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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第5章 ~反撃開始! 沖縄・南西諸島を奪還せよ!~
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水中からの脅威

―PM12:45 沖縄県残波岬より西北西6海里地点 A艦隊⇒B艦隊合流 DCGやまと艦橋―







「予定ポイントに到着。B艦隊と合流しました」


 航海長が報告した。


 反撃開始から早くて6時間。

 もうすでに午後突入。

 地上部隊は順調だった。

 上陸開始して3時間くらいたつけど、この時点でもうすでに早い部隊は那覇市に突入して敵を撹乱中。その後ろからも本隊が続々と那覇市に突入中だった。

 中には上から空挺降下させるやつもあった。

 ……空挺降下といえば、伊江島に下りた陸軍の空挺団もうまくいったみたいだ。

 真美のやつも無事だろうか。あいつ、たまに熱くなると旧日本軍の特攻部隊よろしく単身突撃しかねない性格だからな。

 まあ、向こうの部隊の隊長はクソ厳しいやつだってまえ聞いてたし、そんな勝手をしようものなら後々大目玉だろうしたぶんないな。うん。


「了解した。とりあえず、旗艦からの指示を……」


 艦長がいった。

 ちょうど、そのときである。


「艦長、旗艦より指令です。『各艦、所定の援護行動に移れ』。以上」


 通信員がいった。

 旗艦、いずもからだな。


 援護体制。ここからは、進軍する地上部隊を援護する対地支援担当艦と、近辺の対空、対潜警戒をする部隊護衛担当艦に分かれる。

 前者は主に汎用駆逐艦と少数の主力艦艇。後者は俺達みたいなイージス艦主体。


 なので俺達は……、


「来たか。となると、私たちは護衛だな。……よし、一時艦隊陣形を解く。航海長、頼む」


 案の定護衛担当。

 対地攻撃も出来ないことはない。トマホーク大量に“積めるし”。

 ……でも今回は積んでません。対地関係の任務一切受けてないんで。

 そこらへんはVLSのいいところというかなんというか、搭載兵器を何をどれくらいつめるとか自由にカスタマイズできるというね。

 一応今回は対空兵装と少量の対潜アスロック搭載。でもそれ以外は一切載せてません。


「お任せを。新澤、面舵15度。速力そのまま」


「了解。面舵15度」


「おもーかーじ」


 面舵に15度向ける。

 一部の艦もこっちについてきた。

 数隻の汎用駆逐艦に、あとこんごう。

 ここから少し西に移動する。


「……とりあえず、この後は陸軍に任せて警戒だけだな……」


 副長が言った。

 ま、俺達のこの後やることといったらそれだけだな。特に何もなければこのまま周辺を艦隊組んでグルグルまわって警戒するだけ。


 ……敵さんが来ない限り何もすることがない。


「うむ。だが油断してはならんぞ。いつ来るかわからんからな」


「それはもちろん。警戒は厳にさせていただきます」


「うむ。……後続のほうは?」


 それにはレーダーを見ていた担当乗員が言った。


「大丈夫です。計6隻。しっかり付いてきてます」


「よし。では、対潜・対空警戒を厳にせよ」


「了解。……各艦に通達。対空・対潜警戒を厳に」


 俺達側が指示を出すのも、一応現場指揮的なアレの関係。

 もちろん旗艦はいずもだけど、この護衛警戒部隊の指揮はやまとに委託されています。


「CIC艦橋、レーダーに反応は?」


『ありません。対空目標、対潜目標ともに探知できず』


「シーホークからは?」


『ヤマト01ゼロワン03ゼロスリー、ともに新たな報告なし。。データリンクでの情報更新もありません』


「了解。……とりあえず、警戒は継続だな」


 艦長が言った。

 このまま所定のエリアを周回しつつ警戒。

 艦隊は組んだまま。メンバーも固定。


 ……何もなかったら暇だぞおい。


 まあ、俺は操舵の仕事があるが……。


“やまとさん、北から来る敵軍がいます。最優先にしますか?”


「うん?」


 これはふぶきさんか。

 向こうは対地支援でしたね。お疲れ様です。


“それどこ?”


“浦添です”


“じゃあまだいいよ。とにかく最前線の敵ぶっ放しちゃって”


“りょうか~い”


“やまとさ~ん、内地にいる榴弾砲うざったいくらいに味方に榴弾撃ちまくるんですけど排除したほうがいいですか?”


