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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第5章 ~反撃開始! 沖縄・南西諸島を奪還せよ!~
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麻生首相の願い

―PM19:25 日本国首都東京 首相官邸地下危機管理センター―







「そうか。では、コンピューター内のウイルスは全部駆逐できたのだな?」


 私は新海国防大臣に聞いた。


 今日の午後、戦況を見守っていたらいきなり我が海軍の艦がハッキングを受けたという知らせを受けて大いに驚いた。

 まさか、艦船に対してハッキングを仕掛けるなど、いくら今が電子・電脳社会とはいっても想像もつかなかったからだ。

 しかも、そのハッキング先はかの最新鋭艦のやまとの射撃管制装置。

 私がここで受けた、向こうからの直々できた報告では、国防省の戦略データリンクのデータベースに潜んでいたらしく、データリンク時に乗り移ったようで、どうやらそれを乗っ取って味方を攻撃させようとしたのではないかということだった。

 まったくもって同意だ。やるとしたらこれしか考えられんからな。

 何とか向こうで処理は出来たようで、その事態に一番驚いた新海国防大臣はすぐに国防省に問い合わせてコンピューターのデータリンクをすべて一時カットさせ、ありとあらゆるコンピューターのウイルス検査をさせた。それも、隅々に。

 すると、どうやら潜んでいたウイルスはまだいたようで、さっきからわんさかわんさか検出されたようだ。

 どうやら、目標はやまとだけでなく、予備としてほかの艦も対象に入れていたらしい。

 ……一気にばら撒かれなかったのが救いだ。一気に動いたらこっちに悟られるだろうし、おそらく、こっちにばれるのを防ぐためだろう。

 そして、今どうにかしてそのウイルス駆除を終えた。

 念のため、この後も引き続きセキュリティチェックを随時続けるということだった。


 ……よし、これで何とか電子的な攻撃は防げるだろう。


 新海国防大臣も肯定した。


「はい。どうにかして駆除に成功し、コンピューター内のクリーニングが完了したと同時に、全体的なセキュリティのアップデートを済ませました。先ほどから、陸海空味方戦力との戦略データリンクを再開しています」


「味方のほうに警告は?」


「被害を受けた海軍を中心に、全軍に警報を発令して、自分達のコンピューターのウイルススキャンを徹底させました。今のところ新しく被害を受けたらしい報告は受けていませんので、おそらくもう大丈夫かとは思いますが、念のため今後とも警戒を継続します」


「うむ。頼む」


 コンピューターはもうほとんど大丈夫そうだな。

 今ので相当サーバーのセキュリティとかも強化されたはずだ。もう簡単にはハッキングされることはないだろう。


「……しかし、予想外でしたね。まさか、国防省とのデータリンク中に艦船にウイルスを流し込むなんて……」


 同じく報告を聞いていた山内外務大臣が苦笑いしつつ頭の後ろをかきながら言った。

 ほんとにな。その発想は恥ずかしながらなかった。


 すると、新海国防大臣の顔が少し曇った。


「……元はといえば、当方のセキュリティが甘かったのが問題です。誠に、申し訳ありません」


 そういって少し頭を下げた。


 ……今回のことに少なからざる責任を感じてしまったか。

 無理もない。実被害は最小限に抑えられたし、ハッキングを受けたとはいえ何とか処理はしたものの、その責任がないとは言えない。

 実際、ハッキング自体は受けてしまったからな。作戦に影響が全然なかったのがむしろ救いというべきか。


「……まあ、確かにこれは小さくない問題ではあるが、実際ほかのほうで被害はなかったし、とりあえずこれに関しては一件落着でいいだろう。今後は、しっかりとしたセキュリティ強化を」


「はい、もちろんです。再発防止には全力で努めさせていただきます」


「うむ、それでいい。とりあえず、ほかの方面での戦況を……」


 と、そのときだった。


「総理! 朗報です!」


 いきなりこの部屋の一角で情報統制を扱っていた幹部がいいつつ私の元に近づいてきた。

 その顔は結構明るかった。確かに、朗報っぽいな。


「どうした? 新たな情報か?」


「はい。沖縄方面司令部から連絡があり、たった今をもって、沖縄の司令部が陥落したと報告がありました!」


「なにッ!? 本当か!」


「はい! 沖縄の司令部は壊滅しました!」


 その瞬間、この場が歓喜に包まれた。

 司令部が堕ちた。つまり、那覇市一体は完全に奪還されたか。

 沖縄上逆陸から早9時間ほど。

 ついに司令部が陥落した。


 よし、これで沖縄戦も……。


「……ですが、」


「?」


「その……、沖縄の部隊はまだ降伏しないようで……」


「なに? どういうことだ?」


 司令部が陥落したのに降伏しないとはどういうことだ?

