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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第3章 ~表に出てきた動き~
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日本政府の大きな勘違い

―同日 AM06:45 日本国首相官邸4階 大会議室―






「……そろそろではあるが……」


 私は考えていた。


 例のXデーまであと4日。

 出来る限りの準備を今現在進行形で進めている。


 ……が、


「……天津神アマツカミからの衛星画像情報では、それといった動きはないのだろう?」


 私は新海国防大臣に確認した。

 天津神が国産の多機能偵察衛星であることはいつぞやの説明のとおりだが、そこからの画像情報では中国大陸でそれといった動きがなかった。

 弾薬運搬や兵員の運搬らしき動きはあったのだが、これは前々からよくあったことだ。

 Xデーも近いし、それといって意外なことではないはずだ。


 だが……、だからといってこれは動きがなさ過ぎではないか?

 そろそろ大きな動きが来てもいいころのはずだが……。


「はい。天津神からの衛星画像情報では、中国大陸での沿岸部の動きに加速はありません。ほとんど同じ動きです」


「空軍の戦力移動が始まったとは聞くが?」


 そこで質問したのは仲山副首相だ。

 新海国防大臣がすぐに答える。


「はい。やはり、ここいら辺は我々の予想通りに動いています」


「とにかく戦力を集めてきているか……」


「では、新海国防大臣。今現在の我が国の国防状況は?」


 この計画の存在を知って以来、我々は様々な対策を取ってきた。

 しかし、中国にあまり悟られないようにというのはとても難しく、出来ることがいくらか限られてきていた。


 それでも、やるだけでことはしてきていた。


「とりあえず、佐世保のほうに主力の大半を移しました。あと呉からも、潜水艦戦力を大量に東シナ海に派遣し、哨戒に当たっています」


「そうか。潜水艦といえば先日……」


「はい……。潜水艦そうりゅうが中国軍の原潜を沈めました。しかも、それは数十年前に事故で沈んでいたと思われた092型の同型艦です」


「うむ……」


 長崎県沖で見つかった中国原潜。

 艦種は092型であり、これは同型艦がない、というか数十年前の事故で同型艦を失っていたはずで、もう1隻は北海艦隊所属だ。

 ……もちろん、こんなところに来るはずもない。

 とすれば、同型艦であるしか考えられないが……。


 まさか、生きていたとは思わなかったな。


「中国も諜報活動が目立ってきているな。それの少し前には空挺団駐屯地や体験航海中のミサイル巡洋艦『やまと』にスパイが侵入していたり、その前には領空侵犯……。とてつもなく顕著だな」


「それ以外にもいくつか報告がありますしな」


「うむ。そうだ」


 日本でもこのような諜報活動の報告はいくつか来ている。

 さっき上げたもの以外にもあった。


 ちなみに……、


「……そういえば、」


「?」


「その空中戦で民間機助けたパイロットと、空挺団駐屯地、体験航海にたスパイの確保、そしてその撃沈処分を行なった潜水艦そうりゅうの艦長……。報告を見たら全員、名字が同じだった記憶があるな」


「……あー、そういえば」


新海国防大臣も思い出したようだ。まあ、その報告を持ってきたのが彼なのだが。

えっと……、なんていったっけな……。


「確か……、新澤、という名字だったかな?」


「ええ、確かそんな感じでしたな。……いろんな意味ですごい偶然が起こったものです」


「この人たちは全員同じ家系の者なのか?」


「全員新澤家の家族だそうです。潜水艦そうりゅう艦長の方が父親でそれ以外はその息子、ないし娘さんだそうで」


「はは……」


 ……もはや偶然といっていいのかわからんが、これはもう向こうは災難だろうな……。


 とりあえず、ご愁傷様、とでもいっておこうか。


「面白い偶然もあったものですな。なにはともあれ、彼等のおかげで機密が守られたことも確かです。本当は何らかの形で褒め称えたいのですね……。国防に大いに貢献したのは確かですから」


