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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第2章 ~動き出した影~
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台湾の衝撃

TST:台湾標準時(Taiwanese Standard Time)


台湾独立に伴い設定した自国の標準時。

といっても、名前を変えただけで元は中国標準時(CST)時代と変わらず、日本との時差は-1時間(グリニッジ標準時+8時間)で設定している。

―7月5日(日) TST:PM20:30(JST:21:30)

              台湾民主共和国首都台北 大統領官邸大統領執務室―





「なんですと!? 中国がアジアへの侵略を!?」


 私『馬永灸ば・えいきゅう』は思わず叫んでしまった。


 今日は日本からの外務大臣の友好目的の会談だった。

 午前中に日本の外務大臣である山内氏が、政府専用機に乗って首都にある『台湾桃園とうえん国際空港』に降り立つところを自ら出迎えに行き、その後ここ大統領官邸にご案内した。


 ここは元々は中華民国総督府と名乗っていたところで、独立後国名が台湾民主国になったのと、国家元首が総統という名から大統領という名になったことを受けて名称を変えた。


 その後に午前中に少し会談し、昼食で台湾風の料理をふんだんにご馳走した後(中々の高評価であったので満足だった)、午後にも会談をして、そして少し台北市内を観光した。

 こうやって大統領である私自らが外務大臣というポストとしては低い方をご案内するのは異例であるが、これは私からの意向だ。

 久しぶりの外務大臣の来台なのだ。おもてなしの文化で有名な日本に負けたくないのでな。

 その後、明日の午後の帰国まではこの首相官邸で過ごした後、これまた自ら『台湾桃園国際空港』にお送りする予定であったが……。


 ……その夜、そう、つまり今である。


 夕食を終え、また少し個人的な話題で会談した後、今日止まるホテルへとご案内しようとしたときだった。

 いきなり山内外務大臣は少し部屋を変えてほしいといった。

 なんでも二人で話したいことがあるらしい。

 で、個人的な趣味の範囲というか、日本で相変わらず流行っているアニメ関連で周りに聞かれるのは少々あれだということで、まあアニメ関連は私も大好きだし、確かに政治家である私たちがアニメ関連の会談してたとかマスコミあたりとかに知られたらどういう風に歪曲されるかわかったものでもないので、それに同意してとりあえず本来私以外許可なく入ることが出来ない私の執務室に案内した。

 そこなら他人の邪魔をされることなく、大好きな趣味の話も出来る。


 ということで、とりあえず案内して側近の者も出て行かせたのだが……、


 彼、山内外務大臣の口から出たのは、そんなアニメの話などではなかった。


 もっと、とてつもなく重要なものだったのだ。


 それが、先ほど叫んだ事実だったのだ。


「シーッ!」


「あ……」


 思わず山内外務大臣は口元に人差し指を出した。


「……ああ、すいません。……もしかしたらほかに聞かれている恐れがあります。申し訳ありませんがここは声の音量を……」


「あ……、す、すいません」


 確かに、内容が内容だ。

 外から聞かれている可能性も無きにしも非ずだ。

 ……いや、一応ガードを配置しているから万が一にもそれはありえないのだが、念のためだ。


 私は少し小声で、念押しで聞いた。


「……し、しかし、それはほんとなのですか?」


「そうです。我が国が得た確実な情報では、中国は近いうちにアジアに侵略行為を行ないます」


「そ、そんな……」


 やはり、この事実だった。

 間違いなさそうであった。


 私は信じられなかった。

 今中国は確か経済危機でぶっちゃけ戦争どころではなかったはずである。

 なのに……、なぜこんなときに?

 一体どのような理由で? 目的は? 自国にとっての価値は?

 わからないことだらけだった。

 そしてなにより……、


「(……せ、せっかく独立を果たしたのに……)」


 私だけでなく、台湾国民の長年の悲願が、また壊されようとしていた。

 今の中国の軍事力は、我が国の比ではなかった。

 あっという間に壊滅的な被害を受けること間違い無しだ。

 しかも、もし中国は侵攻を始めたら、近くにいる国で一番頼りになる日本だって、自分のことに手一杯で自国に来た中国軍を相手にするので忙しくなるだろう。

 いくら我が国のことをいつも大切に思ってくれている日本といえど、結局は自国を優先せねばならない。

 我が国どころではなくなる。

 しかしそれだと……、


「(……我が国がまた……)」


 中国の属国になる。

 そしたら、また昔に逆戻りだ。

 それだけは、私個人としても、そして同じ台湾国民としても避けねばならなかった。


 ……そして、それと同時に気になったのが……、


「……ち、ちなみにその情報をどこで……?」


 どうやってこの情報を得たかということだ。

 日本にはアメリカのCIAような機関はなかったはずだ。

 なのに、どうやってこの情報を得たのか?

