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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第3章 ~表に出てきた動き~
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体験航海

―PM12:45 佐世保沖 黒島より南西3海里 DCGやまと後部甲板最後部―





「……ネタちゃんと頭に入れたか?」


 カズが確認がてらそういった。

 手元には軽くメモったネタ帳。


 俺もそれにうなずく。


「おう、しっかり頭に叩き込んだぜ」


「よし、しっかり頼むぜツッコミ。お前のノリがいくて激しいツッコミにかかってるんだ」


「わかってるって。しっかり練習したから安心しな」


「ん。それならいいぜ。……にしても、」


「?」


「……繁盛してるなぁ~。そこもかしこも」


「……だな」


 今現在、俺達は予定通り体験航海中です。

 天気はすっかり快晴に恵まれた。まさに航海日和とはこのことです。

 このやまとのほかにも、イージス艦のこんごうやながと、最新型の軽空母あかぎなど総勢6隻が出港するという大規模な体験航海となり、最新鋭艦が勢ぞろいとあって全国からその道の軍オタやミリオタ、また近所の人たちが乗艦した。


 ほかの艦の状況はわからないけど、この艦に限っていえば、自分でも言うのもなんだが、結構大賑わいです。

 そして、今回企画した催しが中々良い感じに受けているようだった。


 まず、カズが提案したクイズも、これはこの時点で見ても結構大成功だったといって良い。


 子供達がいたるところでそのクイズの答案用紙を持って、いたるところを親なり兄弟なり友達なりをつれまわして答え探しにいそしんでいた。

 特に親連れのとこなんて思わず走り回る子供を親が優しく注意するなんていうほのぼの路線まっしぐらの光景がいたるところでお見受けできます。

 それゆえ、各装備の紹介プレートの前は子供達でいっぱいで、そこに付く乗員がほかの邪魔にならないようにその子供達を整理しています。

 ……やはり子供達には大好評のようだ。これはいける。

 ちなみに、その問題を全問正解した子にはもれなくうまい棒などのお菓子や専用のグッズがプレゼントされます。

 なお、好きなものを選べるので皆好みの物を我先にと争奪戦が繰り広げられています。


 そして今……、




「最近自分某空飛ぶ美少女のアニメにはまってるんですよ。あの空飛ぶ少女の総称なんていったっけな……?」


「ああ、それ知ってるぞ。witchウィッチだろ?」


「え……?」


「?」


「……キャラの話なのになんで疑問詞が出てくるんです?」


「いやそっちのwhichウィッチじゃねえよ!」


また爆笑の渦が上がる。





 この後部甲板の一番後ろに軽い台を作って、そこで漫才が披露されています。

 そこでは、俺とカズを含むエントリーをした乗員による漫才が繰り広げられており、午前の部と午後の部で分かれている演習科目の間をぬって開催されています。

 わざわざこの昼時にしたのも、そもそもこの体験航海朝のAM9:30に佐世保を出て、午前の訓練項目の展示をした後、昼をはさんでのPM15:30に佐世保に帰るって日程だから、訓練展示のときはまあ良いにしても、昼休憩はマジで暇。

