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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第5章 ~反撃開始! 沖縄・南西諸島を奪還せよ!~
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新たな動き

―PM17:10 日本国首都東京 首相官邸地下危機管理センター―









「そうか! 沖縄が奪還されたか!」


 私は思わず叫んでしまった。


 昨日あたり、司令部が陥落しても降伏しないので泥沼化が懸念されるとか言っていたが、思ったより早くその問題は解決された。


 向こうにも、話がわかるというか、とにかく冷静な判断を下せる指揮官がいたようだ。



 沖縄の敵部隊が、我が方に全面的に降伏した。


 沖縄での戦闘は、これをもって完全に終結したのだ。



 新海国防大臣も興奮気味に答えた。


「はい! 敵沖縄方面の臨時司令部から我が軍に降伏宣言を受け、事実各部隊で前線部隊が投稿してきている旨の内容の報告が来ています。間違いありません。沖縄戦は、無事終結しました!」


「よし! やったぞ!」


 その瞬間、その場が歓喜の声に包まれた。

 中には隣のやつと抱き合うものまでいた。


 ようやく終わった。

 開戦から7日。

 短いようで、とてつもなく長いように感じたこの沖縄戦は、これをもって終結した。

 これから、沖縄の各地域の開放に向かうことだろう。


 ……やっと終わった。


 沖縄が、無事開放された。


 とりあえず、国民にうれしい報告をすることが出来そうだ。


「何とか終わったか……、7日間だけとはいえ、結構長く感じるな」


 それに答えたのは仲山副首相だった。

 右手のハンカチで額の汗を拭きつつも、その表情は晴れやかであった。


「まったくもって同感であります。7日間がこれほど長いものだと今知りました」


「ああ……。だが、その長い戦いも終わりだ。沖縄は解放されたのだ」


「ええ……。まさに、感無量であります」


「うむ。……まあ、」


「?」


「……できることなら、もう少し動いてほしかったのだがな」


「……それって、もしかしてアレですか?」


「ああ、アレだ」


 一応、ほかに皆にも話しておいたことだ。


 “親友の救援”。


 私が、できれば彼らに対してしてあげたい、いわば“今までの恩返し”だ。


 だが……、


「ですが、今すぐにできますかな? 判断は新海国防大臣にゆだねられてはいますが、正直現実的では……」


「ああ……。どうなるだろうな」


 今すぐにと言うわけには行くまい。

 弾薬補給。乗員達の休息。艦の整備。

 やることはいっぱいだ。


 とても、今すぐに行動を起こせるような状況ではない。


 やるとしても、もう少し後だ。


 だが……、


「しかし、時間がない。……できれば、最大限急ぎたいものだが」


「時間が限られてますし……。かといって、こっちもこっちで早急にやるとしても限界があります」


「クソッ……、やはり、時間が惜しい」


 現代の戦争が時間に大いに左右されていることをこれほど強く思い知らされたことはない。

 向こうが後どれくらいもつか……、長くはないはずだ。


 今助けに行けるのは我々だけだ。米軍はほかの地域に付きっ切りだしな。


「とりあえず、離島が無事奪還されるまでは……」


「ああ、そのことなのですが」


 すると、新海国防大臣が口を挟んだ。


「? なんだね?」


「その離島なんですが、先島諸島攻撃部隊からの報告で、今回の本島の降伏にあわせて各島でも降伏体制に入っていると……」


「なに? 本当か?」


「はい、そうみたいです」


「意外だな……」


 まあ、いろんな意味で絶海の孤島状態で海と空からバカスカ対地攻撃さらされたらそりゃしたくもなるか。

 ……悪いが、容赦はしなかった。尤も、あいつらの攻撃のせいで容赦する前にする要員である住宅とかがすべてぶち壊されてるのだよ。一体だれのせいだと思っているだれのせいだと。


