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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第6章 ~『好朋友作戦』発動! 台湾の反撃を援護せよ!~
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戦争の線引き

―CST:AM09:55 中華人民共和国首都北京 中南海共産党本部地下情報管理室―







「に、日本が台湾に……、だと……ッ!? なぜ奴らがこんなところに!?」


 私は思わずその報告を持ってきた幹部に向けて叫んでしまった。


 日本の沖縄が奪い返された今、更なる反撃を企てる敵軍に対する対抗策を練っている最中だった。




 台湾に、日本の陸海空3軍が集結し台湾を援護しているとの情報がはいったのだ。




 未だに衛星が復旧しないので相変わらず現地部隊からの報告のみを頼りにしているが、その報告自体も結構遅れたようだった。

 すでに日本軍は台湾に到着。海軍は艦隊を組んで台湾艦隊と合流し、台湾艦隊撃退に向かった爆撃機部隊とジャミング機、そして台湾方面分派艦隊の派遣部隊が壊滅的被害を受け敗走した。

 ほかにも、空軍戦力も大量に投入したらしく、日本空軍のF-15戦闘機とF-2戦闘機を確認したほか、陸軍も各種輸送機を大量に送り込み、揚陸艦にパンパンに積み込んだ揚陸部隊もすでに上陸を始めているとのことだった。


 ……というのを、“今さっき聞いた”。


 この事態が起きたのは実に2時間以上も前のことだ。

 いくらなんでも情報が来るのが遅すぎる。

 現場からの指令一つにどれだけ手間取っているのか……。敵の妨害があったか?

 それとも、通信をジャミングされたか。我々がやることを敵が真似しないとは限らない。


 この報告を聞いた周りの幹部も焦った。

 台湾の戦況に一向に動きが見えずその時点でも焦りがあったが、これのおかげでその焦りが増した。

 特に、参謀長の林に限って言えば、ほかの部下に命令してすぐに詳しい情報を伝えるよう言ったが、それが思うようにいかず苛立ちを表に出し始めているほどだった。


 その結果、その苛立ちを表に出しながら怒鳴った。


「クソッ! なんでもいい! 不確定なものでもいいから情報を早くよこせ!」


「林総参謀長、少し落ち着きたまえ。焦ってもなにも意味はない」


 思わずなだめるが、向こうはあまり聞いていなかった。


 とにかく情報がほしいのは確かだが、その来た情報といったら大雑把な上信頼性皆無なものばかりだった。


 それでも、とりあえず得た情報と簡単にまとめると、とにかく日本は艦隊を台湾と合流させ、空軍もとりあえず台湾に“大量に”戦力投入、オスプレイやチヌークといった輸送機も確認されていることから、陸軍も結構な戦力を送ったらしい。

 そして、その詳細な戦力は不明……。


 ……ダメだな。これだけではやっぱり当てにならん。


「とにかく……、日本が台湾に到着したことは事実です。これは、間違いようがありません」


「そんなことはわかっている。だが……、だからといってどうすればいいのだ?」


「日本を止めるはずの東海艦隊は壊滅して現在稼動不可能ですし……」


「ああ……。もはや東シナ海は、日本とアメリカの支配下にあり、そして黄海にも米軍の第7艦隊が侵攻しつつある」


 そして、その制海権も奪われつつある。

 そこが奪い取られたら、朝鮮半島の反撃援護を認めることにもつながり、第7艦隊の火力を最大限もってすれば、それこそ朝鮮半島にいる韓国軍を支援することも可能だ。

 それに、航空戦力も中々高性能かつ豊富。F-35Cに機種変更したばっかりだが、それを相手にどこまでやれるか。

 北海艦隊も、相手が第7艦隊となると長くは持たないはずだ。そんなバケモノを相手取れるようには組織されていない。


 ……だが、問題はこっちだけではなかった。


「……林総参謀長、東南アジア方面の戦況は?」


「……はっきり言って、芳しくないものと見ざるを得ません。フィリピンでも第3艦隊が到着し、全面的な支援を開始しました。イロコス地方パンガシナン州タグパンから上陸した部隊も大損害を被りつつあり、その隙にフィリピン軍による一大攻勢が行なわれ、徐々に戦線が後退しつつあります」


