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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第2章 ~動き出した影~
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所属移動、やまとクルーの考察

―7月9日(木) PM19:20 横須賀海軍基地 DCGやまと会議室―





「移動ですか? 我が艦が?」


 副長がそういった。


 今回いきなり会議開かれたと思ったら、国防省から直々に配置転換命令が出されたようです。

 横須賀からほかのところに行きます。


 ……にしてもいきなりだな。これまた一体なんで。


「そうだ。来週には準備を整え、佐世保に向かう。水素抽出機もそちらに移す」


 艦長が言った。

 佐世保ね。九州のほうか。これまた遠いところに変えられたもんだな。


 ……で、ここでいった水素抽出機って言うのは、海水からこの艦やまとの燃料である水素を抽出する機械。

 あまりにでかいので当たり前だけどこの艦に入らないので、艦外に専用の施設をおいてそこで水素を抽出した後、それをこの艦に移送しています。

 ……まあ、もし入ったとしてもエネルギー的にはその水素を取り出すエネルギーのほうが強いんだしそっちを機関出力に使えば良いんだけどね。もし入ったらだけど。

 水素の立場が危うい。


「しかし、水素燃料タンクはどこに置くのですか? 佐世保にあるのは地下の工事中のものしかなかったはずでは?」


「それに関しては使われてない地上燃料タンクを急遽改造してそっちに移すらしい。で、その地下タンクも工期も早めるとか。うまくいけば今月いっぱいで完成の見込みだ」


「はぁ……」


 ここで出た地下タンクっていうのは、水素燃料を貯蔵するタンクのことで、可燃性抜群なだけに地上に置いといてなんかの拍子に盛大に爆発という名の汚い花火を描かれても困るので、それならまだ被害を最小限に食い止められる地下に置こうってことで今がんばって作ってる。

 でも横須賀のはそこまで考えられてないらしくて地上にタンクがあります。

 今回この佐世保のを何とかして工期はやめていくらしい。

 それまでは地上の使われてないタンクの流用か。


 ……それにしても、なんとも急ぎ足な感じだな。

 一体何をそんなに急いでるんだこれは?


「しかし、これはまたいきなりなんで? なんか特別な事情でもありましたっけ?」


 航海長がここぞとばかりに疑問を投げかけた。

 本人だけでなく、ここにいた全員の疑問であろう。俺も含めて。


「なんでも、拡大した海上戦力の基地ごとの戦力均等化らしい。まあ、憲法改正後海軍戦力が拡大した後も再編制はしてなかったしな。……だが、」


「が?」


「……おそらく、ほかの理由だろう」


 艦長は上から受けた理由を真に受けていないらしい。


 俺も同感させてもらう。


 だって、この移動リストみたらうちらのやまと以外にもほかの基地から結構主力艦が佐世保に移動するし。

 ほかの汎用駆逐艦だって移動しまっせ?




 ……どう見ても戦力が佐世保に偏ります本当にありがとうございました。




 あかぎ型CVLにながと型DDG、そしてこんごう型DDG2隻まで……。


 戦力均等化が目的ならなんでこんな主力が佐世保に結構な分が集結するんですかね?

 まさか主力がどれだかわからないなんてことあるまいて。


「? ほかの理由とは?」


 砲雷長が聞いた。


「移動リストを見たまえ。……どう考えても、佐世保に主力艦の戦力が偏る。これでどうやって戦力均等化という理由を信じろというのだね」


「……あー、確かに」


「国防省も国防省だ。あてつけの理由ならもっと良いのを選んだら良いものを」


 艦長の目はだまされなかったらしい。あと、俺の目も。


「これだけの戦力移動……。ほかに理由があるだろう。いや、もしかしたらそれを上の奴らは悟ってほしかったということか?」


 艦長がつぶやいた。

 まあ、それならわざとこうやって見え見えな理由をぶつけるのもうなずけるが……。


 ……やっぱり、


「……理由の筆頭としては、中国でしょうか?」


「うむ……。私もそう見ている」


 やっぱり、そう見たか。


 というのも、中国は昔は日常茶飯事だったアレを再開してきた。



 中国お得意の対空・対水上ピンポンダッシュこと『領海・領空侵犯未遂』のことです。



 まあ、大抵はスクランブルの戦闘機到着するからピンポンダッシュになってないんだけどね。

 その家の人に即行で捕まってるんですけどね。

 でもその後はしっかり追い返しますよ。


 少し前までは経済危機云々の関係か、それとも憲法改正の関係か、それともどちらもなのか、全然でてこなくなって、むしろ空軍に限ってはいろいろと暇してるくらいだった。

 でも、数日前からだと思う。大体7月始めあたりか。


 小型の無人偵察機とか電子戦機とかそこらへんがまたピンポンダッシュというなの領空侵犯をするようになったどころか、今週からは中国漁船という名の工作船が領海に侵入しかけて海保が出張って対処という事態が相次いだ。

 ちなみに、これはマスコミによって国民に知らされています。


 つまり、国防省は「これ以上やったら次の手使うで?」ってことでここに集めたのかな。

 ……にしても過剰すぎるだろうと思うのだが。


「? どういうことだよ?」


 カズが俺に聞いた。


「最近の中国の領海・領空侵犯、多くなってきたろ。特に理由もなくいきなり」


「まあ……」


「だから、それに対するぶっちゃけ〝威嚇〟ということじゃないかってことよ。……それでも過剰な機がするけどなこれは」


 わざわざこんな主力を持ってくる必要はないだろう。

 佐世保にイージス艦何隻持ってくる気だよ。5隻だよ5隻。

 バランスってなんだっけ?