 菅原官房長官が言った。

 そうだな。いつかなんか送ってやろうとも考えたが……、


「……今はそれどころではないしな」


「ええ。ですから、またの機会に」


「うむ」


 どうせならこの混乱が収まってからでいいだろう。

 ……そのときに生きてくれてればいいが。なんせ確実に戦乱になるから彼らだって戦地に行くことになるだろうし……。


 ……まあ、この話はまたの機会でいいだろう。


「とにかく、海軍戦力の移動は完了したか。空・陸のほうは?」


「空のほうも一部戦力移動が完了しました。F-2を対艦攻撃部隊として、三沢の3空と松島の6空を築城に移しています。あと、F-35Jも横田基地から新田原に一部移動中です」


「航空戦力の移動は順調か……」


「しかし、如何せん向こうの投入する戦力がわかりません。おそらく、今のこれでも足りないでしょう」


「在日米軍戦力は?」


「一応在日米軍司令官のミッチェル少将に伺ったところ、今現在日本にいる部隊のほかに、本土から一部部隊を移送中とのことです。中にはF-22やF-35といった最新のものまで」


「ほほう……」


 アメリカも本気ということか。

 そりゃそうだ。アメリカも東南アジア方面に多数の企業を進出させているからな。

 これに被害がでたら経済的にまずい。

 さらに、アメリカの軍需産業のほうにも日本が大きくかかわっている。

 あまり知られていないが、日本の精密機械はアメリカの軍事工場でも多く取り入れられている。

 日本を守らねばそれが手にはいらなくなる。つまり、軍需産業に大きな悪影響がでるということだ。


 それらの点で見ても、アメリカはやはり本気で来るのだろう。


「それらで一応まかなうしかないか……。で、問題は陸か……」


「はい……」


 沖縄は離島ばっかりだ。

 これらすべてに部隊を駐屯させるなんてことが出来るはずがない。

 沖縄本島にはいくらかあるが、それでも移送できる部隊の量なんてたかが知れる。


 しかもうちが使える揚陸艦なんておおすみ型と、あとは軽空母としても使えるあかぎ型くらいで……。


「正直、もうこれ以上は移送できません。出来たものといえば弾道ミサイル防衛用のPAC-3を数両とそれの護衛となる部隊がいくつかくらいです」


「陸はもう無理か……」


 これはもう諦めるしかないのか。


 これが離島が多い海洋国家の一番の悩ましいところだ。


 万が一陸に上がられたらほとんどなすすべがない……。


 ……尤も、陸に上がられた時点でもういろいろと壊滅しているのだが……。あと、そうならないための海・空軍戦力なんだが……。


「陸は仕方ないか。では、その分海と空を充実させるしかないな……」


 しかし、あの大群を押さえ込むのにこれだけで足りるのか……?

 どうも不安だ。向こうはアジア最強の軍力を持つ中国だ。


 侮ることは出来ない。


「ほか民間施設への対応は?」


「一応全国の原発施設に陸軍ないし警察を軽微のために常在させています。これは万が一の原発テロや脅迫に備えてのことです」


「うむ。今のところ異常はないな?」


「はい。問題ありません」


 原発に警察や陸軍を配置して、万が一の原発テロやそれ関係の脅迫に備える。

 原発アレルギーはもう例の3.11で十分だ。

 あれを使われたら戦争の勝敗云々以前にまず勝負にならないというか、勝負できない。


 しっかり対策は整わせておかなければな。


「脅迫に使われそうな民間施設のほうは警備は万全です。問題ありません」


「うむ。それと……」


「?」


「……話は変わるが、」





「中国の核の使用の可能性は?」





「……はい。それに関しても、統合参謀本部とともに協議を行ないました」


 その一言に、この場にいたもの全員が反応し、彼のほうを向いた。


 中国の核。


 それこそ今ではすっかり少なくなり、核の抑止力の圧力が低下してきてはいたものの、それでも脅威に変わりはなかった。


 やはり、数は少ないとはいえ一番の懸念事項だったのである。


「結果からいいますと、中国は核を使う可能性は〝ほとんどない〟と見ています」


ふむ。ないときたか。


「ほう。……その根拠は?」


「まず一つ、そもそも核を使ったら自軍の侵攻に支障をきたすということ。中国の最終的な侵攻ラインはわかりませんが、もし日本全体が目標だった場合、たとえどこでも核を撃って落ちてきてしまったらそこはもう住めません。それでは中国にとっても本末転倒です。あと、核弾頭を撃つには距離が近すぎて後々自国にも放射能が飛んで来る可能性もあります」


