表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第2章 ~動き出した影~
25/168

アメリカの憂鬱

―7月10日(金) UEST:AM10:20(JST:AM00:20 7月11日(土))

       アメリカ合衆国首都ワシントンD.C. ホワイトハウス大統領執務室―





「……では、早くても今月中に中国が侵略行為を行なう可能性が高いと?」


 夏の暑い日ざしがこの部屋にはいり、それをクーラーが涼しい空気に返る中、私『オーウェン・サンチェス』はこの報告を持ってきた2人に念押しで聞いた。

 それに答えたのは国防長官であるレイクス長官だった。


「はい。CIAからの情報によれば、時期は未だに不明にしろ、侵略行為に入ること自体はほぼ間違いない情報だと」


「ぬぅ……、困ったな」


 私は頭をガシガシかいた。


 アメリカはこのときピンチに陥っていた。


 元はといえば中国が自分のところで作っていた製品が劣悪すぎて売れなくなって、工場がどんどんと撤退してしまったことが原因なのだ。

 それによって我が国企業の生産能力が大幅に低下してしまい、それによる影響がダイレクトに悪い方向で来てしまったのだ。

 昔から中国の安い労働力に頼りすぎていたようだった。

 それにより経済力も落ちてしまい、これを補うために様々な分野から財政に金を回さねばならなかった。

 それは、軍事の面でもそうだった。

 それによる軍縮が行なわれた。それも大規模な。

 核の面でもそうだった。

 世界的な核軍縮条約を結ばせることにより、表向きは核軍縮による世界平和増進を謳い、そして内向きは核保有量による世界的地位の確立を達成することも出来る。

 これにより、あまった資金をすべて財政に回すことでこのピンチを脱しようと試みた。


 しかし、それによって全体的な軍事力に差が減ってきた。


 ロシアはまだ裏仕込でまだいける。

 だが、中国は問題だった。

 質より量という、旧大戦時代のやり方であるが、それでも今現代ではまだ通用しないことはない。


 それが一番厄介だった。


 中国はアジアで最強の軍力を誇る。

 日本が続くが、質では勝っているにしろ、量では圧倒的に不利だ。


 ある意味アジアでは一番の頼りの日本がこれでは無理がある。


 しかし、我が国とて限界がある。


 ……はっきりいって、詰んでいるのだ。


「大統領閣下。これを見逃せば、中国の侵略行為によってアジアは元より、東南アジアに進出している我が国企業も大損害を被ります。ここは、すぐに中国に警告をすべきです」


 同じく報告を持ってきたロバーツ統合参謀本部長が言った。

 確かに、この中国の行動は我が国の利益の面でも避けなければならなかった。

 ……しかし、


「だが、それの場合むしろ中国の行動を早める恐れがある。……今さら警告されたところで、もう後戻りできる状態ではないのだから。準備の面でも、経済の面でも、そもそも立場の面でもだ」


 中国は様々な面で危機的状況にあった。


 まず軍事の面で、先の核軍縮条約締結に伴い、国連主導で核保有国に対する余分な核廃棄を監視させた。

 もちろん我が国も対象となったが、それ自体は問題はなかった。

 元から廃棄させようとしたものを見せただけである。

 ほかの国もそれほど廃棄する量は多くなかったらしい。


 だが、中国は違った。


 アジア恫喝のために大量に整備していた核をほとんど廃棄せざるを得なかったのだ。

 これはロシアも同様だが、向こうには我が国との核保有量の差を広げると言うことで手を打ってある。

 つまり、表面上は確かに廃棄したが、アメリカとの核保有量の差は逆に広げることで、ロシアの優位を少しでも上げようという話である。

 ロシアがこれに乗っからない話はない。

 なので、ロシアも事前に世界的に核軍縮の流れを作るために一役買ったのである。


 しかし中国はそうもいかず、ましてや常任理事国なのでこれを断ったら後々の責め立てが怖かったために、大量の核を廃棄したことによってアジアでの地位が失墜しつつあったのである。

 核という、盾でもあり、時には矛にもなる武器を持っていない中国は、はっきり言えば体裁だけが良い中身のない大国同然であった。

 これにより近隣アジア各国の地位が向上。外交的な優劣も、ほとんど差がなくなってしまった。


 また、経済的な面でも危機的な状況であった。


 中国が今回このような準世界的にも悪影響が出てしまった経済危機の原因を作ってしまったこともあり、世界的な経済での信頼が失墜。

 株がどんどん中国から離れ、ほかの通貨へと流れてしまった。

 特に財政的な面で最近安定してきた日本円に流れ、皮肉なことに今まで中国が敬遠してきた日本を自分達の手で成長させる結果となった。

 そのため中国での株価が大暴落。

 結果的にひどいときは上海株価指数が1500ポイントをきりそうになった。

 そのため、当たり前だが中国国内での財政がまかなえなくなったと同時に、仕事を失った失業者で国内はあふれ帰返り、治安はすこぶる悪くなった。


 これらは世界的にも知らされることになり、当たり前だが中国の株を買うものはいなくなり、そしてそれのおかげで財政もまかなえない、国民も養えない、そしてそれによって金品強奪などの犯罪が多くなり治安が悪化……。


