動き出した中国
―7月18日(土) PM14:05 佐世保海軍基地 DCGやまと食堂―
「……あっつぅ~」
俺は手を顔の前で仰ぎながら言った。
もう7月も中盤。
もうすぐ後半に入ろうという今日この頃。
暑いです。ハイ。
Fucking hot.(クソ暑い)
てやつです。ハイ。
そんな中、俺達は今なおこの佐世保基地にて停泊中。
基地内待機という名の実質休暇。
俺達なんにもすることなし。
というわけで、基地に停泊しながら時々訓練をしつつ暇をもてあましています。
そして、今は暇なので食堂です。
……でも暑いです。ハイ。
「艦内クーラー効いてるはずなんだけどな……」
それほど外は暑いということか?
しかしここは艦内なんだが?
そういっているうちに食堂に着く。
とりあえず簡単にコーヒーでも飲んで暇をつぶしつつ……、
「……ん?」
中にはいってみると、どうやら人だかりが出来ていた。
テレビの前。
42インチの大型の液晶薄型テレビで、食堂にはこれ1台だけ。
その周りに、うちのクルーが結構集まっていた。
……何をしたんだろうか? なんかの緊急速報でも流れてるんか?
「何したんだ? テレビの前に集まって」
とりあえず適当にコーヒーでも紙コップに汲んで人だかりに合流する。
それに答えたのはテレビの一番前にいたカズだった。
「ああ、大樹か。ちょっとこれを見てみろよ」
「え?」
言われるがままにテレビを見てみる。
どうやら昼のワイドショーをしていたところらしく、左上には時間と日照テレビを示す『NBC』の文字。
そして右上には『憲法改正後初の撃墜処理』という小さなテロップ。
画面上はさっきからテレビのスタジオが写っており、ニュースキャスターの男性が写っていた。
『―――それでは引き続きお伝えします』
ニュースキャスターの男性はニュースを伝えていた。
『前日午後に東シナ海上空にて領空侵犯した中国軍機『J-11B』2機と、下地島よりスクランブル発進した国防空軍『F-15J』2機の間で起きた空中戦にて起こった中国側の戦力的・人的損害について、中国は共産党本部にて行なわれた記者会見にて正式に日本政府に抗議し、日本政府に謝罪と賠償を要求する内容の声明を発表しました。この戦闘で中国側のパイロット2名は、海上保安庁より遺体として回収され、戦死が発表されています。また……』
どうやら昨日の領空侵犯の関連のニュースだったらしい。
「……これって、昨日の空中戦のやつか?」
「ああ。お前も一応知ってるだろ?」
「知ってるもなにも、基本どこもかしこもオリンピック以外はこの話題一色だろ?」
「まあな」
俺はそういいつつコーヒーを一口飲む。
空軍、しいては空自時代からさかのぼっても初の事例だったこともあって、各マスコミもその関連の特集を組んでいて、一応時期の関係でオリンピック関連の話題で今注目の選手とか期待の選手とか、あと各種目の注目点、相手国の情報などを逐次伝えてるけど、それ以外は全部この空中戦関係一色です。
事情は昨日の内に俺も聞いていて、何でも中国軍機が東シナ海で領空侵犯したから警告したけど全然聞かなくて、信号射撃も効かないから仕方なく憲法改正後初の撃墜処理をしようとしたら向こうから襲い掛かって空中戦にまで発展したらしい。
結果的には日本側のF-15J戦闘機2機に損害はなく、襲い掛かってきた敵中国側のJ-11B戦闘機2機が撃墜され、海保がその残骸とともに遺体となっていたパイロットを回収して戦死判定を正式に発表した。
……っていうとこまでは聞いた。
それ以外はニュース時代あんま聞かなかったから知らないが、どうやらこれはその続報らしい。
とうとう中国側本人が文句を言ってきたようだ。そりゃそうか。
でもなぁ……、
「……しかし、今回ばかりは日本側の主張が通るだろ。かかってきたのはどう考えても向こうで、戦闘記録も当時の無線とセットで一部その部分だけ公開されてるって話じゃなかったか?」
日本側の主張が一般的には通っているはずだ。
機密がばれない程度にマスコミに証拠として一部の無線音声を公開してるし、その内容からも、誰がどう聞いても向こうからかかってきたような内容だったらしい。
……尤も、俺は聞いたことありませんがねそれ。
また、そのとき上空にいた各戦闘機の飛行状態などを記した戦闘記録も、これまた機密がばれない程度に加工して公開してるらしいし、それらを見てもマスコミはこうやって日本側の主張が正しい立場で報道してる。
……普段逆になりそうですけどね。普段のマスコミならね。
その疑問にはカズがそれに答える。
「そう。だが、向こうは問答無用らしいな。あくまで日本側に問題があるらしいことを行ってやがる。さっき中国の記者会見の映像も出てそういってたのを俺達全員が聞いたし」