 というわけで、一般客は昼飯食ってるだろうけど、それプラスの娯楽ということでこのタイミングで漫才大会を開催中です。


 なお、結構大うけだった模様。


 昼食しながらってことで、なんとなくお茶の間的な感覚みたいな感じだったらしい。

 ここに観客に来てる一般客、及び暇をしている乗員は皆手で食堂から買ってきたらしいメシを食いながら、漫才というひと時の娯楽を楽しんでいます。


 なお、今現在漫才を披露しているのはあの海原副長と潮崎航海長です。


「疑問詞のほうじゃねえよ。魔女だよ。魔女のほう」


「ああ、そっちか」


「そっちかじゃなくて、疑問に持ちたまえ疑問に」


「はぁ……、疑問詞だけに?」


「うまいこといったつもりか君!?」


 そこでまたお茶の間気分で見ていた観客が爆笑する。

 というか、裏で見てた俺達も笑いを必死にこらえていた。


 ……ついでに、


「ぎ……、疑問詞だけに……ッ!」


「お前もいたのか……」


 やまとも漫才見に来ていた。

 というか、こいつ笑いの沸点低いんだろうな。さっきから笑ってばっかだ。


 まあ、そんなことにはかまわず漫才は続きます。


「えっと……、スペルなんでしたっけ?」


「ああ、W、I、T、C、H、だっけな」


「えーっと……、あれ?」


「?」


「それだと見るって意味になりません?」


「いやそれはWatchウォッチだろうが! 勝手にスペル変えんなや!」


 本日何度目かの大爆笑です。

 くそ、w〝i〟tchをW〝a〟tchと変えてきたか。それは盲点だった。


「さっきからあの二人爆笑した出してないな……」


 俺は思わず言った。

 カズも肯定する。


「ああ。今までのやつらの中々だったが、この二人は強敵だな……」


「ああ。……ていうか、」


「?」




「ああ、Watchウォッチって言ったらあれですよね? あの昇降口とかそれを英訳した……」


「それはHatchハッチだ」


「あ、じゃあ一回分って意味の……」


「だからそれはBatchバッチ


「あ、ボール飛んできた! 副長つかんでつかんで!」


「え!? あ、えっと……、オーライ、オーライ、はい、Catchキャーッチ、って馬鹿野郎! 意味が全然違うわ!」






 これまた大爆笑の渦はいります。


「……副長、あんだけ嫌がってた割にはノリノリでツッコんでるな……」


「……だな」


 案外やるときはなんだろうとやる人なんだろうね。

 まあ、元から性格的にそれっぽいけど。責任感強いし。


「……もうそろそろ終わるよな?」


「ああ。ネタ暗記は完璧だから、後は……」


「……やるだけだな。しかも俺達……」


「……トリだしな」


 トリ。

 つまり、一番最後の締めを任されたってことだ。

 順番は事前にくじ引きで決めたんだけど、カズが引いたのがそのまんまトリって書かれたやつ。


 さて、トリとなるとめっちゃいろんな意味で責任重大なんだが……。


「……お、終わったみたいだな」


「お?」


 拍手喝采とともに、副長と航海長が降りてきた。

 見事にやりきったぜといわんばかりのドヤ顔である。


「お疲れ様です。ウケまくりでしたねこれ」


 それに自信満々で答えたのが航海長である。


「おうよ。数日かけてみっちりネタ組んだからな。自身は結構あるぜ」


「ふむ。……それにしても、」


「?」


 カズが言った先は副長である。


「……副長、案外ノリノリでしたね」


「ッ! ……ま、まあ、やるときはやるからな。俺は」


「ほ~う……」


 意外な一面を見れるのもこういう催し物の一つだな。うん。


「じゃ、トリはお前らだな。俺の作ったムード壊すなよ?」


 おいおい航海長、プレッシャーかけないでくださいよ。


「そこはお任せを。高校時代、これでもかってくらいウケたやつ披露しますんで」


 カズよ。だからってお前まで自信満々でプレッシャーをかけるとは何事だ。


 ……と、そろそろ行かねばならんな。


「よし……、すべてはこの日のため。花火の中に突っ込むぜ!」


「俺はお前にツッコむんだがな」


 花火がどうとかそれどっかのシューティングゲームで聞いたことあるんだがな。


「そろそろですね。……あ、私は観客席から見てますんで」


「あいよ」


 やまとももちろん見ていきます。

 むしろさっきのを見てもわかるとおり笑いの沸点低いから腹抱えるだろうな。うん。


「あ、ちなみに……」


「?」


「ほかの艦の方たちも来てますのでよろしく」


「はぁ!?」


 おいまてや。ほかの艦ってつまりお前が言うところで考えればほかの艦魂?

