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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第4章 ~中国・亜細亜大戦勃発~
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反撃の狼煙

―AM05:25 日本国首都東京 首相官邸1階記者会見室―






「……やはり結構集まっているな」


 私は隙間から会見場を見てそうつぶやいた。


 危機管理センターから急いでここに来たのはいいが、案の定もう会見場はマスコミでいっぱいだった。

 新聞関係だけではない。後方に大量のテレビカメラあるあたり、大手マスコミは全部来ているな。


 ……朝早くからご苦労さんだな。まあ、それが仕事だから仕方ないが。


「それでは皆さん、麻生総理がお見えになります。ご静粛にお願いします」


 報道担当官が知らせると、その場が一気に静まった。

 私の入るのを待っているのだ。


 彼は立ってた壇上から降りていったん脇の扉から部屋を出ると、私の元に来た。


「では総理、あとは手はずどおりに」


「うむ。すまないな」


「いえ……。では、後は後はお願いいたします」


「ああ。任せてくれ」


「では総理、こちらへ」


 私は彼と別れた後、秘書官の案内の下出入り口前に着く。

 そして、まず秘書官が入って私が到着したことを告げた。


「えー、それでは皆さん、総理がお見えになります。ご質問等は総理のご説明が終わった後に時間をとらせていただきます。それまでどうか、ご静粛に願います」


 彼が私のほうを見てアイコンタクトを取り、手を檀上のほうに差し出すと、私はゆっくりと中にはいった。

 すぐ左手には大量の記者たち。いつもどおりのしんとした雰囲気だったが、私が入ると同時にその手に持っていたカメラのシャッターを切る。

 まぶしい白い光が私の目にはいる。

 右手にはワインレッドカラーのバックカーテンがある。

 このバックカーテン、私が出るか官房長官が出るかで色が変わる。

 私が出るときはこのワインレッドか濃いブルー、官房長官が出るときは薄いブルーが使われる。

 どうやら今回はワインレッドらしい。まあ、ある意味今回のは我が国にとって重要な発表であるし、日の丸を連想する赤いカーテンでもしっくりくるだろう。


 私は目の前の演壇の前に立つ。


 前を向きなおすと、未だにまばゆいフラッシュが瞬いていた。


 少し時間を置いて、もう十分写真は収めたろうところで、私は右手を軽く上げて静止を促す。

 すると、記者たちも悟ったようだ。写真のフラッシュが一気に消えた。


 目の前の光景がよく見えるようになる。

 見慣れたマスコミの会社がいた。

 日照テレビ。富士山テレビ。JBC。旭日新聞。毎朝新聞。経産新聞。そして、インターネット関連では動画投稿サイトのものまでいた。

 公式の生中継機能を使った放送だろう。例のあの動画中にコメントが流れるやつだ。

 ある意味、あれのほうが主に若者も喰いつきやすいだろう。


「……ここにお集まりのマスコミ各社の皆さん、そして、今現在この報道を見ておられます国民の皆さん。朝早くから、私の言葉に耳を傾けていただき、感謝いたします」


 私はそういって切り出した。

 ここにいるものはなんとも言わない。誰もが、真剣にその眼差しを私に向けていた。

 あるものはカメラを。あるものは手帳を。そしてあるものは目の前のノートPCを必死にタイピングしていた。おそらく、本社との連絡用だったり、単純に記録用だったりするのであろう。


 私は続けた。


「……そして、このたびは今回の件に関して、皆様への報告が遅れましたことを、深くお詫びいたします」


 そういって私は深々と頭を下げる。

 その瞬間にまたフラッシュが瞬いた。目がまぶしい。


 頭を上げると、また私は続ける。


「……言い訳となってしまいますが、この件に関しては突発的事態であったため、情報収集、選定に大きく時間を要する結果となりました。しかし、いずれにしろ、これは我が方での情報掌握能力の問題であります。誠に、申し訳ありません」


