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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第4章 ~中国・亜細亜大戦勃発~
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苦悩の決断

―AM09:45 日本国首都東京 首相官邸地下危機管理センター―





「て、撤退させるのですか!? 一体なぜ!?」


 首相官邸地下の危機管理センターに下りてきた、仲山副首相は思わず叫んだ。

 ここでは、国家の危機に伴う情報が集積されており、広いこの部屋のいたるところにディスプレイやモニター、そしてパソコンがある。

 簡単に言えば、現代の軍艦のCICをそのまま拡大し、より多機能化したものだった。

 ゆえに、中は少し薄暗い。

 光るのはディスプレイやモニターの光くらいだった。


 そんな部屋の中で叫んだ彼のその声の先は、その報告を持ってきた新海国防大臣と、統合参謀本部長の『杉内茂すぎうちしげる』だった。


 彼は海自幕僚長、海軍参謀長を経ての、いわば海軍一筋の人間であり、海上作戦立案に大いに貢献している。

 参謀長としての能力はとても高く、軍内でも中々頼りにされる人間だった。


 そんな彼と新海国防大臣が持ってきたのは、『今現在東シナ海に展開している友軍の即時撤退』だった。

 いや、一応私たちは知っていたのだが、仲山副首相をはじめ何人かの閣僚は諸事情(といってもほとんどがマスコミの振り払い)で遅れてきたため、今改めて説明して、そしてさっきの叫び声である。


 まあ、私は少し前から知っていたのだが。


「どうしてです!? 一体なぜそんな選択を!? 沖縄の人々は!?」


 思わず前のめりになっていた。

 ……少し落ち着きたまえ。仮にも副首相だというのに……。


 新海国防大臣も思わず止めに入る。


「お、落ち着いてください仲山副首相。……おっしゃりたいことはよくわかります。しかし、これしか方法がないのです」


「と、といいますと?」


「……」


 新海国防大臣は少しうつむきつつ言った。


「……沖縄下地島、及び那覇基地を初めとする各基地から、日米混制の戦闘機部隊が迎撃に上がりました。その数、40機にも及びます。……それらが、どうなったかわかりますか?」


「よ、40機も送り出したんならむしろ戦力過剰ともいえるが……。どうなったんだ?」


「……」


 さらに一呼吸置く。

 私は先に説明を受けてその内容を知っている。


 ……少しの間固まったがな。


 だが、無理もない。その部隊は……、


「……壊滅ですよ。約8割も喰われて、生き残ったものといえば、下地島の部隊と、あとは那覇にいた部隊の所属が何機かです。……それ以外は、全部やられました」


「か、壊滅……ッ!?」


 同じく今説明を受けているものたちは思わず閉口して固まってしまった。


 事実はそのとおりで、沖縄にいる航空基地から送った迎撃の戦闘機部隊がものの見事に壊滅してしまった。

 下地島の部隊が全員無事だったのはある意味幸いだったといえる。

 最前線だけに、最精鋭を集めただけあった。


 しかし、それ以外はものの見事に壊滅である。


 もちろん、手放しに喜べるわけはなかった。


「そ、その生き残った戦闘機隊は?」


 後ろにいた山内外務大臣が聞いた。

 彼も、仲山副首相と同じく少し遅れてこのタイミングでこの場に来て説明を受けたのである。


「北上して奄美大島に逃げ込みました。以後、そこ周辺から福江島西50海里を結ぶラインをBLS-40と命名し、そこを最終防衛線としています」


「BLS-40……」


 BLS-40ライン。


 正式名称は海上封鎖線(Blockade line at Sea)という名称であり、そこを最前線に指定してせめてここから先は通さないようにするラインのことである。

 40という部分は、単にこの時間の40分に制定されたというだけで、あくまでこれはとりあえず指定しておく簡単な名称なので細かい意味はない。


「ですが、それだと沖縄の人々は……」


「……」


 一番胸に来る内容だった。

 そう。この決断をするということは、簡単に言えば沖縄の人々を“見捨てる”ということになる。

 これは本心やりたくないことだった。

 当たり前だ。沖縄とて自国の領地だし、そこに住んでる人々も自国の民族。

 それらを見捨てて背を向けて逃げることになる。


 沖縄の人々を、〝裏切る〟ことになるのだ。


 ……だが、


「……どっちにしろ、これを防ぐ手立てはありません。今ある戦力で迎撃に向かったって、さっき言った航空部隊みたいに壊滅させられるのがオチなんです」


「だ、だがそれでは……」


「おっしゃりたいことはよくわかります」


 そこに割って入ったのは、新海国防大臣の隣にいた杉内統合参謀本部長であった。


「今ここで戦力を撤退させるのは時期尚早とおっしゃりたいのでしょう。……しかし、」


「? しかし?」


「……それでは、むしろ敵の作戦に加担することになります」


「なに?」


 副首相が首をかしげる。

 迎撃することによって敵の作戦に加担する。


 これに深い意味がまだ読み取れていないようだった。


「敵の戦力は強大です。友軍の到着を待っていてはすでに沖縄に侵攻されているでしょう。また、逆に今ある戦力で迎撃に向かっても、むしろ敵を助けることになります」


「どういうことだね?」


「敵戦力が強大すぎて、今迎える戦力がちっぽけすぎるんです。向かわせたところで、いくら我が方の艦の性能が良くても、数の暴力で押し切られて無駄に失うばかりです。そうでなくても我が軍の戦力はまだ拡大途上でそれほど戦力はないというのに、今ここで無駄に失えば後々の作戦に響きます。……反撃に使う戦力が、少なくなってしまうんです」


