表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第3章 ~表に出てきた動き~
31/168

空中戦

―PM14:08 同海域 高度32,000ft―






「敵機が喰い付きました。これより引き寄せます」


 敵の動きを見て僕は隊長に無線ですばやく報告した。


 人生初のスクランブル待機初日で初っ端から人生初のスクランブル発進したと思ったら、今度は人生初の実弾実戦の空中戦です。

 人生初体験のオンパレードです。

 でもなんででしょう。全然うれしくありません。


《わかった。俺の位置は把握しているか?》


「大丈夫です。レーダーで確認しています」


《了解した。タイミングは頼むぞ》


「お任せを。そっちもばれてませんよね?」


《ウイングマンのほうに向かった。2機ともお前に関心があるようだな》


「了解。都合がいいぜ」


 敵は2機。

 すでに僕の目の前に1機おり、その後ろからさらにもう1機が僕の後を追っている。

 向こうもサッチ・ウィーブのつもりか。

 ちょうど良い。しかも相手さんは間抜けだな。隊長に気づいていない。

 これなら、ある意味訓練より展開的にはラクだ。


 しかし、慢心はいけない。

 確実に隊長に敵を喰わせないといけない。

 さて、付いてきてもらおうか。僕の機動にね!


「……よ~し、きたきた。そのまま付いて来てくれよ」


 目の前にいる敵機を追いかける中、後ろからさらにもう1機付いてくる。


 また執拗にアラートがなる。

 こっちは向こうを追ってるから機動が制限される。

 さて……、やはりくるか?


「……ッ! きた!」


 ミサイルアラートが長い電子音に変わった。

 ミサイルが放たれた。

 後ろから噴射炎を噴きつつ白い煙の尾をひいて音速超えてで飛んで来る。


 後ろから迫られる恐怖。


 訓練じゃない。実戦だ。


 下手すれば当たった瞬間即死。


 死への恐怖が俺の心の中を支配する。


 ……だが、


「(……悪いけどここでまだ死にたくないんでね!)」


 こういうときの訓練は嫌ってほどやってきた。

 隊長から直々に叩き込まれたりもした。


 簡単に落とせると思うなよ。中国人!


「まだ……まだだ……、よし、ブレイク!」


 タイミングを見計らって右斜め上に大回りのロールをしながらフレアを放つ。

 敵の短距離ミサイルはPL-8短距離ミサイルのはず。だとしたら赤外線誘導で熱源探知のもののはずだ。

 なら放つのはフレアだ。熱源をそっちに引き寄せさせてもらう。


「……」


 汗が額をなぞる。

 後ろを見てミサイルのほうを瞬時に見た。


 その瞬間だった。


「……ッ! よし、落とした!」


 ミサイルがうまい具合にフレアのほうに引き寄せられた。

 ミサイルがフレアの壁に突っ込んで爆発。

 これで判明したな。

 こいつらが装備しているのは短距離ミサイル、それも熱源探知の赤外線誘導だ。


「こいつら赤外線誘導ですね。フレア準備して置いてください」


《情報提供感謝するよ。熱源探知だな》


「はい」


《わかった。フレアならふんだんに持ってきてる。いつでもいけるぜ》


 常にフレアとチャフを均等に持ってきているが、今回はフレアを結構使いそうだ。

 それに、短距離のみだろうしね。向こうが持ってるのは。

 まさか、領空侵犯するのに中距離ミサイル持ってきてるわけではあるまいて。なら僕達が近づいた瞬間に落とせって話になるし。


「よし、これならまだ十分よけれ……」


 敵のこの様子なら十分よけれる……、と、


 そう思ったときだった。


「ッ!? アラート……!」


 またアラートだ。

 後ろからまた撃つ気か。


 しつこい奴だ。後ろから男性である僕を追うとか、僕はホモはお断りなんですよ。

 一体なんだってホモに僕の後ろから追いかけられ……、


「ッ! きた!」


 アラートがまた長い電子音に変わる。

 2発目が放たれた。


 よし、要領はさっきので学習した。あれのとおりの手順で回避を……、


「……ッ!?」


 だが、そのアラートは後ろからの攻撃を知らせるものではなかった。


 ミサイルが、僕の視界にすぐに入った。




 ……どこでもない。前から。




「ま、前!?」


 なんで!? 敵機は後ろ向けてるはずなのに!?


