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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第6章 ~『好朋友作戦』発動! 台湾の反撃を援護せよ!~
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〔E:Mission 16〕敵航空部隊迎撃⇒戦争とは何なのか?

―8月25日(火) TST:AM09:25

        台湾彰化県ジャーンホワシエン二林鎮アルリンジェン上空9,000ft 『閃龍隊シャンローン・ドゥイ』―







「……来たか」


 私はレーダー画面を見てそうつぶやいた。


 北方での本格的反攻が始まって早一日。

 敵軍はどうやら我が軍の地上部隊を撃破しまくり、今は台中市タイジョーンシー龍井区ローンジーンチュイから西屯区シイトゥンチュイ中継で大里区ダーリーチュイを結ぶラインまで進攻しており、そのまま南下しているとのことだった。

 先頭の部隊はすでにその先の烏渓ニヤオシイに差し掛かり、目の前の橋を通ろうというところだった。


 ……一体なにが彼らをそこまでの力を発揮させるのか。今までの彼らとは思えん。

 尤も、ほかの戦線や司令部からの情報がないままこうやって出撃を繰り返しているからなのだが……、とにかく、向こうで大きな動きがあったと見て間違いないだろう。

 正体はすぐにわかるはずだ。この目で確かめる。


「敵がそろそろくる。各機、R-77準備」


 R-77中距離空対空ミサイル。

 元はロシアが開発したものだ。米軍のアムラームミサイルによく似ているため、別名『アムラームスキー(アムラームもどき)』と呼ばれることもあるが、その面中々高性能だ。元のアムラームより射程が長く、最大120ものGに耐える驚異的な機動性を持っている。

 元々このSu-35には搭載されていなかったが、数年前の改修で搭載できるようになった。


 ……だがまあ、ここ台湾は南北にそう地上が離れていないから、この中距離も使いにくいんだがな……。

 飛び立ったらすぐに射程、というところに敵がいる場合が多い。


 まあ、それは相手も同じだろう。条件はイーブンだ。


「同時に、閃龍01シャンローン・ゼロワンより黄竜ファンロン、敵航空部隊の情報をくれ」


《黄竜了解。データリンク。目標データを送る》


 黄竜より、こちらに向かいつつある敵航空部隊の情報が送られる。

 今回の我々の任務は、地上部隊の敵部隊攻撃に際してその妨害を図る敵戦闘機の撃破だった。

 地上部隊がどんな攻撃をするかまではわからない。


 だが、味方の妨害をするなら問答無用で排除するまでだ。容赦はしない。


 そのうちに、黄竜からデータリンクで向かってくる敵航空部隊の情報を受け取る。


「……よし、データリンクじゅし……、ッ!?」


 だが、その内容に私は思わず驚愕する。

 レーダーには、このように表示されていた。






 “F-15J”……、と。


 それが、4機ほどいた。





「これは……、まさか、日本空軍のものか?」


 F-15といったら、日本などで未だに主力として活躍している戦闘機であり、その大出力のエンジンから繰り出される高速度や、その中で発揮されるその機動性は、時には世界最強とされ、事実F-22がでる前まではあの戦闘機にかなうものはなかった。

