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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第4章 ~中国・亜細亜大戦勃発~
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苦境の台湾

―TST:PM14:05 台湾民主国首都台北 大統領官邸地下情報管理室―







「も、もう上陸したのかッ!?」


 私は報告を聞いて思わず叫んだ。


 地下に設けられた情報管理室。

 ディスプレイがいたるところに張り巡らされ、国家の危機に陥った場合はすぐにここに情報が集積されるようになっている。

 光はそのディスプレイの光ぐらいだ。


 そんな部屋の中で報告を持ってきたのは金国防大臣だったが、敵がもう本土の上陸したというのである。


 我々は北から来ると思い、そっちに戦力を集中させていたが、敵は北からは来なかった。


 逆に南から来た。上陸地点は高雄市楠梓ナンズー区の海岸線だった。

 そこは戦力が比較的少ない。


 そう。おもいっきり見込み違いをしていたのである。


「はい。敵は高雄市の楠梓区に上陸を開始しました。迎撃に当たった海軍と空軍戦力は壊滅。今近くの主力が迎撃していますが、どれだけ効果があるか……」


「クッ……。やはり北からこなかったのか……ッ!?」


 首都をさっさと落とすほうが思いっきり楽なはずなのに。逆を突いた?

 わざわざめんどくさい南から来た。これは一体どういうことなんだ?

 東海艦隊が日本を相手にするのに手一杯だからか?それの関係か?


 理由はわからない。しかし、私たちは先入観で戦力を配分させすぎてしまったようだった。


「南には一応主力も配備されていたはずだ……。今動員できる戦力は!?」


「先ほどもいったように、近隣にいた主力艦隊を総動員。空軍戦力も同じく近隣から向かっていますが……」


 しかし、そこで割ってはいるのは黄首相である。


「しかし、敵戦力は強大との報告があります。日本でも艦隊を早々に撤退させたようですし……」


「に、日本も艦隊を撤退させたのかッ!?」


 初耳の情報だった。


 まだ開戦間もないが、日本ですら迎撃するのは困難なほどなのか?

 アメリカの支援があったはずだが、それですら……?


 もしかしたら、北から来ないのはやっぱり東海艦隊総動員でおきわな制圧に向かっているからかもしれない。


「はい。どうやらそのようです。詳細は不明ですが、東シナ海の沖縄方面はは中国の艦と戦闘機で埋め尽くされています。すでに、一部は沖縄に上陸しているとの情報も」


「クソッ……。沖縄での反撃は出来ていないのか?」


「それが……。最初の弾道ミサイル攻撃でほとんどが壊滅させられたらしくて……」


「なッ……!?」


 やっぱり、最初のあれで陸上戦力が壊滅させられたのか……。


 いや、状況としてはこっちも同じか。


 初っ端から中国方面から弾道ミサイルが放たれたのはこっちも同じであり、主に被害は中部から南方に集中した。

 首都方面にも来たが、こちらは少数で、それらは新型イージス艦丹陽と媽祖によってすべて落とされた。

 ゆえに、首都方面の被害はない。

 本当は中部あたりに向かって飛んでいた弾道ミサイルも迎撃できる射程にあったのだが、弾数に限りがあったため、やむなく首都方面に向かっているものを優先させた。

 これは事前にそのような状況になったらそうするよう伝えてはいた。おかげで、首都に落ちてきた弾道ミサイルは皆無だった。

 だが、ほかは深刻だ。

 最後の報告では、高雄市をはじめとする南方各都市は壊滅的被害を受け、 死者死傷者は数え切れない規模に膨れ上がっている。

 敵が南からくるということを始めて知ったのはそのすぐ後だった。


 南海艦隊。それが台湾方面に接近していた。


 空母をまかなった大規模艦隊。中には揚陸艦も含まれていた。

 間違いなく、こっちに上陸する。

 そこから、急いで軍と警察総動員で北への市民の退避が始まった。

 だが、今日の早朝に日本から弾道ミサイル攻撃を号砲に中国が責めてくると直接連絡を受けていたことをうけ、「北から首都方面に攻めてくる」と見ていたそのときの私たちは、即行で南への退避を促したが、今度は北への逆退避を支持することになり市民や避難誘導をしていた警察や軍が大混乱。

 北へ向かう高速道や一般道は渋滞が発生。完全に行き足が止まり、やむなく徒歩で北へ向かわざるを得なくなった。

 電車やバスといったインフラも完全に機能しなくなった。というか、そもそも最初の弾道ミサイル攻撃でそのインフラも少なからず被害を受けていた。

 そして、挙句の果てには飛行機で北、ないし東の太平洋方面に逃げようとし、自家用機を持っている者たちが空港にごった返し、空港の地上グランド担当管制官の指示を無視して我先にと離陸しようとして空港が大混乱。

 元より離陸しようとしていた中・大型旅客機が飛べなくなった。

 その結果、遅れて飛んでいった民間機が危うく落とされそうになる場面が続出。むしろ今まで落とされたものがいないのが奇跡だ。

 ……尤も、報告を受けているもの限りで言えばであるが。

 しかし、敵が近くなってくると、飛行機での移動も諦めたらしい。滑走路近くまでいた旅客機もすぐにターミナルに戻るないしその場で止まって乗客を下ろしたら即行で北へ移動。

 だが、ここでもたもたしていたものは例外なく退避が間に合わないのは想像に難しくないことだった。


 そして、さらに追い討ちをかける事態として、敵の上陸が早すぎることが上げられた。


 予測上陸時刻としては、夕方ごろがあげられた。

 これは、敵がいかにもノロノロときていたのと、向こうが上陸作戦になれていないことを考えてのことだったが、予想外にも早すぎた。

 そもそも、敵の揚陸艦隊はフィリピン方面に向かうとの情報があったが、あれはなんだったんだ?