 まさかバックしながら攻撃してるわけあるまいし……、


 ……てことは後ろ向きにミサイルつけてるの!?


「(なにそれ!? そんなの反則だろ!?)」


 余計なことは考えてる暇はなかった。

 回避のために大回りのロールをしている中、僕は目の前から迫り来るミサイルの機動を読む。


 そのまま一直線に来る。


 後ろ向きってことは、たぶんミサイル誘導のレーダーは機体の後ろにある。

 機首のにあるほど高性能ではないはず。それに赤外線誘導なら、その熱源元になる向かってこの機体の後方にあるエンジン廃棄熱を捉えにくいはずだ。

 なら、弾着寸前に一気に急上昇しながらフレアをミサイルの針路上に置いていけば十分いける。


 だが、失敗のリスクも大きい。


 一種の賭けになる。


 だけど、これしかない。


「……、今!」


 ミサイルが寸前にまで迫った中、僕はハイGターンの要領でエンジンを一気に切って上昇する。

 エンジンを切ることによって機体位置がそれほど変わらない。そしてフレアもその空域にいくらかとどまるから機体自体を追いかけてもフレアとエンジンとの熱源が近くなり、より熱源が大きいフレアのほうにいく。

 近ければ近いほどエンジンとフレアとの区分けが出来なくなる。

 でも、これは失敗したらそのままミサイルをひきつけることにもなる。

 だから一種の“賭け”なんです。


 ……でも、


「……ッ! よ、よし……、落ちた」


 賭けにはどうやら勝ったようです。


 ミサイルはフレアのほうを大きな熱源と見たようだ。

 すぐ近くでミサイルが爆発。その破片がいくつか機体に当たってカンッという金属音が何回か響いた。

 しかし、機体には以上はない。

 このMJ型はこういうときすばやく機体の異常を診断してくれるけど、どうやらまだ戦闘機動をするには異常ないらしい。


「隊長、早いですがもうそろそろ行きます! こいつ後ろに向かってミサイル撃ってきますよ!」


《後ろにミサイル!? おいそれどっかのシューティングゲームで見たことあるぞ!?》


「まったくですよ!」


 例のフラグ回収に定評のあるリア充の彼が出てるシューティングゲームで出てくる中ボスにこの先方出す奴がいたな。それもそのとき2機だし、機種違うけどにているSu-35だったかそこらへんのスホーイ系列機体。


 ……狙ってるでしょ。絶対狙ってるでしょあんたら!


「いきますよ! 準備は良いですか!?」


《おうよ! いつでも来い!》


「よし……」


 その間にも後ろから敵機が執拗に追いかけてきている。

 どうやら隊長には目もくれていないらしい。


 ……チャンスだ。今なら隊長の腕を持ってすれば撃墜できる!


 ……よし、いける。このタイミングだ


「隊長、今です! 攻撃を!」


《よっしゃあ! 待ってたぜ! 倍返しの時間だ!》


 レーダーを確認。

 隊長がどんどん上昇してくる。

 後方にいる敵に肉薄する気だ。


 ……だが、


「ッ! また!」


 またミサイルが放たれた。


 しかも、今度は前と後ろの2方向からの挟み撃ち。


 勘弁してくれよ。これ全部よけろってか。


 ……いや、


「……発射タイミングが同じ……。なら、」


 隊長機の位置を確認。

 もう今にも撃つか。


 ……よし、やってみるか。


「おらっ!」


 今度は機体をハーフロールし一気にスロットルを全開。ただしA/Bはしない。

 操縦桿を引き、機首を一気に真下に向けつつ降下していった。

 ミサイルがそれについてくる。それゆえ、途中でその二つのミサイルが合流した。


 そう。これで追われる方向を統一させた。


 そして、それを待っていた。


「よし、フレア発射!」


 再びフレアを発射。

 機体の後ろに向けてフレアが飛んでいき、ミサイル2発にせまった。

 ミサイルは方向的にそのままの飛翔方向を保たねばならない。

 水平方向でやるとフレアの重みで下に落ちていってあんまり効果ないけど、このように真下に飛んでいっている状態ならフレアが重力の影響受けたとしても僕自身だって真下に向かってるんだし、ミサイルから見るとフレアと機体は常に重なっている。

