〔F:Mission 8〕対艦戦闘⇒敵派遣艦隊迎撃戦『東シナ海海戦』
―AM08:15 奄美大島大和村より北西125海里 A艦隊所属DCGやまとCIC―
「敵艦隊捕捉……。へへっ、奴ら、見事に釣りあがってくれたぜ」
俺はレーダーディスプレイをみて思わずニヤリとした。
へへ、まんまとかかりやがった。
まず派遣されてきたらしい第1派が北上中。まもなく交戦圏に入る。
さらにその後方から大艦隊。衛星画像では、空母らしき影もあった。
解析した結果、それは空母『遼寧』と合致した。
例の『遼寧機動艦隊』が直々にお相手か。とにかく時間を稼いで、本土からの援軍を待つつもりか。
だが、衛星画像からの情報では、沿岸においている敵空軍基地はほとんど航空機ない。
尤も、それは外に露天されているものに限るけど、さっきから出入りしている航空機の機数が思いっきり少ない。
確かに向こうの航空戦力にも有限があるだろうが、やっぱり沖縄方面に向かうやつはほとんど沖縄に置きまくっちまったのかね?
まったく、ありがたいことだ。向こうの戦略は、確かに後先考えた立派な戦略だな。ご立派だ。
俺の言葉に思わず砲雷長もニヤリとした。
「まったくだ。しかも大物がつりあがったな。こりゃ料理が大変だぞ?」
この大艦隊をか。
まあ、全部俺達が料理することはないだろうが……。
「築城からのF-2は?」
「今護衛とともに全部上がりました。そちらは敵本隊に向かっています」
「こっちの突出してる派遣艦隊には向かわないのか?」
「見たいですね。……まあ、一気に大量に上げるわけにもいかないでしょうし、これが妥当でしょうか」
築城は九州にある空軍基地だ。
そこには、この戦争開始に伴いF-2戦闘機がほかの基地から移動してきている。
……まあ、元からあったにはあったけど、戦力を追加増量ってやつ。
でも、それはどうやら今突出してる派遣艦隊には向かわず、その後方にいるものを狙うらしい。
「だが、それだと派遣艦隊の上を通るから落とされるんじゃないか?」
「そのときには俺達が奴らを料理してるころですよ。……とにかく、F-2の投入戦力が限られてるんで余分なのは水上艦隊である俺達任せなのでは?」
「はは……。まさか、現代で艦隊戦を体験できるとはな」
砲雷長も苦笑いである。
まったくだ。今時の戦争なんて水上艦の相手は全部航空機だと思ってたのに、まさか同じ水上艦相手か。
どうせなら少し戦力詰まってでもいいからこっちにもF-2くれよ。少しくらいいいだろ?
「……だが、面白い。水上艦対水上艦の対戦は滅多にないからな。戦争では何が起こるかわからないといういい例だ」
艦長も若干ニヤリとしながらいった。
臨機応変。状況に合わせていろいろと試行錯誤をするのが戦争。
これもそれの一つか。いくら戦争が空の時代とはいえ、艦にも一応SSM積んどいてよかったなおい。
「……ッ! 旗艦『いずも』よりデータリンク。 ASE(Anti Ship Engage:対水上戦闘)コマンド、受信!」
ディスプレイ上で、四角い囲いとともに『ASE Commando』と表示が出る。
対水上戦闘。
……つまり、
「……どうやら、突出している派遣艦隊の料理担当は我々のようだ」
「では?」
「うむ……、」
「総員、対水上戦闘用意!」
「了解! 対水上戦闘用意!」
「たいすいじょーせんとうよーい!」
すぐにサイレンもなって、CIC内もあわただしくなる。
俺もすぐにディスプレイのモードを変え、コンバットモードに設定。
敵艦隊の情報を随時ディスプレイに集積させる。
「……どれ、ではあの艦隊は我々が和風に料理するとしよう。何にするか」
「全部寿司でいいですよ。軍艦巻きにしちゃいましょう」
ほかのCIC乗員が思わず言った。
ここで、元からあの艦が軍艦だろうというツッコミはたぶん無粋……。
「おいおい……。元からあれ軍艦だろ」
「砲雷長いっちゃったよ」
だが、寿司なら俺はマグロ派です。
もちろん、しょうゆは必須。
「だが、軍艦巻きだけでは詰まらんだろう。どうせなら海つながりで……、って寿司ほとんど海つながりじゃないか!」
「砲雷長なに一人漫才してるんですか?」
