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極秘情報

―6月25日(木) PM19:25 東京都内某所地下―





「……なに? 共産党に動きだと?」


 そのとき、私は思わずその報告をしてきたものに対して無線越しに言った。


 ここは東京都内の地下。

 といっても、詳細は公表できない。機密だ。

 ここでは数ある諸外国の情報の収集をしている。

 そのため、この本部司令室はでかい。一言で言えば近未来的だ。

 超大型ディスプレイに各国の世界地図とともに世界に散らばっているエージェントの情報が表示されている。

 そのディスプレイの前ではたくさんの司令部員がパソコンと向き合っていた。

 そして、現地のエージェントと指示をし合い、情報の共有・交換をしていた。

 それを私は、その部屋を見渡せる少し高い位置から、自分の机とノートパソコンを目の前にして座ってみていた。




 そう。ここは、日本政府のみ公認している極秘機関の『JSA』本部なのだ。


 誰にも知られることはない、超国家機密の機関だ。





『はい。現地に飛んでいるコールサイン『マリンス』からの報告です』


 無線はそう発した。

 この部屋はでかいため、ここにいるもの同士でも基本無線を使う。

 無線というか、超小型のヘッドセットか。

 右耳にかけていたヘッドセットから伸びるマイクに向けて、私はさらに指示をした。


「現地に飛んでいるのはマリンスだけか?」


『いえ、共産党内部にはマリンスのほかにシューベル、ガッツ、外部にはサイラーもいます』


「そちらからの情報は?」


『ありません』


「ふむ……」


 相当急いだのだろうな。普段ならリアルタイムで情報を共有できるようデータリンク端末を配布してあるのだが、それすら使わないで即行でこちらに送ってくるとは。

 ……マリンスほどの人材が忘れていたなどということはありえんな。むしろそれを厳しく気にしているほどだ。

 そんなあいつが情報共有するまでもなくこっちに送ってきたということは……。


 ……嫌な予感がする。


「中身は?」


『暗号化されています。解読に時間が』


「こっちでやる。そっちのデータを私のほうに転送してくれ。そしたらお前は引き続き現地のサポートを」


『了解。情報をボスのPC端末に転送します』


 すぐにその向こうが受け取った報告が来た。

 私のPCのほうが何気に処理速度は格段い速い。ほかの場所での情報もすべて共有せねばならんからな。

 そして、そこで入ってきた情報を自動的に解読させる。

 音声ではなくデータで送ってきたか。これまたそれほど急いでいたということの表れか。

 すぐに処理は完了した。

 簡単な音声データだ。おそらく、盗聴器のほうから入ってきたデータだろう。

 どれ……、


「……、ッ!? こ、これは……」


 私はそれを見て青ざめた。

 まずい……、これは一体どういうことだ……?


