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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第4章 ~中国・亜細亜大戦勃発~
48/168

〔F:Mission 4〕台湾艦隊撤退戦

王傑ワン・ジエ(52)

 階級:中将

 所属:台湾民主国海軍艦隊司令官(131艦隊)

台湾民主国海軍の艦隊司令官である。

情に厚く、部下からの人気も高い人柄である。

軍関係者に知り合いや友人が多い。

仕官時代からのたたき上げであり、その能力は軍上層部も一目を置くほどである。

実は、日本国防海軍ミサイル巡洋艦『やまと』艦長の織田大佐と少し面識があったりする。

―TST:PM14:15 澎湖諸島ポンフー・チュンダオ北30海里地点

          台湾主力艦隊131艦隊旗艦『丹陽』司令部作戦室(FIC)―




「敵艦隊から第2派攻撃来ます!」


 台湾主力131艦隊司令官の私『王傑ワン・ジエ』中将は、FICで受けたその報告に絶望を受ける。


 今我が艦隊は北への撤退を大急ぎで進めていた。


 主力が北方面にあったがために、敵が南方から侵攻してきたと聞いて急いで南にいったが、すぐに司令部から北への退避命令が下った。

 少し不服であったが、とにかく命令は命令なので即行で退避を始める。


 ……が、


 敵はただでは撤退させてはくれなかった。


 艦隊から分派させた部隊をわがほうに派遣。

 直ちに追撃を開始した。

 元々から退避が遅れた我が艦隊はすぐに敵艦隊の攻撃射程外に収められた。

 上空ではおそらく艦隊援護ないし空対艦攻撃部隊の戦闘機が迫っていたが、我が国空軍の戦闘機部隊が、捨て身で抑えてくれたことにより、空からの攻撃は最小限度に抑えられ、それでも打たれたものは何とか迎撃に成功した。

 だが、海からのものはどうしようもなかった。

 敵の放った大量の対艦ミサイルにより、主に旧式艦が被害を受けた。

 最初の第1派で、濟陽ジーヤーン級フリゲート艦『汾陽フェンヤーン』『蘭陽ランヤーン』が撃沈。『寧陽ニーンヤーン』『宜陽イーヤーン』が大破で戦闘不能。

 成功チュヨンゴーン級フリゲート艦『鄭和ジュヨンホーァ』『繼光ジーグワーン』が撃沈、『張騫ジャーンチエン』『班超バンチャオ』が大破した。

 運よく康定級フリゲート艦は撃沈被害はなかったが、それでも『昆明クンミーン』がC4Iやレーダーといった電子機器がやられ、戦闘不能。『武昌ウーチャーン』が近代化改修で新たに装備されたVLS装置に不具合が発生し、対空ミサイルの発射が不可能となり、同時に機関にも不具合が発生して速力が低下していた。ただし、近接火器は生きている。さらに、『承德チュヨンドーァ』が横っ腹にミサイルを受けて大破した。


 ……まあつまり、




 この時点ですでに旧式を中心に艦隊が壊滅的被害を受けているのである。




 だが、幸いこの最新鋭イージス艦である本艦『丹陽ダンヤーン』と『媽祖マーズゥ』は無事だし、護衛の『旗風チィフオン』『島風ダオフオン』ががんばってくれたおかげで無傷である。

 ほかの艦もまだ生き残っている。


 せめて、少しでも多く生きて返さねばならない。


「敵艦隊より対艦ミサイル攻撃第2派探知!」


 FICに設置されている大型のディスプレイには、自艦隊を中心に、針路を上にしてみて下のほうから複数の小型の目標が飛んできた。

 赤いアイコン。対艦ミサイル。さっきと同じタイプのミサイルだった。

 これまた大量。主に手負いの艦に向けていた。


 まずい。今攻撃されたら確実に沈む!