 そしてまた私は頭を下げる。

 さすがにここではまたフラッシュは間立たなかった。あんまりしつこいとこっちもめんどくさい気分になるからな。


 頭を挙げ、ようやく本題に入る。


「……しかし、このたびようやくマスコミ、そしてこれを見てくださっている国民の皆様に報告することが出来るようになりました。まずは、今までの簡単な経緯を、国防機密に触れない程度に皆様にご報告いたします」


 そこからは、少しの間今回の戦争勃発に関する簡単な、かつ所によっては具体的な説明を行なった。

 すべて、ここは包み隠さず正直に話した。

 この戦争自体は実はとある機関からの情報筋ですでに知っていたが、国民に対しては混乱を懸念してあえて情報を提供しないでいたこと。

 こっちの読んでいた戦争勃発時期より早く開戦してしまい、対処が間に合わなくなったこと。

 それによって、沖縄に対する弾道ミサイル攻撃をすべてしのぐことが出来ず、一部は沖縄に弾着し甚大な被害がでたことを確認したこと。

 これに関しては思わず何人かの記者から核弾頭を懸念する声が出たが、私はすぐに否定した。

 また、これに関連して沖縄方面の住民の緊急避難を行なったが、すべてを完了できたかは不明であるということ。

 今、沖縄は中国の手に落ちつつあるということ。

 沖縄だけでなく、皆も知ってのとおりほかのアジア各国も甚大な被害を受けつつあるということ。

 それに対して我が軍は最大限の反撃をしたが、それでも一時撤退を余儀なくされたこと。


 ……等々。エトセトラエトセトラ。


 時たまざわついたりするときもあったり、記者たちの顔が青ざめることもあった。

 彼らにとっても、予想外のことばかりだったようだ。


「……では、私からの説明は以上となります。何かご質問等あれば、機密に触れない程度にお答えいたしま……」


 一連の説明を終えると、私は一呼吸を置いて質問を募集した。

 すると、私がすべて言い切る前に手が上がりまくった。

 瞬間、その質問の声が部屋中に響いた。


 ……気持ちはわかるが、もう少し落ち着いてだな……。


「ご静粛に願います。ご質問はお一人ずつ、お一人ずつ順番にお願いいたします」


 司会の報道担当官が静止を促すと、一気にその声が静まった。

 その代わりに、では自分が先頭をといわんばかりにその報道担当官の彼に発言の許可を願い出た。

 彼の許可を得ると、すぐに私のほうに向き直り、私に質問をぶつけた。


 何でも来たまえ。ここまできたら機密に触れない程度にしっかり包み隠さず正直に話すつもりだ。

 ……あくまで、機密に触れない程度にではあるが。


「旭日新聞の者ですが、今回の中国の侵略行為の主な狙いというのは?」


 ふむ。妥当な質問だ。

 誰もが気になるところだろう。


 ……そして、それは誰でもない、私が知りたいことなのだがな。


「申し訳ありません。それはどちらかというと中国自身に聞くべきですな。私がわかるのでしたら、おそらくそのときは皆さんも知っていることでしょう」


「では、日本政府としてのこれの見解については?」


 今度は違う人が手を上げつつ発言した。

 こちらはJBC。日本国民放送か。

 災害とかでは一番に活躍するな。彼らにはいつも情報伝達の面では助けられている。


「そうですな。我が政府の見解としては、やはり我が国や東南アジアにある資源や技術の確保が目宛名のではと考えています。というか、それ以外予想が付きません」


「なるほど……」


「あ、すいません。毎朝新聞の者です。今回のこの侵攻計画はいつごろからわかっていたのですか? その情報提供を受けた機関とは?」


 今度は毎朝か。こちらも御定番の大手マスコミだな。

 ……たまにへんなことを言うのがキズだが。


「申し訳ありません。そこに関しては機密事情によりお答えできません」


「では提供された機関は? うわさでは、アメリカで言うCIAのような、日本独自の機密機関があるとの情報がありますが?」


 おいおい、一体どこからそんな情報を得たんだ?

