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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第4章 ~中国・亜細亜大戦勃発~
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撤退命令

―AM09:27 同海域 DCGやまと艦橋―





「て、撤退ってどういうことですか!?」


 俺は思わず叫んだ。


 二回に分けて行われた弾道ミサイル攻撃。

 数が多すぎて、すべてを迎撃することはできず、一部がそのまま沖縄に落ちてしまった。


 しかし現実は、その結果に呆然とする次回すらくれなかった。


 司令部からの突然の撤退命令。

 今すぐにこの海域を脱出しろというものだった。


 ……今日は朝から突然のことばかり起きすぎだ。

 しかも、なんの反撃もしないで撤退だと?

 司令部は一体なにを考えているんだ……?


「どういうことだ!? まだ我々は反撃すらしていないではないか!?」


 副長ですらこのザマだ。


 納得できるはずがない。なんでこう早々と俺達側が退かなきゃならないんだ?

 普通なら友軍到着を待って敵艦隊迎撃に向かうべきだろ?


「どうって言われても、司令部からそのような無線連絡が……」


 通信担当員もこのしどろもどろである。


「クソッ。……司令部は一体何を考えているんだ……?」


「なんでだ……? なんでこんなさっさと撤退しなきゃならないんだよ!?」


 航海長も思わず近くの壁に艦内通達用の無線を持ちながら叩いた。

 その顔も、怒りに満ち満ちていた。


 周りもほとんど似たようなものだった。

 いきなりの撤退命令に、思わずあわてるものもいれば、意味がわからず怒りぶちまけるやつだっていた。

 全員、納得がいかないんだ。

 普通なら、何度も言うけど味方を待ってすぐに迎撃をするべきだ。

 ……だが、こうやってさっさと退けという。


 俺達、〝人間〟だけじゃない。


“ねぇ! そっちも指令きた!?”


“こっちもきたよ!”


“ふぶきのほうにもきました! 今さっき無線で!”


“ちょっと! どういうことよ!? さっさと南下して敵迎撃しないの!?”


“私に言う!? それ人間の人が考えることだけど!?”


“わた……ふぶきさんもちょっとこれ意味が……”


“えぇ……? なんで? どういうことなの?”


 護衛の皆さんが焦りまくってます。

 艦も同じか。納得がいってないらしい。


 ……ていうか、


「……あれ? やまとは?」


 さっきから全然声が聞こえない。

 こうやって周りが騒いでいるのに、向こうの会話に参加してないのは不自然なんだが……。


「……やまと?」


“……”


 だが、返事もなかった。

 ……どうしたんだあいつ?


「な、なあ、やまと? ……おい、やま……」


“大樹さん”


「?」


 やっと返事が来る。

 だが、その声は力なかった。


 俺はそれを聞き。すべてを悟る。


 ……こいつ……、


“……ミサイル、落ちたんですか?”


「……」


 全部を迎撃できなかったことが相当ショックだったらしい。

 しかも、落ちたのが沖縄だ。あいつにとってはある意味思い入れは深いもののはずだ。

 だが、これはあくまで搭載弾数の問題だ。

 今迎撃できるイージス艦が少なかった上、こんなに撃たれたら……。


「……ああ」


“……何発、落ちました?”


 んなもん、自分だってレーダーでわかってるくせに……。


「……5発。……と、再突入時に迎撃したミサイル4発分の破片だな」


“……”


 向こうの再びの沈黙。

 ……最新鋭のイージス艦として、相当な責任を感じてるんだろうか。


 ……だが、


「(……責任で言えば俺達人間のほうだろ……)」


 むしろ、お前らは一番の仕事をしたくらいだろ。

 SM-3発射したやつ百発百中だぜ?

 ほんと、今の科学技術の進歩ってすげえよな。

 宇宙空間をとんでもないスピードで飛ぶミサイルを撃ち落すとかな。


 そして、それを見事に成し遂げるお前らはやっぱりすごいだろ。


 で、この場合責任あるとすれば明らかに俺達人間な。


 自分を責めたって意味ないだろうに……。


「……やまと、お前は別に……」


“わかってます。責任を感じる必要はないって言いたいんですよね?”