「ふむ……。なるほど」


 確かに。核を落としてしまったらそこには侵攻できないわ住めないわで意味がない。

 だったらつかわないほうが妥当か。


 というか、核弾頭ミサイルに近いとか遠いとかあるのか。それは知らなかった。


「そもそも……」


「?」


 まだ何かあるのか。


「中国にそんなことをする勇気はないでしょう。もし核を撃てば、たとえ落ちても落ちなくてもアメリカあたりに核攻撃の口実を与えるだけです。中国のBMD能力は高くありません。撃たれたら……、まず、中国は終わりを迎えるでしょう」


「そうなったら後は降伏しかないが……」


「あの中国が簡単に降伏なんてしませんよ。それよりなら最初から撃たないほうがましです」


 山内外務大臣が言った。

 少し投げやりである。


「まあ、そうでしょうね……。それらの理由から、やはり核の使用の可能性は低いかと」


「ふむ……、まあ、それならそれで大いにかまわんが」


 となると、核を使わないという可能性が高いか。

 それならそれでいい。むしろその方面でお願いしたい。


「後は……、マスコミがいろいろとかぎつけてこないことを祈るまでですな」


「うむ……。まったくだ」


 マスコミはこういうときしつこいからなぁ……。

 先日も、佐世保に主力が集まったことに変な疑問を抱いたんだろう、いろいろと質問がうるさかった。

 そろそろマスコミの取材も制限かけようか……。


「しかし、国民には言わなくていいのですか? 一応知らせておかないと、特に沖縄方面とか被害が……」


「いずれにしろ混乱が起こる。このタイミングでやったところで遅いし、それこそ変に二次災害等が起こってしまっては意味がない」


「ですが……」


「それに、中国を刺激する原因にもなりかねん……。耐えるんだ。ここは耐えねばならない」


「……」


 しかし、本当にこれでいいとは思えない。

 確かに国民に伝えておくというのも一つの手だ。

 だが、今さらやったところで……、


「……いや、むしろ今からならいけると思います」


 そこで口を開いたのは新海国防大臣だった。


「? どういうことだね?」


「例のXデーは4日後。今から国民に知らせて、その時点で避難を開始させても、まだ多くの国民を助ける可能性があります。それに、今からならどのみち中国側もわざわざ計画を早めても遅いと思います。もうXデー間近で、急いでも4日はかかるかと」


「ふむ……、そうか」


 例え中国を刺激しても、今から急いでもやはり4日くらいはかかるということか……。

 それなら、どの道沖縄方面の国民を避難させる時間は稼げるか……。


「総理、そろそろいいでしょう。国民に知らせては?」


 菅原官房長官も同意権を示した。


 ……まあ、時間がないしな。そろそろころあいか。


「いいだろう。では、今日の早朝、1時間後に記者会見を……」


 だが、そのときである。


「?」


 バンッという音とともに、会議室のドアが勢いよく開いた。


 見ると、そこには内閣情報伝達官のシャークの姿があった。

 しかし、彼の表情はいつもと違った。

 いつもの冷静沈着な彼ではない。おもいっきり焦りを前面に出した表情だった。


「総理! 大変な事態になりました!」


「ど、どうしたのです? いきなり何を?」


 今は早朝になりかけているというのにこの焦りようだ。

 相当なものだろう。


 私は嫌な予感がした。


「先ほどはいった情報です。……中国の……、」







「中国大陸の弾道ミサイル発射基地が……、動き出しました」







「ッ!? なんだとッ!?」


「も、もう動き出したのか!?」


 その場が大いにざわついた。


 バカなッ! まだXデーには早いはず。

 なぜ今から……?


