反攻作戦
―8月17日(月) AM05:00 日本国首都東京 首相官邸危機管理センター―
「……やっと準備が整ったか」
私は確認がてらそういった。
その先は新海国防大臣。
薄暗くディスプレイのテラス光が彼のキリッとした顔を映した。
開戦から5日。
中国に大きく遅れをとっていたが、いよいよ反撃の準備が整った。
ぴったし5日。
新海国防大臣の言ったとおり、有限実行でその機関居合わせてくれた。
彼も、はっきりと答えた。
「はい。何とか、統合参謀本部と協力して反撃作戦の構築を完了しました。すべての部隊も準備を整え、一部の部隊はすでに配置についています」
「うむ。……では、その作戦内容を聞こうか」
「はい。では、こちらをご覧ください」
そういうと、目の前のテーブル一面に真上に向くように置かれている大型の液晶ディスプレイの上に、立体的に地図が浮かんできた。
上を向くように。それは、南西諸島・沖縄方面を表示していた。
同時に、沖縄・南西諸島より北、BLS-40海域より西の東シナ海のところが薄赤く表示された。
「それでは、今回の作戦の説明を始めます。まず、この薄赤く表示された部分が、今の中国の勢力圏です」
そういって持っていた指し棒をその立体映像でテーブルの上の空間に浮かんでいる地図を上から軽くポンッと叩くしぐさをする。
すると、テーブルを上に表示された地図が反応し、その薄赤く表示されたところの上に『Chinese Sphere of Influence』(中国勢力圏)と表示された。
指し棒の動きや音声に反応して動くあたり、最近の科学技術の進化と言うものはすごいものである。
新海国防大臣が続けた。
「今中国はこのエリアを中心に活動しています。おそらく、ここにある主要諸島を手中に収めてからほかの地域にいくものと思われます」
「ふむ……。電撃戦、といっているわりには結構慎重なのだな」
それに答えたのは、同じくここに赴いていた杉内統合参謀本部長である。
「おそらく、慣れない離島侵攻を無理に推し進めた結果でしょう。揚陸艦不足による投入できる陸上戦力が限られたためかと。近年海軍力に力をいれてきたとはいえ、元々向こうはどちらかというと陸軍国ですし、海上を使った侵攻作戦に関する戦術・戦略ドクトリンが不十分であるでしょうから、方針を変えたのかもしれません」
「ふむ……。なるほどな」
簡単に言えば経験不足が祟ったということか。
ならなんでそもそもこんな攻めにくい離島・諸島に攻めこんできたのかがわからんな。
まさかこれによるリスクや問題点を承知でないわけでなないだろうしな。もしそうならはっきりいって〝バカ〟だろう彼らは。
「とにかく、中国が沖縄に張り付いている今がチャンスです。向こうがここから動けないこの隙に、国防軍、そして在日米軍総勢力を結集させた大規模な反攻作戦を行います」
チャンスは今だけと言うことか。
確かに、一点に留まっている今が攻撃しやすい。
確かに、タイミングとしては今だけだ。
「総勢力、となると、やはり揚陸艦『あかぎ』『かが』も投入するのか?」
「はい。すでに各基地で兵力搭載を済ませています」
ここで出た『あかぎ』『かが』とは、軽空母である『いずも型CVL』をモデルとした軽空母兼強襲揚陸艦である。
洋上補給能力や病院船能力を取っ払った代わりに、いずも型やおおすみ型で足りなかった陸上兵力搭載能力を向上させたもので、その搭載能力は今米海軍で最新鋭の『アメリカ級強襲揚陸艦』に匹敵する。
名前のモデルはもちろんかの米軍に最強と言わしめた
一航戦こと第一航空戦隊の中心的存在だった正規空母『赤城』と『加賀』である。
かつては航空戦の主力だったが、今回は離島奪還の主力としての活躍が期待されている。
「この2隻には第7艦隊の揚陸艦隊に合流してもらい、南から侵攻してもらいます。……が、」
「が?」
「……馬鹿正直に正面から突っ込ませては確実に被害が出ます。それも、少なくない被害が」
「……まあ、だろうな」
そりゃそんなことをしたら向こうはとて総出で反撃に出るに違いない。
揚陸艦の方に被害が出たりでもしたら、それこそそのあとの上陸作戦で支障がでてしまう。
「ですので、その前に舞台を整えます」
「舞台を?」
「はい。この作戦の前章。いわばプロローグというやつです」
本番の前段階か。
確かに、舞台を整えなければ、最高の演劇はできないしな。
「まず、今回の反撃作戦の上で一番厄介なのは沖縄に進駐している大規模な敵航空部隊です。まずはこれを叩きます」
「進駐? でもあれは最初の空襲で……」
「それなのですが、衛星画像を拝見する限り、どうも大陸沿岸で待機していた沖縄方面担当の航空部隊のほとんどがここに進駐しているようなのです。滑走路やエプロン自体はやられてませんでしたから、おそらくこれを予測して……」
「最初から利用するつもりだったということか……?」
「しかし、一体なぜにそんなことを?」
