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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第6章 ~『好朋友作戦』発動! 台湾の反撃を援護せよ!~
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昔の記憶

―PM21:30 佐世保海軍基地 DCGやまと右舷見張り台―






「……うへ~、つかれたぁ~」


 肩をグテーとさせつつ俺はつぶやいた。


 明日からまた台湾に向けて出撃なのだが、それの準備にほとんど休み無しでずっと働きっぱである。

 結局、食料・弾薬等の積み入れから艦の掃除等までいろいろやってたら、途中の軽食休憩以外ずっと動きっぱなし。ついさっきまでかかってやっと終わった。

 今VLSのセル内に入ったミサイルの点検をしているが、そっちはまた部署が違うゆえ、そっちの専門に任せて、俺は一足先に切り上げてもらった。

 そして、少し休憩がてらにここにきている。


 今日の天気はそこそこいいが、やっぱり雲が少なからずかかっているため、あんまり星空は見えない。

 雲の隙間からちょこっと見える程度だ。ちぇ、今なら東側の空に光り輝く夏の大三角形があるはずなのになぁ……。

 まあいい。次の機会に拝むとしよう。


「……お?」


 露天艦橋に出ると、手すりに外側を向いて腕を組みつつ寄りかかっているやつがいた。遠い目で空を見ている。


 ……まあ、人目でやまととわかったんですがね。ここにいる女の人なんてこいつぐらいだし。


 しかし、こんな夜分にこんなところにいるとは珍しい。こいつのことだからどうせ艦に戻ってぐったり寝てるかと思った。


「なんだ、お前もいたのか」


「? あ、大樹さん」


 そこにはいつもどおりの笑顔を見せたやまとがいた。


 ……やはり俺にとっての心の清涼剤である。

 いつもこの表情だな。あんまり悪い方面の表情を見たことがない。

 ……いつどきかハッキングされたときは結構苦しかったようだが。


 少なくとも表ではこればっかりだな。ストレスあるんかこいつ?


「もう準備は終わったんですか?」


「ああ。後は各種点検作業だけ。そっちはほかの部署の仕事だから任せるよ。そっちは?」


「もう心の準備は出来ました。……明日の朝ですよね?」


「ああ。朝っぱらからさっさと台湾に向かうぞ。あと、こんごうもこれ送れていけるっぽいらしい」


「そうでしたか。ほぅ、よかった……」


 心底ホッとしていたようだった。


 まあ、ぶっちゃけ言えばSSMやられただけであとは周りがこげたぐらいですんだからもうSSMとっかえで済む話なんだけどね。


「……で、さっきから何空見てんだ? 上は残念ながら曇りだぜ?」


「え? ……ああ、その……」


「?」


「……少し、昔を思い出しまして」


「え?」


 昔ってーと……、前世か?


 で、それと今のこの曇り空と何の関係が……。


「……あの日の出撃前夜、どんな天気だったか知ってます?」


「あの日? ……あ」


 ……すぐにすべての見当がついてしまったあたり、俺は相当軍事につかってしまっているんだな。

 あの日の出撃は4月6日の夕方ごろ。その前の日の夜は確か……、


「……なるほど。沖縄特攻の出撃前夜の天気か」


「ええ。……まさに、こんな感じで」


「それに、台湾への出撃前夜だからなぁ……。似たようなシチュエーションだ」


 ある意味、沖縄のときより重要な作戦になるしな。

 まさに、嵐の前の静けさ……、


 ……ではないな。あくまで明日出撃するってだけで、戦闘始めるわけではないしな。


「まあ、明日からはまた緊張感持っていかないとな。 台湾の期待にこたえないといけないしな!」


「き、期待……、ですか」


「そう、期待……、ん?」


 ふとやまとのほうを見たとき、その顔は少し暗く、うつむいていた。

 さっきまでの笑顔ではない。


 ……あれ? 俺変なことを言ったつもりは……、あれ?


