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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第2章 ~動き出した影~
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台湾の受難、大統領の苦悩

―7月14日(火) TST:PM22:25(JST:PM23:25)

                 台湾民主国首都台北 大統領官邸3階大会議室―





「……もう被害が出ることは確定じゃないか……」


 私は文字通り頭を抱えてしまった。


 先日の山内外務大臣から受けた中国侵略に関する警告を受けて、あれ以来もちろん向こうから言われたとおり情報は内閣のみで共有し、ほかの官僚にも箝口令を徹底的に敷いた。

 そして連日秘密裏に会議を開いて対策を練ったのだが、どうシミュレーションしても我が国は様々な形で大損害を被ることは確実だった。

 特に軍事的な面ではひどかった。

 陸空は元より、ある意味一番重要な海軍でさえ戦力全部展開させても約5割ほどが沈められ壊滅的被害を受けることは確実だった。

 国内のほうも、北から来ようが南から来ようが各都市が壊滅的な被害を受ける。

 被害額なんて想像もつかない。


 どうやっても、我々は手詰まりだった。


「今の我々の力だけでは無理です……。ここはアメリカの助けを借りましょう。アメリカに報告すれば、東南アジアに進出している自国企業の損害を嫌って中国に警告を行なう可能性もあります」


 そういったのは『黄明倫こうめいりん』首相であった。


 実際彼のほうが年下なのだが、こうして敬語を使っているのはなんともシュールな光景だ。

 まあ、本人自らのことだが。


 ……確かに、アメリカのことだ。国益重視の思想をうまく使えば、アメリカの圧力でどうにかして押さえ込むことも出来るかも知れない。


 ……だが、


「むしろ逆であろう……。アメリカだって今軍縮で中国との戦力差が縮んできている。無駄に戦端を切らせるようなことをする勇気があるとは思えんな……」


 だが同時に、アメリカはいろんな意味でヘタレでもある。

 というか、いろいろと図体でかいだけで中身は結構そうでもない。


 今までの軍事行動だって何かと理由つけないと出来なかった。


 さらにいえば、最近では数年前の9.11だって実はアフガニスタンへの軍事介入をする口実を作る“やらせ”だったのではないかといわれている。

 某動画サイトに詳細が載っていた。

 英語であったが、しっかり日本語音声で訳されていた。

 私もそれを見たが、中々信憑性があったといえる。


 そんな感じで、アメリカはああ見えてずるがしこいことしかしない。簡単に言えばヘタレである。


 はっきりいって、あんまり当てにならない。


「ではどうするのですか? このままでは確実に中国は我が国を侵攻することは確実。それも、日本側の情報どおりに行くとすれば、あと1ヶ月しか時間が……」


「わかっている。……だが、今からでも出来る限りのことをするしかないだろう……」


 といっても、おもいっきりそれは限られている。


 まず……、


「……まずは軍備のほうだ。金国防大臣」


「はっ」


 私は国防大臣である『金登輝きんとうき』に聞いた。


 彼は日本での国防関連での留学経験がある。ゆえに知識は豊富だ。

 ついでに、日本の国防知識もふんだんに蓄えている。


「今の我が国の軍事力の被害を最小限に抑えた場合、我が国をどこまで守れるかね?」


「……」


 彼はうつむいてしまった。

 そんな感じの反応が来るだろうことはあらかた予想はしていた。

 だが、やはりそれほど深刻か……。


 少しして、彼は顔を上げていった。


「……誠に申し訳ありませんが、今の軍備では最小限に抑えつつ国を守れるほどの軍力がありません。国の損害を覚悟しつつ軍力を保持するか、それとも壊滅覚悟で国防に徹するか……」


「そうか……」


 まあ、そのような反応だろうな。

 現実、どっちもこなすなんてことは無理だ。

 国の大損害を覚悟するか、玉砕覚悟で敵を討ちにいくか……。


 ……だが、現実的に考えて……、


「……だが、その場合現実的なのは前者のほうか……。軍が壊滅しては結局同じことだしな……」


「はい……。我が国海軍には、つい数日前に就役したばかりのイージス艦があります。これが海からの国防力の要となるでしょう。しかし、ほかは日本から譲り受けたとはいえ艦齢が長い老齢艦ばかりです……」


「すべてを無駄に消費するのはまずいか……」


 ここでいうイージス艦とは日本とアメリカの技術協力の下、我が国初めて就役させたイージス艦『丹陽たんよう』と『媽祖まそ』のことだ。

 何れも機密の関係上と、主協力者が日本と言うこともあって日本で建造している。

 丹陽といえば、第二次大戦時我が国が日本より戦時徴収艦として譲り受けた日本軍駆逐艦『雪風』に与えられた名前であり、今回日本協力の下できるということで艦名も日本ゆかりのものにしたものだ。

