〔F:Mission 14〕『第2次台湾海峡海戦』1/2 台湾海軍の危機。そして……
※脳内で某艦隊ゲームの夏のイベントボス戦BGMを再生しながらごらんいただくとより臨場感が味わえたりそうでなかったり。
―AM7:10 台湾台中市大甲区沿岸北西30海里地点
台湾主力艦隊131艦隊旗艦『丹陽』司令部作戦室(FIC)―
「敵第3波探知! 12時の方向から対艦ミサイル、YJ-83K、数14!」
再び敵攻撃飛来の報告を聞いて、私は思わず舌打ちをして「またか……」とつぶやいてしまった。
今朝から半ば奇襲的に始まった敵航空部隊の対艦攻撃が熾烈化していた。
こっちは海軍残存艦艇をすべて集結させ、これの迎撃に当たった。
これはその概要。
【台湾海軍残存結集艦隊】
旗艦:丹陽級『1210“丹陽”』
ミ巡: 〃 『1211“媽祖”』
ミ逐:旗風級『1901“旗風”』
『1902“島風”』
基隆級『1801“基隆”』
『1803“左営”』
『1805“馬公”』
フリ:康定級『1202“康定”』
『1203“西寧”』
『1205“昆明”』
『1206“迪化”』
成功級『1101“成功”』
『1106“岳飛”』
『1107“子儀”』
『1110“田單”』
濟陽級『932“濟陽”』
『933“鳳陽”』
『936“海陽”』
『937“淮陽”』
以上の19隻。
全部を集めてもこれだけしかいない。
イージス艦2隻が健在なのが救いだが、向こうもそれをわかっているのだろう。さっきから本艦や僚艦の『媽祖』ばかりを狙ってくる。
それを周りの護衛の艦が何とかしてギリギリで食い止めているのが現状だ。
そして、今来ている第3波もしかりのようだ。
前の第1波、2波も、直接的な被害はないにしろ、ほとんどギリギリで迎撃させている。
ただ、それでも『海陽』があまりにも寸前で迎撃したので、一時電子機器に不具合が発生し、戦闘を停止している。
今、あの艦がその電子機器の復旧作業中だ。もうすぐ終わるとの報告を受けている。
放たれた15発のうち10発は本艦『丹陽』と僚艦『媽祖』に向かっている。残りの5発は周りの取り巻き。
行動はすぐに行なわれた。
CICの指示に伴い、本艦と『媽祖』からまず艦隊防空用のSM-2が飛んでいった。
互いに7発。しかし、上空にジャミング機が飛んでいる関係か、誘導性能はすこぶる低くなっている。
おそらく、こっちのレーダー探知周波数にピンポイントでジャミングをかけているんだろう。
あれをされて向こうの攻撃が見事なまでに正確なのは、向こうにもジャミング影響がないということだ。
それに、それのおかげでレーダー関係もうまく表示されない。いくら最新鋭イージス艦とはいえ、ジャミングされたらやっぱり痛いのだ。
どうにかして上の電子戦機を落としたいが、そんな余裕が我々にあるわけがなく……。そもそも、その電子戦機の場所はジャミング波の逆探知でどうにかこうにか特定できたにしても、その周りは護衛機が大量にいるわそれ以前に遠くにいるわで、もう手をつける気すらしないという……。
敵の対艦ミサイルがいくらか遅いのが救いだ。あのYJ-83K、最大でのM0,9しか出ないからな。
それが高速を出しにくい低空を這ったら速度はがた落ちだ。
それはそれで、こっちも迎撃しやすいというものだ。
「SM-2弾着。……ッ! 6発撃破。残り8発!」
「やはり残ったか……。対空戦闘! 何としてでもこの艦を守れ!」
雑な指示であったが、周りはすぐにそのとおりの動きを見せた。
直ちに個艦戦闘開始。ESSM、速射砲がぶっ放される。
本艦だけではない。
僚艦の『媽祖』、この2隻の護衛の『旗風』『島風』も、日本での近代化改修時に備え付けられたVLSからESSMを放ち、敵ミサイルの迎撃に向かう。
……だが、
「……このジャミングもうっとおしいな……。電子戦機は落とせないか?」
「無理ですね。今から撃ち落しにいく余裕なんて我々にはないですし、そもそもミサイル・シーカー波がジャミングで目潰しされたら元も子もないです」
「クソッ……。これでは悪循環のしっぱなしではないか」
ジャミングのせいですべてがうまくいっていない。
敵航空機を落とそうにも、これがいる限りは無理だ。
……ダメだ。このままじゃ何れやられる。
「ESSM射程限界! 残弾残り3! すべて本艦に向かっています!」
「CIWSも放て! CIC、頼んだぞ!」