「……どうした? 顔暗いぞ?」


「え? あ、す、すいません。何でもありませんから……」


「ふ~ん……」


 問題ありません。

 この言葉ほど、問題ありますって言う暗黙の意思表示になる言葉はないよな。

 問題ない割には顔クソ暗いしな。


「……悪いが、顔に出てるぞ」


「うッ……」


 その瞬間少し赤面したように見えた。

 ……が、暗いのでそんな細かいことまではよくわからんわ。


「……相談なら乗るぞ? 俺カウンセリングの免許持ってなければ経験すらないけど」


「カウンセリングってなんです?」


「えっと……、な、悩み相談役的な?」


「はぁ……」


 そういいつつ言葉がにごった。

 決めかねてるのか? まあ、こいつらしい。


「……心の中に抱え込むよりはきだしたほうがいいぞ。俺が役に立つかわからんが」


「い、いえ、そんなことは……。えっと……」


「答えれる範囲でいいって。一応、カウンセリング経験内と入っても、弟や妹からの相談程度なら何回かあるから」


「ああ、弟妹の……」


「ああ。それくらいでしかできないけど……」


 まあ、受けた相談っつっても学生時代弟がいじめられてたときの相談とか、妹がしょっちゅうほかの男子から告白アタックかけられたときの“愚痴”相手とか、その程度でしかないから自信はない。


 ……まあ、でもやらないよりはマシかと……、うん。


「……」


「……」


 少しの沈黙がこの場を支配した。

 あたりはほとんど音はない。

 あるとしたら、前甲板で行なわれているセル内点検のときの乗員の声と、あとは海の音か。

 街のほうからも聞こえなくはないが、あんまり気になる程ではない。


 少しして、やっと決心が付いたらしい。やまとが口を開いた。


「……怖いんです」


「? 怖い?」


 それで出した一口目がこれである。

 軍艦が怖いとは、まさかこの言葉を聞くことになるとは。というか、これ前に否定してなかったっけ? 俺の勘違い?


「怖いって、戦争とか戦闘がか?」


「いえ、そっちじゃないんです。怖いのはそっちでなくて……」


「?」


 少し間をおいて、ほとんどつぶやいてるとも取れるような小さい声で言った。


「……み、」







「……皆さんの期待にこたえれなかったらどうしようと……、怖くて仕方がなくて……」







「……期待?」


 えっと、この場で言う皆さんの範囲って、おそらく俺たちも入っているんだろうけど、それの期待にってどういうことですかね?


「……なんだ? 俺たちの期待って、どういうことだよ?」


「あの……、ほら、私、よく高性能だとか、最強だとかって言われてるじゃないですか」


「まあ……、そうだな」


 まあ、実際戦績見てもわかるとおり最強と見られてもおかしくないんだよなぁ。

 対空迎撃率は未だに100%だし。……まあ、前に直前で迎撃したのが甲板かすりましたが。

 それに、機動性や速力もほかの巡洋艦や駆逐艦、フリゲート艦より飛びぬけてるし、性能自体も世界を見ても郡を抜いていることには間違いない。


 自他……、かどうかは知らないけど、少なくとも“他”は世界最強だって言ってるし、事実それに見合うほどの高性能には変わりない……。


「それがどうかしたのか? ぶっちゃけ事実じゃね?」


「いえ、別にそれを一々否定する気はないんですが……、その……、それゆえに、プレッシャーで」


「プレッシャー?」


 あー、なるほど。スポーツとかの有名選手が度重なるマスコミの上げ上げ報道という名の期待押し上げにプレッシャーを感じてうまい具合に能力が出せないって言うアレか。


 なるほど。確かにそれは問題だわ。プレッシャー感じちゃ思い通りの実力出せないしな。


「……なんだ、つまり、あまりのプレッシャーに押しつぶされそうって言う有名スポーツ選手によくありがちなアレか?」


「あー……、すいません、その先です」


「え?」


 その先?

 プレッシャー感じた後のその先?