 ……すいません。聞いてないですよそれ。


「ほかの方への紹介が遅れてたのでついでにということで。ちょっとしたサプライズってやつですよ」


「この場合俺にとってもサプライズだよ?」


 全く、皆プレッシャーかけすぎだぜおい……。

 久しぶりにやるから緊張してるってのに。


 そんなことを言いつつ、やまとはここを離れて観客席という名の勝手に出来た観客がいるスペースに言った。


「どうした?」


「いや……、ほかの艦魂も来てるって。観客がてらに」


「ほう。そういえば艦魂って船同士なら移動できたっけな」


「ああ」


「なるほど……。これは失敗できんな……」


 そういいつつニヤリッとしてるのは何なんだろうな全く。


 そのうち、俺達が最後の最後紹介され、出番が来た。

 では……、始めようか。


「よし、行くぜ」


「おうよ」





 覚悟しろ。お茶の間お笑い抱腹絶倒の時間だ。





 俺達は階段を上がってステージに立った。

 目の前には床座りならぬ甲板座りしている観客が大量だった。

 高校時代を思い出す。

 面白い……、やってやるぜ。



 俺達流漫才の始まりだ。



 カズから切り出した。



「はいど~も~。皆さんまた会いましたね(笑)」


 また、というのも、実はこれの前のファッションショーでこいつ青い作業着の服着てでたからもうみんなには知られています。

 まあ、ここに来ている観客も大体同じメンバー+αです。


「はい、というわけでね、何と俺達がトリを勤めさせていただくわけですが」


「全く、くじ引きでトリなんて引かなかったら俺だってこんなに緊張せずにいられたんですけどねぇ」


「ね~、一体誰のせいでしょうね?」


「お前だよこのやろう」


 少し笑いが来る。

 うん。まずはこんな感じだ。


「まあまあそういわずに。ま、やるからには全力でやっていかねばならないわけですが……、でさ」


「うん?」


「俺思ったわけですよ。漫才やるに当たってね、やっぱり漫才するには、漫才するコンビ相手のことをしっかりわかってないといけないわけですよ」


「あー、なるほどね。相手のことをよく知っててこそよりよい漫才ってことですね?」


「そういうことですよ。やっぱりコンビ組むにあたってね? それくらいはしていないといけないわけだと思うわけですよ」


「なるほど。それで?」


「うん。……それだけ」


「え、え!? それだけ!?」


 ここでさっきよりでかい爆笑が出る。

 うん。これだけでもこれくらいでるのか。……もしかしてここの人たち皆笑いの沸点低い?