 司令幹部が降伏宣言しなかったということか?


「どういうことだね? 一体なぜに降伏しない? 徹底抗戦でもするつもりか?」


 仲山副首相も思わず聞いた。

 それに対して、その報告を持ってきた幹部は追加の報告だといって一枚のA4サイズの紙を渡した。

 どうやら沖縄方面司令部からの追加の報告らしい。


 えっと……、


「『司令部ニ突入スルモ、敵幹部ハ既ニ自決セリ。降伏勧告モ効果ナシ』……、自決だと?」


 突入前に自らの最後を悟ったか?

 自ら自決をして死んでいくとは、もう少し違う形での責任の取り方は出来んかったのか……。

 しかし、確かにこれで降伏勧告をしても意味はないだろうな。敵部隊が司令幹部の死を知っているかは知らんが、どっちにしろその状態で敵からの降伏勧告をしても意味はない。

 そんなの無視するに違いないだろう。


「自決って……、じゃあ、いつまでやるんですこれ?」


 思わず山内外務大臣が言った。


「いつまでっていっても……。こうなったらさらに進軍して敵軍を殲滅するか、各部隊ごとに降伏を促すしかないだろう……」


 私はそういったが、そこで口を挟むのは新海国防大臣だった。


「しかし、それだと友軍側の負担が大きくなります。予備司令部も陥落しましたし、向こうの指揮系統が壊滅したので相当統率が取れず組織的な反攻はできなくなるでしょうが、それでも負担増加、及び戦闘の長期化は避けられず、最悪下手をすればそのまま泥沼化に……」


「離島でそんなことはあまり考えられんが……。しかし、ありえなくはないか。どうにかできんか?」


「やはり、戦闘を続行するしかありません。向こうが降伏しない以上、我々の手段としてはこれしか……」


「そうか……。よし、仕方ない。いいだろう、このまま攻勢を続けさせ、とにかく敵の降伏させる戦況を作り出そう」


「了解」


 私はそれを元にいくつか指示をする。

 それぞれの部下があわただしく動き出し、にわかに騒がしくなる。

 ……しかしまあ、降伏せずにそのまま戦闘を続けるとは、中国の意地というものなのか?