 ……いや、正確にはプレッシャーではなく、期待されること自体に関することだとすると、その先ってえっと……。


 ……うん。なるほど、わからん。


「……申し訳ない。もう少し簡潔に言ってくれると助かる」


「あ、はい……。その、まず、期待されるじゃないですか」


「うん」


「それで、もし私がその期待にこたえれなかったら……」


「だから、答えれなかったら自分の実力を出せずに……」


「そのとき、どうなりますか? 実力を出せなかった、つまり、私に……」


「攻撃が当たる……。あ」


「……」


 ……もしかしてお前……。

 その、攻撃がぶち当たったときに……。


「……私は軍艦です。自分の実力を出せなかった、イコール、自分自身にその攻撃が当たります。……そのとき、最悪私の乗員に、“死者が出てしまう”ことになったら……」


「ッ……!」


 ……なるほど。俺はとんだ思い違いをしていたわけだ。

 単に、周りからの期待にプレッシャーを感じてたわけじゃない。


 そのさらに先の結果、その時の現実を考えたとき、もちろんこの艦、やまと自身に攻撃がぶち当たる。

 現代の艦は脆い。いくらこのやまとが装甲化されて、ミサイルの被弾にすこぶる強くなったとはいえ、それは旧日本軍の戦艦に比べたらそれはそれはすこぶる薄い。

 つまり、“タフさ”が昔と比べて足りない。


 そのとき、俺たち乗員が、“最悪死んでしまう”ことが……。


 ……もしかして、


「……あの、沖縄特攻のときの“乗員”がトラウマなのか?」


「……」


 そしてだんまりである。

 だが、おそらく図星なのだろう。少し肩がビクッとなったのを俺は見逃さなかった。尤も、本人は極力隠したつもりみたいだがな。


「……あの時、私の目の前で、多くの将兵が死にました。ついさっきまで、つい数分前まで生き残っていた“命”が、一瞬にして“粉々”に砕け散ったんです。粉々、の部分は比喩でも何でもありません。言葉通りの意味です」


「……粉々、か」


 いろんなところで聞いたことがある。

 そのとき、甲板は将兵たちの血で赤く塗られ、その上をさらに大量の死体が覆いかぶさるようだったらしい。

 それも、ただの死体じゃない。“元人間”の死体だ。

 あくまで、“元”だ。


 ……どういうことかはあとは察してくれ。これ以上は俺の言葉から言うには悲惨すぎる。


 とにかく、ひどい惨劇だったようだとだけは言っておく。おそらく、いや、おそらくなくとも、俺の創造しているもの以上だろう。


「……私とて軍艦です。それ自体は、覚悟は出来ています。ですが……、あまりにも悲惨すぎて……。それ以来、私はあの光景がトラウマで……」


「……」


 ……責める気になれん。

 俺だって、そんなの見たらトラウマどころかその場で気絶だわ。


 ……俺が言ったら、安っぽく聞こえてしまうのはおそらく俺が現代人だからだろう。

 やまとはその時の現場の当事者だ。言葉の重みが全然違う。


「……それに、ただの将兵でないんです。全員、私を信じてくれた将兵ばっかりでした。私が、しっかり沖縄まで連れて行ってくれるって信じてくれた方ばっかりだったんです。でも……」


「……その期待に答えれなかったどころか、多くの将兵の命を失う結果となった」


「失う……、では生ぬるいんですよ」


「え?」


 一瞬、やまとの声が震えたように聞こえた。

 外のほうを見ていた俺は、思わずやまとのほうを見る。


 こいつは震えていた。両腕を組みつつ、両手で反対の上腕をつかんでいた。

 寒いときにとる体制、といえばわかるだろうか。

 だが、体の震え自体はまだわかる。


 顔は、とてつもないほどこわばっていた。


 しかめてる、といえばいいのか、とてつもなく怖がってる、といえばいいのか。

 俺の中の語彙が少ないからよく表現できない。


 だが、これだけはわかった。






 こいつ、とてつもなく“怯えている”。






 いつもの笑顔とか元気っぽさとか、そういうポジティブな明るい性格など微塵にも感じられなかった。

 もし今このタイミングで初対面して、「この方は極度の引っ込み思案で……」とか言われたら躊躇なく信じるわ。


 それほど、思いつめてたってことか?

 ……はぁ、俺も俺だ。もう少し早く気づいてあげれなかったのか?

 または、俺に悟られまいと? 真意はわからないけど……。


 俺の知らない間に、相当精神的に追い詰められてるわこいつ。


「私は……、彼等の命をうばってしまったんですよ」


「う、うばった?」


「私はあの将兵の皆さんの期待にこたえられず、途中で沈んでしまったんです。その結果、私は多くの将兵を“殺してしまったんですよ”。それの結果が……」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「え?」


 ……少し考えさせてくれ。やまとはかつて、自分に大いに期待を寄せていた将兵を乗せて、沖縄に向かったが途中で沈んだ。

 そのとき、同時にその将兵も多くが死んだ。

 ……んで、“自分が殺した”?