「はは……」
思わず苦笑いしてコーヒーをまた一口。
とりあえず、これを一言言っておこうか。
ま た 中 国 か 。
まあ、あの国は昔からそんな感じの態度とってきたから今さら驚きはしませんがね。
しかしまあ、こればっかりはマジでこっちに文句言われても困るんだよなぁ……。
だって……、
「……でも、確か日本って憲法改正した後下手したらこうなるからやめてくれよって近隣に行ってたんじゃなかったか?」
この声は航海長か。
この人もどうやら人ごみにまぎれてこの報道を見ていたらしい。
そして、彼のいっていることは事実だ。
「ええ。近隣各国、特にスクランブルという名のピンポンダッシュ常習犯の中国とロシアあたりには、直々に向こうに飛んでまで直接伝えて了承の返答得てるらしいですからね。これでもこっちが悪いとか言われてもそりゃ困るわけでして」
この2国はもう入念に伝えていたらしい。
なんかもう入念過ぎて、どのポストの人から知らないけどこの2国のこの連絡を受けたお偉いさんが口をそろえて、
「いくらなんでもしつこすぎぃ!」
みたないな事をマスコミに愚痴ってたらしくて、それを聞いた日本政府が後で「正直すまんかった」的な感じで謝罪したらしいです。
……あ、実際の謝罪はこんなにフレンドリーじゃないですよ? 礼儀正しくしっかりとした謝罪ですよ?
「だとしたらこれなんで抗議てるんだ? おまけに賠償要求までしてるぜ?」
これは一人のクルーだ。
「そこはまあチャイニーズクオリティーというか、あちらさんのやり方なんだろ? ある意味今に始まったことじゃない」
「まあ、そうだけど……」
「しかしこれは身勝手すぎるな。自分でも日本政府から撃墜されるかもよとかそんな感じの報告があったことを事前に公表してるってのに」
「そりゃあちらさんのやり方だ。もう好きにしてろよあいつらは……」
周りにいたクルー達が愚痴り始めた。
まあ、前々から幾度となくやってきたからそりゃうんざりするか……。
……かく言う俺も人のことは言えない。
また中国かと何度も言いたいですはい。
「……で、これをまた国民にうまく伝えてガス抜きかねぇ?」
これは航海長だ。
「でしょうね。理由としてはそれ以外考えられません。わざわざここに来る理由がないですし」
「だろうな。まったく、向こうも困ったもんだ……」
航海長が深いため息をついた。
それほど本人も疲れてるんだろう。この件に関しては。
「……つかこいつら民間機まで狙いやがって……」
「……え? 民間機?」
ちょいまてや。そんな情報初耳なんだが?
それにはまたもやカズが答えてくれた。
「あれ? お前知らないのか? この侵犯したやつ最後の最後近く飛んでた民間機道連れに使用としたんだが?」
「あ あ ん ?」
ナ ニ ソ レ 意 味 不 明 。
「なんじゃそりゃ……。いろいろとツッコみたいところはあるがまずそれマジか?」
「マジな。さっきニュースでやってた」
「何でそんなとこに民間機いるんだよ……。管制は避難誘導しなかったのか?」
「それが運悪く無線機がいかれてたらしい。それで管制からの誘導が聞かなくて所定の航路をそのまま飛んでたらこれまた運悪くその交戦空域だってさ」
「なんじゃそりゃ……」
それなんて偶然の組み合わせ。
しかし、これはひどい。よりによってこんなタイミングで無線がいかれるとか、一体整備士は何をやっていたのか。
「その民間機ってなんだ?」
「香港国際空港発羽田行きのJapan Sky Wings376便だってさ。ちょうどこの近くが航路だったらしい」
「おいおい……」
よりによって日本の航空会社かよ。
JSWといったら……、ああ、日空か。
それの国際便ということか。なんてこったい。
「一応無事なのか?」
「スクランブルに上がった機体が間一髪で撃墜したってさ。民間機側パイロットどころか乗客まで歓喜の渦だったみたいだな」
「歓喜? 客まで知ってたのか?」
「手早い働きに感動したパイロットがキャビンにまで紹介したとかどうとか。曰く自分達の英雄だってさ」
「わ~お……」
英雄とまで言われるようになったか。まあ、ピンチのときに助けに行かなくてなにが国防軍人だってな。
しかし、なにはともあれ無事だったか。それはなによりだわ。
……だが、
「……にしてもなんでこいつらは民間機まで狙ったんだ? 道連れにでもしようってのか?」
「さあな。だが、そのときはすでに相手は僚機を落とされていたらしい。あの状況ではあんなことをしても全く意味のないことは確かだ」
カズが俺の疑問にそう答えた。
一番解せないのはそこだ。
まったく腹ただしいことだけど、一体何の目的で狙ったんだ?
