『救0815計画』
―7月2日(木) PM13:55 日本国首都東京 首相官邸4階大会議室―
「総理がお見えになります」
その声をとともに、私『麻生新造』は官邸の大会議室に足を踏み入れた。
首相官邸の4階の大会議室は、広い室内に真ん中直径の半分くらいが開いている円形のテーブルがあり、それを囲む形で内閣を構成する各大臣が座る。
私が入ってきたときには、もうすでにほかの者たちは準備は整っており、先ほどの声と同時に一斉に起立し私のほうを見た。
私は国旗が立てかけられているところの近くにある椅子の前に立ち、右手を軽く上げて着席を促すと同時に、私もそれに合わせて着席した。
メンバーは国家安全保障会議“NSC”を構成する各重要閣僚であり、この会議もそれに該当する。
今回は中身が中身だけに、私の判断で秘密裏にそのような会議を設けることになった。
さっそく、一人の官僚が口を開いた。
「総理、今回は、例のあの報告に関しての……、ですよね?」
そういったのはこの内閣を構成する上でのナンバー2の立場にある『仲山千一』副首相だった。
彼の政治家としての能力はベテランの域であり、この内閣を構成するに当たり私も信頼を置かせてもらっている。
また、財政関係のエキスパートでもあるので、問答無用で彼を財務大臣にも任命させていただいた。
……が、たまに荒い性格を表に出してしまうこともある。
国防の面とかでそれは顕著。まあ、国防意識が高いことの裏返しなのだろうが……。
私はそれにすぐに答える。
「そうだ。彼がここに今から来ることになっている」
「しかし、一体これまたいきなりなぜ……」
こういったのは『菅原則之』官房長官だった。
官房長官職はこれまで何度となくやってきたので、今回それを買ってこの任に突かせた。
仲山副首相と対照的な性格をしている。
「それに関しては私もわからない。もうすぐ彼が来るはずだが……」
と、そのときだった。
「総理、例の機関の方が」
ふむ。うわさをすればなんとやらというやつだな。
……さすがだな。予定時刻ぴったしか。
「来たか。すぐに入れたまえ」
「ハッ。……どうぞ」
警備員に促されて入ってきた者は、黒いスーツの男が入ってきた。
そして、右の胸ポケットには赤い日の丸の後ろから5本のひし形の棒が伸び、その上から『JSA』の文字。
彼がその報告を持ってくる予定だった男だ。
私の前に来たと同時に、私は椅子から立ち上がり右手を差し出した。
「よく来てくれた。私が内閣総理大臣の麻生新造だ」
すると、向こうも右手を差し出して握手をした。
「始めまして。私が内閣情報伝達官のシャークです」
『内閣情報伝達官』。
JSAと内閣との情報を共有、伝達する担当官である。
内閣の官僚がJSAに直接出向くことはない。だから、向こうからいわば『使者』がくる。
といっても、メンバーが変わったらしくて今回来たシャークとやらは初めてなのだが。
「例の報告は?」
「ただいまよりさせていただきます。全員そろっていますね?」
「うむ」
「その報告とやらは何なんだ」
そういったのは仲山副首相だ。
「はい。こちらをお配りいただきたい」
そういって手に持っていたバッグから取り出したのはここにいる人数分の冊子だった。
数枚の紙を左上にホッチキスをしてとめていた。
その表紙には『資料X』の文字。
「詳しくはこれを見ながらということで」
「自分が配ります」
近くにいた官僚がその束を手に取り、周りに配り始めた。
私の手元にも来る。
「……今回の諜報活動の結果、中国共産党での動きに新たな展開があったことがわかりました。今回は、その内容をお伝えします」
「共産党か……、また向こうがなんかやらかしたんですか?」
そう愚痴っぽくいったのは『山内悠馬』外務大臣だった。
若いながら外交マンとしての能力を遺憾なく発揮していたこともあり、私は彼を採用するにいたった。
大臣になってからは積極的に海外に飛んでは様々な形で外交能力を発揮している。
まだ20代前半というのに中々の能力だ。
……ちなみに、中々の自他共に認めるイケメンであるため、ネット内では結構人気だとかどうとか。