「全艦、第2派迎撃! CICFIC(FICよりCIC)! 対空戦闘、敵ミサイルを最大限迎撃せよ!」


『CIC了解。敵ミサイル迎撃に入ります』


 本艦の戦闘指揮自体はCICに任せている。

 ここ、FICは艦隊へ向けての全体に対する指示だ。

 そして、私はここの長でもある。


「友軍艦隊より対空ミサイル発射確認。本艦からも、SM-2発射確認」


 オペレーターが報告した。

 ディスプレイ上では、我が方に迫り来るミサイルに向かっていく大量のミサイルを確認。

 青いアイコン。友軍の対空ミサイルだった。


 本艦はイージス艦でもあるため、VLSからとにかく艦隊防空ミサイルであるSM-2を放つ。

 本来SM-2はイージス艦しか使えない。あくまで艦隊防空用で、広範囲で多数の目標を捕捉して使うからだ。

 なので、それが搭載されていないものに関しては、大破艦の近くについて個艦防衛用のESSMを放つか、旧式のシースパローを放つかして迎撃していた。


「インターセプト10秒前。……9、……8、」


 弾着まで10秒をきった。

 ミサイルはしっかり対艦ミサイルのほうに向かっていた。

 ちゃんと誘導されている。


 ……だが、


「……どう見ても対空ミサイル足りないな……」


 どれだけ大量に撃ちやがったんだ向こうは。

 相対比的に3:2の割合で足りない。

 全部当たったと仮定しても全然足りない。


 そのうちに、


「5……、4……、スタンバイ………、マークインターセプト」


 両者のミサイルアイコンが重なった。

 その瞬間、大量のミサイルがディスプレイ上から消える。


 ……全部ではないが。


「ッ! 10発健在! 我が艦隊の近接防空システム射程内!」


 やはり、完全には落とせなかった。

 対空ミサイルは見事に8割越えの命中率だった。

 しかし、それでも10発も残ってしまった。


 狙われている艦はすぐに速射砲を放ち始める。


 このとき、狙われていたのは大破艦が中心だった。

 止めを刺しにいっていると思われる。

 近くにいる援護艦が必死に近接火器をぶっ放す。

 それでも、敵のミサイルが多い。

 対処に限界があった。


「……ッ! 敵ミサイル1発命中! 『宜陽イーヤーン』が沈みます!」


 大破していた『宜陽イーヤン』が更なる攻撃を受け、止めを刺された。

 回避のために面舵していたが、かわしきれなかったようだった。

 右舷にモロに喰らい、弾薬に引火した艦は大爆発を起こして轟沈してしまった。


 さらに、


「敵ミサイルさらに3発命中! 『班超バンチャオ』『張騫ジャーンチエン』『蘇澳スゥアオ』に被弾! 『班超バンチャオ』行き足止まります!」


 さらなる被弾艦が出た。

 同じく大破していた『班超バンチャオ』が浸水拡大。機関にも入り速力が低下し、完全に止まるのにそれほど時間がかからなかった。

 おそらく、沈むのもそれほど時間がかからないであろう。


 ほかも、かろうじて生き残っているのが、浮いているのが精一杯の状況だった。

 沈みはしないだろうが、戦闘能力は完全に失っただろう。


「クソッ……! これでは全滅ではないか。いずれ本艦にも……」


 こちらに攻撃の手が加えられるのも時間の問題だ。

 早く離脱しなければ……。敵とて、対艦ミサイル攻撃にも弾数的に限度がある。

 ましてや、さっきからあんな大量に撃ちまくっていたらすぐに切れる。我が航空部隊の奮戦のおかげで対艦攻撃は防がれているしな。

 だが、まだもう一回残しているはずだ。

 とにかく、今すぐに北に……。


 だが……、


「……大破艦を置いていくわけにもいかない……」


 大破艦の速力が低下していることを受けて、そちらにいくらか合わせないといけない。

 置いていったらそれこそ敵の攻撃にさらされる。それはまずいことだ。


 だが、だからといって速力合わせていたらこっちにも被害が……。


 なんというジレンマだろうか。どうすればいいんだ私は……。


「(……覚悟を決めるか……?)」


 どうせ弾数的に見ても後一回なんだ。これさえしのげればもう向こうは勝手に退く。

 それまでの辛抱なら……。


「……ッ!」


 しかし、




 次の報告で、私はもう一方の選択をしなければならなくなる。





「い、一部の艦が増速しつつ急速反転しています! 『武昌ウーチャーン』『承德チュヨンドーァ』『張騫ジャーンチエン』『蘇澳スゥアオ』『寧陽ニーンヤーン』の5隻です!」






「なにッ!?」


 ディスプレイ上では確かにその5隻が反転していた。

 もうほとんど90度反転しきり、さらに方向を転換していた。


 バカな、私はそんな指示をした覚えはこれっぽっちもないぞ!?