 そして、熱源探知のミサイルなら……、


「……よし! 爆発した!」


 ミサイルは一番近くて大きい熱源に反応する。

 それより遠くにあるエンジン廃棄熱には反応するはずもなかった。


 だから、これで1発が反応すれば、2発目はフレアに気づこうが気づくまいが否応なく爆発にまきこまれて……、


「……え!? まだ残ってる!?」


 でもそれで終わらせてはくれなかった。


 ミサイルがまだ1発残っていた。


 バカな、あの距離ならフレアの火にだまされるか、またはそうでなくても1発目の爆発に巻き込まれるはずじゃ……、


 まさか、赤外線誘導じゃない!?


 だとしたらレーダーホーミング!?


「(まずい! いまからチャフ放っても今さらだまされるわけはない!)」


 もうミサイルも迫ってきていた。

 チャフは一応準備するけど、でも今さらだまされるとも思えない。


 ……どうすれば……、


「……ッ! そうだ、これなら……」


 目の前に迫る海面を見ながら、僕は考え付いた。


 海面に落とそう。


 海面ギリギリで急制動で上昇をかけ、ミサイルを置いていく。

 同時に念のためチャフも放っておく。


 もう高度がない。


 増速してるし真下に向かって降下してるからどんどんと海面が迫ってくる。


 時間がない。これしかなかった。


「……、おらっ!」


 タイミングを見計らっておもいっきり操縦桿を引くと同時に、スロットルを一瞬アイドルにする。

 それによってほとんど横に移動しないで機首だけ一気に水平になる。

 そして、それの少し前のタイミングで、


「グゥッ!!」


 スロットルを一気に前に倒し、ピーンという電子音とともにA/Bアフターバーナーを噴かせる。

 F-15MJのエンジンは元々悪かった加速レスポンスをいくらか解決されてるだけあって、即行で像速した。

 それはミサイルが弾着するまさに寸前で、そこでチャフを放つことによってミサイルから見れば機体がその場にとどまっているように見えるはずだ。


 そして、それは思惑通りにいった。


 愛機は僕の期待にしっかり答えてくれた。

 海面ギリギリで水平飛行に移行。すぐに上昇に移った。

 しかも、意外な偶然も起こる。


 チャフを放ったあたりに、A/Bを使用したときに起きた水柱が発生。

 これは機体が少し上を向いていたことがあるんだけど、それに偶然ミサイルが突っ込んだ。

 チャフのほうにつられたと思ったら今度は水の柱にぶつかったでござるの巻というわけである。


 その瞬間ミサイルは突っ込んだ水柱により制御を失い、そのまま何がなんだかわからず海面に突っ込んで自爆した。

 そのときの水柱もこっちで確認した。

 時に水というか、海面というか、こういう水の壁って言うのはコンクリート並みの硬さを発揮するわけで。

 ミサイル側がとんでもない速度だったからもうミサイルからすればまんま少しやわらかいコンクリートにぶつかったようになるわけです。……たぶん。

 その道の専門ではないので詳しいことはわかりません。後で詳しい人に聞こう。


 とにかく、僕はミサイルの追撃を振り切ることに成功した。

 とりあえずA/Bをきって通常飛行に移行。


 まったく……、前後からの同時挟み撃ちなんてほんとに反則だって……。


「はぁ……、はぁ……、ありえんわ……マジでありえんわ……」


 じ、実戦ってここまひどいのか……。甘く見ていた。


「……ッ! そ、そうだ、隊長は!?」


 隊長のことを忘れていた。

 隊長は敵機を追いかけていたはず……、


 と、


《よし! 落とした! IJYA01、スプラッシュワン!》


 威勢の良い声が無線に響いた。

 どうやら落としたらしい。


 さすが隊長だ。当たり前のように落とすわ。


「了解。こっちもミサイルを振り切りました」


《そうか。よくやった。あの追撃を振り切るとは、やはり俺の目に狂いはないな》


「それはまた後でいいですから。それより、もう1機は?」


《そういえば……、さっきからいないぞ? 目の前の敵機に夢中になってたが……》


「後方には?」


《いない。常に後方に気を配っていたからな》


「え……?」


 もう1機が消えた?