その疑問を投げかけたのは仲山副首相だった。
彼もここで作戦説明に参加していたのだ。
それに答えたのはまたしても杉内統合参謀本部長である。
もはや彼は解説、ないし補足的な役割を担当しているな。
「おそらく、このエリアでの航空作戦活動を円滑に、かつ迅速に行なうためでしょう。彼等の目的は沖縄に留まりません。ゆくゆくはさらに北に向かいます。そのために、ここを主要拠点としている可能性が高いです」
「なるほどな……」
確かに、彼等の目的は沖縄の奪取ではない。
時が立てばさらなる北への侵攻を始めるだろう。
そのための、いわゆる主力拠点とするつもりなのか。
確かに、沖縄は日米合わせても結構な規模の空軍基地がある。
それらを最大限利用すれば、十分主力拠点として活用できるだろう。
「ですので、まずはここを無力化します。今敵が進駐しているのはこの、沖縄那覇空港に隣接する那覇空軍基地、嘉手納基地、下地島基地の3つですが……」
そういってまたポンッと浮かび上がっている地図を叩くと、まず、大陸方面から赤い矢印が3本伸び、それぞれの空軍基地のほうへ延び、それぞれ『Enemy Air Unit』(敵航空部隊)の表記が浮かび上がる。
そして、矢印が伸びきると、その3つの空軍基地の名前が浮かび上がった。
『NAHA Air Bace』(那覇空軍基地)、『Kadena Air Bace』(嘉手納空軍基地)、『Shimojishima Air Bace』(下地島空軍基地)。
ここに、敵航空部隊が進駐し、重要拠点としている。
これら3つの基地の総戦力はとても計り知れないものであろう。
特に嘉手納は厄介だ。
元々米軍が使っていたがために、規模はでかい。パンパンにいれればより大規模な航空部隊を置ける。
「我々はこれを最初に手を打ちます。グアムに進駐しているB-2爆撃機部隊を用いて、今から40分後の午前5時45分に、この3つの基地に奇襲攻撃を仕掛けます」
そういってまたポンッと叩くしぐさをすると、地図がいったん少しだけズームアウト。
グアム基地が隅っこに表示されると、そこから3つの青い矢印が伸び、先ほどの3つの基地に伸びた。
そして、それの脇には『B-2 Surprise Bombing Unit』(B-2奇襲爆撃部隊)と表記がでる。
B-2爆撃機とは、別名〝スピリット〟の愛称で知られる、米空軍で運用されているステルス戦略爆撃機のことである。
水平尾翼および垂直尾翼がない全翼機と言う特徴的な形は、かつてのドイツ試作戦闘攻撃機であるHo229を連想させる。
ステルス性を重視した設計であり、細部にわたってその配慮がなされている。
また、爆弾搭載量もとてつもないものであり、まさに爆撃機としては理想的とも言えるものである。
だが、それゆえに1機あたりの価格がとんでもないことになり、ざっと20億ドル(1ドル100円換算で約2000億円)である。
これはあの高価といわれているイージス艦を余裕で1隻買えるほどであり、さすがにこんなバカ高いものを何機も買ってられないので、元々は132機の製造を予定されていたそれは、結局試作機も含めて21機しか製造されなかった。
少数生産ゆえに、それぞれの機体に州名を使った愛称が付けられている。
グアムには元々配属されていなかったから、おそらく今回の事態を受けて急いで移したのだろう。
一応サンチェス大統領からも「在日米軍に対して要請をくれればすぐに指定された目標地点に爆撃させる」というお言葉を受けているし、それならせっかくだし存分に使わせてもらおう。
というか、それでなくても高価で戦地に出すのをためらうほどのものをよく使っていいなんていったな……。
……いや、むしろ逆に考えるべきだろうか。そうでもしないと自分達にとってまずいということだろうか。
この中国の攻撃を見逃すということは、それはつまり中国の太平洋進出を事実上認めるということ。
そうなれば太平洋での利権も脅かされることになるだろうし、黙ってみているわけにはいかないか。
新海国防大臣が続けた。
「お得意の夜間爆撃です。すでに部隊は飛び立ち、爆撃命令を待って待機しています」
はは、準備がいい。
「なるほど。それが反撃の第1段階か」
「そのとおり。それを持って、反撃の号砲が鳴ります」
反撃の号砲か。
B-2御得意の奇襲爆撃で、その号砲を鳴らすということか。
……中々ド派手な号砲だな。だが、嫌いじゃない。むしろ好きなタイプだ。
「そして、次に第2段階に移ります。北から、軽空母『いずも』を旗艦とした海上戦力を南へ動かします」
そういってまた地図を上からポンッ叩くしぐさ。
それに反応して、地図では佐世保あたりに船を上から見た形をした青いアイコンが表示され、そこからから青い矢印が伸び、BLS-40海域ラインを乗り越えて沖縄本島に伸びた。
「ふむ、北からか……。ん? 北?」
ちょっとまて。最初南から侵攻させるとか言ってなかったか?