 日本人である我々にはわからんが、あんまり泥沼化を引き起こしかねないことはしたくないものだ。


 ……それを見つつ、


「あー、新海国防大臣」


 私は彼を呼ぶ。

 彼も自らの部下に指示を出しつつ、すぐにこっちを振り向いた。


「はい。なんでしょう?」


「……少し時間いいかね?」


「? ええ、いいですけど」


「すまないな。では、ちょっと付いてきてくれ」


「?」


 私は彼を連れて、いったんこの場を後にした。










 ところ変わって官邸5階の私の自室である総理執務室。

 部屋にはいると、すでに暗くなりかけた空が窓越しに私の目にはいる。

 そして、目の前には私がいつも使う黒い執務机、そしてその右脇には少し小さめの打ち合わせテーブルに白いソファ……。いつもの見慣れた光景だ。

 しかしまあ、最近ずっと危機管理センターに付きっ切りだったからあんまり来る機会はなくて少し久しぶりに感じるな。


 私は彼をその打ち合わせテーブルのところに連れて行き、テーブルを挟んで互いに向き合うようにすわった。


「少し待っててくれ。コーヒーを用意する」


「あ、いえ、別にそこまでお気遣いは……」


「なに、気にするな。疲れているだろうし飲んでいきたまえ。私もちょうどのどが渇いていたところだ」


 そういって部屋の脇に置かれていたコーヒーセットを持ってきて打ち合わせテーブルの上において、2人分のコーヒーの準備をし始める。

 ドリッパーにペーパーフィルターを敷き、その上にコーヒー粉を適量いれ、平らになるようドリッパーを軽く叩いてならす。


 そんな動作をしつつ、私は彼に聞いた。


「君は、確かレギュラーコーヒー好きだったな。どうせなら一緒に飲もうじゃないか」


「……すいません、わざわざ」


「なに、気にするな。待っててくれ、すぐにできる」


 そういいつつ、サーバーにのせられたドリッパーに少しずつ間隔をあけてお湯を入れ始める。

 何度かに分けることによってよりうまい味のコーヒーが抽出される。どのタイミングで、どの間隔で、そしてどの程度入れるかは、まさに私の腕次第。

 まあ、それでも私は今まで何度となく淹れてきたからな。もうなれたものよ。


「……にしても、なんでわざわざ自分を呼んだんです?」


「? ああ、それは……」


「あ……、まさか」


「ん?」


「……今回の、ハッキングについての責任追及ですか? それなら向こうで話すわけにもいかないですし……」


「え?」


 見ると、彼は少し暗い顔でうつむいていた。

 ……やはり、相当責任を感じているか。まあ、ハッキング被害自体は、よりにもよって最新鋭艦のほうに言ってしまったし、最悪ほかの味方に被害が出かねなかったからなぁ……。


 だが、別に私はそんなことのためにつれてきたわけではないんだがな。


「ははは、もうその話は一応解決したではないか。もうハッキング対策はされているんだろう?」


「ええ、まあ……」


「なら、後は再発防止に努めてくれればいい。今そんなことで首を切っている余裕はないし、別に今回の事態を軽く見ているわけではないが、はっきりいって一回その程度のことで一々首を切っていたらきりがないよ。……まあ、もしほかの味方に被害が出ていたら考えざるを得なかったかもしれんがな」


「しかし、米軍あたりだとこれだけでも即行で処分ですよね……」


「米軍はな。向こうは人材豊富だからそれができるだけだ。しかし、我々には残念ながらその余裕はない。……尤も、今回のこの結果で君の首を切ったりはしない」


「……」


「……いい加減気持ちを切り替えたまえ。過去を向いていても始まらない。起こってしまったことに関しては、もう取り返しは付かないんだ。君は、今後再発防止への努力と、後今目の前にある戦争の問題に直面してくれればいい」


「……はい。努力します」


「うむ。……よし、コーヒーが出来た。飲みたまえ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 出来上がったコーヒーを彼に渡し、自分も目の前のコーヒーを小さめのスプーンで回し始める。


 彼はコーヒーを一口飲むと、話を切り出した。


「……それで、僕自身のことでないとしたら用件のほうは?」


「うむ。……そうだな。そろそろ話すとしよう」


 私はコーヒーを一口飲んで、本題に入った。


「……開戦から早5日。戦況は一気にわがほうに移りつつある。それに伴い、先ほどからアメリカの全面的支援が始まり、東南アジア方面にも第3艦隊が到着し、支援を始めている」


「ええ……。それおかげで、各地で徐々に反攻作戦が実施されつつあるようです。また、インドも支援を表明し、早ければ明日の午後には南シナ海に海軍戦力を展開させるとも」


「うむ。聞いている。……まさか、こんな早い時期に援軍をよこすとは思わなかったがな」


 今日の正午前のことだ。

 インド政府は今回の中国の行動に対して不満を爆発させたらしく、東南アジアに軍を派遣する声明を世界各国にマスコミ経由で流した。

 まあ、インド自身も中国からいろいろ嫌がらせを受けていたし、企業進出先である東南アジアが被害を受けてしまったから、どっちにしろ被害拡大を防ぐために出さざるを得なくなったのだろう。

 インド海軍の近年の成長はすさまじい。それこそ、全体戦力では中国に一歩ひけを取るものの、それでも空母『ヴィクラマーディティヤ』『ヴィクラント』を初めとして水上艦艇、及び潜水艦戦力も充実してきた。