 たぶん、中国国内でも、いや、共産党内部でも機密の部類に入るレベルの情報だと思うのだが……。


「……申し訳ありませんが、それに関しては機密の関係上お教えすることは出来ません」


「そうですか……」


 しかし、彼は教えてくれなかった。

 やはり、情報の取得方法を簡単に教えることなど出来ないか。いくら相手が我が国とはいえ。

 ……いや、むしろ我が国だからこそかもしれない。

 我が国は元中国に属していた。

 それゆえに、中国と繋がる情報パイプはいっぱいある。

 中には、中国が独自に持っているものもある。

 スパイもまぎれてる可能性もある。

 それにばれるのを恐れたのだろう。

 ……まあ、こればっかりは仕方ない。徐々に解消していくしかないだろう。


 ……日本のことだ。大方アメリカあたりから情報を仕入れたというところだろう。

 アメリカだってこれは由々しき事態だと考えるだろうしな。

 ……その場合なんで一番被害をこうむる可能性が高い我が国に情報を仕入れなかったのか気になるが。

 あとアメリカも我が国に情報が行くことを容認したのかも気になるが。


「……しかし、これはまずい事態になりました。中国が攻めてくれば我が軍は壊滅的被害を受けることは確実……。一体どうすれば良いんだ……」


 私は文字通り頭を抱えた。

 対処法がわからなかった。どうやっても被害を被ることは確実だった。

 どんな方法を使ってもだ。


「……我が国も、これはつい最近知ったことで、完全な対処法を探っている状況です……。しかし、いかんせん時間がありません」


「? というと?」


「実は……、まことに申し上げにくいのですが、単刀直入にいうと我々に残された時間はあと1ヶ月と数日、と見たほうがいいでしょう」


「な……ッ!?」


 い、1ヶ月と数日だと!?


 バカなッ!? 時間が足りなすぎるではないか!


「もっと早く情報を取得できればよかったのですが……」


「そ、そんなことをいっている場合ではありませんぞ。ちなみにお聞きしますが、その根拠は?」


「この侵略計画の計画名です。我が国が仕入れた情報では、その計画名に『0815』の4桁の数字がありました。……これを、『8月15日』に変えれば……」


「……あ」


 私はハッとした。

 確かに。8月15日をよく0815と表すこともある。

 その場合、今年かどうかはまだわからないが、もしそうだと仮定した場合……、


「(……確かに、1ヶ月と数日しかない……)」


 ……ダメだ。あんまりにも時間がなさ過ぎる。

 どうしろっていうんだ。たった1ヶ月と数日で。


「……たった1ヶ月と数日ですと……?」


「はい。仮に今年に作戦が発揮されると考えた場合、これだけしか時間が残されていません」


「そんな……。たったこの期間ではどうにも……ッ!」


「はい……。ですから、我が国としても今からできる限りの準備を進めています。しかし、おそらく間に合わないでしょうな……」


「クソッ……」


 私は迷った。


 今からすべての準備をしようにも、やはり全然時間が足りない。

 軍備はもう諦めるにしても、どこから来るのかもわからない。

 北の東海艦隊か? それとも南の南海艦隊か?

 普通に考えるなら東海だが、でも東海は日本を相手にするだろうしこっちどころではないはず。

 では南海? でもそれだと東南アジアほうは……。


「とにかく、今からでも出来る限りの準備はしてください。あと、このことは内閣内だけで情報共有をしてください。決して、国会や、ましてや国民には絶対に公表しないようお願いします」


「わ、わかりました」


 中国を刺激することを恐れてのことだろう。

 もちろん、いわれるまでもない。悪い方向に持っていくだけだからな。


「では、この話に関しては、確かに首相に伝えましたので……」


「はい……。確かに、情報を受け取りました」


 さて、明日あたりから忙しくなるな……。

 とにかく、今は出来る限りのことを尽くさねば……。


「……あ、それと、」


「?」


 一転して、話題を変えてきた。


 ……? まだなにかあるというのか?