『了解。……CIWS、AAWオート!』
弾着までもう10秒前後しかない。
近接火器のCIWSが作動。ほぼ真正面からだから、艦橋前の備え付けられている20mmCIWSが作動する。
「弾着5秒前!」
と、そのときだった。
「ッ! CIWS命中! 対艦ミサイル撃破!」
対艦ミサイルが全部落ちた。
何とかギリギリで受け止めれた。被害は……、ないようだな。
「敵第3波消失」
「敵機はまだ捉えられんか?」
「ジャミングがひどすぎます。敵機どころかミサイルすら満足に捉えられません!」
「クソッ……! 今ここからはジャミングは撃てないしな……」
撃ったって弾の無駄になるだけだ。
いくら初期に撤退したときに燃料弾薬はすばやく補給しておいたとはいえ、後々のことを考えるとそんなことをしてる暇はないだろう。
「……とにかく、ジャミングをどうにかしろ。ECCM、レーダー回復を……」
急げ、……と、
まさに、そういおうとしたときだった。
「……ッ! 敵第4波探知! YJ-83K、数26!」
「なにッ!? そんなにだと!?」
もう完全に殺しにきている。いや、元から殺しにはきているのだが、もう完全にここで決着をつける気だ。
一体どれだけの航空機を手配したんだ? レーダーではうまく捉えられんが、もうこれ以上の戦闘はごめん願いたいというのに!
しかも、結構探知が遅かった。これではSM-2の迎撃がギリギリになる。
「SM-2はいけるか!?」
「ギリギリです! ESSMを撃ったほうが早いかと!」
「よし、ならESSMを撃て! とにかく今はこの攻撃をしのげれば勝ちだ!」
そして、すぐに艦隊全艦からESSMが放たれた。
レーダー上に多数の味方ミサイルのアイコンが表示され、その向かってきている敵ミサイルのアイコンに一直線に向かった。
「(……よし、これならまだしのげれそう……)」
……と、
そう思ったときだった。
「……ッ! じ、ジャミング波出力増大! ESSMの誘導電波に狂いが!」
「なッ!?」
電子戦機が更なる手に出た。
ジャミングが強化され、ミサイル誘導電波に狂いが発生。敵ミサイルのミサイルの未来予測弾着地点からどんどんとミサイルがそれていった。
それも、全部が全部。
「クソッ! ジャミングを止めれないのか!?」
「無理言わないでください! こっからじゃどうしようもありません!」
「空軍はいないのか!? どこかで1機でもいいから戦闘機を!」
「どこにもいません! 空軍は壊滅的被害を受け、首都防衛のほうに力をいえれています! こっちにいは気やしませんよ!」
「クソッ! どうすりゃいいんだ!」
私は頭を抱えた。
ESSMがまもなく弾着……、いや、着水する。
このままじゃまったく迎撃できずに終わる。
こんなジャミング下じゃ、いくらなんでも迎撃に限界がある。
敵の電子戦機は、どうやら自分達の放ったミサイルの周りを中心にジャミングを展開させてるらしい。
そして、こっちのミサイルが飛んでいきそのジャミング域に入ったら今みたいに誘導が狂う……。
自分達の放ったミサイルの誘導電波の周波数にはジャミングかけてないので、そっちの誘導自体には全然問題ない……。
……詰んでるじゃないか。こっちの迎撃が出来なくてその代わり向こうの誘導はなんでもない?
どう迎撃しろと? 速射砲やCIWSだけでは限界があるというのに!
「……ッ! ESSM弾着! 全弾回避されました! 弾着まであと1分20秒!」
案の定、ESSMが大きく外れた。
味方のミサイルアイコンが消え、敵のミサイルは未だに全弾亜音速で突っ込んできていた。
全弾、健在。
24発が、我が艦隊に向かってきていた。
「……ど、どうすればいいんだ……」
私はディスプレイを凝視しつつそういった。
もう無理ではないか? ここからはESSM撃ってもだめ。速射砲を撃つにしてもこんなジャミング下では、速射砲から放つ誘導砲弾もあんまり役に立ちそうにない。
砲塔自体を予測射撃位置に回せればいいのだが、それによる誤差を補うのがこの誘導砲弾の役割だというのに、これがやられたら迎撃率も落ちてしまう。
……もはや、完全に迎撃するのは不可能だった。
「……もう、これ以上は無理なのか……?」
そういって半ば諦めかけた……。
まさに、そのときだった。
「……ッ! レーダーに新たな反応あり!」
「なにッ!? 新手か!?」
こんなときに二段構え攻撃か! クソッタレめ!