「そんなッ!? まだXデーには早いでしょう!?」


 山内外務大臣が叫んだ。

 それにシャークも即答した。


「そのとおりです。しかし、これは事実です。こちらに送られてきている偵察衛星からの情報では、確実にいくつかの弾道ミサイル基地が動き出しています。確実に撃ちます。例のXデー似合わせるには早すぎます」


「ッ……!?」


 どういうことだ……? 一体なぜ今から……?


「し、しかし、弾道ミサイルって確か準備に時間がかかったろう!? な、なあ新海国防大臣!?」


 仲山副首相が焦りを面前に出しつつ新海国防大臣に言った。

 しかし、彼はすぐには返さなかった。

 うつむいていた。そして、その顔は遠くから見えるほど真っ青だった。

 明らかに血が引いている。


「ま、まずいです……。これでは、今すぐにも中国は弾道ミサイルを撃ってきます!」


「な、なにッ!?」


 軍事マニアである彼が言うと説得力がある。

 しかし、そんな早くできるのか?

 その疑問は、仲山副首相が代わりにしてくれた。


「だ、だがあれだけのミサイルを準備するんだ。どうやっても時間はかかるだろう? 弾道ミサイル撃ちまくってた旧北朝鮮だって撃つまでに時間が……」


「あれは液体燃料弾道ミサイルです! 確かに液体燃料のものは時間がかかりますが、中国が使っているのは固体燃料。あれは事前に推進剤が装填されてますから、撃とうと思えばちょっと準備してすぐにでも撃てるんですよ!」


「なッ……!?」


 私はまだ軍事系に素人か。

 弾道ミサイルに種類があったようだ。

 固体燃料。例のイプシロンロケットにも使われているものだ。


 これ、確かに即行で準備できるしコストも低くて扱いやすいが、中国の弾道ミサイル全部これを扱っていたのか……。


「で、ではこれはいつ発射されるのだ? 予測時間は?」


「えっと……」


 新海国防大臣は頭の中で計算し始める。

 10秒と経たないうちに答えた。


「……どれだけ多めに見積もっても、」






「3時間以内に準備を完了する可能性が高いです……」






「ッ!? さ、3時間以内!?」


 ちょっとまってくれッ! それじゃ時間がなさ過ぎる!

 いくらなんでも唐突過ぎであろう!?


「さ、3時間以内だと!?」


「はい。今の弾道ミサイル運用もずいぶん簡略化されました。それによっての時間短縮も顕著で、どれだけ長く見積もってもこれが限界です」


「そ、そんな……ッ!?」


 無理だな……。3時間で今からだと?

 一体何をすればいい……?

 国民の避難は当たり前だが、たった3時間以内でどれだけを避難させられるか……。


「……あれ?」


「? どうしたのかね?」


 そのとき山内外務大臣が小さくつぶやいた。

 そのあと、私の問いには答えず少し考え……、


 少しして、顔を青くして叫んだ。


「ま、まずいですよ! これ、もしかしたら作戦発揮時期を間違えていたかもしれません!」


「なに? どういうことだ?」


「Xデーと見ていた根拠の、計画名にあった〝0815〟です。今から3時間以内ですよね? それの中に、ある時間があるんです。それと、この計画のこの4桁の数字……」


「数字……? ……あッ!」


 私も思わず声を出してしまった。

 私だけではなかった。

 この場にいたもの全員が、この4桁の数字の〝本当の意味〟を悟った。


 ……なんてことだ……、


「……どうやら、我々はとんでもない勘違いをしていたらしい……」


「こ、これ8月15日ってほかの国にも伝えちゃったんですが……」


「いくら確定ではないと前置きしたとはいえ……、とんでもないことをしてしまった……」


 私は頭を抱えた。

 やってしまった……。これでは情報を提供した近隣各国に申し訳ない。

 おもいっきり間違えた情報を送ってしまった……。


 この『0815』。


 決して、『8月15日』という意味ではない……。


「……この0815、8月15日と言う意味ではなく……」









「“8時15分”という意味だったのか……ッ!」











 私はとんでもない自責の念に支配された…………

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