体験航海イベントin佐世保 準備⇒催し物
―6月20日(土) PM18:20 横須賀海軍基地 DCGやまと会議室―
「……で、だ」
艦長はその場に集まった周りに向けて最初の一言。
「……来月の佐世保でのイベントで、」
「我々は何を催そうか」
「迷いますよね」
そう。俺達は迷っていた。
今回、来月に佐世保にて行なわれる体験航海イベントで、俺達のやまとを含む数隻の艦艇による一般客を乗せての体験航海イベントが行なわれる関係で、それの事前打ち合わせもかねてこのように尉官以上を対象とした会議が行なわれていた。
尉官以上だから少尉である俺も含まれる。
このイベントは一日中行なわれるのだが、これの中では俺達は客を乗せて、ほかのミサイル艇などでいろいろと展示飛行とかをする。
その中で、俺達はそれに負けないよう毎年恒例の艦上でのいろいろな出し物を出したいんだが……、
「……毎年やってるやつじゃね……」
「絶対詰まんない」
ここにいた尉官の人がつぶやいた。
そう。出し物がテンプレ化していてなんとなく栄えないという事態が発覚したのである。
大体俺の思い起こすところといったら、ファッションショーという名の国防軍の使用する作業服とかの紹介とか、後はラッパ隊による演奏くらいで……。
そ れ 以 外 が 全 然 思 い つ か な い 。
これに乗る客だって、俺みたいに軍オタミリオタも大量にいるだろうし、というかむしろ比率的には圧倒的にこっちが上だろうから、絶対今まで何度もほかのを乗ってきてるはず。
そして、どこでもおんなじような催し物を見てきてるはず。
……せっかく最新鋭艦の初めての体験航海なのに、催し物までほかの艦と全く同じなんていう事態になったら絶対飽きられる。
いや、俺なら間違いなく飽きて萎えることは不可避。
……どうせなら、初回にぴったりなほかにないものを出したいけど……、
「……何か良い案ある人」
艦長が意見を促すが……、
……案の定、全然上がりません。
「むぅ……、やはりないか」
「なんとなくですが……、文化祭で何を出すか聞いても全然手が上がらないクラス会議みたいですな」
航海長がなんとも適切な比喩をしてくれた。
わかるわ。小学校はまあ学習発表会とか言う実質演劇を先生主導でやったから、俺達はそれに従うだけでまだラクだったし、中学校は俺の通ってた学校の場合基本部活とか委員会とか、あとは生徒の製作物の展示になるから後は俺達は体育館でいろいろと演劇見たりバンド見たりしただけだけど、高校になると文化祭なに出すか基本俺達にゆだねられるから絶対クラス会議1,2時間は掛かる。
そんで、でてくるといったらこれまたテンプレ化してるお化け屋敷とか喫茶店とかそれくらいで、それはもうほかのクラスも同じだろうしやめとこうってなってあとは全然出てこなくて詰むっていう。
そんで最終的には先生が提案したものをとりあえず採用するというあたりまでがテンプレです。
……ヤバイ。今この状況と完全に一致だわ。
あ、でもここには先生的立場の人がない。しいて言うなら艦長?
でも艦長自身がわからないから俺達に意見聞いてるのにもう詰んだよねこれ?