 おまけにその拡張性の高さから、多数の派生型が生まれるなどして、そのF-15の万能性の高さを証明するものとなっている。

 F-15“J”はその日本版だ。

 F-35を導入したはずだが、未だにこちらが主力なのはやはり調達数の少なさと、後はやはりその改造の容易さからだと思われる。

 今まで日本でも幾度か改造されているしな。これはその一つか。


『日本の戦闘機……、なぜ彼らがこんなところに?』


「わからん。だが、侮ってはならない相手だ。……日本の錬度を舐めるな。油断した瞬間死ぬと思え」


 日本でのパイロット一人の年間飛行時間は実に200時間を越えるといわれている。

 これは我が国どころか、あのアメリカの240時間に次ぐといわれている。


 我が国はといえば……、たったの150時間。

 これでもまだ上がったほうだ。昔はたったの120時間だったからな。


 だが、これでもまだ日本には及ばない。


 《とりあえず、先手必勝ですか?》


「だな。R-77に目標情報転送。相手は4機だ。2発でいい。目標配分……」


 急げ、……と、



 そう口を動かそうとしたときだった。



《……ッ! 黄竜より閃龍、敵航空部隊から小型目標発射。対空ミサイルと思われる!》


「なにッ!?」


 もう撃っただと? まだ100km以上の距離があるというのに……?

 中距離といいつつ長射程な対空ミサイルか?

 私の知ってる中距離ミサイルといったらAAM-4A/BかAAM-6だけだが、これらはせいぜい100km前後という話ではなかったのか?


 ……明らかにあれより射程が長いではないか。


「チッ、各機、ミサイル発射中止だ。すぐに回避機動に……、いや」


《? どうしたのです? すぐに回避を……》


「……いや、むしろこのまま飛行しろ。機首下げ5度。徐々に速度を上げていけ」


《ッ!? み、ミサイルに突っ込む気ですか!?》


「安心しろ。誰も落とさせるようなことはしない。……とにかく、私について来い」


《……了解》


 そのまま編隊を組みつつ、6機のSu-35は機首を若干下げて降下しつつ速度増速。

 敵のミサイルは計8発。私のほうには“なぜか”4発もきた。


 ……私が編隊の先頭にいたから隊長だと見たのか? まあ、間違ってはいないが。


 そのまま降下していくと、目の前に鳥渓という川が見える。

 例の最前線の部隊が来ているところだ。このままいけばそこに突っ込むが……。


「(……もう少し)」


 ……見えた。目線を少し上に上げると、そこには少し光り輝く光点がいくつか。


 敵の対空ミサイル。見事にこっちに向かってきている。

 ……いや、正確には未来予測地点だが。


 敵ミサイルはすぐに近づいた。私の大体45度上から迫ってきていた。

 すぐ目前に迫るまで、そう時間はかからなかった。

 そのミサイルの形状が、結構はっきりと見えた。


 ……だが、





 私は、これを待っていた。





「……よし、いまだ! エンジンカット! 機首上げ、コブラ機動!」


 私の合図とともにこの場で編隊を組んでいた6機のSu-35は一気に機首を直角に上げた。

 同時に、一時的にエンジンを一気にカット。アイドル状態に持っていった。

 これによって、まずコブラという機動が発動される。

 これは水平飛行時に、針路と高度を変えずに機体姿勢をピッチアップし、機首を90度上に向けた後また水平飛行に戻るもので、まあ今は水平飛行ではないが、このSu-35と我々の実力を持ってすればこんなこともできる。

 機首を一気に上げてコブラ機動に入ったことによって、慣性にしたがってそのままの針路で若干降下してはいたものの、速度は思いっきり落ちてその場に止まったような状態になる。

 同時に、今度はそのまま機体後方から落ちかける。それでも、慣性の力はまだ残っており少しばかり前進してはいた。

 それに合わせて、敵ミサイルはその機体後方に自分自身の目線を向ける。未来予測で機体後部から落ちていくと判断したためだろう。


 ……だが、それこそが私のねらい目である。


「全機A/Bアフターバーナー点火! 現姿勢維持し急速上昇! チャフ発射!」


 一気にエンジンにA/Bを点火させ、即行で今度はそのまま直角90度上に増速そつつ急速上昇。

 加減速レスポンスが格段に高くなったのは前に話したとおりだが、それを使わせてもらった。

 一気に増速しつつ、チャフを巻くことによって敵ミサイルを撹乱しつつミサイルを後ろにおいていく。

 敵ミサイルは未来予測で機体後方を狙っていたところをいきなり上昇され、それに合わせていったがそこにチャフを巻かれたため、目標との距離が格段に近かったこともあり、さすがの高性能と名高い日本製ミサイルもそれを目標と勘違いした。