“あ、そっちはB艦隊がトマホーク撃つからほかのほうやっといて”


“はーい”


 何でか知りませんがやまとがいろいろ仕切ってる。あくまで向こうは対地支援なのに。

 ……なるほど、善意でせめてもの手伝いを……、


“……ていうか、”


「?」








“なんで私ばっかりに聞くの!?”


「というわけではなかったか」









 自分からじゃなかったんかい。


“いや、だって電子機器データリンク最新のもってるし……”


 というふぶきさん。


“私たちより判断能力高いですししかも正確ですし……”


 by いなづまさん


“はっきりいって……”









“やまとさんに聞いたほうが正確だし便利なんですよね”


“いや私対地指揮艦じゃないんだけど!?”










 という艦の皆さん全員の言い分と、やまとの絶叫です。


 というか、データリンクするにも艦のほうも迷うのか。

 まあ、いろいろ目標優先順位判定難しいに違いはないしわからないことはないが。


 しかしまあ、最新鋭も大変である。ハハハ。


“いや笑って済むものではなくてですね……”


「でも何気にやってあげてるんだな」


“……それ以上のたまう後ろから腹絞めますよ?”


「赤面してか?」


“あ、すいません気が変わりました今行きます”


「え、ちょ」


 その瞬間腹に思いっきり激痛が走る。

 一瞬腹周り見たら腕があるでやんの。しかも少し細め。

 思いっきり後ろからも圧力がかかる。


 ……これ、案外きついんだね。


「いでででででちょちょちょちょ待って待って待って待って!!」


 思わず何を言ってるのかよくわからない悲鳴を発する。

 周りが驚いてこっち向こうがお構いなし。


「さて、後どれくらいやればいいですか?」


「わ、わかった! わかった俺が悪かった俺が悪かったその腕一回ほどk」


「だが断ります」


 むしろきつくなった。


「ぎゃぁぁぁあああああ腹がああああ腹があああああああああッ!!」


 こいつ見た目によらず腕力強すぎやしませんかね?

 おかしいよ。こいつどう見てもこんなに腕力あるはずないのにおかしいよ。

 こんなの、絶対おかしいよ。

 ……どっかの魔法少女アニメであったなこのせりふ。


 ……んで、


「はは、中々お似合いなカップルだな」


「俺もされてぇよ後ろから好きな女の子に抱きつかれたりさ」


「お、お前らいらんこといってないでちょっと助け……ッ!」


 無理とわかりつつも本能的なアレですぐに周りに救助要請をしたものの……、


「ふむ。愛の力が強すぎたか」


「はっはっは」


 こいつらマジ許さん。


「お前らSM-3に縛り付けて成層圏までとばしたろk」


「おりゃ~」


「ぐわぁぁぁぁああああああ腹がああああああ腹の骨がああああああああああああ!!!」


「いや腹に骨はないだろ……」


「しいて言うなら脊髄だな……」


「はは……」


 艦長と副長と航海長がそんなツッコミ3コンボしてたけど俺はそんなことを気にする余裕はなかった。


 ……で、その後何とか解いてもらったものの、腹回りは未だに痛い。

 まるであれだ。腹壊したときのあの腹痛にそっくりだ。中から来るわけではないが。主に外傷的なアレだが。


「……お、お前は俺を殺す気か……」


「いやまさか。兵器である私がそんな自分の艦の乗員なんて」


「うそだ……絶対うそだ……」


 この満面の笑顔の中には絶対殺意が芽生えているに違いない。

 ドSの性質があるのか? こわい兵器マジ怖い。


「……そんなに痛いのか?」


 航海長が若干苦笑い気味でそういった。


「なんなら受けてみます? 地獄ですよ?」


「俺艦魂見えないから無理だわ」


「くそう……くそう……ッ!」


 艦魂が見えるという事実がこんなところで裏目に出るとは思わなかった。


 ……この場合俺ばっかりこんな目に……、


「……あ、でもさ」


「はい?」


 また航海長だ。


 今度は一体なんで? 今腹が痛いからさっさと……。


「……今、お前女の子から後ろから腹巻きつれたろ?」


「それがなんで?」


「……ようは抱きしめられたんだろ?」


「え?」


「つまり……、」


 それに反応したのがこの周りの……、


「クソッ! リア充がこんなところに!」


「後でこいつSM-6にくくりつけるか!?」


「いや、それでは足りん! 艦首にくくりつけて白波をしばらく受けてもらおう!」


 変 態 ど も め が !