昔もよくいろんな女子から告白されたらしい。
「やらかしましたね。……とんでもないことを」
「とんでもないこと?」
「その前に……、今の中国の現状をおさらいしておきましょうか」
「ほう……、少しの時間社会科の勉強ですかな?」
仲山副首相が顔をニヤッとさせながら言った。
昔を懐かしんでるだろうな。私もあのころに戻りたい。
……時代まで戻したくないが。
「そうですね。少しの間公民の授業と行きましょうか」
「ははは、いいですな。では、よろしくお願いします先生」
仲山副首相……、そんなに懐かしいのかね学生時代が。
まあ、結構充実した学生時代を送っていたと聞いていたが。
「……時は4年前の2016年にさかのぼります。当時中国は世界的に、かつ同時多発的に起こった中国製品の欠陥露見が原因で、国家始まって以来の重度の経済危機の陥りました。これにより、最終的には中国にいた企業がほとんど撤退してしまったことによって、中国国内でのGDPが極低下、第3位にいる我々を下回って結果的にはまた中国が第3位に堕ちてしまいました。これが、俗に言うメイドインチャイナ・バッシングと呼ばれるものです」
2016年の中国の転換期だった。
同時多発的には、っていう部分に関してはまさに運が悪かったとしか言いようがなかった。
実は裏で申し合わせてたのではないかといわんばかりに完全に偶然だったのだが、それのせいで世界中で中国製製品の不買運動が活発化。ゆえに中国に工場を置いている他国企業が自企業の信頼性低下を嫌ってどんどんと撤退してしまったのだ。
もちろん、その中には日本も含まれている。
中国はその安くて大量な労働力の提供による副次的利益を経済をまわす主体にしていたため、その提供元の企業がいなくなってしまったことにより、それによる利益が全然入ってこなくなったどころか、労働力の提供元もないため、中国国内で失業者が大量に増加。
しかもそれによって自分の生活の経済をまかなえなくなった関係で、他の店舗や銀行などを襲って金の員を強奪するなどの事件が多発し、治安も極度に低下してしまった。
これら一連の出来事を、今の我が国の教科書などでは『メイドインチャイナ・バッシング』と一括りに示している。
尤も、これを最初に言ったのはアメリカのマスコミだったのだが。
「これにより中国の財政的・外交的影響力低下が起こり、躍起になって状況を打開しようとしていますが、未だに打開できていないのが現実です。また、それによって最近では軍事的な挑発行為や介入もめっきりしなくなりました」
「そういえば最後にスクランブルたったのいつでしたかな?」
「一ヶ月前ですよ」
仲山副首相の疑問には『新海和人』国防大臣が答えた。
この内閣で一番若い大臣だ。まだ23歳だが、政治家としては類まれな天才に値する人間であり、それを私は見込んだ。
子供のころから根っからの軍事マニアだったらしい。軍事知識はとんでもない。
日本はもちろん、世界の大抵の軍事力は把握している。
……結構焦りやすいのがたまに傷だが。
「下地島からのスクランブルでF-15Jが出て対処して追っ払った後はそれっきりです」
「もうそんなに経つのか」
昔とは違うということか。
昔はことあるごとにスクランブルで空軍……、当時の空自は休む暇がなかったからなぁ……。
スクランブルが重複する場合もあったしな。
「そうです。スクランブルに限りません。5年前の朝鮮戦争でも、中国は一切介入しませんでした。隣国の事案なのに、しかもああいうタイプの事案には中国は飛びついてもおかしくなかったのですが」
「確かにな……」
中国のことだ。向こうなら北朝鮮に中古の兵器送りつけて韓国北朝鮮共々国力を低下させた後今度は中国自身が乗り出すなんていう展開もあっただろうに。
……まあ、途中から我が国とアメリカが参戦したからもしそんなことしたら我が国はともかくアメリカの邪魔をすることになるから米中で摩擦が起こることは避けられんがな。