 まさか、もう撤退したのか?

 いや、でもそれならSOUTHサウス EYEアイから報告があるはず……。


「……どこに消えた……?」


 疑問に思ってレーダーを見た……、





 さらにまたそのときである。





SOUTHサウス EYEアイよりIJYA01イジャー・ゼロワン! 敵機が1機、近隣空域にいる日本国籍の民間機に向かっています!》






 っ て 今 度 は な ん だ よ そ れ ! ?


「はぁ!? 民間機!?」


《おいおいちょっとまて! 民間機って向こうに情報伝えて航路変更させてなかったのか!?》


《それが、無線自体に応答がなく、航路をそのままに侵入していました! 民間機は気づいていません!》


《馬鹿野郎! その情報をなんでこっちに教えなかったんだ!》


《すいません! こっちも今情報を受け取りまして……》


 珍しく隊長が怒鳴った。

 しかし、無理もない。

 だが、それと同時にそんなことを言っていられなかった。


 民間機の位置を確認する。

 近隣空域ならまだ近くだ。レーダーで確認できるはず……、


「……ッ! 見えた!」


 敵機を確認した。

 速度が速い。測定してる暇はないが、その先には確かにもう一つの反応があった。


 大きい。民間機で間違いなさそうだ。


 ……というか、


「(こ こ 航 路 だ っ た っ け ! ?)」


 民間機ここいら辺通るの? 民間機のことなんてよく知らないけどここ航路に設定されてるの?


 ていうか、無線が通じないって何だよ! 無線機故障してんの!?

 こんなときに何なんだよ! 整備士一体なにやってんだよ!


《まさか……、もう生きて帰れないと思って道ずれにとか考えてるのか!?》


「馬鹿げてるッ! いくらなんでも民間機巻き込む理由がわかりませんよ!」


《とにかく時間がないぞ!》


 即行でまたレーダー確認。

 民間機まで距離もない。時間もない。

 一番近いのは……、僕か。


「僕が行きます!」


 言葉と同時に体が動いた。

 スロットルを一気に前に倒す。

 またピーンという音とともにA/Bに点火。

 燃料はまだ十分ある。

 今から言ってもギリギリだ。いけるか?


「敵がミサイルもう持ってないことを祈る!」


 たかが領空侵犯するだけなのに高価なミサイルをそう何発も持ってきてるとは思えないが、だが頼むから持っていないでよ。

 ミサイル持ってたらどう考えても詰んでるからな。


《ま、まてHOPESホープス! 今から行ったって間に合うかわからんぞ!》


「即断即決で行けって言ったのは隊長でしょうが! やらない後悔よりやる後悔ですよ!」


《ッ……! わ、わかった。俺も後を追う!》


「了解!」


 その間にも僕は敵の元に一直線だった。

 問答無用でA/Bを噴かしている。Gも結構ひどい。

 さっきの機動とかで結構疲れてる己の体に鞭をうって、とにかく急いだ。


 そのおもいは一つ。


「……誰が日本国民を犠牲にさせるか……!」


 僕は日本国防軍の軍人だ。

 日本国民を守るための存在だ。

 どんなときでも国民を守るのが僕の仕事だ。


 本業の空で、国民を守れなくて何が空軍軍人だよ!


 守ってやる。守ってみせる!


「……、見えた!」


 敵機が見えた。

 そして、その先にはさらに大きな一つの黒い点。


 間違いない。民間機だ。


 なんでこんなとこ飛行してんだよまったくよぉ!


「……早く……早くしてくれ……!」


 ミサイルのシーカーを表示。

 敵機を探し始める。

 早くしてくれ。民間機が攻撃される前に。


 目の前で攻撃されたらもう精神的にもきついから! 勘弁してくれ!