 こいつの超能力じみた読心力は元からなのか? それとも性格上の問題か?

 たまに怖くなるんだよな。こんな人外能力見せられるとさ。


 ……いや、正確には人外なんだけどさ。


“わかってますって。でも……、やっぱり、イージス艦として悔しくて……”


「……」


 艦の意地……、か。

 それも、国防の軍艦のか。


 ……人間がすぐ理解するには困難な気持ちだな。


 ……だが……、


「……軍艦の意地。……ってやつか?」


“まあ……、そうなんでしょうね。たぶん”


 曖昧な答えだなぁ……。

 まあ、今の本人はそんなの深く考えてる暇はないか……。


「艦長が入られます」


 すると、艦橋に入れる入り口から艦長が入ってきた。

 すぐに振り向き、艦長に敬礼する。


 しかし、その顔は優れていなかった。

 まさに無念と言いたげな沈痛な表情だった。


「……艦長、司令部から……」


「うむ。聞いている」


 一応CICにも伝えたから、そこにいた艦長も聞いていたんだろう。

 ……だからこんな沈痛な表情なのか。


「いかがなさいますか?」


「如何なさうもなにも……、上からの命令は絶対だ。ここはおとなしく退くしかあるまい」


「ッ!」


 副長も表情が固まった。

 複雑な表情だった。いや、心境も複雑だったに違いない。


 軍人にとって、上からの命令は絶対だ。

 それは、俺を含めここにいる全員が肝に銘じている。

 だが、その命令の内容が自分達にとって納得がいかないとこんな感じになる。

 ……自分の考えと上の考えの違いだった。


「しかし……、このまま勝手に退いてよろしいのですか?」


「仕方ないだろう……。そうはいっても私たちは逆らうことを許されない。司令部になにか考えがあることを祈ろう……」


 そう力なく答えて艦長席に座った。

 そして、太ももにひじをついて手で顔を覆った。


 あの人も、本心は納得していないんだ。

 この撤退命令に、この命令に従うことに納得していないんだ。

 だが、同時に、軍に忠誠を誓った軍人として、それに従わねばならないという、この二つの軽いジレンマに陥っていた。


 俺達と同じだ。心境が複雑に絡み合ってるんだ。


「……とにかく反転だ。方位を……」


 と、そのときだった。




『レーダーに反応! 南西方向から大艦隊捕捉! ……た、大量すぎる!?』




 カズよ。私語まで無線に垂れ流さなくていい。


 ……が、


「……ッ! な、なんだこの艦隊……ッ!?」


 思わずそう叫びたくなって実際に叫んでしまった気持ちだけはお察しする。


 沖縄那覇市より北西180海里の地点だった。


 そこには、レーダーを埋め尽くさんとするほどの大艦隊が写っていた。

 いちいち数えるのさえめんどくさい。


 ……だが、これが何の艦隊なのかはすぐに判明した。

 これは……、


「……遼寧機動艦隊……!?」


 中国海軍空母『遼寧』を旗艦とした大規模機動艦隊だった。


 ……だが、ちょっと待とうか。


「遼寧って……、あれ練習空母だろ!?」


 航海長が叫んだ。

 そう。遼寧は中国で一番最初に“正式に登録された”空母だった。

 ……まあ、ロシアからソ連時代の中古の空母いろいろいって買っただけなんだが。

 ゆえに、最初は空母の運用模索やパイロットの養成の意味もかねて練習空母として使われていた。


 でも、それが出てきたというのはどういうことだ?

 まさか、練習空母をそのままに、それを中心に大規模艦隊にしたのか?


 それとも……、


「……密かに正規空母に格上げでもしていたんだろう。まさか練習空母のまま護衛をつけて派遣するわけあるまい」


 艦長が言った。

 正規空母に格上げか。とにかく戦力を使いたかったってことか?