「とにかく、後々一部揚陸艦を回したりしてそっちに部隊を送り込みます」


「そうか……。わかった。手はずどおりに頼む」


「了解。……で、総理」


「?」


「その……、すぐに終わりますんで時間のほうをお借りできますか?」


「うん? まあ、かまわんが」


「すいません。では、少しこちらに」





 彼についていくと、とりあえず部屋から出てすぐそこでとまった。

 単にあの部屋で話すのがまずかっただけらしい。

 警備の者はいたが、まあ、すぐに終わるだろうし問題ないな。


「で、一体なんだね?」


「はい。……昨日の件に関してなのですが」


「ああ……。別に無理はせんでもいいんだが……、答えが出たのか?」


「はい……。向こうは未だに戦線が膠着しており、そこから動く気配がありません。まさに、下手すれば泥沼化は免れないでしょう」


「やはりか……。向こうはまだ打開策はないのか?」


「正確な情報ではないですが、山岳でのゲリラ戦はうまくいってるようです。向こうは我が国みたいに山が多いですから、山岳系部隊は結構な錬度を誇ります」


「中国は平面ばっかり出し、山岳に慣れていない……。確か、あの戦線の先は……」


「ええ、あの先はほとんどが山岳地帯で囲まれており、海岸線に少し通れるところがあるくらいです」


「しかし、そこは狭いゆえに通りにくく、そして迎撃されやすい……」


「そのとおりです。東海艦隊がやられて、北からの侵攻が困難になったので、より南からの侵攻が重要視されていますが、未だに互いに解決策が見出せない状況です」


「そうか……」


「ですが、そこを越えられると、首都はすぐ目の前です。向こうとしては、とにかくここで敵が足踏みしているうちに敵に最大限の損害を強いらせるつもでしょう」


「ふむ……」


 つまり、目標を目の前にして互いに手詰まりか。

 互いに相手を攻撃しまくっても、その相手さんも死に物狂い。


 もう、どうやってこれを終わらせたらいいのかがわからない状況か。


「それで……、今の戦況もかんがみて、自分で答えを出させていただきました」


「……で、その答えとは?」


「これです」


 すると、彼は右手に持っていた薄いハンドバックから一通の角型の茶封筒を取り出した。

 表紙には何も書かれていない。しかし、中に何かがはいっているのはわかった。

 私は中身を取り出す。

 中には一束の紙の束があった。


「……ッ!」


 その表紙を見たとき、私は思わず驚いた。

 しばらくその表紙の文字を凝視した。


 簡潔に題名が書かれていた。


 だが、驚いたのはその内容だった。


「き、君、これは……」


 私は彼にどういうわけかを聞いたが、そう言い切る前に彼が私の言葉をさえぎるように言った。


「今回、結果的に我が方に関する損害はほとんどありませんでした。ゆえに、整備、補給を済ませればすぐにいけます」


「ッ……!」


「その紙には、投入予測戦力に簡単な戦略等が練られています。後は、総理が目を通していただいて、修正点をご指摘いただければ完了です」


 その顔は少しドヤ顔であった。

 それを見て、そしてまたその紙に目線を落とす。


 中身をペラペラとめくると、そこには彼の言ったとおりの内容があったが……。


 その中の、参加艦艇の脇にある補足に目が言った。


 たとえば……。


 参加艦艇:DCGやまと(乗員意思あり)


 こんな感じだ。

 結構大量に送るようだが、それには全部これと同じ内容の補足があった。



 すべて、“乗員意思あり”



「……この捕捉は何だね?」


「ああ、先ほど、参加させる予定の艦艇群に対して祝電とともにアンケートをとりまして」


「アンケート?」


「ええ。“この計画に対する乗員の意思の有無”です」


「ッ!」


 つまり……参加するかしないか問うたということか?