 機体後方から爆発音と若干の振動。だが、機体になんら異常はなかった。

 私に向かっていた敵ミサイルは1発ではなかったが、最初の1発が爆発するとそれを目標の熱源と見たのか、今度は誘爆を次々と起こした。




 見事回避成功。レーダーから、敵のミサイルが消えた。




「全機、無事か?」


 確認を取ると、すぐに全員から返答が来た。


 そのまま、さらに指示を出す。


「敵にすき与えない。R-77を全弾発射。たった4機だ。即行で落とせ!」


 同時に、すでに目標分配を終えていたR-77を放つ。1機から2発。計12発のミサイルが敵に向かった。

 思いっきり互いの距離が短いが、すぐに準備できたのがこれだし問題はない。

 機体姿勢を水平に戻しつつ、そのミサイルの様子を見る。


 敵の4機はすぐに回避に入ったが、やはり全部を避けるのは無理だったようだ。


 4機すべてに1発ないし2発ぶち当たり、レーダー上から反応が消えた。



 レーダークリア。敵戦闘機の迎撃はとりあえず成功である。



「……よし、敵部隊の撃墜を確認。黄竜、敵機撃墜を確認した。指示を」


《黄竜了解。敵の航空部隊の進攻はない。とりあえずいったん引いてくれ。まもなく、地上部隊からも攻撃が始まる。もう防ぐことは出来ないだろう》


「そうか……。了解した。閃龍01、RTB」


 とりあえず、強敵といわれる日本空軍の戦闘機を撃墜することに成功した。

 今の戦闘機戦が、先手必勝のアウトレンジであることをよく理解しているな。

 危うく落とされるところだったが、こうやって何とか撃破できてとりあえずは一安心だった。

 地上部隊の攻撃も始まったし、後は後続の戦闘機隊に任せるとしよう。


 ……しかし、日本も無茶をするものだ。日本での戦闘が、我が軍の敗北で終結したとは聞いていたが、その後に間髪いれずに台湾を援護しに来るとは……。


 日本では仲間を尊重する教育を昔から受けていると聞く。その成果は、大震災などいくつかの危機的状況で遺憾なく発揮されている。

 ピンチになったときの団結力は、日本の右にでるのはほとんどいない。

 我が国など論外だ。むしろつぶしあう。


「(……昔の戦争も、一応こういうのはあったんだがなぁ……)」


 だが、現実というのはなんとも非情なものだ。

 今の戦争では、そのような思いやりが全然感じられない。

 尤も、そもそもの問題今現代の戦争ではそんなのしている雛がなくなったというのが一番の理由だし、それは仕方ないというのは理解しているのだが、同時に、今の戦争は“虐殺”とみてもおかしくないことまで問答無用で仕掛けることも多くなった……。

 言っては何だが、アメリカなんてそうだ。ふと興味を持って日本で行なわれた東京大空襲の内容を見させてもらった。

 最初こそ、半ば「あんな行為をしたんだ。されて仕方がない」とみていたが、実情を見た後そんなことをいう気はなくなった。

 あれはなんだ? 軍事施設ではなく、わざわざ民間人が住んでいるところを“わざと”狙った挙句、まず住民がいるエリアの周りを爆撃して炎の壁で逃げられなくした後その中を満遍なくじっくりと爆撃するなど……。