「今の戦線はどこだ?」


「最後の報告は1時間前のですが、同じくイロコス地方パンガシナン州最南端と中部ルソン地方タルラック州最北端の境を基点に戦線が展開されており、西のサンバレス州方面も、サンバレス山脈より西の海岸線の方面はうまく侵攻出来ず、むしろ返り討ちにあい、現在サンタ・クルス近辺で戦線が言ったり着たりの状況です」


 つまり……、日本が沖縄奪還に動いたあたりから全然戦線が動いてないどころか一部押し返されてるということか……。


 ……こっちは揚陸艦などの海上輸送能力の関係で一度に輸送できる兵力が限られており、対する相手側はその点の心配がないのがやはり一番の要因か。

 フィリピンのルソン島北東部からの侵攻という案も一応あったにしろ、そっちは目標地点である首都マニラまで結構な距離があるわそもそも中央山岳地帯コルディレラ・セントラルやシエラマドレ山脈といったでっかい山脈が連なり侵攻しづらいため即刻却下となった。

 また、ほかにも南シナ海のルソン島を西に回って一気にマニラ湾に突入するという案もあったにはあったが、そこは湾内だけに航行路も限られるわ、いざ攻撃されたときに湾内を封鎖されるとまさに袋のねずみのなるということでこれも却下。

 結果、半ば折衷案で、イロコス地方の北部海岸から上陸することになったのだが……、その結果がこれである。

 思いっきり地の利を生かして反撃されている。


「では、ベトナムとラオスのほうはどうだ?」


「あちらもあちらで戦線が硬直してます……。この戦線で一番厄介なのがインド海軍の支援です」


「なんだ。対地支援でもしているのか?」


「いえ……、そっちではなく、その支援に向かうはずの『施琅シーラン機動艦隊』の妨害を繰り返しており、そのおかげで空母『施琅シーラン』の航空戦力が大打撃を受けてしまい……」


「なんだと? 補充は?」


「その補充もままならない状況です。『施琅シーラン』への合流に向かおうとしてもことごとく撃ち落されています」


「クソッ……。インドめ、厄介なことを……」


 艦載機補充が出来なかったら航空戦力がほとんどない状態を保てというのか。

 一体何のための機動艦隊だ……。航空機がなかったら空母とてただの海に浮かぶ箱同然ではないか。


「……では、ベトナム・ラオス方面は?」


「はい……。後方にいたタイも援軍に駆けつけ、ベトナム・ラオス・タイの3ヶ国連合軍を形成。山脈をうまく盾にしつつゲリラ戦法を展開しています」


「ゲリラ戦法だと? 中越戦争の経験を生かしてあれの対策は出来ていたのではないか?」


「ゲリラ戦法の対策といえど、完全には出来ません。学んだのは、向こうも同じだということです」


「クッ……。では、戦線はどこも後退気味か……」


 唯一安定を保っているのは北方のウイグル、チベット方面だが……。あっちも兵站がうまく続かず弾薬不足が徐々に目立ち始めている。

 東南アジア方面にも燃料弾薬を送り込まねばならんし、そうなるとこっちの兵站も持たない……。


「……各戦線でも、限界が出始めています。それが、今の我が軍の現状です」


「……そうか……」


 ……もう、限界が出始めているのか。


 台湾一個落とすにもこれだけの時間がかかってるし、そうなるとほかの戦線で無理がかかるのも当然といえば当然か……?