ただ単に狙ったとでも言うのか? でも確かにそこに民間機通るとか事前に知らなかっただろうし、あの状況ではやっても意味ないことだ。
そんなの、単なる殺戮になる。
やっぱり、自らの最後を悟って民間機もろとも道連れってか?
だが、だとしても何で民間機を……。
……ダメだ。さっぱり意味がわからない。
「……それよりも一番解せないところがある」
「?」
その声は艦長か。
あなたもいたのか。全然気づかなかった。
食堂の椅子に座って、テーブルにひじを付けて両手をあごに乗せつつ、どこを見るまでもなく考えていたようだ。
その艦長がいきなり声を発した。
「艦長、どういうことですか?」
今度は砲雷長が聞いた。
あんたもいたんですか。それだけいろんな人が興味があるってことですねこのニュースに。
少し間をおいて、テレビと、俺達を一斉に見つつ言った。
「……タイミングが良すぎる」
「え?」
艦長はそういった。
……タイミング?
「考えてみたまえ。いくら突発的な不調とはいえこんなタイミングで故障など都合よく起きるか? それも、ちょうど近くで領空侵犯の対処が行なわれている、そのタイミングで」
「……、あー」
なるほどね……。
民間機が無線不調を起こす、無線が通じずしかたなくそのままの航路で飛行、ちょうど偶然その近くで領空侵犯、ちょうど偶然近くを飛んでいた、そしてちょうど偶然敵機に見つかる……。
確かに、いくらなんでも都合が良すぎる。
こんなにいろんな事象がタイミングよく起きるとは考えにくい。
事前に申し合わせてなかったのかって疑惑が出る。
「でも、マジで偶然だったなんて可能性も……」
一人のクルーが言った。
可能性としてはそれも否定は出来ない。
……が、
「それでも、なんでこんなタイミングなんだ……。ただの偶然だけでここまで都合よく行くのか……?」
艦長はあくまでただの偶然という意見を認めないらしい。
いや、認めないというか、“認めれない”というか。
「……仮に艦長の言うとおりだとすると、その場合なぜこの民間機を狙ったのか理由がわかりません。わざわざ戦闘機を使って、領空侵犯させた先で……」
「そうだ。……そこから先は私より若い君達のほうが発想力がいいのではないかな?」
そこからはこっちに振った。
……まず一番考えられるのは、
「……一つはその乗客の中にターゲットがいたとかか? どっかの戦闘機アニメだと傭兵部隊の司令官殺すために機体にプラスチック爆弾取り付けたとかってのがあったし、それの類で」
一人のクルーの一つ目の予想だ。
つまり、乗客の中にまぎれてるターゲットの殺害か? ほかの一般人巻き込んでの。
……ていうか、そのアニメ懐かしいな。何気に何度か見たことあるわ。もちろん原作と結構昔の描写のほうのアニメ。
あれ結構リアルでよかった記憶があるわ。
「でも、あの機内に何か中国にとって厄介なやつ乗ってたか?」
「さあ……? 誰かいたっけ?」
「国会議員は乗ってたって聞いたぞ。ニュースで当事者インタビューでスタジオに呼ばれてた」
「誰だよそれ」
「阿部元総理」
「え!? マジで!?」
ちょいまてや。阿部元総理って超重要人物じゃん。
日本の国会議員って普通の海外出張ならいちいち政府専用機使わないで民間機使うとは聞いていたが、よりによってあの人が使っていた?
確かに、あの人は保守的な人物だ。今の麻生政権の前の政権の首相で、積極的に憲法改正に動いたけど中々うまくいかなかった記憶がある。
でも、朝鮮戦争再発での自衛隊派遣を承認したり、海外派遣の規制融和とかを積極的にしたりとか、いろいろ軍事の面で働いた人でもある。
……まさか?
