だが、それは日本側でも同じだった。


「今の攻撃は何事でしょうか? 偵察からの報告はないですよね?」


「ああ。やっぱり台湾も言ってるように榴弾だろうが……」


「でもあれ、榴弾ですよね……? 面制圧にしては結構制度が高かった気が……」


「誘導砲弾か……? 衛星は使えないはずだし、上空の無人機かAWACSからのデータリンクを使っている可能性がある。全部隊に伝えておけ。あと、司令部の『いずも』にも報告を……」


 日本側ではより深く考察しているみたいだった。


 確かに、仮に榴弾だとして、あの正確な射撃は何かがおかしい。アレは面制圧に使うし、そして数任せで大量に撃って撃って撃ちまくって使うものだったはずだ。


 それがこれだよ。何かがおかしいな……。


「隊長、とりあえず、俺は彼の手当てをします。隊長はほかの部隊の損害確認を」


「ああ、わかった。ここは任せたぞ」


「了解」


 隊長さんが自分の部隊の状況を確認するために、この場を離れようとした。

 そのとき、


「あ、あの」


「?」


 俺は思わず彼を引き止めた。

 彼がこっちを振り向いたと同時に俺は言う。


「……すいません。俺をわざわざ助けてくれて。本当に、感謝いたします」


 お礼だった。

 やっぱり、礼儀は尽くしておきたかった。


 すると、彼はフッと軽く鼻で息をつくと、


「……例ならそいつに言ってくれ。俺はそいつについていったに過ぎない」


 そう一言言い残してその場を橋って離れた。


 彼がこの場を離れたと同時に、同じく羽田という一番最初に来た彼が言った。


「……はは、すいませんね。あの隊長、あんまり愛想がなくって。でも勘違いしないでください。アレでも仲間思いのほかの隊員に人気のある隊長さんなんで」


「はぁ……」


 まあ、確かに強面であんまり表情を出さなかったようには見えたが……、まあ、日本人とはいえいろいろいるか。


「待っててください。今足のほうをまず治療しますので。ちょっと足見せてもらってもいいですか?」


「あ、は、はい」


 そういわれてすぐに履いていた右の戦闘靴を脱いで裸足を出すと、足はくるぶしの辺りから下が結構赤く腫れていた。

 さっきの爆発に巻き込まれたとき破片が足にぶち当たった記憶はあるが、やっぱりそのときか。

 我ながらひどい腫れようだ。道理であんなに痛むわけだ。


 思わず彼もその腫れようを見て「うひゃ~……」つぶやいた。


「こりゃひどいな……。破片でもぶつけました?」


「まあ……、何かが当たった記憶はありますが……」


「じゃあそれか……。待っててください。まず冷やして巻きますので」


 そういって彼は持っていた戦闘救命品袋から、一枚のシップと包帯を取り出すと、それを腫れている右足のくるぶしにつけた。

 結構しみたが、それもすぐになれる。

 その上から白い包帯をグルグルと巻いて押さえ込んだ。

 手際がいい。その簡易処置もすぐに済んだ。


「……よし、これでオーケー。痛みは?」


「……まあ、何とかさっきよりは大分ラクになりました」


「そうですか……、よかった。他に痛むところは? 腕がヤバイとか言ってましたが……」


「いえ、こっちは問題ないです。最初鉄筋つかんだときに一時的に痛んだだけですので」


 今はもう腕とかは問題ない。まだ痛んではいるが、これくらいならじきに直る。


「ふぅ、それなら安心です。とりあえず、足も少し時間が経てば何とか治るでしょう」


「ええ……。あ、それと、」


「?」


「……ありがとうございます。アレはもうダメかと思いました。本当に、ありがとうございます」


 俺は少し尻から座ってる状態で頭を下げた。


 彼はまさに命の恩人だ。あんな状況で川に落ちようものなら後から堕ちてくる橋の崩れたときの破片で押しつぶされて終わりだったからなぁ……。


 まさに、感謝感激雨あられとはこのことを言う。


 すると、彼も優しく微笑んでいった。


「……お気にせずに。ふと後ろを向いたときに堕ちそうになってるあなたを見たときに、とっさに体が勝手に動いてまして。考えるより行動しろっていうのが、俺のモットーですので」


「はぁ……、それはそれは。あ、俺はチャンといいます。以後お見知りおきを」


「どうも。自分は羽田優です。こちらこそよろしく」


 羽田さんか。命の恩人だし、名前だけでもしっかり覚えておこう。


 ……それにしても、考えるより行動しろ、か。


 戦場では重要なことだ。即断即決は戦場で役立つしな。


「……しかし、あの攻撃は一体?」


「さぁ……? しかし、榴弾であることは確かですね」


「ですよね……。でも、ここいら辺って確かまだ敵が……」


 ここより東、大里区ダーリーチュイとか南区ナンチュイあたりより南にはまだ敵軍がわんさかいたはずだ。

 今回の榴弾砲、弾着場所によってはそこにまで被害が出るぞ?