ほかにあるといったらたまごといなりと……、あ、前言ったすし屋になんか豚カルビあったな。
寿司にする必要あるのかと思ったが案外うまかった件。
「全艦隔離閉鎖完了。データリンクフル」
「目標データは?」
「今届きました。ディスプレイに出します」
目標情報がアップデートされ、ディスプレイに表示される。
そこにはそうそうたる一面の派遣艦隊概要があった。
一応、その派遣艦隊概要を説明。
【中国海軍『遼寧機動艦隊』派遣艦隊概要】
駆逐:旅大型(051型)『133“重慶”』
『134“遵義”』
ソヴレメンヌイ級(956型)『136“杭州”』
『137“福州”』
『138“泰州”』
『139“寧波”』
フリ:江滬I型(053H型)『518“吉安”』
江滬II型(053H1型)『533“台州”』
『534“金華”』
江滬III型(053H2型)『535“黄石”』
『536“蕪滬”』
『537“滄州”』
江衛II型(053H3型)『521“嘉興”』
『522“連雲港”』
『523“莆田”』
『524“三明”』
『525“洛陽”』
『528“綿陽”』
江凱II型(054A型)『529“舟山”』
『530“徐州”』
以上の20隻。
こちらと同等。しかも、一部は旧式。
……やっぱり、時間稼ぎだな。こっちの弾薬を消費させるなりF-2の攻撃をひきつけるなりして、隙を見て本隊を突入させるつもりか。
……だが、残念だったな。F-2は最初からあんたらを狙うつもりはないし、相手は確かに俺達がするが、こっちは新型最新鋭大量投入なのでな。
だから……、
「よし、先手を打つぞ。目標配分」
「了解。目標配分」
データリンクを活用して、各艦の狙う目標の配分。
……で、でたのが、
「目標配分完了。本艦目標、江凱II型『徐州』」
これはこれは新鋭艦です。
数年前に就役したばっかりのフリゲート艦。東海艦隊には4隻配備されていたはずだけど、これはそのうちの2隻か。
しかし、そいつは艦隊の中心にいる。つまり、こいつは旗艦かなんかか?
だとしたらラッキーだ。こいつをしとめれば、指揮統制能力は低下するかもしれない。
……まあ、すぐに代わりがでるだろうが。
「しかし、これだと狙う艦が足りませんね。何隻か残りますよ?」
「全部しとめる必要はない。壊滅させて追い返しただけでも我々の勝ちだからな。……とにかく、やるぞ」
「了解」
では、向こうが動き出さないうちにやりますか。
「対水上戦闘、SSM-2B攻撃始め。目標『徐州』、発射弾数2発」
「目標『徐州』、発射弾数2発。目標位置、 28度24分N、126度29分E」
SSM-2B艦対艦ミサイル。
SSM-1Bの後継のに対艦ミサイルの改良型で、その最高速度はM4,5。
オリジナルより若干速度が遅くなってるとはいえ、その代わりECMなど対電子戦闘にはめっぽう強い。
今これはやまとと一部の新鋭艦にしか積まれていない。どんどんとほかの艦にも乗せていく予定。
今回撃つのは2発。これを目標に向けてぶっ放す。
「SSM-2B発射用意、よし」
その声に砲雷長がすぐさま反応する。
「SSM-2B撃ち方はじめ!」
それに即行で火器管制員が答えた。
「SSM-2B発射。1番発射用意……、てぇ!」
発射ボタンが押され、右舷に向いているSSM発射機の発射筒からすぐに1発が勢いよく放たれる。
固体燃料ロケットブースターに点火され、赤い火炎を噴きながら勢いよく飛んでいったSSM-2Bは、途中で低空飛行に移行。ブースターを切り離し、今度はラムジェットエンジンを始動。音速を超えたとんでもない速さで海面すぐ上を飛翔する。
もちろん、1発ですむと思うな。
「2番発射用意……、てぇ!」
2発目も放つ。
最初と同じ手順で放たれたSSM-2Bは、やはり同じ手順で飛翔し、低空飛行で目標に向けて突っ込んでいく。
最初に放たれたSSM-2Bの後を追う形となった。
「各艦から対艦ミサイル発射確認。計32発」
空母2隻と、2隻の電子戦担当艦を除いて、すべての艦から対艦ミサイルを2発ずつ放たれる。
16隻からだから計32発。
……こりゃまいったね。料理するというか思いっきりあぶり焼きかね?