 そう考えると、この補足は……。


「……では、この意思ありというのは?」


「はい。……どうやら、向こうも助けたい気持ちは同じのようです」


「ッ……!」


「中には」


「?」


「……最新鋭のやまとのほうからは追加で“さっさと行かせろ”、……と」


「……」


 そこまで士気が高いのか……。

 無電で一々そういうほど、早く行きたいと……。


「……私も、早く助けてあげたいですしね。統合参謀本部に持ち込んだら、1時間で皆集まりまして。そこから夜通しで会議ですよ」


「よ、夜通しだと……?」


 どうりで今日の朝からクマがひどいと思った。


 なるほど、寝ないで勝手に会議していたのか。そりゃそうなるわ……。


「あと、うちの熱い者が会議しているうちに熱中して時たま怒号響くくらいになりまして、いや~、止めるのに一苦労しましたわ」


 そういって、ハハハ、と右手を頭の後ろに回して軽く笑った。


 ……違う意味でこっちも笑いたいよ。ハハハって。


「しかし、とりあえず簡単にではありますがまとまりましたのでそれに報告しておきます。参加戦力の補給、整備が整うまではほんの少し時間がありますので、それを使って細かな作戦を練りましょう」


「……で、では……」


「ええ……、やりましょう、」










「我々、日本国の、恩返しの時間です」










「ッ……!」


 年のせいか、その言葉をきいた瞬間私は涙腺が緩んだ。

 すぐに顔を下に向けて伏せるが、我慢できないのですぐに右手のハンカチを取り出して軽く流れ出したその涙を拭いた。


 元はといえば、私の我ながら身勝手なわがままのひところからだった。

 それも、つい昨日のことだ。


 だが、そのひところで、多くの人が動いた。


 その結果がこれだ。


 もう一度、参加艦艇の右に書いている補足を見た。


 何度見ても同じだった。






 全部の艦に、“乗員意思あり”の6文字があった。





 これが、何を意味するのか。

 それを想像するのは難しくなかった。


 皆、思いは一緒だった。


 とにかく、助けたかったのだ。




 我々の、大切な親友を。




「……総理」


「?」


 私はハンカチをポケットに入れなおしつつ、彼の顔を見た。


 彼の顔は晴れやかだった。プロの顔だった。


 若者独特の、やる気に満ちた顔だった。


「ここに、多くの兵士達のやる気が伺えます。すぐに行動に移しましょう。我々、日本国としての軍事行動の第2フェーズです」


「……そうだな。我々の戦いは、まだ終わってはいない。沖縄での“戦闘”は終わっても、まだ“戦争”は続いている」


 そして、それを一刻も早く終わらせるのが、我々の次なる使命だ。


 前線の者たちの意思もある。中には士気がとんでもないものもいた。

 そう。あの追加の入電をしてきたものだ。


 あそこ、若手が比較的多く配属されているが、おそらくその影響だろう。


 若者は感情表現がストレートだな。だが、嫌いではない。


「……わかった。各部隊への指令は君に一任する。準備は早急に済ませてくれ」


「はい。……では総理、その中身の」


「うむ。今日中にすべてに目を通し、明日の朝までに君にまとめて報告する。それを元に修正した作戦計画を、またこの場での全体会議で審議しよう」


「了解しました。……では、そろそろ戻りましょう。僕も、次の指示を出さねばなりませんし」


「ああ、頼む」


 そういうと、彼は軽く一礼して危機管理センター内に入っていった。


 廊下に取り残された私は、再びその茶封筒から半分ほど出ている髪の束を見る。

 そして、その一枚目に書いている題名を見て思った。


「(……人間一人の一言で、ここまで未来をかえれるものなのか)」


 誠に、人間の言葉とは時にすごい力を発揮するな。


 言霊というべきか。まさに、その言霊の力が発動されたのだろうか。


 まあ、なんでもいい。


 とにかく、これで向こうを助けに行ける。




 “親友”に、恩返しができる。




「……待っていてくれ。すぐに助けに向かうからな」


 そうつぶやきつつ、私はその封筒に紙の束をしまいこんでまた危機管理センター中にはいっていった。



 その紙の一枚目の表面にはこうかかれていた。











『台湾救援・反撃援護作戦戦略概要』












 私は、ついに台湾という大切な親友に恩返しをするチャンスを得た…………

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