 2番艦の『媽祖』は航海や漁業の守護神として、古より伝えられている。

 これも少し日本と関連付けており、日本でもこれは信仰されていることからこの名前が採用された。

 日本では船玉信仰ふなたましんこう神火霊験譚しんかれいげんたんと結び付けられて信仰されているらしい。

 なんのこっちゃとおもって調べたところ、船玉信仰は文字通り船玉(船霊とも)と呼ばれる航海の安全を願う神の信仰のことで、神火霊験譚とは、


・神火⇒神の火

・霊験譚⇒神からの霊的な現象によるお助けがあったはなし


ということらしい。

 中々神の御加護がありそうな名前だなと思った。


 ……と、話がそれてしまった。


 とにかく、この日本の協力を得て作った最新鋭イージス艦も、たった2隻だけでは使い物にならない。

 それも、相手が相手だ。

 いくらイージスとはいえその盾は即行で破られてしまうだろう。


「では空はどうだね? 空からの援護は?」


「空軍も総戦力は中国の比にもならないでしょう……。沿岸には大量の空軍基地があります。そこから出てきたら……」


「……壊滅か」


「はい……。間違いありません」


「クソッ……」


 じゃあ陸は……、いや、無理だな。

 海と空がダメで陸は無事なんていう虫のいい話はない。

 少なからず被害が出ることは確実。

 では、一体我々はどうすれば……。


「……日本だって自分たちのことで手一杯でしょうし、助けなんて……」


「無茶言うな……。そんなことできるのは当の相手国である中国とアメリカくらいだ……。日本だって最近軍拡してはいるが、あくまで国防のためのものだ。我が国まで相手していられんだろう……」


 とはいっても、この場合一番頼りになるのは日本とアメリカくらいだ。

 だが、アメリカだって本当にこれに介入するか否かの時点ですでに怪しいし、仮に来てくれても向こうだって派遣軍力限られてるからおそらくほかの東南アジアを優先するだろう。

 そこには自国企業の工場が進出しているからな。そっちの保護を名目にするに違いない。

 つまりアメリカ企業の工場とは全然縁がない我が国はおそらく優先順位からはぶられる。

 となると残りは日本だが、それはさっき言ったとおり微妙だ。

 日本だって戦況によっては大損害を被る可能性がある。

 または、大損害は被らなくても被占領地域が多すぎて奪還に時間がかかり占領が長引く可能性がある。

 それだと、どう考えても我が国が時間的に持たない。


 ……ダメだ。詰んでいる。


「もうこうなったらダメもとでアメリカに万が一のときの援護を頼みましょう。事情をすべて説明すればもしかしたら……」


「だから、アメリカが仮にそれを聞いたとしても本当に来てくれるかわからないではないか! そもそも本当に1ヶ月以内ならアメリカだって準備が足りないぞ!」


「だったら我々はどうすれば……」


「直接中国に抗議するのもまずい……。それだと向こうが焦って作戦を早めるかもしれない」


「では我々の打てる手なんてほとんどないではないですか……ッ!」


 官僚がそういって口論をし始めた。

 周りも相当焦っていることが伺える。

 私はそれを制止した。


「静粛にしたまえ。今ここで口論しても始まらんだろう」


 一瞬で静まった。

 その代わり声を揚げたのが黄副首相だった。


「……ですが、いずれにしろ我々に打てる手なんてほとんどありませんよ……。国民には知らせることが出来ませんので、山間部あたりに避難を促すことも出来ませんし……」


「全くだ……。一番はアメリカが持ち前の発言力を使って事前に制止を促すことだが……」


「アメリカだっていつ作戦を発揮するかわかりかねてるはずです。それなのにむやみやたらに注意喚起したらほとんど意味などころか、逆の結果を招くでしょう。……中国の立場はいまや失墜しています。今さら何を恐れるというのでしょうか?」


「そこなんだよな……」


 中国はいまや地位は失墜しきっている。

 これ以上の失墜を恐れていない可能性がある。

 ……いや、というか今さら恐れていないだろう。

 工場は逃げるわ、それによって株は大暴落するわ、経済は回らなくなってデフレスパイラルに突入するわ……。

 そんなこんなで失墜しまくっている中国が今さら何の地位の失墜を恐れるというのか。

 ……いや、もう今さらそんなことを気にしてはいないだろう。


「もうだめだ……我が国はまた中国に……」


「今からそんなことを言ってたら意味がないだろ! とにかく、今からでも出来ることをしておくんだ」


「といってもどうやって……」


「うっ……そ、それは……」


 今からできること……。せめて各軍の演習回数を上げて練度向上に努めるとか、そもそもどこから攻めてくる可能性があるかの侵攻経路の判定。あとはそれを元にした迎撃・反撃作戦案の構成……。