 おもいっきりこっちにきてるじゃないか! 突然の攻撃による混乱のせいで情報が錯綜しているのか?


 だが、このタイプの情報ミスは勘弁してくれ。後々に響くのだよこれは。


「とにかく、今は高雄市にいる敵艦隊を迎撃しなければなりません。海軍の総戦力を持って敵艦隊を迎え撃つべきです!」


 黄首相がそう進言した。

 普通ならそうだ。そう考えるのが当たり前というものだ。


 だが、それに否を示したのが、金国防大臣だった。


「いえ、迎撃に向かわせるのは同意しますが、あんまり積極的にいかせるべきではありません」


「なに? どういうことだね?」


 積極的に。

 つまり、損害が少しでも出たら即撤退ということを言いたいのだろう。


 だが、状況的に考えてそうでもしないと敵が……。


「日本が、なぜ早々に友軍戦力を撤退させたのかわかりますか? 沖縄に敵が上陸することを承知しているはずなのに」


「?」


「……何が言いたいのかね金国防大臣」


 私も質問をぶつけた。

 聞かれた彼は、遠回りせず単刀直入に言った。


「……戦力の温存です。考えてみてください。相手の戦力は強大です。そんな中迎撃に向かっても、ほぼ確実にこっちが返り討ちにされます。違いますか?」


「うっ……」


「……」


 確かに……。今我々の戦力を全部統計しても、向こうから派遣される戦力には到底足りない。

 なんかの奇跡が起きたり、向こうがヘマを犯したりしない限り、我々はほぼ確実に返り討ちにされて壊滅してしまう。

 悲観云々などではない。これは、現実的に考えた結果なのだ。


 それでは、たとえ向こうに損害を与えれても、こっちも損害を受けてプラスマイナスゼロ。いや、むしろ戦略的に見ればマイナスだ。大いにマイナスだ。


 つまり、それを防ぎたいということなのか?


「日本だって、それを承知の上なんです。ですから、後々反撃するときに戦力をためておきたかったんです。……どっちにしろ負けは確定なのなら、せめて戦力だけは温存しておきたい方向の選択をしたんです。……今の我々だって、状況は同じでしょう?」


「……」


「しかし、君はさっき主力を迎撃に向かわせたと……」


 黄首相が疑問をぶつけた。

 確かに、損害を出したくないといっておきながら、迎撃はしている。

 これはどういうことだ?


「ああ、すいません。説明足らずでした。あれは簡単に言えば“遭遇戦”です。本当はさっさと北に退避させたかったのですが、先に敵の分派隊が主力艦隊に接近し、やむなく戦闘に突入しています」


「なッ……!」


 最初に迎撃しているといったのも、敵の主力にではなく“自分に向かってきた分派艦隊”に対してであったということか。それをさっさと言えと。


 となると、空軍はそれの援護か。だが、敵の総戦力を考えるとやはり限界があるか。

 おそらく、そっちも壊滅するのは時間の問題か。

 だが、一番壊滅してほしくないのは海軍だ。

 こっちは戦力がものすごく限られている。

 特に、最新鋭のイージス艦2隻だけは失いたくない。

 我が国にとってはかけがえのない虎の子なのだ。

 これを失ったら、我が海軍の大幅な戦力低下は避けられない。


 そして何より……、


「(……せっかくの日本の好意を沈めたくない……ッ!)」


 ある意味、いや、ある意味でなくても個人的なことだが、これはたぶんここにいる全員が思っていることだと思う。

 信頼性の高い日本製の艦船だ。簡単には沈まないだろうが……、


「……とにかく、戦力を温存する方向でいかねばならない。となると、今艦隊は北方へ撤退している途中なのだな?」


「はい。とにかく全速力で北へ退避しろと伝えています。空軍戦力にはそれを最大限援護しろと。しかし……」


「?」


「……少なからず被害がでることは確実です。とにかくイージス艦を初めとする主力級の艦船だけは守り抜くよう指示をしますが、それ以外は……」


「ぬぅ……」


 とにかく敵の戦力がでかすぎるのが大きい。

 これでは撤退できても向こうからの第1派だけでどれだけ損害が出るかわかったものではない。

 対するこっちは主力が遭遇戦とはいえ総動員しているというのに……。


 物量攻撃の恐ろしさを今改めて思い知らされている。

 中国お得意の数でのごり押しだ。


「……艦隊は今どこにいる」


「えっと……、これです」


 テーブル上にある薄いディスプレイに表示されている我が国の本土と周辺の海域を示した地図のとある一点をさす。

 そこは我が国本土の南にある嘉義シャージー市、の海を挟んで西にある澎湖諸島ポンフー・チュンダオから北30海里の地点だった。


「……そこに艦隊がいるのか?」


「はい。そこを、北に向かって撤退中です」


「むぅ……で、敵艦隊は?」


「最後の報告では……、ここですね」


 そして指を動かした先はさらに南、澎湖諸島から西南西40海里の地点だった。

 となると、互いの距離は大体60海里……。


 ……結構近いじゃないか。


「今はどのような状況だ?」


「まだ報告は上がってません。しかし、最新の報告では、護衛の艦がいくつかやられ、今なお攻撃にさらされていると……」


「クソッ……」


 大体察してはいたが、すでに攻撃は始まっていたか。

 しかも、もう何隻かやられているのか……。


「……とにかく、何度も言うが、どうにかして主力だけは守りぬけ。どうにかしてでもだ」


「了解」


 そう返事すると、金国防大臣は周りにいた部下にさらに指示を出す。

 また忙しく動き始めた。


「……頼む……、」






「何とか生き残ってくれ……」








 私は人生でこれほど強く願ったことはなかった…………

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