 だがまあ、そこらへんはさすがはマスコミといったところか。


 私は悟られないように、顔色を変えず、むしろ苦笑いしつつ言った。

 こう見えても、私はこういった突発的な演技が得意だったりするのでな。


「はは、一体どこからそのうわさを聞きつけたのかは知りませんが、あくまでうわさの域を超えませんな。我が国にはそのような機関を今さら作る必要性がありません。あっても即行でバレるでしょう。それに、機密性を保つには我が国はまだまだ経験不足です」


「はぁ……、そうでしたか」


 とはいっても、実はCIAに所属していた者達を中心に急いで創設して、そのCIAで経験したことを遺憾なく発揮させているんだがな。

 そもそも他国には、我が国はそういう機密情報を扱えないという先入観もあるし、そこらへんは我々のやりやすいところだ。


 そこからは、マスコミ記者の質問マシンガンがどんどんと飛んで来る。


「あの、沖縄に弾道ミサイルが落ちたということでしたが、その原因は?」


「原因、というか……、そもそも中国が撃った弾道ミサイルの弾数が桁違いであったということが上げられます」


「我が国の国防海軍のBMD能力に何か問題が?」


「いえ、我が国のBMD能力は完璧であり、沖縄に弾着する過程で相当数の弾道ミサイルを落としました。むしろ、そのおかげであれだけしか落ちなかったと見ていただいてかまいません。本当はもっと落ちる可能性があったのです」


「ッ……!」


 その質問者は顔を青ざめた。

 想像したんだろうな。大量の弾道ミサイルが落ちる光景を。

 ……今回ばかりは察してやろう。私だってそんな光景は見たくないし、想像もしたくない。


「しかし、弾道ミサイルはすべて迎撃できませんでしたが、この責任は一体誰が?」


「……え、責任?」


 責任って、これで責任?

 ちょっと待ってくれ。これで一々責任を云々言ってたらきりがな……、


「(ま た 旭 日 か)」


 またここか。ここはある意味毎朝よりヤバイ頻度で変な質問をするから困るんだよなぁ……。


 あのな、この場合責任もクソも言ってられんのだよ。

 これに関して一々それを言ってたらきりがないのだが? わかっているのかね彼は。


「責任、といいますが、この場合はあくまで我が国防海軍のBMD能力の上回るものを……」


「ですから、その責任は一体誰が?」


「あのですね、一々このようなことに責任を取っていたらきりがないのです。もしそれで責任を取れって言われたらこれの当事者全員の首を切ることになるのですが?」


「では、切ればいいじゃないですか」


 ズテッ。


「……あのですね、現実問題このようなことで一々責任をとるにしても様々な手間がかかるわけでして、あなたが言っていることはつまり一つの戦闘で負けたからすぐに首を切れといっているようなものです。それは、しいて言うならかつてのスターリンやヒトラーが行なった大粛清を再現することになりますがそれでもよろしいか?」


「うッ……。そ、それは……」


「しかし、かといって責任をとらなかった場合、旧日本軍の上層部のような状態になります」


 ここで言う上層部が云々、て言うのは、おそらくミッドウェーで南雲長官が責任を取らないで引き続き機動部隊司令官であり続けたことを初めとする、何らかの失態を犯した高官の雑な処理のことだろう。