 ……悪いが反吐が出る。こんなことをするまで戦争は落ちぶれたのかと、私は心底がっくりした。


 これでも第二次大戦の話だ。今現代ではそれも、へたすればもっとえげつないことになっているに違いない。


「(……今の戦争では、ある意味日本のような心をもった行動が必要なのだ)」


 日本は、今の戦争で自分達がやるべきことをしっかり教えている。

 戦争を終わらせるためだろう。こうして身を挺してでも、仲間を救いにきている。

 今のF-15Jのパイロットも、自らの意思で台湾を助けようとしてきたのだろう。

 すべては、台湾を救うため。仲間を救うための、救いの手を差し伸べただけに過ぎなかったのだ。

 簡単なことなのだ。助けようと思えば、日本みたいにすぐに手を差し伸べることはできるのだ。


 ……だが、それがどうだ? 我が国をはじめ、ほかの国はそんなことを眼中におかず、いかに効率的に人間を殺すかに終始してそこから出ない。

 まあ、それが戦争というものだということはわかっている。わかっているのだが……、


「……どうして、こうなってしまったのだ」


 理解できなかった。いくら戦争とはいえ、ここまで徹底的につぶしあう必要があるのか? 民間人を巻き込んでまで。


 この考え自体が、戦争そのものに対する甘い認識だというなら、甘んじて受ける。だが、私は納得できなかったのだ。


 これが、本当の戦争だったのか。


 戦争とは一体なんなのか。


 戦争とは、ただの人間同士の醜い殺し合いなのか?


 考えれば考えるほど、私は答えから遠ざかっていくような気がしてならなかった。


「……まあ、今考えても仕方ないことだが……」


 ……今は任務中だ。余計なことは後で考えよう。


 とにかく、後の戦闘機隊に役目を引き継いで、私たちはそのまま基地に……。


《……ッ! 味方地上部隊攻撃開始。榴弾砲から多数の榴弾。エリアG11ゴルフ・イレブンH25ホテル・トゥーファイブに集中》


「榴弾か……、なるほど、これで対地制圧射撃を……、ッ!?」


 ……ちょっと待て。エリアG11ゴルフ・イレブンH25ホテル・トゥーファイブ


 ……待ってくれ。そこって確か……。


「(……鳥渓とその周辺……!?)」


 敵の最前線部隊がそこを通るし、それを事前に攻撃するつもりだろう。それはわかる。


 ……だが、ここには……、






「……まだ味方が撤退中のはずじゃ……!?」






 遅れているわけではないが、撤退中の部隊が大量にいたはずだ。

 中には機甲部隊もいるし、歩兵部隊もいる。補給部隊も大量にいる。

 今ここで射撃したら、その味方にも被害が出るぞ……!?


「ま、待ってくれ黄竜! そこは確か、味方地上部隊がまだ大量にいたはずではないか!?」


《? ……ああ、みたいだな》


「みたいだな、ではないだろう!? 味方がいるのに攻撃させるとは何事か! すぐに中止させろ!」


《だが、これが上からの命令でな……。その味方が足止めをしてくれてるからちょうどいいということらしい》


「なッ……!?」


 ……あの大量の味方部隊を捨て駒にする気か? 正気とは思えない。

 少数ならまだ理解できないことはない。小異を捨てて大同につくという言葉もあるしな。

 だが、今いるのは“大量の”味方部隊だぞ? これを捨てると後々響くことは誰の眼にも明らかではないか。


 ……なんだ。目の前の目的のためならその“大量の損害すら”気にも留めないということか?


《……た、隊長?》


「……」


 ……これが、今現代の戦争なのだろうか。

 私もまだまだ甘いのだろう。戦争というものを、しっかり認識し切れていない。


 ……だが、これでいいのだろうか。


 こんな、味方の損害を伴わない決断を余裕でしないといけないほど追い詰められてるわけではない。まだほかのやる方もあったはずだ。


 ……なぜだ。なぜあえてこんな決断をせねばならんのか?


 本当に、ただ単に私の考えてることが甘いだけなのか?



 わからなかった。私には、うまく理解することが出来なかった。



「……本当に、」











「……どうして、こうなってしまったのだ……?」













 私は、轟音が響くコックピット内で頭を抱えてしまった。



 これが、今の我が国のやり方なのかと…………

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