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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第4章 ~中国・亜細亜大戦勃発~
42/168

〔F:Mission 1〕弾道ミサイル迎撃戦

―AM09:15 同海域 BMDT-1旗艦DCGやまとCIC―





「目標情報入りました! 吉林きちりん省通化つうか基地より、16発のDFデルタ・フォックストロット-21トゥー・ワン山東さんとう省莱芺らいぶ基地より13発のDFデルタ・フォックストロット-21トゥー・ワンの発射を確認!」


 俺は即座にそう報告した。


 突然のことだった。


 いきなり出撃させられたと思ったら今度はマジもんの弾道ミサイル打ち上げである。

 もういろいろと頭がいっぱいいっぱいなんですがねまったく。


 ……勘弁してくれよ。こんな平和な時期に打つか普通?


「来たな……。総員、対弾道ミサイル戦用意! これは訓練ではない! 繰り返す! これは訓練ではない!」


 艦長がそういった。

 顔も真面目そのものだ。いつもの優しい艦長ではない。

 マジの仕事人の顔だ。


 ……訓練じゃない……、か。


「……まさか、現実で聞くことになるとはなぁ……」


 そして、俺が一番聞きたくなかった声でもあったりする。

 ……いや、誰でもそうか。


 リアルで聞きたいやつなんていたらたぶんそいつは戦争知らない面白半分の若者だ。

 ……あ、それだと俺も当てはまるか。


「弾着予測。……すべて沖縄方面に向かっています。本島及び近隣の離島周辺に弾着予測エリアが広がっています」


「やっぱりか……」


 せめるんならまず南からってことでしょうな。

 まあ、妥当なところよ。あと、俺達も容易に予想できたことだぜ。


「沖瀬少尉、目標をそのままディスプレイにリークしてくれ」


「了解」


 目の前のパネルタイプのキーボードを操作して、目標情報をディスプレイにだす。

 ディスプレイにでているレーダー画面の中に、目標である弾道ミサイルが表示された。


 2つの方向から。おそらく、さっき言った通化基地と莱芺基地だろう。


 計……、29発。


 ……はははは、


「(……多すぎだろこんちくしょう)」


 向こうそんな一気に大量に撃てるほど弾道ミサイル持ってたか?

 弾頭は大量にあっても、それを運ぶミサイルってせいぜい60発くらいじゃなかったのか?

 んな大量の弾道ミサイルどこに隠してたんだよ?

 いくらDF-21が準中距離弾道ミサイル(MRBM)で、普通の大陸間弾道ミサイル(ICBM)より高価でないっつってもさ、これは多いだろうがおい。


 ……まあ、核弾頭でないだけまだマシよ。さっき衛星から送られてきたこっちみんな状態で上向いてる画像見て解析したらあれ明らかに核弾頭の形してなかったからね。

 まあ、元より核弾頭弾道ミサイルは、アメリカさんから提案してきた縮小条約に調印してほとんどを廃棄したらしいし、それにこんな初戦でいきなり撃つこともないだろうし、たぶん通常弾頭の強化版だろうね。


「以後、この目標をAアルファと呼称。A、第1弾中間段階ミッドコース・フェイズに突入」


「了解。データリンクフル。システムをBMDモードに。BMDT5個で目標を配分しろ」


「了解。データリンク。目標配分」


 すぐに分配させる。


 今対応可能なイージス艦は5隻。

 こんごう、きりしま、ながと、むつ、そして、うちらのやまと。


 29発を5隻で配分だから……、


「(……基本1隻につき6発で、その中の1隻は5発だけか)」


 じゃあうちらはとうぜん6発組ですねわかります。


 と、すぐに分配が完了する。


 やっぱり6発きた。目標コードA1~A6。


 ……射程にももうすぐ入る。よし。


「目標配分完了。本艦目標A1アルファ・ワンA6アルファ・シックス


「了解。本艦目標、A1~A6.前部VLS59番~64番開放。SM-3諸元入力」


「前部VLS59番~64番開放。SM-3発射用意」


 SM-3といったら弾道弾迎撃ミサイルで今でも主力として使われているミサイルだ。

 本当はSM-6って言う、普通のミサイルにも使えるし弾道ミサイル迎撃にも使えるのがあって、一応うちらやまとにも積まれてるんだけど、弾がもったいないためまずこちらを消費する。