北のこれは何なんだ? 同時に動かす別働隊か?
「ちょっと待ってくれ。確か君、最初南から侵攻させるとか言ってなかったか?」
その疑問に関しては仲山副首相が聞いてくれた。
それにも新海国防大臣は即答で答える。
「はい。あくまで南から侵攻します。……〝主力は〟」
「主力は? ……ということかこの部隊は……?」
「はい。……この部隊は、あくまで敵を引き寄せるための〝囮〟です」
そういってまたポンッと叩くと、その青い船のコマンドから青く小さい線がちょっとだけ伸び、その上に『Japanese‐American Combined A Fleet - decoy Fleet』(日米連合A艦隊 - おとり艦隊)と表記がでる。
……なるほど。これはあくまで主力が南から行きやすくするためのおとり。
ここでひきつけるのは、敵の沖縄方面をつかさどる主力の『遼寧機動艦隊』。
それさえひきつければ、後は残党が残っていても南の主力艦隊でどうとでも対処できる。
「しかし、おとりを作ったって衛星からの映像で即行でばれるのでは?」
一人の幹部が聞いた。
それに関してもすぐに即答する。
「問題ありません。アメリカが今しがた、衛星をハッキングし、使えなくしました。今中国は、宇宙空間からの情報を得ることが出来ません」
「なにッ!? 衛星をハッキング!?」
「はい。ハッキングです」
おいおい……。仮にも国営の衛星だろ? そんな簡単にジャックなんてできるのか……?
まあ、アメリカならやりそうではあるが……。中国でさえアメリカのPCにハッキングしょっちゅうしてるしな。
……だが、それでもよくやったな。
いずれにしろ、これは我々にとって大きなアドバンテージだ。
宇宙空間からの監視さえなくなれば、向こうの敵情監視能力は大きくそがれる。
それは、我々のより自由な行動を意味する。
「そうすれば、中国は自分達の持っているレーダーや、ヘリ、ないし戦闘機からの空撮情報からしか敵情を得ることが出来なくなります。そうなれば、一番最初に見つけたこのおとり艦隊にひきつけられることは確実です」
「なるほど。それで仮に行くから残っていても、それは小規模の残党で、後は主力が抑えることが出来ると」
「そのとおりです。さらに、このおとりが主力であるという信憑性を出すために、最新鋭艦をいくつか入れています。先ほど言った『いずも』に、ヘリ空母の『ひゅうが』、あたご型護衛艦にこんごう型、そして、あの『やまと』もこれに入れます」
「やまともか?」
「はい。やまともです」
『やまと』といえば、我が国が世界に誇る最新鋭ミサイル巡洋艦だな。
なるほど。そんな最新鋭艦なら普通は主力にいれていると考えるはず。
それなら、いくらおとりであろうとも先入観でいくらかは主力と見られるかもしれない。
「もちろん、これには在日米海軍も参加しており、このように北からエサをつるすことによって敵艦隊を釣り上げるわけです」
指し棒をまたポンッと地図上で叩くしぐさをする。
すると今度は、沖縄本島の東シナ海沿岸あたりに赤い船を上から見た形のコマンドが表示され、そこから赤い矢印がそのA艦隊の矢印のほうに伸びた。
そして、赤い船のアイコンから赤く短い線が延び、『Enemy Main Fleet』(敵主力艦隊)の表示が出る。