それでも、ここにいた人たち全員でとにかく提案しだす。
「……とりあえず、クイズ大会でもする?」
まずはカズだ。
こいつも少尉だから尉官だし、一応出席している。
ふむ、クイズか。
これもこれでありきたりだが、まだ悪くないかもしれない。
しかし、そこにほかの尉官の人が異議を申した。
「問題誰作るんだよ……、てか中身というか、そのクイズ問題のテーマは?」
「とりあえず……、やまとに関してか、または軍艦に関して?」
「それ答えれるやつ限定されねえか……? 新澤みたいな軍オタとかミリオタにしか答えられねえだろ」
俺がたとえに出された。
……だがまあ、間違っては否から異議は申さないよ。
「うっ……、確かに」
「まあ……、今回の体験航海は小さな子供達も大量に来るからな。それに、軍事関係に素人なやつもくるだろうし……」
航海長が言った。
まあ……、それだと全然楽しめんな。
さて、どうしたものか……、
「……あぁ、それなら艦内に答えを示しておけば良いのではないか?」
そこで提案を出したのは砲雷長だ。
「? というと?」
「たとえば、『やまとに搭載されている主砲の射程は何kmですか』という問題なら、それこそそれだけ提示されても素人ならわからんだろうが、そこで前甲板にある主砲の紹介プレートにその答えを記しておくのだよ。直球で答えはこうですって言うのではなく、今のならその紹介プレートの中に主砲の諸元データを載せておけば……」
「……ッ! ああ! そのデータの中に主砲の簡単な射程距離も書くからそれを見て!」
「ああ。それなら、クイズとはまた違うが、答え探しみたいで楽しめるだろう。それに、小さい子供達はこういうのは結構好きなはずだ」
「なるほど……」
さすが砲雷長。頭がキレる。
子供達の好きなことをよくわかっているな。確かに、感覚的にはスタンプラリーみたいで楽しそうだな。
各兵器や知識に関してクイズをだして、所定の場所に行けば間接的にその答えがわかるって寸法か。
これなら子供達も艦内を探検できるし、そしてクイズにも気軽に参加できるしで、まさに一石二鳥だ。
うん。これは採用かもしれない。いや、採用だな。
「確かに、これは子供達に受けが良いかも知れんな。どうせなら、クイズに全問正解したら、景品として何かお菓子をあげるとかもどうだろうか?」
これまた子供受けを狙った艦長の意見だな。
まあ、お菓子くらいならうまい棒とかそういう軽いのでもあげれば子供達も喜ぶだろう。
それくらいなら予算も掛からないしすぐに準備できる。
「いいですね。それも採用しましょう」
副長も納得した。
「よし、ではこれも準備に入れてみるか」
艦長も気に入ったようだ。
「問題は子供達用に簡単のにしておこう。さっきみたいに紹介プレート見るだけでわかるような簡単なやつで」
「では、問題は俺が作ります」
一人の尉官が言った。
「うむ。では問題は頼む。5,6問くらいの簡単ので良い。問題用紙は……」
「桜井、お前絵うまかったよな。何とか作れないか?」
「俺か? まあ、別に良いけど」
「じゃ、問題用紙は頼む」
よし、クイズに関してはとりあえずこれでいけそうだな。
だが、これだけでは足りんな。
まだだ。これはあくまで子供達用だ。
もう少しほかの年代にも受けそうなものを……。
「もう少し上の年代に受けそうなのは……、何かありましたっけ?」
カズが言った。
子供達の年代より上となると……、大体中学生以上くらい?
うわぁ……、となると大体俺みたいな軍オタミリオタしかのらねえじゃん……。
子供達ならまだ親の趣味とかそこらへんできそうだからまだいけそうだけど……。
「うむ……。この年代から上はもっとインパクトあるやつじゃないと受けないぞ……」
副長も迷った。
困ったなぁ……、この年代に受けそうなのって……。
「(えっと……、スタンプラリーは論外だし……、特定の乗員を見つけてじゃんけん大会? でもそれ中学校のときやったしあれどっちかって言うと子供向けだしな……)」
う~ん……わからん……。
大人でもいけそうなやつだろ? それってどう考えても俺達の世代じゃない……。
もう少し年いった奴の意見聞きたいけど、そのジャストの年代の人たちがこうやって悩んでるしなぁ……。
……あー、
「……だ~れか良い意見を……」
「私を呼びましたかね(キリッ」
「ギャァッ!?」
そして後ろからの不意打ち攻撃である。あ、失礼“口”撃か。こうげきだけに。
……うん。全然うまくないわ。これは表に口に出していえないな。いえる代物でもないし出来でもないな。
「お、おまえなぁ……。後ろから突然超えかけるのやめろってマジで……」
「だって普通にでてもつまんないですよね?」
「つまんないってあーた……」
たまにこういう不意打ちをかけられるから困る。
何気に心臓に悪いのよこれ……。マジで勘弁してくれ……。
「? どうした?」
「え? ……あー、」
そうだった。ほかには見えないんだったな。
そりゃ傍から見れば俺が大きな声で独り言いってるようにしか見えんか……。
「えーっと……、ん」
そういって俺は親指で後ろをクイッと指した。
それだけでいい。
「……あー」
それだけで周りは悟る。
何を悟ったかはまあ言わなくてもわかるよな。
「……今そこにいんの?」
「いるぜ。いきなり出てきやがってまったく……」
「いや~それほどでも」
「褒めてない。全然褒めてない」
褒める要素がどこにあったか教えてください。
隠密性ですか? 俺に気づかれなかったっていう隠密性ですか?