「……よし、きた!」


 ミサイルが敵機を捉えた。

 すぐに体が反応する。


IJYA02イジャー・ゼロトゥーFOX2フォックス・トゥー!」


 すぐにミサイルを発射した。

 右主翼下のパイロンから“AAM-5C”が放たれる。

 AAM-5C。正式名称『04式空対空誘導弾C型』は日本が開発した最新型の短距離ミサイルで、赤外線画像(IIR)を採用、シーカーが改良されて冷却機能が向上、フレア等の電子的妨害にも対応でき、発射後ロックオン機能(LOAL)も付与されている高性能なミサイルとなっている。

 ……というのはB型までにもあったもので、、C型はそのB型にもあった機能の性能が一回り向上し、さらに魚雷で言うATT機能の空対空ミサイル版ともいうべきAMM(Anti Missile to Missile:対誘導弾ミサイル)機能が付与されている。

 これは新しい試みなんだけど、どこまでやれるかはまあはっきり言って未知数です。


 そのミサイルが、音速を超えて敵機に向かって捉えた。

 まるで、僕の意思を読み取ってその敵機を止めに行くように。


 民間機との距離はもうすぐ近くだった。

 ここに来てまだミサイルを放たないということは、やっぱりもうミサイルはないのか。

 いや、あの敵機は後方に向けて撃ってきた。もしかしたら後方指向ミサイルしかないのか?

 理由はわからない。しかしそれはそれでラッキーだった。


「……間に合え……ッ!」


 僕は必死に願った。

 短い時間であった。

 それは、確実に距離を縮めた。

 敵機は最後の最後まで回避する機動を見せない。

 隊長の予想通り、自らの最後を悟って向こうを道ずれにする気なのか?

 もちろん、今の僕にその理由はわからなかった。

 対する民間機は、迫り来る敵機の姿を認めたのだろうか。

 急激な右旋回をかけていた。

 急にこの機動だ。今頃キャビンは悲鳴の嵐だろう。


 確実に縮めていった距離。短い時間。


 ……そして、


「……ッ!」


 ミサイルは、敵機に弾着した。






 民間機が落とされる前に。






「……よっしゃあ! 間に合ったあ!」


 僕は思わずガッツポーズをした。

 民間機は無事だった。

 すぐに水平飛行を維持させていたのだ。


《ま、間に合ったのか!?》


「はい! 間に合いました! 無事です! 民間機は無事です!」


《っしゃあ! 間に合ったぜぇ!》


《よ、よかった……。間に合った……》


 無線越しになにやら歓声が聞こえた。

 たぶん、那覇のほうでも状況を見守っていたのだろう。


《よくやったHOPESホープス、とりあえず合流する。少し待ってくれ》


「了解」


 その間に、僕はA/Bを切って旅客機のすぐ右横に付いた。

 ウイングレッド付いてるから、機種はB747-400Dかな?