 ま、SM-3だろうがSM-6だろうがしっかり撃ち落してくれるならどっちでもいいけどさ。


 その間にも、ディスプレイに表示されたVLSのうち6セル分が発射可能を示す緑色に変わる。

 ここら辺はもう訓練で何度も見てきた光景だ。もはや見慣れたもの。


「VLS開放確認。SM-3発射準備完了」


「SM-3発射シーケンス。カウントダウン開始」


「了解。SM-3発射1分前」


 発射シーケンス開始。

 いきなり撃つなんてことはしません。ちゃんとカウントダウンをします。まだ完全に撃てる射程に入ってませんゆえ。


 たった1分。そのたった1分が、とてつもなく長く感じたのはおそらく俺だけではないだろう。

 初の実戦だけにめちゃくちゃ集中した結果これである。


 カウントダウンも過ぎる。そして……、


「10秒前」


 2桁きる。


 弾道ミサイルはしっかり思ったとおりの飛翔経路を飛んでいた。

 予測は簡単だ。向こうは激しい機動しないから。


 ……さて、ではいくか。


「6……、5……、スタンバーイ………、リコメンドファイヤー、てぇ!」


 火器管制員の号令とともにSM-3が放たれた。

 ディスプレイの緑表示になっているVLS6セルがそのまま点滅を始めると同時に、前のほうから鈍い発射音と振動がかすかに聞こえてきた。

 SM-3がどんどんと放たれているだろう。

 他艦でもSM-3の発射が確認された。

 きりしまが5発で、それ以外は6発発射。

 一気に放たれたSM-3は空高く飛んでいった。


 なお、昔ならここでさらに予備としてもう1発分放つ、つまり、今のうちらの場合なら6発×もし外したときの予備の分で、計12発放つことになるはずなんだけど、まあそれは昔の話です。

 今は弾道ミサイルの迎撃能力も上がって、日本やアメリカの場合、偵察衛星からの情報を即座に解析してより正確な飛翔経路を割り出すことが可能です。

 日本が独自に打ち上げた天津神アマツカミは、元からそれを見越して対応されているため、より正確な情報の提供が可能。しかもリアルタイムでどこ飛んでるか送ってくれます。

 ほんと、ありがたいこっちゃでありますわ。天津神という神の名を冠するだけある。天津神様さまさまだな。


 ……さて、ではここからは俺の出番だな。


「SM-3順調に飛翔中。命中まであと45秒。……44、……43、」


 カウント開始。

 SM-3はしっかり目標に向けて飛翔していた。

 やまとが絶対的な撃墜率を誇るだけある。寸分狂いはなし。

 まだBMD試験してないってのに、よくやるわ。


 SM-3の飛翔経路を、ここにいたもの全員が見守っていた。

 大丈夫大丈夫。この艦今まで弾外したこと全然ないから。

 ……訓練だけど。あとそれも普通に弾道ミサイル相手でないけど。


「10秒前。……9、……8、……7、」


 10秒をきった。

 この時点でなんら問題なし。

 いける。落とせるぞこれなら。


「5……、4……、スタンバイ………、マークインターセプト」


 SM-3と弾道ミサイル群Aが重なった。

 全弾。しっかり捉えていた。


 そして、




 レーダー上から、ミサイルが全部消えた。綺麗さっぱりに。





「目標群A、レーダーから消失!」


 少し俺は歓喜交じりで言った。

 ……だが、


 彼は違った。


「……まだ来るな」


 艦長だった。


 ……こんだけ撃ってまた撃つ気ですか?

 あちらさんそんな大量にくるはずなんて……。


「どういうことですか? これだけ撃ってまだ?」


 砲雷長も疑問に思ったらしい。

 艦長に質問した。


「向こうは我々が動いたことを悟ったはずだ。そして、我々のBMD能力の高さを知っている。……なのに、“なぜこれだけしか撃ってこなかった”?」


「……え?」


 ……これだけ?

 あれだけうって、“これだけ”?


 ……あれ、ちょっと頭がこんがらがってきたぞ。どういうことだ?


「こちらのBMD能力を知らないはずがない。なら、向こうの選択肢としては2つ。我が方の対処能力を上回る分の弾道ミサイルを撃つか、もしくは撃たないか。……だが、後者はむしろ我々に迎撃の時間を与えるのとおんなじだ。向こうにとっては不利益にしかならない。なら、残る選択肢は前者の大量に弾道ミサイルを撃つ。……だが、我々の対処できる分しか撃ってこなかった」


「……ッ!」


「自分の手元にある弾道ミサイルの弾数が、我が方の対処能力より下回っていることを知っているなら、なぜ撃ってきた? 弾道ミサイルを無駄にするだけだ。……となると、それから導き出される答えは一つ」


「……と、ということは……」


 俺も悟った。

 確かに、弾道ミサイル犠牲にしてまでいちいち俺達に迎撃させる意味はない。

 ほかに意図があるのか? いや、こんなことをしても足止めにしかならない。

 この状況では、戦術的にはほとんど無意味だ。

 なら……、


「ああ……、」






「……まだ来るぞ。……第2派が」






 そして、


 その答えを待ってましたといわんばかりだった。

 まるで、「そのとおり! 正解です!」と言いたげのタイミングだった。


「……ッ!」


 レーダーに新たな反応。


 間違いない。第2派だ。


「新たな目標情報はいりました! 同じ基地です! 吉林きちりん通化つうか基地、及び山東さんとう省莱芺らいぶ基地よりそれぞれ21発ずつのDFデルタ・フォックストロット-21トゥー・ワンの発射を確認。……て、ええ!? 21発!?」


 俺は思わずいらないことを叫んでしまった。

 2つの基地から21発ずつ。

 つまり……、計42発……。


 えっと……、





 え、SM-3残弾数たんないんですけど……。





「42発……!? ここにいるイージス艦のSM-3残弾総数と足りないぞ!?」


 砲雷長が思わず叫んだ。

 俺だって同意見だ。

 本来、イージス艦に搭載されているSM-3の弾数は限られてる。

 こんごう型は10発。ながと型は12発。やまとにいたってはもう18発もある。

 米軍は知らん。教えてくれないし。でも大体おんなじくらいだと思う。


 ……で、今ここにいるイージス艦はこんごう型2隻にながと型2隻、そしてやまとの5隻でしょ?