 まあ、まさか自分の味方まで巻き込むことはないとは思うが……。


『……HQより全部隊へ次ぐ』


「お?」


 すると、無線が声を発する。

 HQ。司令部からだった。

 おそらく、今の攻撃に関することだろう。


『今現在の鳥渓及びその周辺一帯に対する攻撃は、彰化県ないしより以南から放たれた榴弾砲であることが判明した。被害はエリアG11ゴルフ・イレブンH25ホテル・トゥーファイブに集中。進軍経路に損害発生のため、今現在生き残った残存部隊は次の指令を待て。なお、榴弾に関しては今味方航空部隊が攻撃に向かっている。以上』


 という、司令部からの長々とした指令だった。

 どうやら、やっぱり敵の攻撃は榴弾らしい。

 エリアも広範囲に及ぶ。だがこのエリアって……、


「……これ、明らかに敵も巻き込んでますよね?」


「みたいですね……。中国のやりそうなことだ……」


 その羽田さんも思わず苦笑いだった。


 中国め、敵をつぶすためならそこにいる味方も巻き込むということか。

 ……まあ、昔までは俺達もあの国に属してたんだよな……。ほとんど独立志向はあったけども。


「……なんか、敵が哀れに見えますね。いらなく自分達が敵をつぶすためのいらない犠牲になるなんて……」


「まあ、今に始まったことではないでしょう。似たようなことは今まで中国は何度もしてきましたし……」


「例の、チベットとかウイグルとかそこらへんですか?」


「……まあ、一番のいい例がそれですね」


 チベット、ウイグルか。

 あそこは昔はリッパな国だったけど、中国が力ずくでうばったとかどうとか聞いたが……。


 ……まあ、真実はよくわからんが、なんかあそこならありそうなイメージはある。


「とにかく、俺達はここでしばらく待機ですか……」


「ですね。この様子だと、鳥渓をわたる橋もけっこうやられたっぽいですし、しばらく新しい進軍経路の選定に追われるでしょうね……」


 まあ、どこもかしこも壊されてるだろうな。

 隣にある台湾快速公路61号線の『西濱快速道路シイビンクワイスゥダオルゥ』も、鳥渓にかかっていた橋がもろくも崩れている。

 前までの面影はない。完全に、なんかさせるための手段を根こそぎとって言っている形だった。


「……こりゃ、しばらく足止めですね」


「ですね……」


 橋が完全にやられてるんだ。どこからかほかに進軍できる経路を探すしか……、


「……突然ですけど」


「?」


 ふと、羽田さんがいきなり質問をぶつけた。


「……あなた、例の765偶像アイドル旅団の人ですよね?」


「ええ……。てか、その異名日本そっちでも知れ渡ってるんですか……?」


 絶対に台湾のネットユーザーが流したな? 恐るべきグローバル社会。


「……あなた、あのゲーム持ってます?」


「え?」


 ……つまり、このネーミングの元ネタになったアレか?

 まあ……、もってますがね。


「……もってるには持ってますよ。それがなにか?」


「自分も持ってるんですけど……、誰押しですか?」


「え?」


 ……え、こんなときにお気に入りキャラ?

 そんなの、今話してる状況じゃ、


「歌姫安定ですね。自分は」


 まあ今待機中だしいっか。


「ああ、あの胸板」


「言わないであげて」


「冗談ですよ。……自分はあの貧乏なあの娘ですね」


「ロリコンですか?」


「いえ違います。でも一部否定はしません」


「どっちなんですか」


 まあ、でもあの娘がかわいいことには違いはない。

 後、あの娘といったらどうしても付き添い状態の立ち居地にいるツンデレお嬢様を思い出す。

 あのキャラの仲の人、結構他のアニメでもツンデレキャラ演じてるよな。あれ確かネットじゃあんまりにあの声が好きすぎる人に対して、ネット内で勝手に作った病気名があったはず。

 えっと……、なんだっけ? わすれちまった。


「……でも、あれも結構いいキャラそろってますよね。俺は未だに好きですわ」


「ほんと。お気に入りのゲームの一つです」


 あれ、確か前にアニメ化もしていたな。

 中々最後は泣ける話だったのを覚えている。やはり仲間というのはいいものだ。


「……と、俺達はいつまで待てばいいんですかね?」


「さぁ……。しばらくかかりそうですし、少しばかりの休憩といきますか」


「……ですね」


 とりあえず、全然司令部から指令がこないので、何も出来ない俺達はそのまま現場待機となる。









 改めて進軍再開指示が出るのは、もう少し先になりそうだった…………

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