 赤と黄色が基調のカラーリングに、垂直尾翼には鶴のような鳥が翼を広げているのを横から見たような模様があった。


 このカラーリングは確か……、


Japanジャパン Skyスカイ Wingsウイングス……。日本国籍って言うか、日本の航空会社じゃん」


 まあ、普通に日本国籍=日本の航空会社ってことなんだろうけど。

 この会社は日本国内でも一番でかい航空会社で、日本を代表するナショナル・フラッグ・キャリアの航空会社だ。

 ナショナル・フラッグ・キャリアって言うのは一国を代表する航空会社のことで、まあつまりこのJSWの場合は航空会社の世界での日本代表と思ってくれればいいです。

 数年前は財政がピンチになったりなんだりっていろいろ大変だったけど、今ではすっかり復活して日本と世界の空をつないでいます。

 僕の兄貴が2番目に好きな航空会社だったりします。

 ……え? 一番何って? 『Allオール Japanジャパン Skylinesスカイラインズ』らしいです。

 曰く「あの青と薄い黄緑色のカラーリングと、垂直尾翼のAJSのロゴがすき」らしいです。

 この会社はJSWの次にでかい会社で、こちらは例年比較的安定した経営をしてることで有名。

 なので結構信頼性が高かったりする。

 日本ではこのJSWとAJSの2つが主力となっています。


 ……と、別に関係ないことでしたね。スマソ。


 その間にも隊長が合流した。

 僕の右斜め前に出る。


《無線が聞かないと聞いていたがどういうことだ?》


「聞いてみては?」


《といっても聞こえないのに……。まあいいや、周波数を設定して……、と》


 周波数を旅客機のほうに合わせた。


 ……すると、


《……だ……、おう……と……》


《ん? なんだ? 聞こえないぞ?》


 無線が声を発しているのが聞こえる。

 でも、ノイズ交じりでよく聞こえない。どうしたものか。


《……だ……れか、誰か聞こえるか!? 応答してくれ!》


 やっとノイズが晴れた。

 無線が故障とかって言うのはどうやら本当らしい。

 隊長が声をかける。


《こちら日本国防空軍機です。そちらの便名と状況を教えてください》


《国防空軍か! すまない、こちらJ-SKYジェイ・スカイ376スリーセブンシックス。目的地である羽田に飛行中無線機が不調を起こし交信が出来なくなった。現在機器の誘導に従い飛行中》


《無線機が不調? ……SOUTHサウス EYEアイの言っていたことは本当だったか。目的地までの飛行に支障は? 状況如何によってはこちらから東京コントロールに事情を伝える》


《いや、問題ない。一応機器データの誘導に従って飛行中だ。無線も今は回復したから交信も出来る》


《そうか。了解した。飛行に支障はないのだな?》


《大丈夫だ。問題ない》


《了解。それなら安心だ》


 どうやら安心して飛行を続けさせてもよさそうだ。

 無線が不調とかいうのは一時的か。にしてもとんでもないタイミングで不調がでたものだ……。


《……なあ、それより、》


《? どうかしましたか?》


《いや……、最後に聞かせてくれ。さっき戦闘機を落としてくれたのは誰だ? あれ中国あたりの機体だろ? Su-27に似ていたからJ-11Bあたりだと思うんだが》


 よく見えたねこのパイロット。あんな状況で。それもいくらか近かったとはいえあんな距離で。


《ああ、確かにあれは中国軍機だ。領空侵犯後敵対行動をとったため正当防衛の対処をとらせてもらった。まさか民間機にまで矛を向けるとは思わなかったが……》


《そうか……、その敵機を落とした英雄は? あなたか?》


《いや、落としたのは俺でなく……》


「失礼、その件は僕です」


 僕はすぐに名乗り出た。


《ッ! おお、あなたでしたか!》


「は、はい。そうです」


《本当にありがとうございます。おかげで助かりました。……あの戦闘機を見たときはもうダメかと思いました》


 謝辞だったらしい。

 ……御礼されるまでもないんですがね。


「いえ……、国民を守るのが僕の仕事です。僕はその任務を遂行しただけに過ぎない」


《いやいや……、あなたは私たちの英雄だ。この恩は忘れはしないでしょう》


「いえ、そんなお礼されることでは……」


 あんまりお礼されるのに慣れてない僕は少し謙遜する。


《……それに、私だけではない》


「え?」


 すると、無線機を少し操作したらしい。

 いくらか間が空くと、


《うぉぉおおおおお!!!!》


「ッ!?」


 甲高い歓声が上がっていた。

 これは……、もしかしてキャビン?