……いや、あぶり焼きも違うか。
「SSM順調に飛翔中……、ッ!」
すると、敵艦隊から小型目標分離。
おそらくこれは……、
「敵艦隊からECM探知。電子戦に移行。同時に、小型目標分離。対空ミサイルが発射された模様。弾種、HQ-16、及びシュチーリ1」
ECMを展開して電子戦をかけた。
対空戦闘での基本で、これでまず目潰しをかける。
しかし、ここで対艦ミサイルはより低空に下りて、妨害電波をかいくぐる。
低空には電波は届きにくい。これは今の対艦ミサイルでは当然。
ちなみに、こうやって低空を飛翔することをシースキミングといって、それが出来る対艦ミサイルをシースキマーといいます。
そして、そこで登場するのが艦隊防空ミサイルだ。
HQ-16は中国開発で、シュチーリ1はロシアのもの。たぶんソブレメンヌイ級から放たれたものだろう。
それらは対艦ミサイル群に一気に突撃していった……、が、
「敵ミサイル弾着。対艦ミサイル5発ロスト。残弾27発、以前飛翔中」
超音速までいくやつを完全に捉えられなかったようです。
でも、たった5発というのも……。あ、使える艦が少ないから全部守りきれなかったのか。
その後、敵艦隊から個艦防衛用の対空ミサイルも放たれるが、それもいくらか外れて22発残る。
「敵艦隊、近接火器作動。弾着まで1分きりました」
弾着1分前。ここまで来ると敵の速射砲なり何なりが作動し、何としてでも落としに行く。
これが作動するということは簡単には弾着まで基本1分とかからない。しかし、このSSM-2Bに関してはほかよりすこぶる早いからさらに早く弾着する。
俺達がSSM-2Bも中々落ちない。
低空を超音速で飛翔している。
弾着30秒をきった。
すると、
「ッ! 本艦のSSM-2B、1発撃破」
やっと1発落とされた。しかし、もう1発は健在。
ほかでも、まだ完全には落とされてはいなかった。
「弾着10秒前。……9、……8、」
10秒をきる。
この時点でもまだいくらか対艦ミサイルは残っている。
今からだと全部を迎撃しきるのは無理だ。
SSM-2Bはまだ1発残っている。
今頃必死こいて死ぬ気で近接火器を撃ちまくっているに違いない。
……無理だな。
「5……、4……、スタンバイ………、マークインターセプト」
その瞬間、SSM-2Bが敵艦と重なり、SSM-2Bの反応が消えたと同時に敵艦が点滅し始めた。
ほかも同様だった。
……そして、その敵艦がレーダー上から消えるのにさほど時間はかからなかった。
「本艦のSSM-2B、1発弾着。敵艦の反応消えました」
「SSM-2Bの弾頭画像を解析。衛星にもコンタクトをとって敵情を調べろ」
「了解」
とりあえず、ミサイルの弾頭についている赤外線カメラを解析してどこに当たったかを確認。さらい衛星にも画像を提供してもらい、敵艦隊の状況を見る。
しばらくして、敵艦隊の状況が明らかになった。
まず、俺達が狙っていた『徐州』が轟沈。運悪く弾薬庫にぶち当たったようだった。
衛星からも、『徐州』がいるはずの場所が火炎と煙で見えなかった。
ほかにも、『重慶』『杭州』『泰州』が撃沈判定。
『遵義』『寧波』『金華』『舟山』が大破。
『台州』『黄石』が航行不能。何れも沈みつつある。
『連雲港』『洛陽』『綿陽』が速度大幅に低下。
……で、累計すれば撃沈4(もしかしたら追加で2隻)、大破4、速度低下の中破が3……。
……結局、
「……新鋭がほとんどやられたな……」
主力であろう江凱II型も全滅。ほかも結構やられまくって、これは文句なしの壊滅だな。
「料理は完了だな……。敵艦隊もこれで撤退をせざるを得ないだろう」
「しかし、乗員の救助とかは?」
「今そんなことしてる余裕ないと思うがな……」
と、艦長の読みは当たっていた。
残っていた艦はこぞって反転、即行で本隊のほうに戻っていった。
残っている艦なんてそのまま沈んでいって、そこに取り残された乗員は放置安定。
……ま、そうだろうねぇ。
「できるなら俺達が向かってやってもいいんですがね」
「残念ながら、今の我々にもそんな余裕はない。とりあえず、海保に海軍の護衛をつけて救助に向かわせろ」
「了解。『いずも』に進言しておきます」
とりあえず『いずも』に進言して、向こうで対処することになりました。
……ふぅ、では後は……、
「『いずも』より通信。作戦変わらず。進攻を続行せよ」
「やはりな……。艦隊が少し乱れた。艦隊を直そう」
「了解。……艦橋CIC、隊列戻せ」
『了解。隊列戻します』
隊列を戻して、そのまま進軍続行。
……すると、
「……ッ! レーダーに反応。友軍、築城からのF-2です」
やっと主役さんがご登場だ。
ここを通過し、さらに先にいるであろう敵本隊に向かっていった。
「後の料理は……。向こうにお任せか」
「空軍はプロですからね。うまい具合にやってくれますよ」
「うむ。……では、我々は進軍を続行する。艦隊を維持」
「了解」
艦長が宣言すると、俺達は艦隊を維持したまま南進。
料理をし終わった俺達は、そのまま沖縄を目指す…………