「その後、領土きり話などを行い何とか打開を目財していき、それのおかげかGDP低下率が収まりつつあるのを使って国民世論を誘導していますが、それでも状況の回復の兆候は一切見られず、今現在も中国は経済回復に躍起になっています……。これが中国の現状です。ここまではいいですね?」
「うむ。よくわかった」
とにかく、中国も大変だなということだな。
……まあ、皮肉なことだがそれのおかげで敵対していた日本の経済が回復する原因にもなったのだが。
中国製品の信頼性が低下した分その期待の視線が、逆に高い信頼性・安定性・高性能を売りにしている我が国に向かったからな。
私はそれを大いに活用させてもらっている。前の首相である阿部総理も大いに活用していたようだしな。それを私は引き継いだ形になる。
また、工場も今度は東南アジア各国に向いたこともあって、東南アジア各国が経済的に豊かになりつつあった。
なんとも皮肉な話である。
すると、仲山副首相が言った。
「考えてみれば、中国も災難ですな。自国で回復するのはもう絶望的なんだしさっさと各国に支援を要請すれば良いものを。こっちだってやれるものならやってやるというのに」
それに山内外務大臣が反応した。
……ため息交じりで。
「ですが、はっきりいってあんなの中国の自業自得です。元から労働力提供による副次的利益に頼りすぎていたし、無駄に軍事予算に費やして国民の生活まかないきれてないし……。自己中的発想もいいところです」
なんとなくいやみっぽくいっていた。
……まあ、彼元から中国をあんまり快く思っていなかったからな……、仕方ないか。
「ふむ……。それで、これと今回の報告にどのような接点が?」
「はい、それに関してはまず資料の1ページ目の方を見ていただければと」
「1ページ目……?」
いわれたとおり資料Xの1ページ目をめくると、そこにはただ一つ『救0815計画 ―The Seaving Plan of 0815―』という文字だけがあった。
「……救0815計画?」
山内外務大臣はそれを読み上げた。
「はい。左様です」
「これが一体なんなんだと……」
菅原官房長官が疑問を投げかけた。
「詳しくはさらに1ページめくるとわかります。……相当な覚悟をしておいたほうがいいかもしれません」
「? ……どういうことだね?」
「実際に目にしていただいたほうがはやいかと」
ふむ。百聞は一見にしかず……、ということか。
……嫌な予感しかしないが。
「(どれ……)」
そして私はいわれるがままにさらに1ページめくった。
……そして、そこに書かれていた文字を見た瞬間、
「……ッ!? こ、これは……」
私は絶句した。
いや、私だけではない。
「……ッ!?」
「な、なんだこれは……ッ!?」
「これは……ッ!?」
ここにいたもの全員が言葉を失った。
出てくるとしたら今みたいな疑問の呟きくらいだった。
「……あ、」
新海国防大臣がそれを読み上げた。
「“アジア再侵攻計画”……ッ!?」
私たちが言葉を失った理由がこれだった。
アジア再侵攻計画。
つまり、侵略計画だった。
我が国だけではない。
アジア。つまり近隣各国にまで及ぶということだった。
「これは……、これはどういうことだッ!?」
仲山副首相は思わず叫んでしまった。
その先は誰でもない報告を持ってきたシャークである。
「どうもなにも、見てのとおりのことです。……中国は、アジアに対して侵略計画を進めています」
「な……ッ!?」
仲山副首相はまたもや絶句した。
その気持ちもわからんことはない。
中国のその軍事力は強大だ。
いくら経済危機であるとはいえ、その軍事力はアジア最強であることには疑いはなかった。
我が国だって、今同盟を結んでいるアメリカと共同で出向かなければ完全な防衛は出来ないといわれている。
……尤も、アメリカが出てくれればの話ではあるが。
「そ、そんな……、中国は今経済危機でしょう!? 一体なんでこんなときに!?」
新海国防大臣も相当焦っている。
……こればっかりは同意せざるを得ない。
こんな経済危機の影響で自国をまかなうので精一杯な中、こんなことをすればそれこそ自分の首を絞めることになりかねない……。
……中国め、一体何を考えている?