 ……妙に納得がいかない。


「……殺したのは当時のアメリカ人だろ? なにも、自分が自爆して将兵しなせたわけじゃない」


「そ、それはそうなんですけど……」


「けど?」


「……もっと私がしっかりしてれば、もっと被害が少なくてすんだんじゃないかって……」


「は……?」


 ……なんか、このパターンみたことあるぞ?

 あれだろ、刑事ドラマとかで自分をかばって犯人に殺されたのを目の前で目撃して、精神的にいかれちまって思わず「自分が……、殺したんだ……、自分のせいであいつが……」とかいってまためんどくさい展開になるっていうアレ。


 ……似たようなものだろうか。しかし、重みがこれまた違う。


 でも、こればっかりはこいつが自責の念を感じすぎてる。

 はっきり言おう。あの時、むしろお前があれだけ動いたから“アレだけですんだ”んだろう。

 敵の米軍の攻撃はまさに“地獄絵図”そのものだ。いくら相手があいてとはいえ、戦艦1隻に数隻の駆逐艦相手にオーバーキルもいいところのだ。

 だが、そのときやまと、いや、“戦艦大和”がアレだけ動いてくれたおかげで、“アレだけですんだんだ”。

 俺に言わせれば、全滅してもおかしくなかった。

 聞こえが悪くなるが、戦艦大和が攻撃を大量に吸収したんだ。

 そのおかげで、それなりの数の駆逐艦が生き残ったりしたんだ。


 将兵も、最大限がんばったんだ。


 戦艦大和を、自分達の愛する戦艦大和を、沖縄に連れて行こうとがんばったんだ。


 だが、こいつはその事実を否定している。

 視野が狭い。もっと広く見れば、殺したどころかむしろ生かすために必死だったことをわかっていたはずだ。


 ……いや、現実を突きつけられて、自らその視野を狭めたんだろう。思わず、“目の前にある現実”しかみなくなった。


 ……ほかの、“周りの現実”を見ることもせずに。


「……悪いがやまと、お前の言ってることには一部誤りがある」


「え?」


「……お前は、決して将兵を殺してなんかいない。元々、お前はその将兵を生かす存在だろ?」


「……ですから、私はその将兵を……」


「だから、お前は別に殺したわけじゃないんだよ。むしろ、将兵を生かすために必死だった。違うか? 自分で進んで殺したわけじゃないだろ?」


「……」


「将兵だって同じだ。お前を生かすために、必死の努力をした。その結果が……、あれなんだ。ぶっちゃけ、仕方なかったんだよ。結果や状況を見れば、ああなるのは仕方なかったんだ。お前が自分自身を責めても、始まらないことで……」


「じゃあ」


「ん?」


 少し威圧がかかっていたように見えた。

 俺はやまとのほうを向いた。

 まだ体は震えていたが……、なんか、手の握力が強くなってるように見えたのは気のせい……。


「……じゃあ大樹さんは、」


「え?」


「……あの将兵を、必然だったって言いたいんですか!?」


「え、ええ!?」


 気のせいじゃなかった。全然気のせいじゃなかった。

 俺のほうを向いて顔を近づけた。

 その瞳は、涙目になりつつも、威圧自体は感じられるほど強いものだった。


「ま、待ってくれ! 別にそういうつもりでいったわけじゃない!」


「でもどう考えてもそう聞こえ……!」


「だから、そうじゃないんだ! このこと自体は、お前がお前自身を責めても仕方ないって言いたいんだよ。……すまん、俺の言い方がまずかったか……」


 やっぱり、こういう相談事は苦手だ……。言いたいことをうまく話せない。


「……じゃあどういうことなんですか?」


「えっと、だから……、おまえ自身を責めても解決しないってことなんだよ。俺は、あの将兵たちを責めるつもりもないし、おまえ自身を責めるつもりもない。その結果がああなったこと自体は今さらいっても後の祭りだから仕方ないっていっただけで、お前とその将兵の死を仕方ないなんていうつもりは毛頭ない」


「……」


「……お前一人が悩んで解決できることじゃないんだよ。お前だけで悩まないでくれ」


 俺がいるだろ。……と、言おうとしたけど。


 なんとなく俺で大丈夫だろうか……。ほかにもこんごうさんとかいるしな……。


「……では、どうすればいいんですか?」


「え?」


「私は……、私はどうすればこれ解決できるんですか? ……期待に答えれない、その結果将兵が死ぬ事がトラウマは私はどうすれば……」


 涙声だった。

 そこまで、追い詰められていたということなのか?


