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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第3章 ~表に出てきた動き~
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日台電話会談

―8月3日(月) PM19:25 日本国首都東京 首相官邸5階 総理執務室―





「……そうですか。そちらでも先日に……」


 私は目の前にあるノートPCのディスプレイを見つつそういった。


 8月にはいって間もないこの日。

 巷ではオリンピックでにぎわっている。

 オリンピックも佳境に入り、もうまもなくクライマックスになろうというところだった。


 しかし、私はそんなのを楽しんでいる暇はなかった。楽しみたいのだが。


 台湾とはホットラインをつないでいる。

 昔はなかったのだが、台湾独立を期に相互の情報共有能力強化のためのものだ。

 私の執務室にある電話も、それに対応されている。

 まあ、電話というか、TV電話であるが。


 今出ている相手は、台湾大統領馬永灸ば・えいきゅうさんだった。

 ディスプレイの表示されているブラウザのひとつに、彼が表示されている。

 当たり前だが、向こうも夜なのだろう。

 背景に移っている窓は暗く、その前には、いつもどおりの若々しい顔を見せる彼がいた。

 今は向こうとの例の件に関して互いに情報交換、及び共有を行うために、こうして電話をしていたのだ。


『はい。先日の31日に南方で領海侵犯の対処を行おうとした、そちらから譲り受けた巡視船が被害を受けまして』


「そうですか。それで、被害のほうは?」


『問題ありません。2隻あたったうち1隻が、機関ををやられ、武装がい来るかやられるなどの被害を受けたそうですが、修復に問題はないと、我が国の海上保管局から報告を受けております』


「それはそれは。いやはや、念のために防弾仕様かつ重武装のひだ型ないしあつみ型の改良型を渡しておいてよかったです」


『はい。今回ばかりはそれが大いに役立ちました。我が国が今まで持っていたものはあれほどではありませんでしたので……』


「我が国の送った船が役に立ったようで何よりです。今後もご存分にお使いください」


『はい。そうさせていただきます』


 台湾の独立以降、今まで中国側に頼っていた部分をすべて独自でまかなわねばならなくなった。

 今のこの船もその一環で、中華民国行政院海岸巡防署を台湾海上保安局として正式な官公庁に昇格を果たした後、戦力というか、運用する船の増強を目的として台湾から我が国に要請されたもののお返しである。

 台湾に送ったのは『雲林型PL』2隻であり、最新のひだ型やあつみ型をモデルにして、台湾の要求を全面的に取り入れた改良型である。

 元のひだ型やあつみ型が不審船対策のための装備が満載してるだけあって、台湾でも主力として使われているようだ。


 うまい具合に活用されているようで何よりだ。これでこそこっちとて向こうに巡視船を送った甲斐があったというものだ。


「送った船、といえば、確かそちらに送ったものとしてもうひとつ……」


『もうひとつ、というより、もう2隻ですな。例の〝はたかぜ〟と〝しまかぜ〟ですな?』


 ここで出た『はたかぜ』と『しまかぜ』とは、我が国でかつて建造・運用されていた46DDGことはたかぜ型ミサイル護衛艦のことであり、第3世代のDDGとして長らく我が国の国防を担ってきていた。

 しかし、ここ数年でのDDG能力の向上や多機能化を受け、今のこの艦ではどうも能力不足となることが想定された。

 そこで、この艦をどう処理するかということになった。

 数年前に延命工事はしたが、それ以降の処理に関してはなんにも決めていないのでそれのためである。

 そのときであった。

 台湾が独立したということを受け、もしかしたら国防力増強のために奔走することになるかもしれないと考えた私は、国会にてこの2隻の台湾民主国への売却を提案した。

 機密事項の漏洩など、いろいろと反対意見もあったが、これらに関しては台湾から提示されるであろう適応要求に対応させるための改修時にそれらを取り外すなどの適切な処理をすることで手を打った。

 これにより何とか国会で承認を得、山内外務大臣を通じて台湾に提案。

 向こうは大いに喜んだらしい。ちょうど海軍力増強に奔走していたが、なかなか艦が集まらない状況だったようだ。

 これらは1年の改修時期を得て、台湾から「せめて個艦の防衛能力を全体的に強化してほしい」という要求を満たし、台湾への技術提供の一環として『FCS-3』のダウングレード版を新たに装備させた。

 なぜいちいちこれを取り付けたのかは後に話すことにするが、当時最新鋭だったFCS-4を取り付けなかったのは、やはり国会で出ていた技術漏洩を考慮した結果であり、今の台湾の要求ならこれでも十分と判断された。