「詳しいことはまだ不明です。しかし、そのような計画があること自体は間違いなく……」
「クッ……、時期もわからないのか」
「現在調査中です」
「……困ったことになった……」
新海国防大臣は文字通り頭を抱えた。
「……中国の軍事力は強大です。理由や根拠等は抜きにして、向こうが総力を挙げて攻めてくればこっちとてただではすみません」
「相手はアジア全域だぞ? それをすべてまかなえるほど中国の軍事力は強大なのか?」
仲山副首相が疑問を投げかけた。
それに、新海国防大臣は即行で肯定する。
「はい。中国の軍事力はいまやアジア最強です。アジアを一気に相手に取れるほどの力はあります。……我が国に限ってはアメリカの援護があっても完全に守りきれるか……」
その言葉にここにいたものは絶望を覚えた。
……あのアメリカでさえ味方にいても場合によっては無理な場合もあるのか……。
……どうすればいいんだ。
「……理由や根拠はわからんが、まずだ。新海国防大臣」
「はい」
「……今の日本の戦力で、どれくらい耐え切れる?」
新海国防大臣は少しうつむいた後、顔を上げて答えた。
「……先ほども申したように、アメリカが味方についても完全に守りきることは不可能です。まず、最前線にいる沖縄はただでは済まないでしょう」
「沖縄か……」
せっかくの南国の楽園をまた戦火の真っ只中にさらすことになるというのか……。
第二次大戦の太平洋戦争での沖縄決戦以来か。沖縄はいろんな意味で地理的条件がひどすぎるな……。
なぜこうも沖縄ばっかり……。
「まず脅威なのは弾道ミサイルです。中国は6年前の『核兵器保有規制条約』に調印してますので核弾頭ミサイルの脅威はめっきり減りましたが、その代わり通常弾頭の弾道ミサイルでまかなっています。それは核弾頭ミサイルより安価になりますので、大量に保有することで核弾頭の代わりを担っています」
ここで出た『核兵器保有規制条約』とは、アメリカが核保有国に対して提案という名のぶっちゃけ強制をした規制条約であり、まあ簡単に言えば、
アメリカ「これ以上我が国以上の核保有量を持つ国家の台頭を防がなければ!」
ということで行なったものである。なんともアメリカらしい理由である。
というのも、このメイドインチャイナ・バッシングはアメリカも少なからず影響を受け、その受けた経済的損害分を軍事費から削って賄うという形で建て直しを図ろうとしていた。
そのとき、無駄に多い核兵器の削減も行なおうとしたのだが、その場合ほかの核保有国がアメリカに近づくか最悪追い越して核保有量トップになることを恐れた。
核兵器保有国が世界の中心的な存在になる現代では、これは致命的であった。
特にすぐ上にいるロシア、そして逆にすぐ下にいる中国は問題だった。
なので、核保有を制限するに当たって「各兵器削減による世界平和の促進」という名目で核兵器を保有している国に対して半ば強制的に調印させた。
事前に国連やロシアに対して根回しを行なったおかげもあって、世界的に調印のムードに盛っていくことに成功した。
中国もこれに調印したのだが、あくまで“いやいや”である。
理由としては我が国に対する外交的圧力の低下を嫌ってのことで、ある意味核という矛があったからこそ今まで高圧的な外交が出来たようなものだ。
それがなくなるのだから、中国もそんなのしたくないだろうな。
だが、相手はアメリカだ。逆らうことは出来なかったということだ。
だから、代わりとして大量の通常弾頭の弾道ミサイルを保有することで、それによる総合的な攻撃力で賄おうということである。
……尤も、財政回復に躍起でそれどころではないと思うのだが。
「我が国のBMD能力は国産偵察衛星『天津神』とのデータリンクもあって、ほぼ確実な迎撃能力の保有に成功しました。しかし、向こうが大量に撃ってくるとなるとそもそも迎撃のミサイルが足りなくなる恐れが……」
国産偵察衛星の『天津神』は、我が国が始めて完全に一から作った純国産早期警戒衛星であり、アメリカのDSP衛星以上の性能を保持するにいたった。
我が国のBMD能力の向上に大いに貢献しており、イージス艦とのデータリンクをフルに活用することにより、弾道ミサイル迎撃確立の大幅な向上に成功した。
名前の『天津神』は、日本神話に登場する高天原にいる、ないし降りてきた神々の総称であり、高天原とは古事記によればその天津神がいたとされる場所のことをいい、その所在についてはいろいろな説があるがその中に天上説という、簡単に言えば宇宙とかいうとんでもなく高いところにあったとされる説があり、今回の命名もそれに則ったものとされる。
まさに、天上という名の宇宙から見守る、というより監視する衛星である。
「データリンクを使っても物量には勝てんか……」
「我が国が保有するイージス艦では足りるかどうかわかりません。とにかく、今からでも準備を……」
「あー……、一つ良いですかな?」
「? なにかね?」
そのとき、菅原官房長官が割って入った。
「今思ったのですが……、この0815の部分」
「? それがどうかしたのかね?」
0815といったら子の計画名か。
それがどうかしたのか?