「ッ!」


 いざ反撃するときになって戦力が少ないと意味がない。

 ここで無駄に消耗しても、あの物量では数で押し切られて終わりな未来しか見えない。


 ここは、あくまで温存でいくべきと見たのだ。


「反撃時に戦力的に問題が起こるんです。あの戦力に対抗するには、こっちも出来る限り温存せねばなりません。……国民を守ろうとして無駄に犠牲を出しても、それで奪還できるはずがないんです」


「……ですが、これでは国民は絶対納得しないのでは……」


「わかっています」


 そこに新海国防大臣が割り込む。


「ですから、せめてもの反撃はしました。事前に敵艦隊が通るであろうルートの海底に14式キャプター機雷を満遍なく仕込みました。これには事前に敵艦の水上艦、潜水艦の音紋をすべてインプットしてありますので、どれかに該当する音紋を探知したら即座に魚雷を放ちます。また、各機雷には光ファイバーの有線データリンクを一つの機雷群ごと仕込んでいますので、目標が重複する可能性を最大限落としています」


「機雷をか……」


 ここで出た14式キャプター機雷とは、我が国が開発した新型のキャプラー機雷である。

 そもそもキャプター機雷というのは、機雷の代わりに缶に入れられた魚雷を打ち出す機雷で、名称のCAPTORキャプターもEncap・・・sulated Tor・・・pedo(魚雷収納カプセル)から来ている。

 元々は深深度を航行する潜水艦攻撃用だったが、我が国でそれを独自に改良させてもらったものだ。

 アメリカのMk60キャプター機雷を参考に開発し、カプセルには12式短魚雷を装填している。


 それを敵艦隊が通るであろうルートにあらかじめ大量にちりばめ、そこを通った瞬間魚雷が一斉に攻撃するように仕掛けたのだ。

 また、これは後からわかることなのだが、これによって敵艦隊でも被害が出ていたらしい。

 艦種は不明だが、フリゲート艦が1隻運悪く沈められ、3隻が大破ないし航行不能で戦線離脱。駆逐艦2隻がこれまた大破。潜水艦も、原潜が3隻ほど被害を受けて沈められたらしい。


 しかし、これには不確定情報も多い。なにしろ、ギリギリまでその海域に張り付いていた潜水艦から受けた報告を元に換算しているからだ。

 後々、衛星からの映像が届いたらこれの報告と合わせて被害を受けた艦種の鑑定をする予定だ。


 だが、いずれにしろ全体的にはそれといった損害でないことには違いなかった。


 機雷を使っても、これが限界だったのだ。

 通ったルートから考えると、本当はもっと多くの機雷が反応したはずなのだが、おそらくそのほかは回避してしまったのだろう。

 いち早く発見されてしまったに違いない。


 そこらへんはやはり機雷の限界と、あと向こうの錬度の問題だろうな。

 昔とは違って侮れないものになってきたのは事実だ。

 どれほどか走らないが、逆を言えば未知数ともいえる。


 決して、向こうの錬度は昔とは違うということがこれで証明されたかもしれないということだった。


「とにかく、これでせめてもの反撃はしたものの、これが精一杯でやむなく撤退するしかなかった、ということで手をうっていただければ、〝まだ〟何とかなると思います」


「ふむ……、そうか……」


 まあ、この場合はあくまで〝まだ〟なんとかなるって程度だろう。

 少なからず紛糾するに違いない。

 もちろん、私だってこの選択を支持して、実際に各部隊に指示を出してしまった。

 責任は私にある。


「……しかし、中国はこれで最悪の手を切ったことになりますな……」


 最初からこの場にいた菅原官房長官が言った。


 まったくだ。いかなる理由かしらんが、向こうは最悪の手を打って出た。

 これによるリスクを知らないわけはないだろうが、これによる損害は“双方に”でることになるぞ……。


「ああ……。これによる手は早急に打たねばならない。新海国防大臣」


「はい」


「……反撃作戦の構築にはどれくらいかかる?」


「……」


 新海国防大臣は少し考え、そして顔を上げて答える。


「……1週間、いえ、5日ほど時間をいただければ。今日中に生き残っている全軍をそれぞれの母港に移して急ぎ再出撃体制を整えます」


「作戦は?」


「今現在策定中なのがまもなく出来ます。それをこの5日中に首相に公表できれば」


「うむ……」


 5日……、か。


 短いようで、なんとなく長いな……。

 ……それまでは、


「……それまでは、沖縄の人に我慢してもらわねばならないのか……」


「……はい。そうなります……」


「……」


 5日……。

 これの間、一体どれだけ沖縄の人々を苦しませることになるのか……。


 そう考えると、事前と胸が苦しくなるな。


 もっと早く行動できればいいのだが、これ以上はさすがにな……。


「……とにかく、できる限り早く準備を済ませます。それまでの辛抱です……」


「うむ……、わかった」


 とりあえず……、








 反撃の準備を、しっかり、かつできる限り早く整えていくしかないな…………

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