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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第3章 ~表に出てきた動き~
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準備完了

―8月12日(火) CST:AM05:30(JST:PM06:30)

          中華人民共和国首都北京 中南海共産党本部地下情報管理室―





「……準備は出来たのだな?」


 私は林総参謀長をみて確認した。


 準備は整った。


 もはや思い残すことはない。

 やるだけ。後は、やるだけだった。


 この計画を、実行に移すのみなのだ。


「はい。……すべての準備は整いました。後は、弾道ミサイルの弾着予測確認だけです。主席閣下のゴーサインさえあればすぐに」


「それはどのくらいかかる?」


「あれに関してはさすがに今すぐというわけにはまいりません。あれだけの弾道ミサイルを一斉に使うんです。様々な検討を重ねた場合、やはり、例のX〝タイム〟に合わせます」


「そうか、わかった。……となると、やはり予定通り作戦発揮は……」


「はい。予定通りに」


「うむ……」


 私はそこで周りを見渡す。

 ここにいるのは、林総参謀長以下、国務院関係者、そして、人民解放軍高官ばかりであった。

 部屋が暗く、いたるところに張り巡らされたディスプレイの光が顔に反射してそれぞれの表情が浮かび上がっている。

 その顔は、決意に満ち溢れていた。

 それは、本来私が発するべきものだったが、私とてもうこの年である。

 そのようなことが出来るような年でもないし、立場でもない。


「……しかし、」


「?」


 ここで口を開いたのは国務院総理の『李酷卿りこっきょう』だった。

 財政関係のプロであり、今回の経済危機でも躍起になってくれている。

 ……まあ、一向に状況が好転しないのだが。


 その彼の表情は暗かった。

 いや、不安じみていたというべきか。


「……今さらですが、本当によろしいんですね? これによるデメリットは相当なものですよ?」


「……」


 今さら感がひどいが、反論する気にはなれなかった。


 そこで口を開いたのは林総参謀長だった。


「ここまで来て今さら何を言っている? そんなことを承知していないはずがなかろう。もうここまできたらやるだけだ!」


「で、ですが……、やはり不安で……」


「貴様、こんなときになにを……」


 口論になりかけたところをすぐにとめる。


「まあ、ここで口論はよしたまえ。別に彼の言ってることは間違ってはいない」


「……」


 私だって、今もなおこれをしていいのか迷ってはいる。

 デメリットが多いことはわかっている。

 だが、何度でも言わせてもらおう。


 これをしないと、どの道我が国は滅びる。


 長きに渡ったこの中国という国が、滅んでしまうのだ。

 代々受け継がれてきた、由緒ある文化とともに。


「……これは一世一代の賭けなのだ。国家を運命をかけた、最初で最後のな。2度目はない」


「……」


「……このような事態を引き起こしたのはやはり私だ。そして、この計画を打ち出したのも私だ。……このようなことに皆を巻き込んでしまい、申し訳ないと思っている」


 一呼吸おく。

 皆ずっと私を見ていた。


「……だが、準備は万端だ。十分やれる可能性もあるのだ。すべては国のため。すべては我々中華人民共和国のため。……みんなの力を貸してほしい」


 うつむいていた私は顔を上げる。


 皆からはどのような顔に見えているだろうか。

 我ながら、情けないような顔になっていたに違いない。


 ……だが、


「……ご安心を」


「?」


 林総参謀長だった。


「……どの道にいこうが、私は主席閣下のそばにつかせていただきます」


「……林総参謀長……」


「……元より、ここにいるものは全員覚悟の上です」


 その言葉は事実だった。

 周りの者達の目は覚悟を完了していた。


 恐れおののくものなど、一人もいなかった。

 さっきまで不安をこぼしていた李国務院総理も、覚悟を決めたように目をキリッとさせていた。


「……すまない」


 私は一言そう返した。


 いい仲間に恵まれたようだ。

 私は、恵まれているのか。

 いや、現状的にそうでないのか。


 ……どっちでもかまわない。

 私は、やるだけだった。


 なんとしても。国を救うために。


「……諸外国の動きは?」


 私はすぐに動き出す。

 まずは周りの反応だ。

 情報幹部に聞く。


 なるべく悟られてはならない。だが……、


「今のところ大きな動きはありません。しかし、日本とアメリカ、あと台湾が小さくこそこそと動き始めているのは確認できました」


「ふむ……、それはいつの情報だ?」


「最初にこれが飛び込んできたのは先週です。どうやらそれの少し前から悟っていたようです」


「そうか……」


 やはり完全に機密というように虫のいい話はなかったか。

 だが……、


「しかし、今さら動いたところで遅いでしょう。もうこちらは準備をほとんど終えています」


「ああ……。もう我々をとめることは出来ないだろう」


 今まで妨害されてこなかった。

 どのような意図があるのかはわからない。

 だが、これはチャンスだ。


 それはそれで、我々としてはいっさいかまわない。


「各軍状況は? まずは海軍」


「準備万端です。各揚陸艦に上陸戦力を詰め込みました。沖縄・台湾・東南アジア方面に向かわせます」


「例の2個機動艦隊は?」


「こちらも準備は完了です。沖縄と台湾・東南アジア方面に分けて、予定通りの行動に移らせます」


「うむ」


 海軍は大丈夫か。

 今回侵攻する国の半分は海からになる。

 特に日本と台湾はそうだ。陸続きでないだけきつい。

 だからこそ、迅速性が問われる。


 次は空か。


「空軍はどうかね? 沿岸部への戦力移動はすんだか?」


 このときのために内陸から沿岸部の基地へ戦力をいくらか移動していたのだ。

 これでとんでもない戦力になるはずだ。


「はい。もうすでに済んでおります。全航空隊が、発進体制を整えております」


「よろしい。Xタイムになったら即ゴーサインを出せ。予定通りにだ」


「ハッ」


 空軍のほうもいいだろう。

 では、最後に陸軍だ。


「陸軍。そっちは?」


「揚陸艦に乗って離島上陸に向かう部隊の移送は、先ほど海軍からの報告のとおりです。陸上侵攻の部隊も、各戦線に配置に付きました」


「特に東南アジア方面は重要だ。ベトナムやタイ等、厄介な国がいっぱいある。そこは?」


「問題ありません」


「よし……」


「あと、確認なのですが、」


「?」


「……ロシアには〝侵攻しない〟のですね?」


「……ああ、向こうには侵攻しない」


 あんな物量がリアルチートな国に攻め込むほど私もバカじゃない。

 攻め込んだら逆に侵攻されてほかの方面への侵攻どころの話ではなくなる。

 向こうだとて、攻め込まれてないんだからいちいちこの戦争には割って入ってこないだろう。

 一貫して傍観に徹するに違いない。


「あんな国に侵攻したら自殺行為だ。ここは向こうにはおとなしくしてもらおう」


「そうですな。……となると、」


「うむ。……陸海空すべて準備はいいな。あとは弾道ミサイルで……」


「……号砲を撃つだけであります」


「うむ。……いよいよこのときがきた」


 私は周りを見回す。


「……これが国家の運命を左右する戦いとなろう。皆の一層奮励の努力を期待する。……それでは、」


「……第2砲兵部隊ですね?」


「ああ。……第2砲兵部隊全部隊に告げろ。各部隊着弾場所測定に入り、所定の時間になったら……」








「……我が中国の、赤き鉄槌を落とせ」









 国家の命運をかけた戦いが、まもなく気って落とされる…………

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