「あの人どっちかって言うと保守派だしな……。可能性としては微レ存か?」
「だが、そんな情報どっからしいれたんだ? あと、あれって確かプライベートだったろ? 公式で表明したわけでもないし、マスコミも知らなかった。本人もいつ帰るかは現地での日程の消化状況による都会ってたらしいし、どうやってあの便に乗るって知ったんだよ……?」
「ずっと張り付いてたとか? スパイでも送り込んで」
「でも中国も一国会議員の日程まで把握してるのか? 中国だって知るはずなかっただろ?」
「でもなぁ……、日本って被スパイ大国だし。そこらへんなんでもないんじゃね? いくら数年前にスパイ防止法制定されていくらかスパイ行為に目を光らせるようになったとはいえ」
「となると一々阿部元総理を狙った理由が……。ていうか、単に殺人したかっただけならなんで見つけた時点で殺さなかったんだ? チャンスなんていくらでもあったし、わざわざ飛行機で帰ってる途中になんて回りくどいやり方しないはずじゃね?」
「しかも、こうやって世間に知られちゃいろいろとまずいよな……? 余計殺す側としてはめんどくさくなるはずだ。警備だって暑くなるだろうし」
「じゃあ目的は阿部元総理の殺害とかじゃなかったってことか?」
「だとしてもほかに理由が……」
そんな感じの議論がこの場で交わされる。
若いやつらの発想というのはやはりすごいな。あ、俺も若いやつか。
……ふ~む……、
「……解せないなぁ~」
そういったときでした。
「何が解せないんです?」
「ブハァッ!」
思わず飲んでいたコーヒーを噴き出した。
いきなり後ろから攻げkじゃなかった口撃されたした。
こ、この声はまさか……。
「あ、あのなぁ……、お前後ろからいきなり声かけるなど何度……」
「いやだってただ現れてもおもしろくは」
「お前のユーモア追及で俺の心臓の寿命がマッハなんだよ察してくれ」
案の定やまとだった。
こいつ、後ろから声かけるのマジで終わらない。いつになったら飽きるんでしょうか全く。
「なにやら議論になってますね。民間機がどうとか」
「ああ、領空侵犯した中国軍機が近く飛んでた民間機にまで遅いかかってな。一応その民間機は無事だったんだが、その民間機も無線不調で避難誘導受けてなくて、こんなタイミングよくこんなこと起きるかってなって……」
「ほほう……、つまり、」
「?」
「……ここで私の推理の出番ですか」
「お前はどこぞの名探偵か。……いや、迷探偵か」
さっきまでの話の流れ聞いてなかったのに推理もクソもあるかって話なんですがねそれは。
「あれですよ、その機内に重要人物が……」
「もう既出です」
「じゃあ自分の最後を悟っての道ずれ」
「それもさっき出たどころかどっちかって言うと否定気味なんだが」
「となると……、残りはやっぱり逃げていた先に偶然民間機が!?」
「その先は太平洋です」
「あれ~……?」
……こいつのよくわからん迷探偵の推理には付いていけん。
とりあえずこいつはほっとこう。なんかまだ推理してるのかブツブツつぶやいているが。
「……ニュースさっきから変わらないな……」
またテレビを見ると、まだ例の空中戦の内容の報道をしていた。
そろそろオリンピック関係の情報ほしいんだがな……。
もう来週の金曜に迫ったんだし……。
「……ん?」
すると、画面が変わってカセットテープが写った。
うん? 何を報道する気だ?