 それらに搭載されているSM-3総計すると62発。

 そこから今撃ったの29発を引くと33発だから……。


 つまり……。


「……9発逃すじゃないか……」


 どうあがいても9発は確実に逃がす。

 どうすりゃいいと? あとは陸にあるPAC-3に任せろと?

 あれ、うちらイージス艦ほど命中率高くないんですけど?

 終末段階ターミナル・フェイズ、つまり再突入段階で撃ち落すものだけどあれめちゃくちゃ早すぎでSM-3ほどあたらないのが現状なのですが。

 しかも、向こうに配備されてるPAC-3の戦力なんてお察しレベルじゃなかったか……?


「と、とにかく迎撃をせねば。沖瀬少尉」


「は、はい」


 とにかく、今は落とせるだけ落とさないと。

 PAC-3が何とかしてくれることを信じて。


「以後、この目標群をBブラボーと呼称。第1弾、中間段階ミッドコース・フェイズ突入確認」


「目標配分急げ」


「了解。データリンク。目標配分」


 すぐに新たな目標を配分。

 とりあえず、SM-3を大量に使うから……。


 ……いや、大量というか、全部か。


「目標配分完了。本艦目標B1ブラボー・ワンB12ブラボー・トゥエルフ


「了解。VLS、後部右舷27番~32番、左舷27番~32番開放。SM-3諸元入力」


「後部右舷、及び左舷VLS27番~32番開放。SM-3発射用意」


 ここからの手順は同じなので大まかに省かせていただく。

 その後も、目標を追尾しつつSM-3を放った。


 それはしっかりさっきと同じように目標に飛んでいく。

 ……科学の進歩ってのは恐ろしいもので、ほんの数年前まで当たる確立結構低かったのに、今では結構な命中率であります。

 ましてややまとなんてヤバイです。

 それは、さっきのを見てもわかるとおりです。


「……7、……6、……5、スタンバイ………、マークインターセプト」


 またSM-3が弾道ミサイルと重なった。

 そして、見事に全部落ちる。

 全部落ちる。

 大事なことなので2回言ったぞ?


「本艦のSM-3、B1~B12、撃墜。目標群B、残り9発」


「後はPAC-3に任せるしかないか……」


 ほかの艦も狙ってたやつは全部落ちたみたいだけど、やっぱり残弾の問題で9発も残った。

 9発〝も〟。


「……ッ! 目標群B、再突入。終末段階ターミナル・フェイズに移行」


 終末段階ターミナル・フェイズっていうのは、さっきも説明したとおり地上に再突入する段階のことで、速度がひどいことになる。

 この段階になると、仮に迎撃しても破片とかが弾着予想地点に降り注ぐから、何かしらの被害は避けられない。

 でも、マジで落ちるよりは幾分もマシだから。頼むから落としてくれ……。


 すると、


「……ッ! 沖縄方面よりPAC-3発射開始。目標群Bに向かっています」


 PAC-3が撃ち始めた。

 計18発。予備のも含めて1発につき2発向かわせてるのか。

 だが、制限時間的に考えてもチャンスはこれ一回のみ……。


「(落としてくれ……、頼むから……ッ!)」


 俺は必死に願った。

 周りも同じ心境だったに違いない。


 PAC-3が弾道ミサイルに到達するのに、さして時間はかからなかった。

 レーダー上でも重なった。


 ……だが、






「……ッ! ま、まだ残ってる!? 弾道ミサイル5発飛翔中ッ!」






 全部は落とせなかった。

 だが、ここまで来るともうどうしようもない。




 すでに、弾着寸前だった。





 レーダー上から、弾道ミサイルが消えた。


 沖縄本島、及びその近隣の離島のところで。






「……だ、弾道ミサイル……消滅。弾着した模様……」


 俺は力なくそう答えた。


 最後の最後で、俺達は弾道ミサイルを落とせなかった。


 最後の最後で、力尽きてしまった。


「クソッ……! もう少しだったのに……ッ!」


 砲雷長が悔しそうにそういった。

 めっちゃ声が力んでいるのがわかった。


 ……そりゃそうだ。この人の出身地は沖縄だ。それも、那覇市。

 今弾道ミサイルが落ちた場所はまさにそこだった。


 壊滅的被害は免れないだろう。いくら住民の避難が行われていたとはいえ、完全には完了してないはずだ。


『……ッ! CIC艦橋、艦長、司令部からです』


 いきなり艦内無線だ。

 ヘッドセッドに響いた。


 それに、艦長も力なく答える。


「……なんだ?」


『……直ちに、』


「?」









『直ちに、当海域から離脱せよ……、と。』











 俺を含め、ここにいた人全員が自らの耳を疑った…………

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