 そして台湾にて引渡し式が執り行われた後、この2隻は正式に台湾民主国海軍の所属となった。


 今では台湾海軍の主力として活用されているらしい。


「はい。そちらでもがんばってますかな?」


『ええ、しっかり主力級の活躍をしております。首都防衛の艦として、あの艦と一緒に』


「そうですか。……しかしまあ、」


『?』


「……今さらではありますが、本当によろしかったのですか? 〝名前を変えなくて〟」


 そう。実はこの2隻〝名前がほとんど変わっていない〟のである。


 変わったとしたらせいぜい漢字になったくらいである。

 『はたかぜ』が『旗風』に、『しまかぜ』が『島風』になっている。

 これは台湾での引き渡し式に直々に出席したときに知り、周りにいた日本関係者ともに少しザワッとなった。

 これは台湾としても、というか世界的に見ても異例中の異例で、馬大統領に直々に理由を聞いたら、


「あえて日本のときの名前を記すことによって、この艦は日本からの好意でゆずり受けたものであると同時に、我が国と日本の友好を象徴させる効果があるのではと思いましてな。……というのは表面の話で、実際は国防関係者どころか民間レベルで名前を残してほしいと言う提案がなされたためです」


と言われた。

 どうやらわざわざ名前を変えるのがもったいないという意見が国民から出たらしい。

 それだけいい名前だと思われたのだろうか。それとも、単に日本の艦だから記念にと思ったのだろうか。

 それはわからないが、当の艦はうれしいだろうな。

 名前は変わらないから今までどおりの自分の名前を名乗れる。


 まあ、そこに関しては向こうに任せるからかまわないがな。


「国防力に関しては順調に増強されているようですな」


『はい。貴国の支援のおかげで、今では昔とは比べ物にならないほど増強されました。本当に、台湾を代表して御礼を申し上げます』


「いえいえ、とんでもない。すべては貴国の大切な友好国として、台湾の平和を願ってのことであります。同時に、これは平和の下での繁栄も約束されるでしょう」


 これによる利益も少なくないのだ。

 向こうにとっても悪くない。台湾とはぜひともWin-Winな関係を保って生きたいものであるしな。


 それに……、


「貴国の海軍力は近年中々の規模に膨れ上がりました。1ヶ月前に就役したばかりの最新鋭イージス艦もあります」


『あれにも、我が国は大いに助けられました。貴国には設計段階から……』


「結果的に、我が国にあるものとほとんど同じになってしまいましたが……」


『あれでいいのですよ。あれでも十分に国防力は向上しました。しかも2隻です』


「ええ。あれもうまくやっていますかな」


『はい。大いに活用させていただいています。これも、例の旗風と島風の護衛をつけて首都方面の中核として』


 ここで出たイージス艦は、我が国で設計された台湾提供用に建造されたものであり、あたご型、ながと型をモデルとしている。

 本当はアメリカも参加……、というか、そもそもこれはアメリカから、


「独立おめでとう。国防力強化に乗り出すみたいだね。ならこのうちで作ったイージスシステムは便利だよ。使い勝手よくて様々な状況に対応できる優れものだよ。どうだい? 買ってかない? うん?」


みたいな感じで押し売り商業よろしく提案してきたものを、台湾が「あ、はい……、うん。買います」と否応なく買わされたのが始まりで、アメリカが協力したといったらそれくらい。

 後はもうはっきり言って我が国に「じゃ、後はよろしく」といわんばかりに丸投げしてきたので、仕方なく設計段階から協力していったものだ。

 台湾からの要求は「とにかく絶対的な防空能力を」というもので、それならうちのイージス艦と性質的にはほとんど似ているなと思ったのも、我が国が設計協力にいたった理由のひとつだ。


 ほとんどあたご型やながと型にそっくりであるが、主な変更点としてはSSMを純国産の『雄風III型』、台湾版C4Iシステムである『大成(台湾版NTDS:リンク11/14/16)』の搭載、主砲を対空能力に特化されている64口径127mm単装速射砲に変更といったくらいで、後は大まかな面影はほとんど日本のイージス艦と同じである。