完全に止めを刺す気だな? こっちだって弾薬限られてるというのになんてことを……!
……だが、
「いえ……、それが、我が艦隊には向かっていません。本艦隊の後方から、複数の対空ミサイル探知」
「対空ミサイル……? それに、本艦隊の後方からだと?」
我々に対する攻撃ではない?
しかも対空ミサイル。それが、我々の後ろから?
……なんだ? どういうことだ? 我々に対する援軍か?
だが、ここにいるのは台湾海軍の残存総勢力。その援軍を出すような余力があるとは思えんが……。
それも、詳細はわからない。対空ミサイルというだけで、ほかは『詳細不明』の4文字だけだった。
一体誰が、どこから撃ったのか、全然わからなかった。
まさか、米軍が来たわけではないしな……。
もちろん、目視確認は無理だ。軽くとはいえ霧が立ち込めてるからな。
「不明の対空ミサイル、SM-2、ないしSM-6。後、一部は弾種不明の空対空ミサイルであると判明」
「SM-2にSM-6、そして空対空ミサイル……? なんだってそんなのが……?」
空対空ミサイルに関しては空軍か?
だが、こんなところにはいないとさっき報告を受け取ったし。そんな状況で空対空ミサイルが飛んでくるなんてまずないし……。
「(……なんだ? 一体、何が起こっている?)」
私は何もかもよくわからない中、そのディスプレイを凝視した……。
「……で、このミサイルは何?」
私は艦橋上の露天スペースから、右舷側に身を乗り出して手すりにつかまりつつそのミサイルが来るであろう方向を凝視しながら言った。
私たちの後方、その上空の霧が少し立ち込めてるあたりだった。
不明の対空ミサイル飛来。
私たちの迎撃がジャミングのせいでうまくいかなくてうんざりしつつ結構重く絶望していたところに、これが来た。
私たちの後方になんてなんにもなかったはずなのに、一体誰が撃ったの?
“姉さん、もうすぐミサイルがきます”
「ええ……。ジャミングの影響を受けているようには見えないわね。ミサイルが揺れてないわ」
“ええ……。一体どこから?”
「さあ……?」
ミサイルの誘導がジャミングの影響を受けているようには見えない。
ミサイルはまっすぐ飛翔していた。誘導に迷いがない。
このジャミング、私たちが使う誘導電波の周波数にピンポイントで合わせてるらしいし……。
つまり……、私たち台湾の者じゃない?
じゃあ誰のよ? 一体誰が撃ったのこれ?
“まもなく上空通過……、あ! 来ました!”
私の護衛を勤めてる『旗風』さんが叫んだ。
その瞬間に鋭く甲高い飛翔音とともに、私たちの後方から、軽く立ち込めている霧の中から音速を超えた速度で出てきた複数のミサイルは、私たちの視界にうっすらと写ったと思ったら、また前方の霧の中にはいっていってしまった。
一瞬の間だった。だが、それは確かに対空ミサイルだった。
形状からも、間違えようがない。
それも、1発だけじゃない。結構な数があった。
「ミサイル通過確認」
“こっちでも確認した。……今のはなんだ? 『島風』、お前わかるか?”
“アイドントノーとでも言っときます”
“相変わらずなんつー棒読み英語なんだよそれ……”
僚艦の『媽祖』とその護衛についている『島風』さんの会話だった。
向こうでもまあ案の定わかるわけはなし。
その場からミサイルの音が消え、その間に速射砲とかの近接火器の発砲音が響いた。
……すると、
“不明のミサイル、降下しています。……ッ! これ、敵の対艦ミサイルに!?”
護衛についていた『旗風』からの報告だった。
対空ミサイルと聞いてあらかた予想はしてたけど、ほんとにそっちに向かっていた……?
しかも、狙いが正確。ジャミングの影響はやっぱり受けていないと見たほうがいいわね。
でもなんで? こんな状況でこれだけ正確なのは一体どういうこと……?
「……ッ! 不明の対空ミサイル、敵対艦ミサイル第4波に弾着!」
そのミサイルは、しっかり誘導しきり敵の対艦ミサイルにぶち当たった。
……そして、
「……ッ!? う、うそ……、全部落とした?」
見事なまでに全部海中に落とした。
あんな状況下でここまでの誘導性能を?
ありえない。一体どうやったらそんな離れ業できるわけ?