「おいハント、聞こえるか?」


『はっ、よく聞こえます。ボス』


 すぐにさっき報告を転送してきたものを呼び出した。


「さっき送った情報を直ちにメインディスプレイに出せ。今すぐだ」


『あ、りょ、了解』


 あまりに焦りすぎたか。

 向こうが少したじろいだ。


 すると、ディスプレイの一角にしかくい、パソコンでいうブラウザのようなものが表示され、そこには共産党の所在を示す地図と共産党本部を示す矢印がある。


「各員、作業をしているところすまないが少し耳を傾けてくれ」


 私は無線を全員に聞こえるようモードを変えた。

 この部屋にいたものがすぐに手を止めて無線に耳を傾けた。


「たった今、共産党本部に潜伏中の我が国スパイより情報がはいった。……短いものであったが、重要なものだ。よく聞いてほしい」


 そして、私は目の前のパソコンを操作してディスプレイ上に新たな表示を出した。

 それはさっき出した表示の上に少し重なるようにでて、サウンドインジケーターの移動平均線が表示される。

 私はその音声データを再生した。

 音声に反応してその移動平均線が激しく揺れる中、その内容は本部の司令室内にいる者達の無線機に響いた。





『……しかし何度もそれではリスクが大きすぎます。……ほんとによろしいのですか』


『もはやこれしかないのだ。……懸念はわかるが、そろそろ我々も覚悟しなければならない』


『では……?』


『ああ……、あの計画の進行度は?』


『もうまもなく大まかな内容は策定完了です』


『わかった。出来たらすぐに持ってきてくれ』


『了解しました』


『それと……』


『はい?』


一瞬の間をおいて、


『……何度もいうが、』








『近隣には絶対に知らされるな。特に日本だ。沖縄一つをとるにしても十分な注意を払わねばならない。軍事的な面では絶対に中途半端な判定はするな。いいな?』








『はっ、すでにそのように』


『奴らはまだ日本を甘く見ている。私の名を使ってもかまわん。念押しで押さえておくんだ。いいな?』


『はっ、了解しました』


『うむ。では、ッ―――――――――』






 音声データはここで途切れている。

 全部中国語だったが、ここにいるものは全員中国語はマスターしているから問題ない。

 これくらいやれなければエージェントは勤まらんからな。

 別にばれたわけではないらしい。おそらく、盗聴器からのデータ転送を電波ジャックで悟られることを嫌ってのことだろう。

 それだけに、内容はすこぶる短かった。

 しかし、その分情報の重要性というか、〝質〟はとんでもなく高かった。


“沖縄を一つとるにしても”


“軍事的な面では……”


 これが意味することは、私のほか、ここ似たものはすぐに察した。


 だから、この場が一気に静かになったのだ。


 誰もが、冷や汗を書いているに違いない。


『ぼ、ボス、これは……』


 一人の幹部が無線越しに言った。

 ……相当戸惑っているな。まあ、無理もない。


「聞いてのとおりだ。……中国は、おそらく日本を攻めに来くるつもりだ」


『ッ!?』


『ば、バカな……ッ!』


 その場が大いに騒がしくなった。

 それは、無線越しにでもよく聞こえた。


「総員静まれ」


 私はそういうと、その場が一気に静まった。

 すると、


『……しかし、おそらくこれ、』


「?」


 一人の幹部だ。

 ……というと、どういうことかね?


「説明してもらおうか」


『音声データのなかに、“特に日本だ”と言ってるあたりから推測するに……、と、ボスほどの人材ならこれだけで大体推測できますかな?』


 その一言を言われた瞬間、私はすぐにハッとした。

 ……そういうことか。


「……なるほど、向こうの目標はあくまで“日本に限定していない”ということだな?」


『ええ、そういうことです。……おそらく、日本だけではありません。近隣各国といってる点からしても、たぶん……』


「自分と隣接している国を対称にしている可能性があるということか……」


 これなら、さっきの音声も説明がつく。

 ……まずいな。これは我が国だけの問題ではすみそうにない。


『ボス、事態が事態です。指示を』


 一人の司令部員が言った。

 私はそれに即座に反応する。


「とにかく、もっと情報がほしい。中国方面に派遣しているスパイのオペレーターは直ちに内容を現地スパイに伝え、情報収集に当たらせろ。ほかの者は現地での活動をいったん中止させ、中国関連の情報を何でも良いから集めさせろ。各員かかれ!」


『了解!』


 オペレーター担当である者達は直ちにPCに向きなお阻止あわただしく指示を出し始めた。

 一気にこの司令室が騒がしくなる。ディスプレイも表示を変え、表示する対象を中国本土に限定的させ、そこでの情報のみを表示するようになった。


 私はそれを見つつ、さらに今度は側近の者に口頭で指示を出す。


「おい、すぐにシャークをここに呼べ」


「ハッ、直ちに」


 側近でいたものは直ちにこの場を離れ、彼を呼びにいった。

 すぐにくるだろうから、こっちも説明の準備をしておこう。


 さらに私は手元の受話器を手に取り電話をかけた。

 もちろん、機密性は守られている。


「……失礼、首相閣下でありましょうか? ……はい、私です。実は、中国での動きに関して一つ気になる情報が……、はい、詳しくは彼を派遣する形で、いつもどおりそこで情報提供とします。……はい……、はい、では後日。詳しい日時は追って連絡します。……ハッ、では、失礼しました」


 私は受話器を切って、目の前をみた。

 目の前にあった私のパソコンでは、相変わらず収集されてくるデータがあったが、それの横では、もう一つのブラウザ、さっきの音声データのサウンドインジケーターが表示されていた。

 もちろん、再生はしていないので横の一本の薄緑色の線が伸びているだけだったが。


「……」


 私は机にひじをおき、あごに両手を当てた。

 そして、私は目の前のパソコンの奥で慌しく動いている司令部員たちを見た。

 そこでは、相変わらずオペレーターである司令部員が情報収集のために、互いに慌しく指示を飛び交わしていたが……、


「……さて……、」








「大変なことになったぞ……」









 私はそれを見つつ、愕然とした心境になった…………

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