出来ればそれをステルス性として艦体自体に反映してほしかったです。
「……あ、どうせなら、」
「うん?」
そこで声を揚げたのが航海長だ。
うん? 何か名案でもあるのかな?
「ぜひとも艦魂自身の意見も聞いてみないか?」
「……え? こいつの?」
「わ、私のですか?」
思わず本人も動揺した。
「人間とはまた違った発想が来る可能性も微レ存だぜ?」
「えー……?」
微レ存=微粒子レベルで存在する⇒ほんの少しその可能性もあるかもしれないの意味
「まあ、聞くだけ聞いてみって」
「聞くだけって……、で、実際なんかある?」
まあ、とりあえずいろんな奴から意見聞きたいし、きいてはみるか……。
……つっても、
「い、いきなりきかれてもなぁ……、う~ん、なにかあるかなぁ?」
やまとも首をかしげた。
まあ……、そう簡単には出てこないか……。
「大人というか、どの年代にも受けるのを狙ったほうが手っ取りばやいですよね……」
「ふむ……。大人というかどの年代にも受ける奴のほうが手っ取り早いってさ」
「オールラウンダーか……。でもなぁ……」
「ある意味一番それが難しかったりする……」
「だよなぁ……」
その場でみんながうなった。やまとも含めて。
ぬ~……、もうこれクイズのみで行くしかないパターンか……?
でもなぁ……、それだと対象年齢限定されるしなぁ……。
え~……、でもほかになにか……。
「……あ、」
「?」
そこで、やまとが思いついたのが、
「どの年代にもいけるなら……、漫才とか?」
「……え?」
……漫才?
「? なんか言ったのか?」
「いや……、漫才どうかって」
「……へ?」
か、艦の上で漫才……?
あ、ある意味その発想はなかったが、漫才か……。
ふむ……。
「漫才ねぇ……。面白そうだけどどうやるん? シングル?」
「えっと……そこはまだ……」
あ。あくまで漫才ってだけの発想だったか……。
「……漫才というとやれそうなのは後部甲板か……。といってもどういうシステムで……」
そこまでいったとき、
「……あ! そうだ大樹!」
「?」
カズがいきなり叫んだ。
今度は何だ? ろくなことじゃないよな? こんなときにまで。
「思い出したぜ! 高校のときの学園祭のアレやるか! アレ!」
「……、え!? アレ!?」
おいおい、俺も今思い出したけどアレやるのか……?
あれ受けめっちゃ良かったっちゃあ良かったけどもうネタほとんど忘れたぞ……?
「? アレってなんだよ?」
そこで聞いたのが航海長。
こういう話にすぐ突っ込むのは大抵この人だ。
「いや、俺とカズが高校時代の学園祭でやった漫才で……」
「え? お前ら漫才やってたの?」
「ええ……、それも、3年間毎年」
「毎年!?」
1年生のときに「せっかく友達になったしどうせなら互いに挑戦してみるか! 関係強化のことも考えて!」とカズがいったのがすべての始まり。
受けは結構良かった。それ以降ほとんどノリで「今年もよろしく♪」と周りから言われた結果もう3年間ずっとステージ上でやってた……。
そうだった。すっかり忘れてた。
「アレのネタなら俺覚えてるぜ。記憶に印象的だったからな」
「よく覚えてたなお前……」
こいつの記憶相当だなまったく。
「どうせだ。復活させるか」
「マジでか……?」
「だが、お前らの漫才見てみたいな。何気に気になる」
「同意」
「確かに。俺も気になるわ」
周りがそれに賛同し始めた。
……まずい、もうこれ空気に乗っちゃったな……。
もちろん、やる方向の。
「大樹さん昔漫才やってたんですか?」
「まあ高校3年間のとき限定だけどな」
「へ~、私何気に気になりますね」
「お前もか……」
ぬぅ……、まあ、いざとなったらやってもいいが……。
「……よし、どうせだ」
「?」
そこで、さらに航海長がここぞとばかりに提案を申し出る。
「ただ単にこの二人だけにシングルでやらせるのも面白くない。どうせなら競わせよう」
「競う?」
「そうだ。投票制だ」
「と、投票制……?」
……つまりどういうことよ?