 ほほう……、だとしたら案外いけるなこれ。


「まあ、それは冗談としてですよ」


「ま、まあそうですよね……はは……」


「でね。自分これのために簡単に情報まとめていろいろプロフィール作った分けですよ」


「ほう。情報を集めて?」


「うす」


「どこから仕入れたので?」


「口コミです」


「随分信憑性薄いプロフィールだなおい!?」


「まあ、そういわずに。とりあえずこの機会ですし、ここの皆さんにも知ってもらおうとね」


「はぁ……」


「まあ、俺のことはさっきここの人たちに十分教え込んだので良いとして……」


「教え込んだってなんか意味深だな……」


「なお調教ではありません」


「誰もそんなこと言ってねえよ」


 ここまで出俺がツッコむたびに大なり小なりの笑いがきている。

 なら、これはどんどんとツッコんでいって支障はないな。

 よし、ここからはノンストップだぜ。


「まとめてみると中々すごい経歴を持っておりましてね。彼結構優秀ですよ?」


「いやいや、自分なんてそれほど優秀なんて……」


「なお、これでも彼女暦ありません」


「いや言わんでええやろそこ!」


 いやまあ事実ですけどね、ハイ。


「あ、それとさ……」


「?」


「これ、個人情報満載だけど大丈夫ですかね?」


「むしろプロフィールの中身に個人情報の保護もクソもありますか?」


「……」


「……」





「……、ないな!」


「だろ?」






 ここで爆笑が入ります。

 このタメ結構使えるな。うん。


「というわけで、さっさと生年月日あたりから言っていくわけですが、生まれは1998年の11月24日。……クリスマスの1ヶ月前ですね」


「ちなみに、この1ヵ月後にやまとが就役するんですよね」


「ほほう、縁がありますな」


「うむ。確かに」


「でも……」


「?」


「それだとこの艦がすっごい22年の老齢艦になんね?」


「俺と同い年なわけねえだろ!?」


そりゃこっちの説明がまずかった可能性もあるが。


「22年前でこの装備なら今頃日本の海軍艦艇の技術とんでもないわ! アメリカみたいになるわいろんな意味で!」


「それはそれでロマンで良いよな」


「いやまあ、そうだけどさ……。いや、ていうかそうでなくて。去年の俺の誕生日の一ヵ月後ってことだからな? わかるな?」


「つまりこの艦はまだ1歳のも満たない幼女だということか?」


「なぜそうなる」


「船って女性でたとえられるしな。だとしたら生まれて1年も経ってないから……、あれ? それだと幼女どころか赤ん坊状態なのか!?」


「う る せ え よ 変 態」


 ここでチラッとやまとのほうを見る。

 一応自分のことをネタにされてるからどうかなと思ったが……。




 ……うん。腹抱えて笑ってた。むしろ大うけだった。




「ハイ続き」


「えー……。スルーかいな」


「まあまあ。それで、青森県の青森市出身。高校は青森県立東北学院付属高校という……、まあ、ぶっちゃけ名門校ですよ」


「お前もでしょうが」


「確かに。……まあ、」


「?」


「最近平均学力へってきましたが」


「おいここで母校のディスりやめろって」


 悪いイメージ付いてまう。これいろいろとアウトな内容や。


「そして防衛大学校をトップの成績で卒業しています。トップの成績で卒業しています」


「なんで2回言ったんだよ」


「大事なことだろ?」


「ぶっちゃけどうでもいいよ」


 でもトップなのは事実。自慢じゃないけど。


「でも成績トップなのはすごいですよ。ゆえにこいつこの22なんつう年齢で階級が少尉ですからね」


「いやいや、単に偶然でしょここまで上がったの……」


「ヘッ、まったくどの口が言ってんだか」


「お前も少尉だろうが」


「……、テヘッ」


「やめろや」


 ……まって、さっきから観客が爆笑しかしてないな。

 むしろ怖いぞ? なにか意図あるんでねえの?


 まあ、どうだろうと気にしませんが。


「それで初の配属先がこのやまとです。今はえっと……」


「航海科やってますね。艦橋に配属されて」


「あんなとこに配属されて後悔してる?」


「こうかいだけにってか?」


「おう」


「はいすいません誰かこいつ締め上げて良いですよ~」


「ちょちょちょちょちょ冗談だって」


 大げさな振りを加えつつボケツッコミ。


「……まあ、とにかく、これが彼の簡単なプロフィールになるわけですが……」


「はい」


「……でですね、」


「?」






「その……、名前、なんでしたっけ?」






「いやそこしらなかったのぉ!?」


 そこで大爆笑が入ります。

 よし、ここからが本番だわ。


「いやー……、名前は知らなくてですね」


「いやいやいやいやあんたコンビ相手のことよくわかってなければ云々言ってましたよね!? 名前は知っておかないとまずいんでは!?」


「そうはいっても知らないものは知らない」


「道理でなんか足りないと思ったわ。名前だったわ! おもいっきり忘れてたわ!」


「で、なんでしたっけ?」


「いやいやいやいや今まで何度も聞いてきたと思いますけど!?」


「自分実はアルツハイマーなんですよ」


「なんで軍人になったんだ……」


「で、名前のほうをですね」


「いや、さっき司会の紹介で出てたじゃないですか……。思い出せるでしょ?」


「いや……、名字はすっかり忘れたんですよ。名前のほうは……」


「?」


「確か……、ひ、が最初だったはず」


「ああそれですそれです。そこから思い出せません?」


「うーんと……、ひろゆき?」


「違いますわ。というかそれどっかの芸人でありましたねそれ」


「えっと……、ひろし?」


「某アニメのお父さんってひろしって名前でしたね。でも違います」


「じゃあ……、ひびき?」


「それでもないです。そしてそれを聞いて音響測定艦のひびきを思い出した方は絶対ミリオタですね」


「おれのことかああああああ!!!」


「よし後で語り合いましょうか」


 観客がいきなり乗ってきてもそれに即行でのるのは想定済みなのです。


「ん~……、ひろしま」


「もはや地名じゃないですか。というかいるんかその名前の人」


「おれのことかああああああ!!!」


「あんたひろしまって名前だったのかよ!?」


 まあ、絶対うそだろうな。うん。


「え~……、後ありましたっけ?」


「ひから始まってきでおわります。だから最初のひろゆき結構近かったのですな」


「うそっ!? え、えっとだとしたら聞き覚えがあるぞ……」


「お!? そ、それではないですかな!? それ!?」


「えっと……、ひ……ひ……、あ!」


「おう!」







「ひこうき!」


「なんでやぁぁぁあああああ!!!!!」








 また観客の間で大爆笑の渦が沸く。

 よ~し、完全に俺達のターンに入った。ここからさらに加速していくぜぇ……。









 ……その裏で、


「……了解。これより作戦行動に移る」










「……ん?」


「? どうしたのやまと?」


「いや……、さっきあそこに人がいた気が?」


「気のせいでしょ。それより漫才よ漫才。……ブッ! ッハハハハ! ヤバイ! 面白いわこの二人!!」


「う、うん……」









「(ほんとに気のせいかなあれ……)」

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