 ……それくらいしかないじゃないか。どうすればいいんだ。


「……とにかく、できる限りのことはしよう。情報収集も怠るな。小さな情報もすぐに報告してくれ」


 私はそう官僚に釘をつけた。

 情報がすべてを握る現代社会。

 情報戦はどうにかしてでも優位に立たねば……。


「……大統領、そろそろ時間も遅いです。今日はこのくらいにしましょう」


 黄首相が言った。


 ふと気が付けば午後の11時になりかけていた。

 ……夕食後の7時から始めたから、もうかれこれ4時間も会議をぶっ通してしていたのか。

 それだけ重要な内容だったとはいえ、体内時計がうまく働いてくれないと時間がどれくらいたったか判断ししづらいな……。


 ……うむ、そろそろ眠気も出てきたしな。


 とりあえず、これくらいでお開きとしよう。


「ふむ。わかった。では諸君、今日はこれくらいにしよう。明日また開く。招集をかけるからすぐに集まってくれ。……では、今日はこれでお開きだ。各自解散」


 そういうと各自で立ち上がり、資料をまとめつつ暗い表情をしながら退室した。

 私も、秘書を連れてこの部屋を出た。


 ……今までの人生でこれほどにもないほど、暗い表情を包み隠さず出しながら。







「大統領閣下、御車の準備はできております。遅くなりましたので今日は早めにお休みになられてください」


「うむ。すまないな」


 正面玄関を出ると、正面にはすでに車が待機してあった。

 当たり前だが空はすでに真っ暗で、今日は晴天なのか、所々星らしい光が見えていた。

 私はそれの後席に乗り、秘書が運転席に座る。


 発進する車から外を見ると、いつも見慣れた綺麗な首都の光り輝く町並みが見えた。

 もう見慣れたものだ。私がこの国に生まれてからというもの、何度となく見た町並みだった。


 ……今回の中国の侵略で、この光景も壊されるかもしれないということか……?


「(……この国の大統領として、国民はもちろん、それと同時にこの綺麗な町並みだけでも守りたい。しかし、現実はそれを許してくれる状況ではないことも確かだ……)」


 はたして、今この現状でこれを守ることが出来るのか。この台湾民主国という国を構成する台湾国民を守ることが出来るのか。


 現実は、一体どっちに傾いてくれるのか。


 今の私には、そんな未来のことなど、到底わかるはずもなかった。


「……なあ」


「? なんでしょう閣下?」


 思わず、相変わらず車を私の自宅に向けて運転していた秘書に向けて声をかけてしまった。


「……私は、」


「?」






「……本当に、この国を守れるだろうか? この危機的状況に合いつつも、果たしてそれを達成できるだろうか?」







 私の一番の不安だった。

 それが、一番の懸念事項というやつだった。


 このような状態になっても、国をしっかり守ることが私、大統領の使命であるはずだ。

 しかし、今この状況でそれを遂行できるだろうか?


 私は、不安にかられた。


「……信じれば、なんていうきれいごとは言いません。しかし、信じなければいずれその分の報いがきます」


「……何が言いたい?」


「……自分が今出来うる精一杯の努力と判断をしてください。それが、結果に繋がります」


「……」


 悩む前にやることをなせ。……ということか。


 ……悩む時間すら私には残されていないということか。それも一理あるな。

 そんなことを悩んでる暇があったら、どうやったら国を、国民を守れるかに頭を使わねばならないな。


 ……彼に教えられるとはな。面白いこともあるものだ。


「……すまんが、」


「?」


「……自宅に帰ったらもう一仕事したいんだが、かまわんか?」


「え?」


「なに、すぐに終わる。明日の会議に向けての簡単な資料の作成だ。明日は国内の各軍の被侵略時の対応について重点的に話し合いたいのでな」


「はぁ……」


「あ、別に無理にとは言わん。これは私の個人的なことだ。今日は遅いし、何ならもう休んでくれても……」


「……フフッ」


「……え?」


 するといきなり鼻で笑われた。

 ……変なことを言ったつもりはないのだが。


「私はあなたの秘書ですよ? あなたの執務にはいつまでも突き合わせてもらいますよ。なお、拒否権はありません」


「……フッ、私は大統領なのに拒否権はないのかね?」


「ええ、ありません」


「ハハッ、面白いことを言う。……すまんな。付き合ってもらってな」


「お構いなく。……帰ったら先にシャワーなどは済ませて置いてくださいね。準備は私が即行で済ませますので」


「……なんとなく親に見えてきたな。その面倒見の良いところから」


「むしろ秘書はそんな感じでしょう。どこの国でも」


「そんなもんか……?」


 秘書関係のことなんて私はわからんが、まあそんなもんなのかね……?


「……とにかく、準備はこちらでして起きますので閣下はその前にシャワーなどの身の周りの処理をしておいてください」


「ああ、では準備は頼む。こっちも即行で済ませるよ」


「焦らなくて良いですよ。ごゆっくり」


「ゆっくりしていられるか。国家の一大事だというのに」


「……あなたらしい。まあいいでしょう、ペースはお好きにしてください」


「ああ、そうさせてもらう」


 そういって、私はまた窓の外を見た。


 相変わらず光り輝く夜の町並みは、空の星空と相まって中々綺麗にかつとても栄えていた。


 ……私は守らねばならない。


 この国を。この土地を。この国の国民を。この街々を。


 ……そして、










 この『台湾民主国』の国民であるという“誇り”を、この大統領の名にかけて…………

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