 おいおい……そんな面倒なことを……。もちろん、俺達にとってだけど。


「……なるほど。司令部はこれを恐れたのだろう。今の私たちに、これを完全に迎撃する術はない」


 艦橋に設けられているCICから送られてくるレーダー画面をみた艦長がさらに言った。


 レーダー上では、空母遼寧らしい大きな艦を中心に護衛艦がわんさかいる。

 20隻以上は余裕。もしかしたら倍かもしれない。

 対するこっちは、イージス艦1に護衛の汎用駆逐艦3の艦隊が5個で、イージス艦5隻に汎用駆逐艦15のたったの20隻。

 数でも明らかに負けてる。そこに、向こうの空母艦載機が加わるとなると……。


 ……今ここで援軍待ってさらに増えた戦力で迎撃に向かってもこっちの被害は避けられない。

 むしろ、無駄に損害を出すだけに終わる可能性が大。


 つまり……、


「……下手に戦力を減らしたくないからとにかく今は退け。……てことですか?」


 俺はそういった。

 艦長もうなずく。


「上が言いたいのはたぶんそういうことだろうな。……今の戦力で迎撃できるわけはないということだ」


「……」


 まさしく、無念という言葉はここで用いられるのだろう。


 これほど無念になったことはなかった。

 何にも出来ずに向こうが暴れまわるのを指をくわえてみていろとか……。


「……せめて何らかの反撃をしてからの撤退だったら……」


「無理な高望みはよしたまえ副長。……かなわぬことはあまり考えないほうがいい」


「……」


 副長もうつむいてしまった。

 責任感が強いあの人のことだ。

 日本を、沖縄を守れないことに責任を感じているに違いなかった。


「……すぐに撤退する。下手すれば向こうとてこっちに来る可能性があるからな」


「……」


「……まあ、」


「?」


 艦長は顔を上げてこっちを向いた。


「……負け惜しみととられても仕方ないが、またここに来るときは……」






「それは、向こうに反撃の鉄槌を喰らわすときだ。……倍返しでな」






 その目は、さっきと違ってキリッとしていた。

 決意に満ちていた。



 必ずここに帰ってくる。……という、強い決意に。



「……その倍返しのターンって、いつになるですかね?」


「それを早めるのが上の仕事だ。……そして、それに答えるのが……」


「我々の仕事……、ですか」


「うむ。……とにかく、これでわかったろう。今はむやみに戦力を消耗させてはいけない。撤退するぞ。針路を北東に。航海長」


「了解。……軸ブレーキ脱。機関原速。面舵30度。方位0-3-0」


「了解。軸ブレーキ脱。機関原速。面舵30度。方位0-3-0」


「おもーかーじ」


 旗艦がまたうなりをあげるとともに、俺は右に舵を切る。

 艦はすぐに反応した。右に艦首を振り向け始める。


 同時に、


「通信、僚艦に我に続くよう指示を」


「了解。……BMDT-1旗艦やまとよりBMDT-1全艦へ。司令部からの指示通り撤退する。機関原速。面舵30度。方位0-3-0。我に続け」


 僚艦にも指示が通る。


 3隻とも付いてきた。艦隊は寸分の乱れもなかった。


「……とりあえず、倍返しのターンになるまで沖縄はお預けか……」


“それっていつになるんです?”


「それを決めるのは上の仕事だ。……信じて待つしかない」


“……でも、それだと沖縄にいる人って……”


「……」


 ……おそらく、捕虜とかにされたらいいほうか。

 向こうのことだ。反日感情前面に出してる国だし、民間人とて容赦するかしないか……。


「……無事を祈れ。一人でも多くの無事をな」


“……艦からの願いって通じるでしょうか?”


「願わなかったら聞いてすらくれねえよ」


“……そうですよね。私も願っています。沖縄の人が少しでも生き延びていることを”


「ああ……」


 とはいっても、とんでもない被害がでることは避けられないだろう。

 あそこ、離島だけでも大量に住民住んでるんだし……。


 俺は振り向く。

 その先は、沖縄の本島があるはずだった。

 今頃、弾道ミサイルのおかげでとんでもない被害がでていることに違いない。

 そして、早ければもう空母艦載機あたりからの攻撃が届いているかもしれない。


 しかし、俺がその光景をこの目で確認することは出来なかった。


「……負け惜しみ乙といわれそうだろうけど……、やられたら倍返しだからな……、」








「待ってろ中国め……ッ!」









 俺は震える怒りを抑えながらそうつぶやいた…………

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