 見分けるポイントといったら、こんごう型にしか乗っていないはずの127mm単装速射砲にヘリ格納庫がついていたらそれは台湾イージス艦であるというくらいである。


 名前は1番艦『丹陽たんよう』、2番艦『媽祖まそ』となっている。

 媽祖まそ中国伝来の、日本でも信仰されている航海の神であるが、丹陽たんようは元々は旧日本軍の台湾に対する賠償艦として受け渡された駆逐艦雪風の台湾名である。


 このイージス艦も日本から受け渡されるものだし、まさに名前としてはぴったりだろう。


 そして、さっき言った旗風と島風が個艦防衛能力特化型となった理由がこれだ。

 この2隻には、この日本製新鋭イージス艦の護衛を勤めてもらおうと思ったのだ。

 というのも、このイージス艦提供の件が出た時期には、まだこの2隻の処理は決めかねており、台湾のイージス艦導入を聞いてこのような仕様になる決意をしたのである。

 これによる改修はとても大きなものとなったが、それでも護衛を勤めるには十分な性能となる。

 あの2隻のイージス艦はBMD能力も兼ね備えられており、それをしているときの護衛を勤める。

 ここいら辺は日本での『あきづき型汎用駆逐艦』の運用方法と同じだ。


 台湾にも説明してみたら納得した。

 というか、国防力強化にあたり台湾は結構我が国のやり方を参考にしているらしい。

 前に台湾から国防関連の留学に来ていたものもいたくらいだしな。


「うむ。……海上戦力は十分増強されているようですな」


『はい。……ですが、』


「?」


 彼が少し間をおいた。

 表情もいくらか暗い。


『……お隣さんにはかないませんよ。全体戦力的に考えても』


「……ええ。そうですね」


 お隣さん。

 これは、紛れもなく中国のことだ。


 ここ最近、中国の行動は常軌を逸し始めていた。

 我が国だけではない。

 台湾はもちろん、東南アジアでも似たような事例が情報として飛び込んできていた。

 南沙諸島でのフィリピン領への領海侵犯未遂行為が多発し、フィリピンとの対立が深まったほか、ほか諸外国でも中国軍のものと思われる潜水艦の航行が確認された。

 どの国も中国に事実確認、及びフィリピンのような実力行使寸前にいたったものに関しては抗議を行ったが、中国はだんまりである。


 あくまで無視を貫く姿勢であった。


「……最近、向こうもきな臭くなってきましたな」


『はい。我が国ではそのための国防戦術の検討を進めていますが、いかんせん時間がありません』


「例のXデーまでもう時間がほとんどありませんしな……」


 例のXデー。

 これは我が国が予測した中国侵攻計画の予測作戦発揮日時であり、8月15日のことである。

 そう。もうあと数日しかない。


 もちろんこれとは限らないが、今のところこれと前提して対策している。


「国防戦術対策はしっかりできていますかな?」


『ええ。おそらく、東海艦隊のいる北方から来ると見て準備を進めています。軍備も、一部そちらに移すなどして。そちらは?』


「沖縄にPAC-3を移すなどしてBMD対策をしています。……しかし、如何せん離島ですので戦力移送がうまく効率的にいかずに……」


『大変ですな……』


 沖縄方面は離島で本州から離れているため、一部戦力を移動するにも、できるとしたらPAC-3を移すくらいでとはもう……。

 航空戦力移すにも本州の分のことも考えんと……。


「……と、失礼」


『?』


 そのとき私は少し失礼して右手にあったコーヒーカップを持ち、コースターに乗っていたコーヒーカップを持ち、コーヒーを一口飲む。


 ……いかんいかん、のどが渇いて仕方ないな。


『……コーヒーですかな?』


「? ええ、少しのどが渇いてしまってしまいましてな」


『はは、麻生さん、いつもコーヒーを飲んでいますな』


「ええ……、それも、今日ばかりはとてつもなく」


『ほう、といいますと?』


「連日会議に振り回され、しかも今日は朝からずっと……」


『はは……、大変ですな』


「ええ……、年のせいか、妙にのどが渇きやすくて……」


 今日も今日とてペットボトルを肌身離さない、というか、離せない状況だった。

 ……やはりもう年か。糖尿病かなんかの症状のひとつとしてこれがあると聞いたがあとでその道の友人に聞くか。


「しかし、そちらはまだ何にもそんことなさそうで羨ましいですな。まだまだお若い」


『はは、まあ確かにそのような症状はまだありませんな』


「私もあのころに戻りたい……」


 若かりしきあのころ。


「そちらも大変でしょう?」


『ええ。今日もついさっきまで会議でしたよ。ほんと、連日ですからなぁ……』


「はは……」


 向こうも大変か。

 実際国家の危機なんだ。

 ……これくらいしていないといけない状況。今まで体験していないからなれないことに変わりはないな。


「……お互いに、がんばらねばなりませんな」


『ええ……、ん?』


 すると、ディスプレイ上で彼が視線をはずし誰かと話す。

 ……秘書官だろうか?


「どうかなさいましたかな?」


『いえ、そろそろ次の会議に入らねば』


「ほう、またあるのですか」


 もう午後8時近くになるというのに。


『今度は国内の被害想定に関するものです。これの中身によって国内での被害想定額等を算定します』


「そうですか。……若いながらがんばっていらっしゃる」


『台湾の長としてこれ位せねば! ……あ、というわけで、私はそろそろこれで』


「ええ。いきなり呼んですみません」


『いえいえ。現代は情報戦です。むしろ、このような機会はもっと増やしていくべきでしょう。……では、失礼します』


「はい。ではまた」


 そういって互いに電話を切る。

 ディスプレイの、さっきまで彼を移していたブラウザが消えた。


「……」


 私はひとり静かになったその部屋で考える。


「……長……、か」


 私も、日本国という国の長だ。

 この国を取りまとめ、日本という国を守る役目がある。


 だが、今の私でそれが達成できるだろうか。

 彼のように、若しくも活発で積極的に動けるようなもののほうが向いているのだろうか?


 はたして、今の私でこの国を守れるか?


 ……いや、違うな。


「……守れるかでない、」


 一人の政治家として、一人の日本人として……、







「……守らねばならん、ということか……」








 責任は果たさねばならない。日本国の長としての責任を…………

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