「お前らんなこと言ってる暇あったら警戒をだな……ッ!」


 思わず副長が怒鳴った……。



 そのときだった。




『……ッ! か、艦橋CIC! ソナーに反応あり! 魚雷8、本艦の方面に接近中!』




 CICからだった。

 その報告に、一瞬騒がしかった艦橋内が静まり返った。

 そして、俺を含め全員顔面蒼白である。


「な、なに!? 魚雷だと!?」


「CIC艦橋、どこから来る?」


 艦長もすぐに反応。

 さっきまでの苦笑いから一変、真剣な表情となった。


『本艦2時方向。雷速65ノット、距離10海里です!』


「65ノットで10海里って……、あ、後10分もしないうちにきますよ!?」


 急いで時間を計算した航海長がいった。

 後10分。まずい時間がない!


「ちょっと待て! その方向は対潜ヘリがへばりついていたところじゃないか! 向こうは何をやっていたんだ!?」


 副長が思わず叫んだ。

 確かに、そこいら辺は対潜ヘリがうじゃうじゃいたはずで、簡単に見逃すとは思えない場所だ。


「前々からここに身を潜めていたんだろう。動いてないだろうし、それでは簡単に見つかることは出来ない」


 艦長も考察もご尤もだ。

 動かないとなると、運よくソナーの隙間をぬっていたらうまく隠れれる可能性もある。


「クソッ、砲雷長、アスロック発射。とにかく魚雷を迎撃しろ」


『了解。アスロックげ迎撃します』


 行動はすぐに行なわれた。

 前部のVLSからアスロック対潜ミサイルが複数発射され、艦橋窓が少しの間煙で見えなくなる。

 艦橋内のモニターも切り替わり、魚雷の航行状況をレーダー上にオーバーレイしたものが表示された。

 アスロックはすでに魚雷を射出し、傘をあげつつ降下した魚雷は海面に到達すると同時にすぐに魚雷に向かった。


「……やれるか?」


“大丈夫です。今まで何度もやってきましたから8発くらい即行で沈めます”


「頼もしいぜ。頼むぞ」


 やまとは艦のほうにもどった。

 艦自身としては任務中はこうやって艦に戻ったほうが都合がいいというか、やりやすいということらしくて、魚雷が来たと同時に即行で戻っていった。


「……弾着、10秒前」


 航海長が時計を見つつつぶやいた。

 魚雷は見事に敵魚雷に相対していた。

 今向かっているのは12式。海軍の使う最新鋭の短魚雷で、中々高性能なものだ。


 うまく当たってくれるはずだ。あの魚雷ならできるだろう。


「5……、4……、3……、……、今」


 そのつぶやきと同時に、一気に魚雷が消えた。


「よし、やった……」


 周りが歓声をあげかけた……、




 ……が、




「……ッ!? ま、まだ残ってる!?」


 一人の乗員が叫んだ。

 思わず疑いの目でモニターを見る。

 見ると、確かに残っていた。2発ほど。


 見事に、あの魚雷迎撃網をかいくぐっていやがった。


「おいおいうそだろ!? あれかいくぐるのかよ!?」


 航海長も思わず叫んだ。

 同感だ。やまとの誘導は完璧だったはずだ。

 だが、こうして避けられた。一体何があった? まさか、魚雷が不発とかそういうのじゃないよな?

 というか、向こうはどうせ磁器信管だろ? なら不発だろうがなんだろうが当たったら即爆発じゃねえのか?


 意味がわからん。どういうことだ?


「やまと、お前しっかり誘導してたよな?」


“し、してましたよ!? でもあれ……”


 と、そのときだった。


『艦橋CIC、まずいことが判明した』


 CICからだった。砲雷長の声。

 その声は静かだが切迫していた。


「なに? 何がわかったんだ?」


 艦長が答える。向こうもすぐに返答をよこした。


『今の敵魚雷の航行過程を調べてみた。……そうしたら……、』


「?」









『あの魚雷……、勝手に避けてやがる……ッ!』









「はぁ!? マジかよ!?」


 周りが一気にそんな感じのことを叫んだ。


 ……なにそれ。勝手に避ける魚雷とかあり? 反則じゃないそれ?