……釣り上げる……、か。
まるで、敵艦隊が魚みたいじゃないか。
……まあ、似たようなものか。
「……だが、そのエサはとてつもなく精巧に作られたルアーだったのだな?」
「そのとおりです。そして、それに気づいたころには時すでに遅し。見事に釣り上げたその敵艦隊は、後はそのおとり艦隊と、築城から発進するF-2攻撃部隊が攻撃します。F-2からは、我が国自慢のASM-3を盛大に大盤振る舞いします」
「お、大盤振る舞いって……」
はは……、なんとなく微妙に笑えない冗談だな。
時間帯的に早朝か。朝からこんな朝飯を食わされたくはないな。
F-2はかの有名なF-2戦闘機。F-16をモデルとし、対艦ミサイル4発を搭載できる、まさに対艦攻撃特化型戦闘機だ。
もちろん、ACM戦闘も可能だ。
そしてそれに搭載するASM-3は、我が国自慢の超音速空対艦ミサイルであり、最初よりいくらか小型化されているため、F-2にはASM-2と同様両主翼に2発ずつ、計4発搭載できる。
ラムジェット推進で飛んでいくそれは、最高速度は実にM5,5を誇り、まさに音速を超える槍だ。
……そういえば、どこぞのモンスターを倒しつつストーリーを進めるゲームの中に光の矢なんてものがあったな。
愛称にぴったりではないかな? 光の矢。
……別に音速は超えても光速は超えるわけではないのだが。
「敵艦隊を釣り上げたら、いよいよ南から主力艦隊を動かします。仮にこれを、B艦隊と呼称します。こちらには揚陸艦を大量に編制し、そこに第7艦隊と残りの国防海軍艦艇の護衛を受けて、太平洋を大きく迂回しつつ沖縄の南から突っ込みます」
その説明をしながらポンッと上から地図を叩く。
すると、横須賀・呉から青い船のアイコンが表示され、青い線を引きつつそれが四国沖で合流。一つの大きな青い船のアイコンになると、そこからまた青い矢印が伸びて、太平洋を大きく迂回しながら沖縄に南から突入する。
……というか、東にある南大東島すら太平洋側に迂回するじゃないか。どれだけ迂回する気だ。
……まあ、別にかまわんが。
「沖縄に南から突っ込んだあとは、すばやく揚陸艦から上陸部隊を派遣。北から来ているA艦隊も、敵艦隊を撃破出来次第これに合流し、上陸部隊を支援します。その後は……、まあ、説明するまでもありませんね」
「反撃の隙を与えず、とにかくすばやく侵攻し沖縄を奪取……、だな?」
「そのとおりです。そのためには、陸だけでなく空・海からの支援も不可欠です。ある意味、陸に負担をかけないようにしつつすばやく進軍できるかは、この支援がどれだけ行き通るかできまります」
「空・海からの支援か……」
まさに、総力戦か。
とにかくすばやい行動が作戦を左右するということか。
……どこの部隊もあわただしくなることだろう。
「また、これに付け加えて、今奄美大島に進駐している第1空挺団にも、伊江島に空挺降下してもらいます」
すると、またポンッ叩くしぐさをし、奄美大島から青い矢印が伊江島に伸びた。
そして、その矢印の上に『JPGDF 1st Airborne Brigade』(国防陸軍隊1空挺団)の表記がでる。
伊江島は沖縄本島の北、すぐ近くのにある小さな島であるが、ここに一体何の用が……?