『―――また、これはそのときスクランブルに上がったF-15MJパイロットの無線内容です。今回、防衛省より公表された一部を入手しました』
どうやら現場での無線内容らしい。
さすがにいくらかは内容に制限かかってるだろうけど、それでも十分な証拠になるだろう。
説得力も増すに違いない。
どれ、少し聞いてみるか……。
その無線の内容が聞こえてきた。
『隊長! 目標が!』
『なッ!? クソッ! 先手を打たれた! ブレイクだ! ブレイク! 回避しろ!』
「……うん?」
俺は少しその無線に耳を傾けた。
内容は確かに緊迫しており、どうやら報道内容のとおり向こうから攻撃を仕掛けられたらしいが、問題はそっちじゃない。
内容じゃなくて、“声”のほうだ。
『……クソッ! 回りこまれた!』
『≪ピーーー≫狙われてるぞ! 外せ!』
『やってます! でも全然取れません! 援護を!』
『クソッ! わかった、今すぐいく! 少し耐えろ!』
「……え?」
俺はしっかり聞いた。
無線内容は一部規制されていたが、声自体のほうはどうやら加工されていないらしい。別にするまでもないか。
しかし、その声、片方には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えがあったなんてレベルじゃない。
今まで、幾度となく聞いてきたその声。
「……と、」
「友樹ぃ!?」
「!?」
周りが一斉に俺のほうを向いた。
思わず叫んだ俺の声に反応したんだろう。
隣にいたやまと、いきなり俺が叫んだため思わずびっくりしたらしく、肩をビクッとさせてこっち驚いたような表情でむいた。
「ど、どうしたんだ新澤? 何があった?」
一人のクルーが聞いた。
俺はそれには答えないで、知らないだろうと思いつつ念のため聞いた。
「……なぁ、」
「?」
「……その民間機助けたのって2機のうち片方だけだろ?」
「ああ……、だろうな」
「……どっちかわかる?」
「えっと……、パイロットのインタビューによれば、声が結構若い方が助けてくれたとかどうとか……」
「若い方?」
「ああ、若い方」
「え……?」
若い方って……。
この無線でもう片方は少しいかつい声だったし、まさか……。
「? どうしたんです?」
やまとが聞いた。
俺は静かに言う。
「……もしかしたら、これ、民間機助けたの俺の弟かもしれない」
「え?! マジで!?」
一瞬でこの場がざわついた。
やまとも、ええ!?、と驚いた。
「ま、マジでか!?」
カズが叫んだ。
俺の即答で答える。
「そうだと思う。今無線の内容が出てたんだけど、その声のうち若い方がどう聞いても俺の弟の声だった。間違いない。今まで何度となく聞いてきたからな」
「マジかよぉ!?」
「やっべぇ! こいつの弟英雄だわ!」
「英雄の正体がまさかのこんな身近に!」
今度はさらに騒がしくなった。
正直言ってうるさいくらいだ。
「お……、弟さんなんですか?」
「ああ、間違いない。……たぶん、あいつだ」
「うへぇ~……、す、すごいですね!」
「ああ……、あの野郎、俺を差し置いて英雄とかうらやましいぜ……」
あいつ……、やってくれたな。
さすが俺の弟だ。あいつ、昔とは比べ物にならないくらい成長したようだな。
兄としてうれしい限りだ。
そうだぞ我が弟よ。どんなときでも国民を守ってこそ俺達国防軍人だ。
その信念を、しっかり曲げずに行動したようだな。
……感無量だ。あいつがあそこまで成長することを昔誰が想像しただろうかね。
「これからお前の弟人気になるぞ……? 一気に英雄としてあがめられるのか」
航海長が言った。……ニヤニヤ顔で。
「主に乗客乗員からでしょうけどね。……あいつらしいっちゃあらしいか。よく自分の使命を遂行したもんだ」
そのとき、艦長も口を挟む。
「全くだ。国民を守るという信念をしっかり貫き通したようだな。……君も、すばらしい弟を持ったな。誇りに思いたまえ」
そういった。
もちろんだ。こんな弟を持てた俺は幸せもんだろう。
……まったく、かつてひ弱だったお前が、ここまでやるとは思わなかったぜ。
成長ってのは恐ろしいな。ほんとに。
「今度からあいつの弟を英雄って呼ぼうぜ」
「いや、レジェンドか?」
「どうせなら神と」
「お前らさすがにいきすぎだ」
だからってそれはいきすぎだと思う。
……まあ、あいつのことだ。たぶん謙遜して終わりだろう。
「自分のやるべきことをしたまでです」とかどうとかいって。
……くそう、いつか言ってみてえよそのセリフ。
「……お、君達。もうそろそろ準備に入ったほうが良いのではないかな?」
艦長が言った。
時間を見ると、もう4時半になるところ。
おっと、そろそろ明日の準備に取り掛からねば。
明日は街に待った本艦初の体験航海なんだぜ!
「みたいだな。おっしお前ら! さっさと済ませようぜ!」
「あいよ!」
そう威勢よく言いつつ、皆各自の持ち場に行って準備をしに向かった。
初めての体験航海だけに皆テンションが上げ上げです。
「じゃ、俺も行くか」
そういって残ってたコーヒーを急いで飲みつつ紙コップをゴミ箱に入れる。
さて、俺は艦橋部の担当だ。
「……しかし、」
「?」
隣にいたやまとが言う。
「……謎は深まりますね。この領空侵犯と民間機の不具合の関係性は」
「まだやってたのか……」
もう考えても始まらないから忘れろ。
俺達がどうこういったって始まらないしな。
……でもまあ、
「……なんか気になりはするなぁ……」
そんなことを考えつつ、俺は艦橋に上がった…………