「しかしまあ、向こうも向こうですわ。なんだっていきなりこんなことを……」


 一人の尉官が言った。

 確かに。気になるところではある。


「中国のことだ。またガス抜きでもしてるんじゃないか?」


 航海長が半ば考えるのめんどくさいですといわんばかりに投げやりに言った。

 ……まあ、だってあちらさんのやることといったらそれくらいしかないし。


 ……でも、


「ガス抜きでいちいち領海・領空侵犯しますかね……? どう使うんですか?」


 これまた一人の尉官が聞いた。


「え、えっと……、そういわれても……」


 航海長の言葉がにごってしまった。

 ……ふむ、おそらく……、


「……中国国民に見せしめるためだな」


「? 見せしめる?」


 カズが聞いた。

 ここにいた全員の視線が俺に向く。


「……考えてみろ。昔とは違って撃墜される可能性だってでて来た日本の領海領空に、なんでわざわざ危険を冒してまで入ろうとしてきた。あのロシアだって昔は常連だったのに憲法改正で撃墜リスクが跳ね上がったと思ったらめっきりしてこなくなったじゃないか。去年なんて戦後初の領空侵犯未遂回数ゼロだぜ?」


「た、確かに……」


 ロシアといったら東京急行とか有名だったな。

 しかし、今ではそれも過去のものとなってしまったわ。


「しかし、中国はそれを“わざわざ”してきた……。俺の推測になるけど、これは回りまわって中国国民に対する見せしめに使ってるんじゃないか?」


「なんでそこで見せしめになるんだ。意味がわからんぞ」


 副長がそういった。


「日本のマスコミです。現に、今日本の大手マスコミはこの領海・領空侵犯未遂の事実を報道している。それは、中国マスコミの手にも渡ると思う。そして中国はこれを大々的に報道するだろう。……誇らしげね」


「誇らしげ?」


「昔の日本とは違う。今では入るだけでも危険な日本の領海領空に堂々と入る我が国の船と戦闘機……。中国国民は賞賛するでしょうね。日本鬼子の領域に侵犯すれば日本の面子は下がる。憲法改正したのにね。……でも考えてみてください」


一言置いて、


「……逆を返せば、やろうと思えば日本の領域に侵犯しようとできるほどの力を持っているということの〝見せしめ〟になる。つまり……、さらに延長線上の解釈としては、その力であんたらをひれ伏せさせることもできるってことになる。これに気づく国民も出てくるでしょう。そして、ネットでそれは拡散されれば、あっという間に中国国民の間でうわさになる。そしてそのうわさは……、恐怖として国民お心の中に密かに残る」


 つまり、間接的かつ心理的な恐怖政治だ。

 力でねじ伏せるほうのな。


「そ、そんな都合よく行くかな……」


 カズが言った。

 俺もそれには肯定する。


「ええ、俺も都合よく行かないと見ています。ですから、おそらく中国共産党政府の苦し紛れの延命行為でしょう」


「延命行為?」


「ええ。自分達のための延命行為です」


「なぜいちいちそんなことを……。張りぼて同然の見せしめなのに」


 そう。これもすっごい薄い紙でできた張りぼて。

 壊そうと思えば即行で壊せる張りぼて以前にもはや張り紙同然だ。

 ……しかし、


 それに関しての予測は艦長がしてくれた。


「……なるほど。今の経済危機による国民の反感か」


「……おそらく、そうでしょうね」


 今の経済危機。

 自国においていた外国企業の工場が出て行ったこともあって働く場所がなくなって失業者が絶賛増殖中。

 そして、それによる金品強奪系の犯罪も多くなっている。

 ひどいときはスラム状態の街もある


 これに不満を覚えない国民はいない。


「その国民の不満の矛先は当然この状況を作り出した政府に向けられる。事実、責任は政府にある。そして、当の共産党政府はそれによる反政府運動を恐れた……」


「ええ。現代のネットの普及の件もあります。その運動を促すことは簡単に出来ます。……いくら検閲しようともね」


「なるほどな……」


 すべてはすべて推測の域をでない。

 しかし、一番考えられるのはそれだ。


 ……特に、共産党の場合はある意味わかりやすいからな。


「……というか、」


「?」


 そのとき、航海長が言った。

 周りを見つつ、遠慮気味に。


「……いつの間にか政治考察の場になっちゃったじゃないか。なぜか」


「……あー」


 ……ここは内閣かってね。

 会議室ですって。ただの軍艦の一会議室ですって。

 政治話の場でないのにな。


「失礼。少し出しゃばりました」


「いや、中々興味深い話だ。どういう理由か明確にはわからんが、これはおそらく政治的にも重要な展開を引き起こすことになろう……」


 艦長がまとめるように言った。


「……よし、まあいいだろう。とりあえず、今日はこれくらいにする。とにかく、来週中に佐世保に移動するので、皆そのつもりで準備しておいてもらいたい。では、解散」


 そして、その場での会議はお開きになった。

 目の前のリストをまとめていると、カズに声をかけられた。


「中国もなに考えてるんだかなぁ。……まさか戦争の前段階ということはないだろうが」


「それはないだろう。今この時代にそれはする意味がない」


 したら中国にブーメランだ。意味がない。


「……まあ、政治関連は政治家に任せよう。俺たちのことをするまでだ」


「へ~い。じゃ、後でメシ食いに行こうぜ」


「あいよ。先に言っててくれ。俺はこのリスト部屋においてくる」


「ん。じゃ、おっさき~」


 そういってカズは会議室を出て行った。


 リストをまとめ終えたとき、俺は考えた。


「……中国も中国だ。」








「一体目的はなんなんだ……?」








 もちろん、ここで答えは出るはずもなかった…………

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