「CIC、それは本当か!?」


『間違いない。何度も計算しなおした。アスロックが弾着する前に、勝手に魚雷が避けてる』


「んなアホな……」


 副長も思わずこれだ。

 ほんと、ありえへんどころの話じゃない。聞いたことないぞ魚雷が勝手に避けるとか。


 なに?水中ドックファイトもどきでもしてたの? なにそれ新鮮。というか新たな発想。


「おそらく、弾頭部に特殊なアクティブソナーを装備。目標と違うものがきたら勝手に避ける仕様なんだろうな……」


「しかし航海長、今の技術でそれが可能なのか?」


「出来ないことはないでしょうが、どこかが作ってるなんて聞いたことありません。第一、魚雷なんて小さいものを、魚雷に載せるほど小さなソナーが探知できるかどうかで今躍起になってる段階ですから……」


「クソッ……。もしれそれが出来ていたとしたら、今からアスロック撃っても……」


「ええ……。全部避けられて終わりですね」


「おいおい……」


 はは、撃っても撃っても全部回避安定ですってか? 勘弁してくれよ。

 じゃあ俺達どうやって回避しろってのよ。今の魚雷これ以外で簡単に回避できないだろ?


「じゃあどうやって回避しろっていうんだ……」


「バブル使ってスクリュー音消すこともできますが……」


「あの類は逆探知的な装置で捉えられてむしろ逆効果なんじゃなかったか?」


「そうなんですよね……」


「やまとが耐えれるはずもないしな……」


「むしろ、艦底から突き上げられたら装甲が重みになって即行で沈みますよ?」


「……すべてが裏目に出ていやがる……」


 周りも頭を抱えた。

 どうすればいい? このまま魚雷にぶち当たるわけには行かない。

 魚雷を迎撃できなかったら艦底から突き上げられて、一気に海中に引っ張りこまれる。

 やまととて、いくら装甲化してるとはいえ魚雷は想定外だよ。その前に迎撃すること前提だし。


 ……どうやって迎撃すれば……、またはどうやって逃げるか……。


“……もう反対方向にとにかく全力疾走で逃げたほうがいいのでは?”


「魚雷が追いつく未来しか見えないよ……。うん?」


 まて……、“反対方向”? “全力疾走”?


 ……いや、あったぞ。まだほかに方法があった。

 この方法なら……、一か八かだ。


「桜井さん、CICに、魚雷が本当にこっちに突っ込んできてるか聞いてみてください」


「え?」


「どういうことだね?」


 副長が質問した。

 しかし、時間がない。


「説明は後です。とにかく向こうに」


「あ、ああ……。CIC艦橋、敵魚雷の航行状況は?」


『敵魚雷は今現在本艦の方面に向かっています。しかし、直接向かってはいません』


「? どういうことです?」


『本艦には向かっていないんです。方角的にはこっちで間違いありませんが、まだ直線航行の叙津アイです』


「直線航行?」


「なるほどね……」


 やっぱり……。となると、やっぱりこれしかないな。


「……艦長、転舵をさせてください」


 あえてここは航海長じゃなくて艦長に直接具申した。

 時間がない。このほうがいい。


「転舵だと? どこにだね?」


「……針路」







「2-3-0です」








「2-3-0……、って、魚雷との衝突針路じゃないか!」


「なにをバカなッ!? 魚雷に突っ込む気か!?」


 思わず航海長が叫んだ。


 ……けど、


「誰も魚雷に突っ込むなんていってませんよ。……“魚雷にはね”」


「え?」


「……何が狙いだね?」


 艦長がこっちを向いて聞いた。

 だけど、マジでそんなこと言ってる暇はないんです。


「説明の時間がありません。しかし、これだけはいえます」








「この方法のほうが、現状で一番確実な回避方法です」








「ふむ……」


「艦長、時間がありません」


 俺は訴える。

 この時間すら惜しい。頼むから決断を……。


「……このままでいるよりはマシか。よし、やろう」


「か、艦長!?」


「転舵だ航海長。2-3-0だ」


「……了解。取り舵、方位2-3-0」


 航海長からの指示も得て、とにかく取り舵転舵。

 これで、敵の魚雷との衝突針路となった。


「……で、どういうわけか説明してもらおうか?」


 副長からだ。


 ……うん。まあ、この時間帯ならいいか。


「はい。これで、やまとは敵の魚雷との衝突針路を取ったことになります。しかし正確にはしょうとするコースではなくて、2発の魚雷の間を通る形となります」


「ああ。それで?」


「……考えてみてください。高速道路で反対車線にいて、しかも互いに離れている車にボールをぶつけるのと、T字路で右から高速でやってくる車にボールぶつけるの、どっちが難しいですか?」