「……実は数日前にリメイクされた某国家擬人化のアニメなんですがね……」


「え、アニメが云々の話も本当だったのですか?」


 てっきり私と二人っきりになるための口実だと思っていた。


「ええ、少しですが情報を持ってきましてね。あのアニメで台湾の擬人化が新たに独立した台湾民主国自身の擬人化としてグレードアップしましてね……」


「ほほう……?」


 日本で昔放送されていた国家擬人化のアニメがまたリメイクされるとは聞いていたが、まさか我が国台湾の擬人化キャラがグレードアップとは……。

 やはり我が国が独立した影響か。だとしたらいろんな意味でうれしい限りだ。

 何気にかわいいしな。あのアニメでの台湾は。女子力が高くてポジティブで明るい女の子だし。

 あれがまたグレードアップとは、期待せざるを得ない。


 ……と、心の中で言って歓喜してるあたりもう日本のアニメ文化に毒されてるのだろうな、私は。

 しかし、悪い気分はしない。むしろ望むところだ。


「台湾が台湾民主国として独立を果たしたということで、原作の方やアニメ制作会社も手を加えたようです。それで事前配信されたキャラ要綱を手に入れましてね」


「事前配信? ということは、まだ世に一般で出回ってないということですかな?」


「ええ。本当は持ってくるのまずいんですけど、ちょっと内緒で……」


「……だ、大丈夫なのですか?」


 ある意味彼らしいが。

 前に来たときも、これまた日本文化らしい萌え絵関連で、向こうの某インターネット掲示板で、いつぞやの中国が罵倒したと思ったら萌え絵で返されて当の中国人本人が戸惑ったという日本鬼子の件に続いて、台湾友好と称して〝かわいくて種類が豊富な〟台湾擬人化が描かれたとき、それらの絵を大量に持ってきたし……。

 ちなみに、日本鬼子と罵倒⇒(からの)萌え絵反撃の件は我が国でもマスコミが報道していた。

 我が国内でもいろんな意味で大いに話題になったらしい。私はそれを見た瞬間大いに笑わせてもらったが。

 「さすが日本だ! 罵倒されても即行で萌え絵で返すあたりやっぱり二次元創作がうまい!」と賞賛させてもらったよ。


「ご安心を。総理からも隠れてオッケー出てますので」


「ッ!? そ、総理まで……!?」


 総理といったら麻生氏か。

 あの人、こういうアニメ系好きだったのか……。初めて知った。

 今度いつか来台したときそれ関連の話もしてみようかな。

 しかし、彼の好きそうなものがわからんな……。どれが好みなんだあの人は?


「それで、今ここにそれをほかの方には内密にして隠れて持ってきて……、あれ?」


「? どうかしましたかな?」


 山内外務大臣が身の回りをあたふたと探し始めた。


 ……? 一体何があったというのかね?


「あー、すいません。さっきの食堂においてきちゃったみたいです」


「あー……、もしかして、あの小さなバッグですか?」


 山内外務大臣がいつも持っているといっていたあの小さな黒いバッグ。

 どちらかというとプライベートで使いそうなものだが、あれのことか?


「ああ、それです。すいません、アレに入っていたのですが」


「では、うちの側近の者に……」


「あーいえ、お気になさらず。自分がとってきます。少々トイレも借りたかったところですし」


「そうでしたか。あ、トイレはそこを右に曲がって最初の突き当たりにありますので」


「ありがとうございます。では、少し失礼します。すぐに戻ってきますので」


「ええ」


 そういって彼はこの部屋をいったん出て行った。


 ……一人残された私は、


「……ふむ……」


 先ほどの中国の侵略の事実について考えた。


 理由や根拠もわからない。しかし、これが事実だとすると、一体自国に与える利益とは何だ?

 一体どのような目的があるというのか?

 中国のことだ。今まで中国に属していたからこそわかるが、何の目的もなく、ただただ領土確保といった野心的な理由で簡単に戦端を開くような国ではない。

 もっと深い理由があるはずだ。

 ……彼が、簡単に戦争に入るほど度胸を持っているとは思えない。


 ……理由はわからんが、




「……なにやら奥の深い目的がありそうだな……」









私の長年の勘はそのような予想を導き出した…………

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