「現在反転中の艦に告ぐ! 現在貴艦の反転指示は出していない! 直ちに針路を戻せ! 繰り返す! 直ちに針路を戻せ!」


 少し暴言になったがとにかく指示を出す。

 このままでは、敵の次の攻撃の標的に……、


『……こちら、栄えある台湾民主国フリゲート艦『武昌ウーチャーン』。艦隊旗艦『丹陽ダンヤーン』及び、北に退避しつつある友軍艦隊へ』


「?」


 いきなり向こうからの無線だった。

 内容からして、すべての艦の無線に届いているはず。


 何をする気だ? 一体何を考えている。

 まさか、離反などということはあるまいな。


『……我々は、覚悟を決めた』


「……は?」


 ここにいた全員が「?」を頭の上に思い浮かべた。


『……これより、本艦及び反転中の4隻は、敵艦隊に対する……』






『攻撃の、おとりとなり、友軍艦隊の撤退を援護する。なお、帰還は望めない!』






「ッ!? ば、バカな!?」


 つまり、捨て身の突撃に行くということか!?

 なにをバカな!? いくら我々を援護するからってなぜそんなことを……ッ!?


「旗艦『丹陽ダンヤーン』より『武昌ウーチャーン』! 私は艦隊司令官の王中将だ! そのような宣言は認められない! 撤退は我が艦が援護する! 直ちに戻れ! 繰り返す! 直ちに戻れ!」


 思わず無線をとって直接叫んだ。

 どうせ後一回なのだぞ? ここでいちいちおとりを使う意味がわからない。


 しかし、向こうの意思は変わらなかった。


『……申し訳ありません。そうはいってももう遅いです。我々は突撃を開始しました。貴艦隊の援護を始めます』


「なにが援護だッ! 貴様らはどこぞの宇宙戦艦アニメの主人公の兄か!? あんなのはアニメでしか通用しないのだぞ!?」


『でしたら、現実でも再現するのみです。……どっちにしろ、我々の命はもう長くありません。次の攻撃で、遅かれ早かれ我々は死ぬのです』


「だ、だがな!」


『運命はもう決まっているのです。なら、我々のすべき行動は一つ』


「うるさい! 兆銘ジャオミーン! 貴様聞いているのか!? さっさと艦隊に戻れ! さもなくば命令違反で更迭するぞ!」


 おもわず脅迫に出てしまったと同時に、旧友の名前呼びで言ってしまう。

 彼とは訓練学校で先輩後輩の仲だった。人のいい奴で、とても母国のことを愛していたやつだったんだ。

 軍人としても優秀だ。彼を失いたくないのだ。

 彼だけではない。それにしたがっている乗員も……、


『……申し訳ありません。何度もいいますが、我々はすでに覚悟を決めました。現に、大量の乗員で動かす必要がある本艦が、反転しているではありませんか。それが、何よりの証拠です』


「ッ……!」


 確かに、艦を動かすには大量の乗員がいる。

 それらの息が合わないと思うように動けない艦が、しっかり反転していた。

 ほかの4隻も同様だった。


 それは、自ら覚悟をすでに決めていることを、何より表していた。


『もう我々は持たない。あなた方も、母国を守ることも出来ない。それなら! ……せめて、お国のために、そして、我が栄えある台湾海軍のために、せめてものお手伝いをさせていただきたい。……あなた方を、逃がすための囮をさせていただきます』


 その結果死んだら意味がないではないか。

 お守りの意味をわかっているのか? あれに自分達が死ぬなんて項目はなかったはずだぞ?

 あのアニメのようなことはアニメだけで十分なんだよ。現実で再現する必要はないんだよ!