「つまりだ。この二人だけでなくほかの奴も参加するんだ。そしていくつかの漫才参加者がそろったらそれぞれで漫才を披露して、そしてそれの中でどれがよかったか後で一般客に一人につき一票で投票してもらうんだよ。そうすれば、漫才参加者の競争力も上がってより出来が良いのができるし、しかも漫才だから年齢問わない、そんでもって投票システムも入れることで一般客も参加できて飽きない。そして、俺達海軍軍人がそんなに固い奴ばかりじゃないっていうことも伝えれて、結果的に海軍の宣伝にもなる……。まさに、一石二鳥、いや、数えたら一石四鳥じゃないか!」
「「「おおおっ!?」」」
航海長がここまで頭がキレるとは思わなかった。
そこに気づくとは、この人やはり天才かッ!?
……まあ、
「(固い人ってか元からうちのクルーいろいろと軽い奴ばっかだがな……)」
たまに変態がいるくらいだし。
「ふむ……。これは中々名案かもしれない。漫才なら老若男女誰でも楽しめるし、投票式なら参加者も飽きることはない。強制でもないから気軽に楽しめる」
「ええ。……これは使えるんでは?」
「うむ。いいかもしれない。となると、もっと参加者が必要だな」
すると、
「となると、俺と桜井の出番か」
「お、前から考えてた奴披露するときか?」
「ああ、一発やってみるか」
「面白い。いいぜ。乗ってやる」
「お前らが出るなら俺だって出るぜ! 昔芸能人目指してたときにメモってたネタ帳を解禁するときがきたか……」
「お前一人かよ」
「一人でも出来るだろ」
「まあな」
「なら俺も一つ……」
どんどんと参加者が出てきた。
よし、これだけいるなら絶対一般客も暇しないな。
うまくやれば大成功できるかもしれない。
「よし、お前らが出るんなら俺も出るかな」
「え?」
そこででたのはまたもや航海長だ。
……え? あんた漫才経験あったっけ?
「航海長一人で出るんですか?」
「いや、もう一人いるぞ」
「? 誰です?」
「……副長だ」
「はァ!? 俺か!?」
思わず成り行きを聞いていた副長が声を荒げた。
……あれ? 想定外だったんですかこれ? 確かにそんなキャラには思えませんが……。
「な、なんで俺なんだ!?」
「いやいや、副長ツッコミ似合いそうじゃないですか。俺がボケで副長ツッコミなら良い線いけますぜ」
「い、いやいや俺がそんな……」
「でも副長のツッコミ見てみたいですね」
「確かに」
「な……、お、おまえらなぁ……」
周りからも期待の視線を受けた。
……さらに、
「私も見てみたいな。副長のツッコミ」
「か、艦長まで……」
艦長ですら期待の声である。
……ここまでされたらもう逃げれそうにないな。
「たまには羽目を外したらどうかね? せっかくのイベントなんだし」
「うっ……、し、仕方ありませんなぁ……」
「フフッ……、決まりですな。あ、ネタはこっちで用意しますんで」
「ハイハイ……」
「フフフッ……」
そこで航海長がニヤリッと笑った。
……さてはこうなること予想してやがったな?
きたないさすが航海長きたない。
「では、それもぜひ入れていこう」
「はい」
「よし、あとはネタを作って……」
「昔作ってたネタいくつかあるんだがあとで聞けるか? 判定をお願いしたい」
「任せてくれ。これでも笑いにはうるさいんだわ」
会議室が結構にぎやかになった。
話題はもちろん、漫才のこと一色だった。
「漫才楽しみですね」
「ああ。お前もナイス名案だ」
「いえいえ、それほどでも」
こいつもナイスな提案をしてくれたものだ。
おかげで、体験航海での催し物では一般客を暇させることがなくなりそうだぜ。
「さて、では皆、その話はまた後にして、そのほかの展示物についての話に移るが……」
話題は変わって、今度は艦内・艦上での展示物に関する話題に変わった。
その後、もう少しの間会議は続いた…………