 すぐにそれは消えた。

 たぶんまた無線機を操作したんだろう。


《……あの戦闘機はキャビンからも見えていました。あなたは私たちの英雄なんです。代表してお礼させてください……。……ありがとうございます……ッ!》


 その声は、なんか若干涙声にすらなっていた。

 それほどうれしかったんだろう。


 ……これが、国民を守るということなのだろうか。


「……光栄です。国民を守ることができたことは、僕としてもとてもうれしい限りです」


《はい……ッ!》


 そのまま無線越しに涙を流しているのが悟れた。

 命救われたらそうなるか。


 ……光栄だよ。こうやって国民を守れるならこれほど軍人としてうれしいことはない。

 そしてこうやって感謝されるならなおさらだ。


《民間人のピンチに颯爽と現れた軍人か……、まさに英雄だな》


「はは……」


 ……英雄か。昔の僕なら考えもしない言葉だな。

 昔は夢にも思わなかっただろう。将来英雄なんていわれるなんてことは。


《……す、すまない。……こっちはもう大丈夫だ。今東京コントロールに事情を説明して適切な誘導をしてくれるよう要請して許可を得た。もう安心してくれ》


「そうですか……。よかったです」


《君の……、いや、あなた方の功績はしっかりと称えられることとなるでしょう……。あなた方に会えたことを誇りに思います》


《褒めるならこいつをほめてください。俺は何もしてないんで》


「え、ぼ、僕だけなんてそれは……」


《何度も言わせるな。俺は何もしていない》


「……」


 その前段階でいろいろと陰の立役者をしてくれた気が……。

 そもそも隊長が1機落としてくれなければマジで危なかったわけでして……。


《では、我々はこれより基地に戻ります》


《ああ。では、私たちも所定の航路で羽田に向かいます。……最後に、》


《?》


《……ありがとう、英雄。私たちはあなた方のこと忘れません。絶対に》


《……どうも》


《……光栄です》


《はい……。こちらコックピットです。》


「?」


 すると、小声でなにやら聞こえた。

 なに? コックピットとかいってるあたりキャビンに向けてかな?


《これより、私たちを助けてくれた英雄達が基地にお帰りになります。……英雄の勇士を、今のうちにその目に焼き付けて置いてください。そして、彼らを温かく見送ってあげてください》


《うぉぉぉぉおおお!!》


 キャビンにまで知らせていたらしい。

 ……そ、そこまでしなくてもよかったのに……。


《おい、民間機のまど見てみろよ》


「?」


 隊長にいわれるまま窓を見た。


 すると、そこにはびっしりと乗客らしい人たちの顔が薄く見えた。


 中には手を振っている人もいた。


 ……なるほど、お見送りってやつか。


《俺達も相当人気になったもんだ。……こりゃ帰ったら疲れそうだな》


「はは……」


 基地に帰ったらどうなることやら……。

 質問攻めとか、下手すりゃマスコミ押しかけるかな……?


 ……帰った後も疲れそうです。はは。


《では、我々はこれで》


《はい。……英雄が基地に帰ります。皆さん!温かくお見送りしてあげてください!》


 その瞬間また歓声が聞こえた。

 窓のほうでもいっそうまどに張り付く顔が増えた。

 どうにかして僕達の姿を見たいんだろう。


 ……逆に向こうのために帰りたくなくなるな。


《……いくぞ。RTB》


「了解。……では、J-SKYジェイ・スカイ376スリーセブンシックス、」






「この後も、いい空の旅を」






《うぉぉぉぉおおおお!!!!》


「!?」


 って、これキャビンにも聞こえてたんか。

 キャプテンさん。一体どんな操作したんです?

 どうやったら聞こえるんです無線の声。


 そんなことを思いつつ機体を基地に向けた。

 さっきまですぐ近くにいた旅客機の姿は、すぐに黒い点となっていった。

 隊長は周波数を切り替えた。僕も切り替え、いつものチャンネル1に変える。


《……IJYA01イジャー・ゼロワンよりSOUTHサウス EYEアイ,completeコンプリート missionミッション,RTBアールティービー


SOUTHサウス EYEアイ rogerラジャー,RTB。……すっかり英雄ですね》


《英雄はこいつに言え。俺は何もしてない》


《わかってますよ。……那覇だけでなく、日本国中で有名になるでしょう》


《……だろうな》


 でも、その場合後々いろいろと大変なんだよね……。主にさっきいったような理由で。


《帰ったらまずは寝させてもらおう……》


「寝るんですか即行で……。任務内容の報告は?」


《後でも良いだろ》


「いやいや……」


 これは隊長をピシっとさせるのに一苦労しそうだなぁ……。はぁ……。


 そう思いつつ、僕は後ろを見た。

 そこには黒い点になりつつある旅客機。


 赤と黄色のカラーリングは目を凝らさないと確認できないほどの距離になった。


 無線も回復したらしいし、もう安心だろう。

 この後は、羽田まで快適な飛行をしてくれるはずだ。


「……それじゃ皆さん、」









「この後も、楽しい、空の旅を」










 俺はそうつぶやきつつ、下地島の基地に帰頭した…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