『それに、敵の攻撃が本当に後一回とは限りません。もしかしたらまだ温存している可能性もあります。そしたら、それこそあなた方にも被害が出ます』


「……」


『……それに、』


「?」


無線越しにフッと笑う声が聞こえた。


『……その中のイージス艦2隻と護衛の2隻、日本からの贈り物ですよね? それを沈めてしまったら日本に申しわけが立ちませんよ。司令部からも、それだけは何としても持ち帰れとのお達しです。……これのおかげで、そちらへの攻撃が防げるなら、それこそ、我が国にとっても日本にとってもうれしいことなのです』


「……」


 確かに、主力として活用しているこの『丹陽ダンヤーン』と『媽祖マーズゥ』、その護衛の『旗風チィフオン』と『島風ダオフオン』は日本からの贈り物だ。

 中々高性能で、即行で主力になっただけのものだ。

 ここで失ったり、被害を受けたりしたら、我が海軍の大きな戦力低下になるのは間違いないだろう。


 それを守るために……?


『主力の4隻を戦力から失うより、たかが大破してどっちにしろこの戦争では使い物にはならないだろうフリゲート5隻を失ったほうがいくらでもお釣りが来ます。後々役に立つのです』


「……」


 天秤にかけたら、確かに主力4隻はとても役に立つだろう。

 イージス艦2隻、その護衛2隻と、2隻のそこそこのフリゲート、そして3隻の旧式フリゲートを比べたら、重要性で行ったら前者だ。

 こっちを守ったほうが様々な面で利益が出る。


 だが、それでも……、私は……。


『……ついでです。王さん』


「?」


 向こうも最後をすでに覚悟をしている。こうやって司令官をつけないで言うあたりからも伺えた。


『……家族に、いつまでも愛していると伝えて置いてください。私からの遺言です』


「馬鹿野郎ッ! そんな遺言など許さんぞ! そんなこと、自分から直接家族に言え!」


 そんな映画とかであるような決め台詞じみた遺言など私は嫌いなんだ。

 なんで最初から相手に行っておかなかったんだと。

 私から言ったって意味はない。それは、自分で言ってはじめて意味を成すんだ。


「私はいわないからな! 言うなら自分で……」


 しかし、彼は最後まで言わせてくれなかった。


『……そろそろ敵の攻撃が来ます。……王司令官を初めとする、この無線を着ている全将兵に告ぐ』


「?」


 それが、


 彼のいった、最後の言葉となった。


『……こんな、不甲斐ない結果となり、本当に申し訳ない。だが、我々は、あなた方と戦えて光栄だった。無事、皆が帰還できることを祈る。そして、必ず、台湾を救ってほしい。……私たちの、故郷を、美しき国、台湾民主国を、……必ず、やつらから、取り戻してくれ。……我々にはかまうな』