 アメリカあたりであれば少しでも作戦失敗をしてしまえば即行で軍法会議にかけられて予備役直行だろうが、我が国ではそうではなかった。

 むしろ、南雲長官で言えば「仇をとらせてほしい」という言葉に上層部も納得してそのままもポジでいさせたほどだ。


 ……だが、


「(……それとこれとはいろいろと事情が違うのだがなぁ……)」


 確かに、弾道ミサイルをすべて迎撃し切れなかったことに関しては問題ではないとは言わないが、それで責任といってもなぁ……。


 ……仕方ない。もう少し深く話を入れるか。


「……はっきり言わせていただきますが、弾道ミサイル迎撃に当たったイージス艦はしっかり任務を果たしました」


「ですが、弾道ミサイルは……」


「私の話をしっかり聞いておいでですか? 私はあくまで〝弾道ミサイルの弾数が桁違いであった〟といいました。……つまり、我が国防海軍のイージス艦や、PAC-3は文句なしの働きをしたのです」


「いやですから、それでも弾道ミサイルが……」


 ああもう、わかったわかった。

 では、こういえばいいんだな? どうせ中国側にもばれてることだし、別に言ってもかまわんだろう。

 言うつもりはなかったが、別に国防機密に触れるわけでもあるまい。むしろ、向こうに弾道ミサイル攻撃を躊躇させることにもなろう。


「……言っておきますが、我が国のイージス艦のSM-3による迎撃の命中率は、文句なしの100%です」


「ひ、100……ッ!?」


 その場が一気にザワッとなった。

 そりゃそうだろう。100%、つまり百発百中だ。

 まあ、これを言った場合他国に我が国のSM-3の搭載弾数をばらすことになるが、どっちにしろ中国にもばれてることだ。全部迎撃してこなかった=SM-3が足りなかったとはバカでも考えることだからな。

 さらに……、


「つまり、SM-3が足りなかったと……?」


「はい。どれくらいの弾道ミサイルが来たかはお教えできませんが、持っていたSM-3は全部命中させました。うそだとお思いでしたら中国にでも聞いてみてください。……教えてはくれんでしょうが」


「……」


「では、弾着したのって……」


「PAC-3の迎撃が間に合わなかったのです。空軍を責めるわけではありませんが、今現在のPAC-3は最新型の、米軍から給与されたデータリンクの元、しっかり誘導しました。……それでも、落ちたのです。むしろ、それのおかげであれだけの被害ですんだのです。……迎撃に当たった部隊は、これほどにもない仕事をしたのです。ここまで言われて、まだ、責任がどうのといいますか?」


「……」


 ここまで言われると、当の記者も黙ってしまった。


 ……もういいだろう。誰かほかの話題をくれ。


「……あ、では、私から一ついいでしょうか?」


「うむ。いいでしょう。……毎朝新聞の方ですか。どうぞ」


「はい。では、私から一つお伺いします」


 中々丁寧な方だ。こういう人は中々好感が持てるというものだ。


「……おそらく、この後沖縄奪還のための反撃作戦を構築されるかと思いますが……、」







「はっきり言って、今現在の中国に対する勝算のほどは?」








「……勝算、ですか」


「はい。日本政府ではそれに関してはどのような見解を?」


 やはり、その質問が来たか。

 ある意味、誰もが気になっていたことだ。


 もう作戦自体は発揮されている。


 我が国防軍だけでなく、在日米軍、そして最強を誇る第7艦隊も参加した大規模反攻作戦だ。


 だが……、


「……確かに、今の中国の力は強大です。簡単に太刀打ちできるものではありません」


 同時に、相手取るのは一番厄介なものであることも確かだった。 物量というのはとても怖いものだ。

 それは、先の弾道ミサイルの大量攻撃でもまざまざと見せ付けられた。

 そして、沖縄本島への陸上侵攻でも発揮されている。……と、言いたいのだが、


 なぜ5日たって1/2しか侵攻されていないのか。揚陸兵力が少ないのか?