 だが、その答え自体はもう決まってる。


 俺から言えることは、これだけだ。


「……あのさ、」


「?」







「……少しはお前の乗員おれたちのこと信じてくれよ」








「……え?」


「一にも二にも信頼関係、ってよく言うだろ? お前だけで戦ってるんじゃない。お前を動かす俺たち乗員がいて、初めてお前が成り立つし、お前という存在がいて、初めて俺たちも輝ける。……運命共同体、とはまた少し違うかもしれないけど、似たようなもんだ。戦ってるのは、お前だけじゃないんだよ」


「……私だけじゃない?」


「ああ、お前だけじゃない。俺たちだって、こういうときのために相当な訓練つんでるし、簡単には死なねえって。それともなんだ? 俺たちが最初から死ぬ前提で考えてるわけじゃないよな?」


 少しニヤッとした顔で振り向いたら、向こうは即行で首を振って否定した。


「そ、そんなことありません! み、皆さん優秀ですし、簡単に死ぬとかは……」


「それでいい」


「え?」


 その答えを待ってた。


「そうやって、俺たちを信じてくれればいい。簡単に死んじゃうなんて思うな。逆に考えろ。“必ず生き残ってくれてるって”」


「……必ず、ですか?」


「ああ、必ずだ。必死に願え。必ずってな」


 霊に対して神頼みをアドバイスするとか中々面白い話ではあるが、俺の願いはそれだ。

 死んだらどうしようって悩むよりなら、むしろ“生き残ってくれ”って願っていてほしい。

 そしたら、俺たちだってがんばれる。こいつの期待に答えれるようにな。


「高性能とかそういうのは今は関係ないんだよ。旧式のいなづまさんや、ほとんど同世代で日本の中では一番古いイージス艦のこんごうさんだって、今現代じゃちょい旧式艦扱いだけど、乗っている乗員や当の艦本人たちは、旧式ゆえにすぐに死んだらどうしようとかいつも呻いてるか?」


「……いえ、全然」


「だろ? 向こうもちゃんと思ってるんだよ。ちゃんと生き残ろうって。必ず、将兵が導くところへ導いてくれるって。だから、それに答えつつ、しっかr守ってやろうって。これっぽっちも、やられた場合のことを見ていない」