「それどっちも違法行為だよな?」


「単なる例えです。で、どっちをとりますか?」


「……そりゃ、相対しているほうが狙いにくいし、前者のほうだろう」


 ご名答ですぜ副長。俺もそうですわ。


「そのとおりです。俺もそう考えます。……どうです? 状況、似てませんか?」


「え?」


「……ああッ!」


 一人の乗員が思わず声を上げた。

 それにつられて、ほかの乗員も俺の言いたいことを察したらしく似たような声をあげた。


「ま、まさか……」


「そう……。逃げてダメなら、」








「こっちから向こうに突っ込んで、敵魚雷の間を取って相対速度を利用して魚雷を後ろにおいていくんですよ」








「ええッ!?」


「おいおい、そんなこと可能なのか?」


「そりゃ今までやったことないんでわかりませんよ。でも……、理論的にはやれないことはありません」


 でも現状俺にはこれしか思いつかないんですわ。


「……だが、いっていることはわかるな。確かに、相対速度でとなると、互いに相手の速度はとんでもなくなる。魚雷とて、簡単に捉えることはできない」


「ええ。しかも、向こうは高速出してますから機動性も限定的になります。対して、こっちはただ直線を突っ走るだけ」


 それこそ、全力疾走でね。


「しかし、それとさっき聞いた敵魚雷の航行の関係は?」


「今はまだ敵魚雷はこっちを捕捉していません。ただ単に予測ポイントに向けて撃っただけで、ミサイルに例えれば撃ちっぱなし能力に似た感じです」


「そうなのか?」


「ええ。そうです」


 最初ッからこっちを見ていたんなら、直接こっちに来るはずだ。

 でも、こっちにこない。そして現に、今もこっちには直接突っ込んでこない。


 つまり、完全には捕捉していないってこった。


「だが、なんでわざわざそんな面倒な機能を? 魚雷に必要か?」


 副長の疑問には艦長が変わりに答えた。


「発射母艦の生存性向上が目的だな。発射後は、終末段階の自立誘導になるまでいくらか誘導が必要だ。そのときに攻撃されたらたまらないからな。発射後、すべてを魚雷任せにして母艦の生存性を高めようとしたのだろう。撃ちっぱなし能力の本来の目的とおんなじだ」


 俺の言おうとしたこと全部言われた。

 大方、そこいら辺が狙いだろうな。それ以外一々こんな機能を付ける理由が考えられない。


「ふむ……。となると、このままの速度ではいかんな。途中で速度を上げねばならん」


 確かに。今のままだと敵魚雷の機動が追いついてしまう。

 かといって早すぎてもダメだ。早々に探知されて魚雷が反転しきる可能性もある。


「CIC、タイミングの計算は出来るか?」


『はい、できます。……といいたいところなんですが』


「? どうした? 出来ないのか?」


『逆ですよ。……沖瀬少尉も同じこと考えて、すでに計算しちゃってました』


「え?」


 それに反応したのは俺だ。

 マジで? あいつまで同じこと考えてやがったのか?


 これなんて偶然でしょうね。ほんとに。


『今から30秒後です。最大戦速でお願いします』


「了解した。……一か八かの賭けだな」


 艦長がいった。

 確かに、二度目はないわな。

 やろうとしたときはたぶん天に召されてるときだと思う。


「ええ。ですが、分の悪いかけは嫌いじゃないです」


「同感だ」


 分の悪い賭けね。

 ……だが、それこそ燃える展開というもの。そして、それを乗りこてこそ男のロマン。


 ここを乗り越えないで男はやってられんわ。


「……久しぶりの最大戦速だな。やれるか?」


“やれないと思いました?”


「いや、全然」


“ですよね? つまり、そういうことです”


「そうかい。……思いっきり突っ走っていいから」


 準備は万端のようだな。


 ……よし、いくか。


『……よし、今です!』


「機関最大戦速!」


 艦長が反応した。

 すぐに機関制御パネルの最大のところの押し、機関制御室に伝達する。

 向こうもすぐに反応し、最大戦速を発揮させた。

 エンジンの回転数が跳ね上がる。この反応の速さもやまとのつよみだ。

 慣性の法則的なあれで、すぐに後ろに押される感覚に襲われる。

 それと同時に機関の甲高いうなり声とともに、艦の速度が跳ね上がった。


 ああ、それと、このやまとの最大戦速が34ノットと前に紹介したな?