私はすぐに聞いた。
「ここに空挺作戦を行なわせる理由は?」
「米軍筋の情報ではありますが、ここに予備の司令部施設があるとの情報があったためです。予備とはいえ、残っていては厄介ですので空挺部隊に叩いてもらいます。一々海上から揚陸艦送ってる暇ないですので」
「ふむ……。なるほど。予備司令施設か」
確かに、それこそ本部は沖縄本島にあるだろうが、予備が残されていては厄介だ。
それでは指揮統制能力を完全にそぎ落とせない。
なるほどな。確かに、早いうちに落としておくのが吉だ。
「……なるほどな。それが、作戦の全容か?」
「はい。これが、今作戦の一連の流れになります。とにかく、スピードが鍵を握ります」
「スピード……、か」
すばやい展開か。
それならむしろ我々の得意分野だ。米軍との共同行動もお手の物だ。
大丈夫。これならいけるだろう。
「また、この作戦を制定するにいたり、わがほうで作戦名を付けさせていただきました」
「ほう。どんな名前かね?」
「はい。それは……」
私はその作戦名を聞くと、思わずニヤリッとした。
この作戦内容にあまりにもあっていたのでな。
「……とにかく、以上が作戦概要の説明です。何かご質問は?」
「いや、とくにない。……それにしても、」
「?」
私は立体映像かされて目の前の空間に浮かび上がっている地図を見ていった。
敵を示す赤いアイコン。赤い線。味方を示す青いアイコン。青い線。
私は、なんとも感慨深い心境に陥る。
「……ついに、出ることができるのだな。反攻に」
「……はい。向こうに大きく遅れをとってしまいましたが、いよいよ動き出すことが出来ます」
「ああ……」
ついに反攻に出れる。
開戦から5日。
やっと反撃に出れる音に、なんともいえない喜びを感じていた。
「出遅れた分は、しっかり返さねばならんな」
「誰でもない……、敵にですか?」
仲山副首相が聞いた。
「それもある。しかし、一番は沖縄の人々にだ。すぐに助け出さねばならない。その分、敵のも、そして沖縄にいる味方や住民の皆さんにも、返さねばならない」
「ふむ……、沖縄にもか。時間はかけたくないですな」
「ああ。……直ちに行動に起こさねばならんな」
焦ってるわけではないが、私はとにかく沖縄を奪還したかった。
沖縄ももう限界のはずだ。1/2くらい占拠され、残りはより北の山間部に逃げている。
そこで、最大限の反撃をしているだろうが、それでももう限界が来ているころだ。
……彼らを解放せねばならない。一国も早くだ。
「では、この作戦計画は承認、ということでよろしいですね?」
「ああ、もちろんだ。直ちに作戦行動に入るよう各部隊に通達したまえ」
「了解。では、まずは……、えっと、今からですと約30分ほど後のB-2の奇襲爆撃ですね」
「うむ。作戦開始の伝達は頼んだ。……では、」
「?」
「……私も、少し席を外すかな」
そういってテーブルの前から離れる。
そこで呼び止めたのは新海国防大臣だ。
「? どこにいくんです?」
「ああ、ちょっと待たせている者たちがいるのでな」
「? ……待たせてるって、誰をです?」
「……記者会見室だ」
「え?」
「記者だよ。記者会見室に、各マスコミを待たせてるんでな」
実はこれの少し前に、各マスコミにファックスを送って記者会見を行なう旨の知らせを送っていたのだ。
理由は言わずもがな。この戦争に関する事態の説明と、反撃に打って出るという報告をするためだ。
1時間くらい前に送ったから、もうすでに会見室は満杯だろう。
今は午前4時すぎの早朝だが、それでもくるのが彼らマスコミの仕事だ。
なんともお疲れさんである。
「今回の戦争に関する説明と報告ですね?」
一人の幹部が言った。
「ああ。情報開示が遅れてしまったのでな」
「はぁ……、またボロクソに言われるんだろうなぁ……」
そういってため息をつきつつ言ったのは新海国防大臣だ。
……彼、結構昔からマスコミが大嫌いだったらしいしな。
曰く「僕の知ってることと全然違うことばっかり報道してて報道機関の意味を成してない」ということらしい。
……まあ、概ね同意ではあるが、それがマスコミであるし、今に始まったことでもないことも事実だ。
それは、彼自身が一番よく知っていることだろう。
彼も、史上最年少の国防大臣、……当時で言う防衛大臣に就任したときとか「まだ経験もない若造が役に立つのか?」とボロクソに叩かれて、内閣発足してすぐなのに精神的にやられていたりして、それを励ますのに結構体力使ったからな……。
だが、そんなことを私に言われたときも私は「有能だから採用したんです。一々文句を言われる筋合いはない」と突っぱねたほど彼は有能なのだ。
今では彼も立派な国防大臣として活躍してくれている。
今ならはっきり言える。確かに若造ではあるが、私の知る限り彼ほど有能なものはいない。その経験もない若造を舐めるなとな。
「まあそういうな。今回ばかりはそういわれても仕方ないよ。国民への情報開示が遅れてしまったし、大いに怒りくるってても仕方がない」
「でも、軍事関係に詳しくないド素人がグチグチと文句をいう権利は……」
「口を慎みたまえ。なに、そんなこと私はなれてるし、今に始まったことじゃない」
「……」
「とにかく、君はすぐに行動に移りたまえ」
「……了解」
少し不服そうではあったが、とにかく行動を優先した。
彼も部下に指示をしつつ動き始める。
……では、私も行くか。
「……では仲山副首相。ここは頼む」
「はい。お任せを」
「うむ。……では、」
「少し行ってくる」
私はそういってこの部屋を離れ、上の官邸1階の記者会見室に向かった…………