「……」


「……過去うしろじゃなくて今と未来まえを見ていけ。お前は、俺たちを信じてくれ。そうすれば、自ずと解決のための答えは見つかる」


「……信じる、ですか?」


「ああ。……そうですよね、」


「?」







「こんごうさん? ……そこにいるのばれてますよ」









「え!?」


 俺は後ろを振り向いた。

 それに続くかのように、やまとも後ろを向いた。

 正確にはその上。艦橋建屋の上のほうだった。


 そこには、足を出して艦橋上に座りつつ「げっ」といわんばかりの顔をしているこんごうさんがいた。


「あ、あれ!? こんごうさん!?」


「……いつからばれてた?」


「むしろいつからいましたか? 大体俺がこんごうさんだって云々、てところでなんとなくガタッって物音したので気づきましたけど」


「うッ……、あれ聞こえてたの……」


「て、ていうかなんでこんなところに……。ドックで修理中のはずでは?」


「なんでって……、ドックすぐそこだよ?」


 そういってこんごうさんは自分の真正面を指した。

 その先には四角い白い建屋。そこは露天されてるドックで、そこでは艦の修理とか艤装とかするんだけど……。


「……あ、あそこだったんですか?」


「うん。まあね」


「はは……、全然気づきませんでした」


 まあ、こんごうさんは俺たちより一足先に撤退したしな。旗艦から「やっぱ無理すんなカエレ」といわれたがために。

 で、入ったのがあのドックだったのか、まあ、佐世保のやつのほうが一番近いしそれなりの規模のドックがあるからな。


「で、いつからいたので?」


「……怖いって言ったあたりから」


「ほとんど最初からじゃないすか」


 おいおい、そんな前からいたのに気づかなかったのかよ俺。

 まあ、相手は霊だしそういう雰囲気的なのは感じにくいのだろうか。やまと相手にしてても似たようなことよくあるし。


 すると、よっと、といいながらこの露天艦橋に降りてきた。

 少したけが低いスカートをサッサッと払うと、少し軽くため息をつきつつ「やれやれ」といわんばかりの顔でいった。


「ま、私も最初は似たようなものかな。私も、やまとほどじゃないけど相当数死んじゃったし」


「はぁ……」


「……でも、」


「?」


「……起こってしまったことを今さら後悔したって遅いし、後の祭りだしね。それなら、今度こそ、というつもりでやってるよ。やまとは違う?」


「……いえ、間違ってはないですけど……」


「ならその意思を持ち続けなさい。大丈夫、新澤さんもいるし、やまとの乗員優秀だしね。簡単にやられるほどやわじゃないでしょ」


「……」


「……自分の艦の乗員を信じなさい。信じれば、自ずと結果は付いてくるから」


「……結果、ですか」


「そう、結果」


 そんな、艦魂同士の会話だった。


 ……やはり、存在が同じ艦魂同士だと、話がすごい早く進むな。さっきの俺とは大違いである。


「……そうですよね。過去のことにいつまでもこだわってても意味ないですよね」


「そうそう。過去に関してクヨクヨしてたら前が見えない、ってね」


「はい。そうですよね。私、前向きます! がんばって、今度こそ期待に答えます!」


「よ~っし! それでこそいつものやまとだよ!」


 ようやく思いつめたた悩みが解決したようだ。こんごうさんナイス援護射撃。

 顔もいつもの明るい表情に戻った。うん、やぱりこれである。


「二人ともすいません。相談に付き合わせてしまって」


「なに、気にすんなって」


「そうそう、困ったときは日本人らしく助け合いの精神をね」


「あんた、元々イギリス生まれだけどね」


「細かいことはきにしな~いッ!」


「はは……、はいはい」


「ふふ……、やっぱり仲いいですね。二人とも」


「「え?」」


 まさかのこんごうさんとの仲がいいとのお言葉である。


 そう見える? 俺は全然自覚が……、


「……あ、ヤバイ」


「?」


「これってもしかして……」


「え?」







「私が割り込んでの意図的な三角関係が!?」


「「な ん で そ う な る か な あ ん た は」」








 やっぱり恋バナである。

 もうこんごうさんが俺とやまとの会話に割り込むといつもこれである。


 やっぱりイギリス生まれなだけある? そこらへんの話題提供に躊躇がないパターン?


「三角関係云々以前にそもそも付き合ってすらないんですが」


「え? でも乗員からやまとのこと新澤さんの彼女って言われてるんでしょ?」


「え、ちょ、な、何で知ってるんですか!?」


「いや、やまとのところに来たとき乗員が話してたから……」


「俺のいないところでもしゃべってやがったのかよ……」


 大体いってる奴らは予測できる。

 厳密には誰がいってたかは知らんが、おそらく全員いってるな、これは。

 明日あたりにでも全員絞めることにしよう。うん、そうしよう。


「……あ、そういえば大樹さん」


「うん?」


「その……、さっきはすみません。変に怒鳴ったりして、少し感情的になりすぎて……」


「あー……」


 そういえばあったな。思いっきり忘れてた。ついさっきのことなのに。


「ま、まあ、気にするな。俺の言い方にも問題があったし……」


「はぁ……」


 顔が少しシュンとなっていた。

 申し訳なさそうな顔である。だが、あれはこっちにも問題あったからそれほど気にする必要は……。それ考えてみればむしろ聞き様によってはああなるのもわからんことでもないし……


「えー、でも個人的にはもう少し伸びてても私は問題なかったかな?」


「え?」


 と、そういったのはこんごうさんである。

 ほう、これはどういうことで? まさか、口論と押して自らの主張をぶつけ合うまさにアメリカン式議論の意義を唱える的なつもりで?