 まさに、悪循環とはこのことを言うのである。


 同時に、これは中国という国の面子と立場を失墜させるのには十分すぎる理由だったのだ。


 ……と、話を戻そう。


 とにかく、私は悩んでいた。

 上記の理由により、中国は元から後がないので遅かれ早かれ行動に移す。

 今警告したらそれを無駄に早めるだけであり、やるだけ損しかなかった。

 しかし、逆にやらなかった場合でも時が経てばやっぱり侵攻してくるので、その場合は今度は東南アジアなど中国近隣に進出、ないし中国から逃げてきた企業の工場に大なり小なりの被害が起きる。

 全体的に見れば、それは絶対に大きなものとなるはずだ。


 それもそれで、問題だったのだ。


 ……それに、


「一番の懸念もある。……核の存在だ」


 いくら中国は例の核軍縮条約で大量に破棄したとはいえ、まだ少数ながら保有はしている。

 焦った中国はこれを恫喝に使うかもしれない。

 それをされたらこちらとて相手しないわけには行かない。

 こちらも核の抑止力を行使し恫喝に走る。


 だが、それをした場合世界から懸念の声が広がる可能性がある。


 特に核アレルギーはなはだしい日本は即行で上げるだろう。


 だが、我が国はそれで困るにしても、中国はもう地位は失墜してるのであんまり影響はない。

 最悪、本気で撃ってくる可能性もある。

 それこそ、その可能性は万が一にもないのレベルであるが、それによる被害が模し出た場合……、


「……『核戦争』の懸念ですか?」


「……そうだ」


 我が国としても撃ち返さない訳にはいかなくなる。

 というよりも、核による報復を、誰でもない国民が強く望むだろう。

 しかし、それで撃ち返した場合また同じことの繰り返しである。

 それは、近隣各国だけでなく、世界にも影響が広がる可能性もあった。


 最悪、近未来SFのような核による荒廃した世界が現実となる。


「いや、しかしそれはあんまりにも先を見すぎでは……。中国のことだ。それでなくても少数の核を撃つ勇気などないでしょう」


 ロバーツ統合参謀本部長が意見を言う。

 しかし、それに反論をしたのがレイクス国防長官だった。


「もう中国は後ろ盾も、立場もないんです。今さら容赦をする理由が見当たりません。もうとっくに失墜しきっている立場をさらに失墜させるわけでもありません」


「いや、核を撃ったらそれこそさらなる失墜がまっているでしょう。……それこそ、取り返しのつかないような」


「それでも、最悪に自体は考慮しておくべきでは……」


 少し口論になりかけた。

 私はそれを即行で止める。


「まあここで喧嘩はよそう。……うむ。とにかく、報告はわかった。この報告書はしっかり目を通しておく。後でまた招集をかけるからそのときは」


「はい」


「うむ。では、報告は確かに受け取った。退いてよし」


「はっ、では失礼します」


「うむ」


 そういって二人はこの部屋を去った。


 一人残された私はう~むとうなった。


「困った……、今ここで戦争を起こされては困るというのに……」


 まったく、中国も中国だ。

 いくらなんでも自己中過ぎだ。周りに与える被害を考えたまえ。

 それによる自国の損害や失墜がどれほどのものになるかわかったものではないだろう。

 ……まあ、我々の損害がひどくなることを知らなかったとは言わないだろうが。


「……問題は、どのタイミングで企業を撤退させるかだな……」


 後に長引かせるのもまずい。しかし早い段階でやったら自己中的意識で中国が焦る。

 この計画の正確な発動時期がわからない中、どのタイミングで撤退させるかが問題になる。

 しかし、いかんせん時期がわからないことには……。


「……問題は山済みだな。どこから手を付けていけば良いやら……」


 もちろん国民に公表など言語道断。まずこれの機密性を保たねばならない。

 そして、企業の撤退のタイミング。これをどうにかして見極めなければ損害が出ることは確実。


 しかし、仮に撤退させてもその後が問題だ。


 その後の企業の工場の代替土地を確保せねばならない。

 政府主導でどうにかこうにか理由つけて強制的に撤退させるからにはそれくらいしないと企業側が納得しないが、我が国だけで足りるだろうか……。

 といっても、ほかに企業避難国として使えそうなのはインドくらいだ。

 中国は元より、東南アジアはもちろん論外。日本もおそらく被害を受けるだろうしそもそも土地がない。

 ロシアは何かと見返り要求しそうだから無理。というかあそこは寒帯地域だからいろいろと無理がある。

 南アメリカは治安の問題もあるし無理だろう。欧州も外す。

 となるとほかに人口があってそこそこいけそうなのはインドだが……。

 ……インドもアジアの一角。中国の影響を受けるし、なにより中国とはあんまり良い関係を持っていないインドとしてはあんまり受け入れたくないだろう。

 となると残りは我が国でまかなうしかないが……、いけるか?


 少し無理が出てくるかもしれない。


 それをどうするかも考えなければ……。


「う~む……」





「厄介な事態になった……」







 私は頭を抱えた…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