 だが、このままでは……。


 と、そのとき、


「……もうこれ以上はもちません。……一応、降伏も考えておいたほうがいいでしょう」


 ふとそういったのは李国務院総理だった。


 降伏……、か。


 確かに、現状それを視野に入れなければいけないのもうなずける。


 ……だが、本音を言えばそんなことはしたくなかった。


 私と同意見なのか、林総参謀長が即座に反対した。


「き、貴様! いきなり何を言っている!? 降伏など言語道断だ!」


「ですが林総参謀長……。これ以上我々が完全に戦況を立て直す手立てはおありですか?」


「ッ……、そ、それは……」


 林総参謀長が言葉に詰まった。

 それを見て、李国務院総理も一気に問い詰める。


「……ないでしょう。自分でもわかってるはずです。これ以上の抵抗は、無駄な血を流す結果になりますよ?」


「う……うるさい! 貴様に軍事の何がわかる!?」


「あなたに言われたくありません。現実を見ずにプライドだけで戦況を変えれるんなら、そもそも武器なんていらないんですよ」


「黙れ! 国務院の分際で、我々参謀側に対して生意気な口を利くな!」


「そちらこそ自分達が上かのような口を叩かないでいただきたい! 私はただ、現状を見て冷静な判断を……」


「ええい、黙れ! これ以上無駄口を叩くならその口を実力で……!」


 そういって、思わず軍服の尻ポケットからハンドガンを取り出そうとしたときだった。


「二人ともやめたまえ!」


「ッ!」


「……し、主席閣下……」


 私は口げんかになった二人を制止させた。


「……ここで口論をしてどうする? いくらここで罵声を浴びせようが何もかわりはしない。そんなことに頭を使うくらいなら、ほかの事に頭を使え」


「……」


「……す、すいません……」


 二人ともうつむいてしまったが、その代わり一人の幹部が発言した。


「……しかし、確かにこのままではいずれ不利になるどころか、戦争自体の泥沼化は避けられません。どこかで、一発逆転の策を出すか、止め時を探すしかありません」


「……」


 私はそのまま考えた。


 ……確かに、彼のいうことはもっともだ。

 李国務院総理が言っていたこともあながち間違いではない。これ以上の戦線拡大は自分達の首を絞めることになるどころか、損害がまして戦争継続すら危ぶまれる。

 どこかで、自ら終止符を打たせなければ、戦争はこのまま継続し、いずれは我が国本土にも被害が及んでしまう。

 ……もしそうなったら、そうでなくてもこの戦況で不満がたまりまくっている国民の怒りは即座に大爆発してしまう。

 そうなれば、我が共産党はおしまいだろう。……もっとも、このまま降伏しても同じ末路だろうがな。


「だが、一体どこで線を引くんだ? 線引きのタイミングがわからんぞ?」


 林総参謀長がそう質問をした。

 線引きのタイミング。とても難しい問題だった。

 あんまり中途半端も気が進まない。……理由としては、プライド、と一言言えばいいのだろうか。

 だが、いつまでももつつもりはない。これ以上無理だと考えたら、即座に線を引くつもりだ。


 ……問題は、そのタイミング。


「(……線引きの、タイミングか……)」


 ちょうどいいタイミング。

 ……尤も、線引きにちょうどいいもクソもないが、それでも、引くならもう少し粘ってからにしたかった。

 まだ、希望は捨てたくなかった。




 少し考え……、私は決断した。





「……台湾だ」


「?」





「……台湾が奪還されたら、線を引こう」





「……台湾をですか?」


「うむ。……台湾みたいなちっぽけな島国すらまともに侵攻できないのでは、ほかをせめても意味はないしな。そこが奪い返されたら、線を引かせていもらう」


「台湾……。厄介なのは日本ですが……」


「我が軍の力を信じるしかあるまい……。物量はある。それにかける。……ああ、それと、」


「?」


「……林総参謀長、第2砲兵部隊に通達」






「“アレ”の準備をさせろ」






「ッ!? あ、アレをですか!?」


「そうだ。伝達しておけ」


 アレの正体を察したんだろう。

 即座に李国務院総理が反対した。


「し、しかしアレを使えば国際社会からの非難は……ッ!!」


「わかっている。誰も、すぐに使うと入っていない。最後の最後の、切り札として残しておくだけだ……。あと、」


「?」


「……台湾に対する、アレにも使いたいのでな」


「……ですが、台湾に決断できますか?」


「向こう次第……、としか言えんな。だが、おそらく、我々の思ったとおりの回答を出すはずだ。馬首相は、そういう重い決断は苦手な性格だ」


「はぁ……」


 彼に、これに反する決断ができるとは思えない。

 おそらく、私の思ったとおりの回答を送るに違いないだろう。


 そうすれば、我々の最低限の利益は獲得できる。


「……とにかく、向こうに通達だ」









「……アレの、準備をしておけ。悟られないよう、慎重にだ」










 私はそう命じると、少しばかりの間瞑目した…………

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