 なれないことをした結果。


「敵中国軍はアジアで最強を誇ります。我が国をもってして、必ずしも勝利を得られるとは思いません……」


「……」


 その質問した記者をはじめ、この場にいたもの全員が暗い表情になった。

 苦い心境だろう。必ずしも勝てるとは限らないといわれたらな。


 ……だがまあ、



 私は別にうちらだけで戦うなんていってないんだがな。



「……しかし、」


「?」


 私は少しうつむきかけていた顔を上げてはっきりといった。


「……我々は、もちろん諦めたわけではありません。今回の反撃作戦では、我が国防軍総戦力だけでなく、在日米軍、第7艦隊の全面協力を得ることにも成功しました」


「おおッ!」


 その場にいたものの表情が一転して明るくなった。

 少しざわつきかけたがすぐに収まる。


「……? ちょっと待ってください?」


「? なんですかな?」


 一人の記者だ。また毎朝である。


「今回の反撃作戦って言うあたり……、まさか、もう?」


「……察しがいいですな。そのとおりです」


 洞察能力がいいようだ。すぐに察せられたか。やはりそこらへんはマスコミだな。


「我々はすでに反撃作戦の構築を済ませ、すでに各部隊に順次行動に入るよう指示を出しました」


「おおおッ!!」


 一瞬歓声が上がりかける。


 こういうの結構好きなんだよな。結構重要なところをためてためてもったいぶるのが。


「どの部隊に指示を!?」


「それは機密で教えられません。ですが、少なくともこの作戦は、より確実に成功に導いてくれると確信しています」


「しかし、勝算は確実ではないのですよね?」


「もちろんです。ですが、それでも、この作戦は我々を勝利に導いてくれることでしょう」


「おお……ッ!」


 この場にいた記者たちが歓喜の声を揚げ始めた。

 笑顔になりつつメモ帳に必死にメモする者。ノートPCに必死に打ち込むもの。

 そして、うしろのテレビ関係者は、ふと見たら隣にいたキャスターが歓喜の声を揚げつつその模様を伝えているのが見えた。どのテレビ局も。


 ……いい気分だな。これは。

 しかし、ここは少し静かにしてもらおうか。


「皆さんご静粛に。……我々はすでに動き出しました。必ずや、沖縄を取り返して見せます」


 力強くそう宣言した。

 もういろいろとギャーギャーぐちゃぐちゃ文句を言ったり質問攻めをするものはいない。

 誰もが、私の言葉に耳を傾けていた。

 その表情は、最初とは違い笑顔であった。


 ……いや、希望に満ち溢れた目か。


「また、この作戦を制定するに当たり、作戦名を制定させていただきました。これに関しては別に国防機密に触れないため、ここに発表させていただきます」


「そ、その名前とは?」


「はい。……この、沖縄・南西諸島奪還作戦を、別名……」








「『ヤタガラス作戦』と、名づけました」








「や、ヤタガラスッ!?」


「そうです。ヤタガラスです」


 その場がまたざわつき始めた。

 ……いや、その由来を聞きあっているのか? あんまり知らない者もいるだろうからな……。

 おそらく、周りに聞いているのだろう。ヤタガラスの由来を。


「あ、あの!」


「?」


 そこで一人の記者だ。こちらは経産新聞である。


「ヤタガラスといえば確か……、日本神話に登場する3本足の鳥であったのですが、もしかしてそちらから?」


 ほほう、どうやらそういう古典系の話に長けているのかな?


「はい。そのとおりです。このヤタガラスは、日本神話に登場する伝説上の鳥からきています」


「おお……」


 周りもやっと納得したらしい。そのような声を発した。


 まさに彼のいったとおりで、これはそこからとられている。

 漢字で『八咫烏ヤタガラス』と書くそれは、元々は日本神話で登場する3本足の鳥である。

 日本神話内では神武東征じんむとうせいの過程で、高皇産霊尊タカミムスビノミコトという神によって神武天皇の元に遣わされ、熊野国から大和国へと道案内したとされる鳥であり、古の時代から信仰さているが、その書物等によって存在が異なり、日本書紀では八咫烏ヤタガラスの代わりに『金鵄きんし』という黄金のトビが登場し、役目が同じことから同一の存在であるとされていたりする。