『行け!』










 その瞬間、無線が消え、プーッという電子音に変わった。

 一言一言、しっかりかみ締めて、自ら自分の意思を再確認するように言った。


 そして、無線が、一方的に切られた。


「ッ!? お、おい! 『武昌ウーチャーン』応答しろ! おい! 聞こえてるのかッ!?」


 私はさらに叫んだ。

 必死だった。仲間を勝手に失うことを許したくなかったのだ。

 だが、それに答えることは二度となかった。


 その代わりに、


「ッ! 離脱艦5隻、さらに増速! 同時に、『武昌ウーチャーン』から小型目標分離! 対艦ミサイルと思われます!」


 ディスプレイ上では、確かに『武昌ウーチャーン』から8発の小型目標が表示された。

 対艦ミサイル。国産の雄風II型だった。

 今ここで対艦ミサイルを撃てるのかあの艦だけだった。

 あくまでVLSがいかれただけだったのだ。


 だが、それでも8発だけだった。


 敵艦隊の対空防御は鉄壁だった。

 あっという間に8発のミサイルを叩き落してしまった。


 そして、


「……ッ! 敵艦隊から小型目標分離! 対艦ミサイル発射! 離脱艦5隻に集中しています!」


 奇しくも向こうの思い通りにことが進んでしまった。


 敵ミサイルが5隻に集中した。


「し、司令……」


 部下が指示を促す。

 敵との距離が近い。今からSM-2を放っても全部は無理だ。


 もう、彼らを助けることは出来ない。


 ……クソッ、


「……全艦、機関全速。北へ全速力で退避する」


「ッ! し、司令!?」


 部下も反論しかけた。

 彼も、同じ状況だったのだ。

 私だけではない。

 ここにいる全員がそうだった。


 ……だが、


「……彼等の意思を裏切ることは出来ない。もう、今から助けることはかなわないんだ」


「で、ですが……」


「もう今からは無理なのだ。わかってくれ。……全艦、後ろを振り向くな! もてる速度をめん一杯出して北へ退避しろ!」


 無線機に向けて叫んだ。

 本艦もすぐに増速。速力を最大まで上げ、艦隊陣形を保ちつつ北に向けて退避した。


 ……その間に、


「て、敵ミサイル、離脱艦5隻の防空網突破! ……ッ! 敵ミサイル命中! 『承德チュヨンドーァ』『張騫ジャーンチエン』『蘇澳スゥアオ』『寧陽ニーンヤーン』に2発から4発命中! 沈みます!」


 大破艦が追い討ちをかけられた。


 元からボロボロの船体にさらに攻撃をくわえられ、その力に耐えれなかった。

 4隻がディスプレイ上から反応が消えるのに、さほど時間はかからなかった。


 4隻が沈没した。


 残るは、彼の乗っている『武昌ウーチャーン』だけだった。


 幸運にも、さっきの攻撃を生き延びていたのだ。


 ……だが、


「ッ! 敵艦隊よりさらに小型目標分離! 少数です。 ……ッ!? ぜ、全部、『武昌ウーチャーン』に向かっています!」


「なッ!?」


 クソがッ! 完全に止めを刺す気か!

 なぜその分がこっちにこないんだ! こっちにやる分はもうなかったのか!?


「……すべて、あいつの思い通りになってしまったと言うことか……ッ!」


 クソッ……、あの野郎……ッ!


「し、司令、まもなく海域を離脱します」


「……」


 もう敵艦隊の射程外に出るか。

 敵もミサイルはないはずだ。もう追ってくることはないだろう。


 ……。


「……そのまま離脱だ」


「……」


「……何をしている。復唱したまえ」


「あ、は、はい。現状維持しつつ当海域を離脱。全艦に伝えます」


「うむ……」


 私はディスプレイを見る。

 南には、たった1隻だけ取り残された『武昌ウーチャーン』。

 そこに迫り来る数発の対艦ミサイル。

 向こうはミサイルが使えない以上近接火器しか使えない。

 しかし、それも限界がある。


 もう、生存は絶望的だった。


 どうあがいても、ここから生き残ることは不可能だった。


「……クソッ……、すまない兆銘ジャオミーン……、本当に……、」








「本当に……、本当にすまない……ッ!!」









 私は、涙を流しながらこぶしを強く握った…………。















“みなさん! 早く逃げてください! ここは私たちが抑えますから!”


“待って『武昌ウーチャーン』! もう無茶ですよ! いいから早くそっちも……!”


“今さらなこといわないでください! もうここから逃げれるわけないじゃないですか!”


“ッ! ……で、でも……”


“……旗艦のあなたが、そんなか弱い声を出さないでください。あと、何度も敬語はやめてくださいって言ってるじゃないですか”


“い、今はそんなことどうでも……”


“……あなたにあえて、そして、一回だけでしたけど、ともに戦えで光栄でした。台湾初のイージス艦であるあなたに出会えましたしね。……台湾をお願いします。旗艦として、そして、初のイージス艦として。……日本生まれですから、私たちの立場での、いろいろとわからない感情とかあるかもしれませんが……”


“……”


“……私の故郷、”










“……お願いしますね……。天国ティヤオグオから、見てますから……”










“ッ!? ……う、『武昌ウーチャーン』さんッ!? 聞こえますか!? 『武昌ウーチャーン』さん!? 応答してください! 『武昌ウーチャン』さん!”


“だ、ダメだ姉さん……。反応、完全に消えた……”


“こっちも……。反応が消えました。対艦ミサイルを迎撃しきれずに……”


“そ、そんな……”


“……姉さん……”


“……そんな……ッ!”












“『武昌ウーチャーン』さぁぁぁぁぁぁぁああああああんッ!!!!”

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