 すまない。あれ……、あくまで“公式発表”なんだわ。


「……わ~お、早い早い」


 速度計を見たらなんとまあ“37ノット”でてます。


 水素燃料タービンすごいな。こんだけの巨体を42ノットとか。


 ガスタービンがちっぽけに見えるあたり俺はもう毒されてるな。変な意味で。


「お前相変わらず早いな! どこにそんな俊足持ち合わせてるんだよ!」


“私の足舐めないでくださいね! 大樹さんもちゃんと針路固定してくださいよ! 私まだ死にたくないですから!”


「同感だね! 俺だって死にたくないわ!」


 こんなところで死んだら無念極まりない。

 生き残ってやるぜ。舐めんなよ俺達日本人を。


 日本人は粘り強いんだぜ? そりゃもうしつこくな。

 執着もとんでもないんだぜ? 生きるためならたとえぶっ飛んだことでもしてやりまっせ。


「まもなく敵魚雷が見えます」


「マスカー放出!」


『了解。マスカー放出します』


 もちろんこれだけでは済まさない。

 念のためバブルを艦尾に向けて放ち、それによってスクリュー音をかき消した。

 ……というか、泡ってソナーの音反射しないからそれを利用したってだけなんだけどね。


「弾着10秒前。もうすぐ来るぞ!」


 モニターでも確認できた。


 敵魚雷は左右からどんどんと迫ってきていた。

 だが、魚雷の機動が一歩遅れている。おそらく、付いていけてないんだ。

 やっぱり相対速度は速いのか。それに耐えれるほど魚雷も軽くない。


「5……、4……、3……、2……、……来るぞ!」


 航海長がカウントしつつ叫んだ。

 俺達は身構えた。万が一の衝撃に備えた。


 ……しかし、







 比較的早く、どうやらその必要はなかったことを知る。






『……ッ! だ、弾着せず! 敵魚雷回避しました!』


「おおッ! よし、やったぞ!」


 その場が一気に歓声に包まれた。

 俺も思わず舵を片手にガッツポーズだ。


 やったぜ。やっぱりこの方法使えるわ。


「総員、よくやった。CIC、敵魚雷はどうだ?」


『今反応消えました。目標を見失い、推進力を失った模様』


「了解。バブルを解除」


『了解。バブル解除』


「舵を戻す。機関第3戦速。180度反転、面舵いっぱい」


「了解。面舵いっぱい」


「おもーかーじ」


 すぐに艦の速度を抑え、面舵で艦隊に戻った。

 艦隊と結構離れちまった。そりゃそうか。最大戦速だしまくればな。


“……ねえ、やまとそんなに早かった?”


 これはこんごうさんか?

 そうか。向こうから見てたのか。


“え? 知りませんでしたっけ?”


“知りませんよ! 始めてみたよやまとの本気!?”


“結果37ノットでるからよろしく”


“……あんた本当に駆逐艦?”


“いや、私巡洋艦……”


 190m以上あってどこが駆逐艦なのやら。

 というか、それいったらあんただってサイズ的には十分巡洋艦なんですぜ? 駆逐艦名乗ってますけど。


「……にしても、」


「?」


 艦長がふと言った。


「新澤君、君そんな奇策思いつくタイプだったのかね?」


「はは……、こりゃどうも」


 自分でもびっくりです。


 まあ、そんなときもある。たぶん。


「まったく、今回は君に助けられたな。お手柄だぞ」


「どうも。……でも、これのおかげで対潜警戒が……」


「うむ……。もっと厳重にせねばならんな。CIC、敵潜の情報は?」


『今味方のシーホークが撃沈に向かいました。魚雷発射ポイントから大まかな捕捉は出来ましたので、撃沈は時間の問題かと』


「了解。引き続き警戒を厳に」


『了解』


 CICとのやり取りの後、さらに指示を出した。


「ここからまた今みたいな攻撃が来る可能性がある。各員、気を引き締めて望むように」


「了解」


 それぞれで返事をし、そのまま警戒を続けた。













 とりあえず、この後しばらくは敵の攻撃はくることはなかった…………

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