 中々頼りになる友軍だ。

 ちなみに、『ヴィクラマーディティヤ』はシヴァが降臨したとされる伝説上の皇子の名が由来で、『ヴィクラント』はヒンディー語で〝勇敢な・強い〟という意味を持つ。


「はい。僕も予想外でした。向こうも準備していたんでしょうか?」


「一応JSAから情報が来た時点で向こうにも警告を出しておいたし……、おそらくそうだな」


 数ヶ月前にこの中国侵攻計画が発覚した際、近隣各国に極秘裏に事情を伝えたが、その中にインドも含まれていた。

 おそらく、しっかり準備していたのだろう。


「ええ。とにかく、それのおかげで、日本を始めアジア各国は反撃ムードに転換しつつあります。今では引き続き中国が攻勢を仕掛けている国といえば、内陸のチベット、ウイグルあたりです」


「あそこか……」


 チベット、ウイグルは中国が経済危機の関係で国家縮小をした際独立した国の一つだ。

 だが、そこは独立したてで、国防力なんて皆無。元々は中国任せ立ったから仕方ないとはいえ、やはり狙われたか……。


 ……だが、


「……疑問なのだが、あそこまで内陸に戦線広げて兵站持つのかね?」


「まあ、元々自国の領土でしたし、不可能ではないでしょう。しかし、長くもつ保障はありません」


「そうか……。と、話がずれたな。それでなんだが……」


「?」







「……向こうの戦況を把握しているかね?」








「……はい。軽くではありますが、一応は」


 向こうの戦況。

 これだけで、彼は私がどこのことを言いたいのか理解した。


 あそこの国だ。我々の、〝親友の国〟だ。


「戦線は膠着しています。両軍は、西部都市部では台中市大甲区に流れている大安溪だいあんけいを境に、そして東部では花蓮かれん県の玉里鎮たまざとちんのエリアで戦線が言ったり着たりの状態です」


「まさしく拮抗状態……、ということか」


「ええ……。というか、あの状況、彼我戦力、敵対国との地理的条件でこの状態を維持できていること自体奇跡に近いです」


「ああ……、まったくだ」


 あの国は地理的に結構不利だ。中国と結構近いところにある。というか、もはや隣同士も同然の地理的条件だ。それに、中国側の沿岸には空軍基地も大量にある。そこから航空機が飛んできて、国内各地いたるところに攻撃を仕掛けていてもおかしくはない。

 それによる戦線崩壊も十分考えられる。


 ……むしろなぜ耐えてられるんだ。


「……おそらく、相当な犠牲が払われているに違いない。そうでもしないと守れないからな」


「ええ、おそらく。……しかし、それも今限界が来ています。中国側も、攻勢を強化させ始めました。前線には執拗に航空攻撃が行なわれ、はっきりいって陸はもう限界を超えています」


「むぅ……」


 遅かれ早かれ、戦線が破られるのは時間の問題ということか。


 困ったな……、できる限り急ぎたい。


「そうか……。うむ、状況はわかった。実は、今回君を呼んだのはこれに関することなのだ」


「これに関して? 一体なんです?」


「うむ。……さっきのハッキングの件についての責任追求の代わり、というわけではないのだが、ちょっとした交換条件だ。ただ、これは私も無理は承知だから、無理なら無理とはっきり言ってくれてかまわない。……しかし、私としてはぜひともオーケーの返事がほしいのが本音だ」


「はぁ……、一体なんの用件で?」


「うむ。実は……」


 私がその要求を伝えると、案の定彼は驚いた。それも、それなりに大きな声を出して。


「ちょ、ちょっと待ってください。今この戦況の中でそれは……」


「それはわかっている。しかし……、早く行動に移さねば、向こうは何れ中国に圧倒されてしまう。もう長くはもたないことは目に見えているだろう?」


「そ、それはそうですが……」


「もちろん、今すぐにというわけではない。それに、最終的な残存戦力や、状況による投入戦力も見極めねばならない。あと、各兵士たちの意向もある……」


「そ、そうですよ。そう簡単にできるなんてことは……」


「わかっている。……だが、」


「?」


 私は一呼吸おき、コーヒーをさらに一口飲んでいった。


「……これは、私個人の願い出もある。私事に軍を巻き込みたくない気持ちもあるし、そもそも他国に自国の軍を派遣することにも、正直ためらいを感じている。……しかし、このままでは向こうは死んでしまうのだ。せっかく独立したのに。これからというときに……。私は、そんな光景を見たくないのだ。君だって、正直そうであろう?」