 しかし、ここでは『八咫烏ヤタガラス』を採用させていただいた。


「この作戦が、日本神話内での『八咫烏ヤタガラス』のように、しかるべき目標へと導いてくれることを願って、この名前にさせていただきました。いうなれば、我が国防軍や在日米軍の友軍戦力は、その道案内をされる神武天皇のような存在です」


「おお……、なるほど」


「確かに……、この作戦にはピッタリだな」


 記者たちの間でも声が広がった。

 中々受けがよかったようだった。


「……では、さしずめその目標というのは、沖縄奪還というものですな?」


「左様です。この作戦は、沖縄奪還のために友軍戦力を導く重要な存在となるのです」


 私は一呼吸を置く。

 そして、改めて目の前の真剣な眼差しを向けている記者たちに、キリッとした顔を向けていった。


「……我々は中国に大きく遅れをとってしまいました。その結果、沖縄がとられつつあることは、誠に苦しい思いであります」


 すべては、こっちの情報掌握能力、そして未来予測能力の欠如が問題だった。

 我々の、先見の目が甘かったのだ。


「……ですが、我々は、ついに反撃の手を出すことが出来ます。遅れてしまった分は、しっかり返さねばなりません。遅刻をしたぶんのお返しをするのです」


「……それは、敵の中国に対してですね?」


「そのとおり。そして、それは沖縄にいる皆さんのためでもあります。……我々は、ついに下すことが出来るのです。このような、卑劣な行動を起こす中国に……、」






「正義の、鉄槌を下すことが出来るのですッ!」






 私は右手を目の前で握り締めて軽く前に突き出した。

 その瞬間、この場にいた者たちから歓声が上がった。


 ついに、反撃に出ることができる。


 その喜びが、今爆発したのだ。


 私はそれに負けないように声を張っていった。


「そして! そのための準備はすべて万端です!」 


 私が声を張り上げると、周りは一瞬で静まり返った。

 次の言葉を待つ。


「……すでに、一部の部隊は作戦行動に移っています」


「……そして、それらの部隊が……」


 一人の記者が言うと、全員の視線が改めて私に集中した。

 その質問に対する、次の言葉を待っているのだ。

 私の、次の言葉を。


 私は、それに答えた。


 おそらく、この言葉を期待しているのだろう。


「……そうです。一部の部隊はすでに動いています。そして、それらを含めた部隊は南方に向かい……」










「そこで、西からの朝日に照らされながら、反撃の狼煙を上げています」













 私は、天を仰ぎつつそういった。


 そして、その瞬間再び大きな、いや、爆発的な歓声が上がった…………

<ちょっとした日本神話捕捉解説+α>

神武東征じんむとうせい

日本神話内において、神武天皇カムヤマトイワレビコが大和国を征服して橿原宮かしはらのみやで即位するまでを書いた説話。一部では「神武東遷」とも記述されている。各書物で微妙に内容が異なる。

日向の高千穂(今で言う九州南部宮崎県あたり)にいたときに、兄の五瀬(いつせ)から東の方に天下を治めるのに適した場所があると聞いた神武天皇は、日向を発ち東へ向かう。各地であらぶる神々(おそらくその土地の有力者を神に例えたと思われる)を服従させ、幾多の戦いを経て大和国を平定することに成功。畝火うねび白檮原宮かしはらのみやで即位する。

この途中、熊野から大和国に向かう際に本文にも出てたように八咫烏ヤタガラス(または金鵄きんし)が登場し、彼を大和国まで案内することになる。


高皇産霊尊タカミムスビノミコト

日本神話に登場する神であり、別天津神ことあまつかみという重要ポストにある5人の神々のことを言う。

この神武東征の中では八咫烏ヤタガラスに命じて神武天皇カムヤマトイワレビコを熊野から大和の宇陀へと案内させた。


・熊野国

今で言う和歌山県と三重県の南部


・大和国

今で言う奈良県全域。

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