「問題なかったって、なんでです?」


「いや、だって……」








「なんとなく、夫婦喧嘩みたいじゃん?」


「「あ ん た は そ れ し か 考 え れ な い の か ?」」








 もう彼女どうこう通り越して夫婦である。

 この方の中での俺たちの関係はどう写っているのか。相当やばい方向に写っているに違いない。

 もう修正のしようがないのだろう。


 ……もうやだこの艦魂。


「あのですねこんごうさん。何でもかんでもそっち方面にもっていくのは少し感心しなくてですね?」


「え? でもあながち間違ってないでしょ?」


「全否定はしませんけどいくらなんでも行き過ぎって言うね?」


「あ、全否定しないってことはある程度は肯定するの? どの程度?」


「え? え、えっと……、それは……」


 あ、アカン、やまとがやられた。


 マズイ。これではこっちもやられる。こっちもどうにか弁明の言葉を……」


「……あ~」


「?」






「やまとやっぱりかわいい~~!!」


「え、ちょ、急に抱きつかないでくださいよ!」


「百 合 乙」







 こんごうさん百合疑惑が再び浮上である。

 まあ、冗談半分でやってるだけだろうが。でも、幸せそうな顔なので少し放置してみる。


「さっきまでの悩みとか解放されたらこんだけかわいくなるのか~~! いいわぁ~~!!」


「いやこんごうさん百合キャラじゃないでしょ! というか大樹さんも助け……」


「し~ん」


 面白いので傍観に徹する俺乗員。


「大樹さぁーーん!? 無視ですあぁーーー!?」


「ぎゅ~~」


「うわ、ちょ、く、くっつきすぎですってこんごうさぁーーーん!!」


 なんとなく前俺がやまとに腹回りに受けたようなあれと似ている。

 面白い。あのときの俺の苦痛を味わうがいいや(ニヤリッ






 なお、数分後。


「ふぅ~、すっきりした!」


 こんごうさんご満悦。


「……こ、こっちはすっごい苦しいんですがねぇ……」


 胸周りを閉められて相当な呼吸困難です。


 あれ、これ俺よりやばかったパターンでしょうか。まあ、生きてるからいいか。


「……あ、じゃあ私これで帰るね。また何かあったら相談してよ? あ、新澤さんでもいいけど」


「はいはい……」


「じゃ、新澤さんやまとのことお願いしますね~」


「なんか保護者みたいないわれようですけど……、ま、任されますわ」


 乗員という立場上、全否定はしない。


 すると、こんごうさんはまた青い光をだして消えていった。

 もとの艦に戻っていったんだろう。艦を空間転移できるとか、もう便利な能力ですねハイ。


「……じゃ、俺もそろそろいくわ。就寝時間迫ってるしな」


「はい。お疲れ様です。……すいません、今日は相談に乗ってもらって」


「いや、気にするな。……というか、あんな答えでよかったか?」


「はい。大分楽になりました」


「そうか……。まあ、ならそれでいい」


 ああいうのでいいのか。自信なかったが、まあ本人がいいならいいか。


「何かあったらすぐに相談してくれよ。俺がいるかr……、俺でいいか?」


「むしろ即行で話せるの大樹さんでは?」


「……まあな」


 四六時中一緒にいる確率高いのはだれでもない俺を含む乗員だしな。


「じゃ、そろそろいくわ。お前も明日に備えてぐっすり寝な」


「大樹さんこそ、寝すぎて寝坊しないでくださいね」


「んなことしたら副長に締め上げられるわ。……じゃ、お休み」


「は~い、お休みなさ~い」


 そういうと、やまともまた青い光を出して消えていった。

 艦に戻ったのだろう。艦のほうでぐっすり寝てくれたまえ。

 俺も艦橋内に戻って自室に戻ることにした。

 もちろん、露天艦橋に繋がる隔壁はしっかり閉じておく。


 ……それにしても、


「……中々難しい問題ではあるな。艦自身の悩みか」


 俺みたいな人間からのアドバイスで簡単にどうこうできるものでもないだろうしな……。今回だって、最後はこんごうさんがうまくまとめて締めてくれたし。


 ……艦魂が見える唯一の人間だし、いざというときには俺だって今みたいに相談持ちかけられるだろうしな……。


「……俺も、」









「もっと向こうのことをわかってやらないとな……」












 そんなことをつぶやきつつ、俺は艦橋を降りて自室に向かった…………

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