「いや……、これってもしかして……」
「“8月15日”って意味なのでは……」
「!? な、なんだと!?」
一瞬その場が大いにざわついた。
0815が8月15日……。
……まずい。大いに辻褄が合う。
「は、8月15日って……」
「まさか、この計画の発揮日!?」
仲山副首相が言った。
……流れ的に間違いないだろう。わざわざここに意味のない数字を当てはめるのもどうかと思うしな。
「ま、まってください。8月15日ということはつまり……」
「……今年とは限らんが、そう仮定すると、大体……」
「1ヶ月と数日しかありませんな……」
たった1ヶ月と数日か……。
……ダメだ。あんまりにも時間が少なすぎる。
「無茶だ! たった1ヶ月ちょいで準備しろなんてそう簡単にできることではありませんよ!?」
新海国防大臣が焦りすぎて叫んでしまった。
……たまにこうなるから少し困る。
まあ、今回は仕方ないっちゃあないのだが
私は手を前に出して制止させた。
「わかったから落ち着け。……とりあえず、今からでも出来る限りの準備をしておけ。あと、侵攻された場合のプランも練っておくんだ」
「は、はい……。了解しました」
「あの……、これ国民にはなんと?」
菅原官房長官が聞いた。
「ああ、国民には黙っておけ。まだ公表するには早すぎるし、無駄に中国を刺激するだけだ。計画の発動を早める可能性がある」
「わかりました」
「では、せめて近隣各国には伝えましょう。台湾には、今週末に会談のために現地に向かいますのでそのときに極秘に」
これは山内外務大臣だった。
たしかに、機会としてはいいかもしれない。そこは彼に任せよう。
「わかった。では、台湾に対しては頼む。ただし、あくまでこの情報は台湾内閣だけで共有させるよう念を押してくれ。国会や国民には一切出させないように」
「はい。承知しました」
「ほかの国に対しては?」
仲山副首相の疑問にはシャークが答えた。
「すでに密使を準備しています。外交派遣官を名乗らせて向こうに送るというのは?」
なるほど。ではそれでいこうか。
……それにしても、
「……さすがJSA、仕事が速いな」
「どのような場合にも迅速に対応するのが我々の勤めであります」
彼は顔色一つ変えずに淡々といた。
……彼ららしいわな。
「よし、ではすぐに派遣だ。対称はアジア各国。向こうには私から伝えておく」
「了解しました」
「よし……」
……ふむ。そろそろこれでいいだろう。
「では、今回はこれで解散とする。また何かあった進展がときは召集をかけるので、そのときはすぐに集まってもらいたい。……では、皆今回はご苦労だった。解散」
そういって会議をお開きにした。
各々で手元の資料をまとめ、ぞろぞろと出入り口に向かった。
しかし、みんなくらい顔をしていた。
まあ、あのような報告をされたら無理もないだろう。
山内外務大臣が大きなため息をしつつドアを開けようとしたときだった。
「……またアジアが、」
「?」
私は、その場で立ち上がって手元の資料をまとめつつ、その手を止めた後につぶやいた。
といっても、その場に思いっきり聞こえていたであろう。
「……また、」
「昔のように、戦乱にまみれようとしているのか……」
その瞬間、みんなの動きが止まってしまった。
そして、皆またうつむいた。
おそらく、それはこの場にいた全員の気持ちを代弁したものになったのであろう。
私は、深い絶望の念に陥った…………