「……」


「……顔の出ているぞ?」


「……、かないませんね。総理には」


「なに、私だって長く生きている。いろんな人間を見てきている。何を考えているかなんて、大抵は勘ですぐわかってしまうんだよ」


「はは……、自分は若いんでわかりませんわ」


「……私も若いころに戻りたいよ。この年になると、むしろそれが懐かしくてね」


「そういうもんですか?」


「そういうもんだよ。……と。とにかくだ」


「はい」


「……私の伝えたかった用件はそれだけだ。……どうだ?」


「……」


「……私も、これの現実性のなさは、よく理解しているつもりだ。リスクも、そして、いざ失敗したときの損害の多さもだ。だが、そうしなかったときのリスクもとても大きいものだ。そして、それによる、あの国の損害は計り知れない……。こういう軍事に、やらない後悔よりやる後悔は適用しにくいとは思うが、今回ばかりはされてもおかしくないと思っている」


「……」


「……頼む。別に今すぐにとは言わん。それはさすがに無理なのは私だってわかっているし、そんな無茶な要求をするつもりはない。だが、……本当に頼む。どうにかできないか?」


「……」


「……頼む。このとおりだ」


 私は思わず頭を下げてしまった。

 これが、私の本音だった。

 私のいっていることが何を意味するのか。この発言に対する重要性を認識していないとは言わない。


 だが、これが、紛れもない私の〝願い〟だった。


 私は、どうしてもあの国を救いたかったのだ。


 我々が絶望のふちに立たされたとき、いつもすぐに救いの手を差し伸べてくれたのはあの国だった。


 今までの震災のとき、どれほど助けられたかはわからない。


 だからこそだ。今こそ、恩返しがしたかった。






 今こそ、借りを返したかったのだ。







 彼は、新海国防大臣は、少しうつむいて、そして目を閉じて考えた後、静かに言った。


「……今この段階で判断を下すのは、さすがに難しいといわざるを得ません。もう少し、時間をいただけないでしょうか?」


 妥当な返事だ。

 そりゃそうか。さすがに今返事をするわけにはいかないか。

 私としたことが、とんだ早とちりだな。


「あ、ああ。それはもちろんだ。時間はしっかり与える。じっくり考えて、答えを出してくれればいい」


「すいません。回答は、できる限りすぐにお伝えします。それまでは……、どうか」


「ああ、かまわん。そこらへんは、そちらの希望に任せよう」


 そういって互いにカップに残っていたコーヒーを全部飲み干す。


 ……と、そろそろいかねばならんな。あまり長く向こうを留守にしてはいかん。


「と、そろそろ戻らないとな。少し、先にいっててくれ。私は今ここから後々使う資料を準備してから行く」


「はい。では、先に失礼します」


「ああ。すまないな、いきなり呼び出してしまって」


「いえいえ、お構いなく。あ、コーヒーおいしかったです」


「おお、そうか。では、また後の機会に淹れてやるとしようか」


「ええ、そのときはぜひ。……では、失礼します」


「うむ」


 そういって彼は部屋を先に出て行った。


 一人になった私は、後々使う資料を本棚からファイル後と取り出し、そこから必要なものだけを取り出していきながら考えた。


「……いくらなんでも、私事過ぎたかな……」


 やはり、こんなことで一々軍を巻き込むのは無理があっただろうか。

 軍事マニアの彼でさえあの難色の表情だ。無理もないだろう。


 だが……、私は本当に見たくない。

 あの国が、また過去みたいなことになるのが。そして、また自分達の自由が縛られるのが。


 私は見たくなかった。どうにかして、あの国を救いたかった。


 そして……、今までの、借りを返して、恩返しをしたかった。


 だが……、現実はどうなるかわからない。


 最悪無理の可能性もある。彼も、さすがにそれは無理だと断るかもしれない。

 そのときは諦めるしかない。諦めるしかないが……。


「……やはり……」









「少々、自分勝手すぎたか……」











 彼を自分の事情に巻き込んでしまったことを、今さらながら少し反省した…………

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