……しかも、
「ッ! ジャミングが……」
レーダーや通信などを邪魔していたジャミングが、一気に晴れた。
不明の対空ミサイルの弾着と同タイミング。おそらく、電子戦機を撃ち落したんでしょう。
でも……ジャミング発信母機に何で当てられるの?
簡単には当たんないはずでしょ? どういうことなのよほんとに……。
僚艦で私の右舷側隣にいた『媽祖』も「はっは~……」と苦笑いしながら言った。
“わ~お……、誰だか知んないけど、これはまた見事なスナイピングだこと”
「感心してる場合じゃないわよ媽祖。そもそも、これが一体誰からのものなのかわからないし……」
“ま、なんにせよ助かったことに変わりはないし。……一体どこの親切さんだ? 援護射撃してくれたの?”
「親切さんって……。で、でも、誰だかわからないけどとにかく助かったわ。各艦、今のうちよ。敵航空部隊の詳細を確認して反撃に……、ん?」
そう指示していたときだった。
レーダーに新たな反応。水上艦。
多い。中には大型艦も含まれている。
……まさか、海軍? でもここにいるので台湾のって全部なはずじゃ……。
“おいおい、どこの大艦隊だこれ? ……と、とにかく詳細を調べる”
媽祖もすぐに行動に移ったとともに、私も調べ始める。
「(……一体どこの艦隊……?)」
……だけど、そのときだった。
『し、司令! 今反応が出た国籍不明の艦隊より入電です!』
『なに? ……よし、全艦に無線をつなぐ。すぐに読み上げろ』
『は、はい!』
乗員の皆さんの無線の声が響いた。おそらく、FICだと思う。
国籍不明の艦隊。今私が調べてるこれのこと?
無線が繋がる。つまり、私たち全員宛ね。
これは、みんなにも聞いてもらわないと。
「まって皆! 今向こうから入電が……」
“……ッ! こっちにも無線来た。丹陽のほうで無線を艦隊全員につないだみたいだな”
“こっちでも来ました”
“こっちも。……一体誰からだろう?”
周りの艦が向こうの正体が気になっていろいろと騒ぐ中、私が一言「静かに」と制止し、その場が静まり返った後、そのタイミングを見計らっていたかのようにその無線はまた声を発した。
……まあ、私たち自身は無線つけてないけどね。ただ聞こえるだけだけどね。
『……“宛:栄えある台湾民主国海軍艦隊の皆さんへ。発……、諸君の心の親友より”』
「……え? 親友?」
親友。
私は、この言葉にすぐ反応した。
……いる。私たちにとって、親友に値する存在がいる。
……でも、まさか? うそでしょ?
『……“遅れてすまない。本国の事情で少々手間取っていた。……だが、もう安心してくれ。我々が来たからには、諸君ら、いや、貴国に対し最大限の援助をさせてもらう所存である”』
この文面の内容。
……もう、ほとんど確定だった。もう、あそこしかいない。
半信半疑だったけど、残念ながらこれしら私の頭には思い浮かばない。
『……“貴国、台湾の窮地に、我が国あり。我が国政府は、本日を持って貴国台湾に対する全面支援を決定した!”』
「ッ!?」
全面……、支援?
私たちを……、助けてくれるってこと?
“おいおい……、全面支援って、これってまさか!?”
あの普段男勝りな性格の媽祖も、少し同様を隠せない様子だった。
あの娘だけじゃない。
周りにいた艦全員が、同じような反応だった。
それにはお構いなしに、その無線はまだ声を発する。
『“そして、それに合わせて我が国政府から我が国防軍に対して、台湾に対する全面支援体制の構築を命令。我々はそれを受諾し、本日ここに参った所存である”』
つまり、政府からの要請? 向こうの、政府からの?
……こんな、お隣とはいえ向こうから見たらいくらか遠征になるこんなところに?
『……“ともに戦おう。君達は一人ではない。我々が、常に友であることを、互いに、助け合う存在であることを、忘れないでいただきたい”』
「ッ……!」
……もう確定ね。
こんなことを言ってくれるのは、“あの国”しかいない。
……きてくれたんだ。彼らが。
ここにいるものは全員そのことを悟ったらしい。
私を含めて、全員信じられないような心境と表情を覚えた。
……そして、
『……“ここに、宣言する”』
無線は、私たち艦や、ここにいる台湾の人間全員にとって、これほどにもない、心に残る止めを刺す言葉を発した。
その無線をしゃべってる人も、半ば泣きかけているんでしょう。最後は半ば震え声で言った。
『……“我々”、』
『“日本国防軍……、台湾の海に……、参上せりッ!!”』
その瞬間、艦魂である私たちの歓声が爆発したのは言うまでもなかった…………




