新人イーグルドライバー
―6月14日(日) PM2:10 下地島基地 第9航空団第210飛行隊兵員宿舎内兵員休憩所―
「ええッ!? 僕がスクランブル待機ですか!?」
僕『新澤友樹』はいきなり言われたその一言に思わず声を上げた。
今日の分のACM訓練から帰ってきて、今回の訓練の結果と反省を話し合った後いつもどおり昼食をとってその後すぐに隊長に呼ばれたと思ったらこれだよ。
『来月からお前スクランブル待機な』
いきなりこんなことを言われたらこうなりますって。
新人な僕がだよ? びっくりだよ。
「ああ。あくまで来月からってだけで、詳しい日時はまだ不明なんだが、一応そういうことに決まった。そんなわけで、来月からのスクランブルはよろしくな」
そういったのは僕の所属する部隊の隊長である『川内幸一』大尉だった。
航空自衛隊時代からのたたき上げのベテランで、5年前の朝鮮戦争でも現地に遠征に行って中々の戦果を上げたらしい超一流のイーグルドライバー。
腕も空軍内で1,2位を争うといわれていて、僕達も結構頼りにさせてもらっている。
この部隊の隊長になったのもうなずける。
けど、何かと豪快でいろいろと他人を巻き込むこともあるからちょっと迷惑。
……けど程度はわきまえてるからそれほど嫌いにはなれないんだけどね。
そんな隊長から「来月から俺とスクランブル待機ね」とかいわれてもパニックだって。
何度もいうけど、僕新人だよ? ほかにいるでしょ適任が。
「え、えっと、その前にですね……、何で僕なんです?」
「俺が選んだ」
「選んだって……」
え? 僚機の選択って出来るの?
その場合隊長が選ぶの?
どっちにしろ何で僕なんだよ。
「……僕のほかにも適任がいる気が……」
「まあそういうな。お前の腕を見込んでのことだ」
腕って……、ただの新人だよ? 僕。
「なんだ? 嫌なのか?」
「いえ、ご指名とあらば喜んで受け入れはしますけど……」
「じゃあ良いじゃないか」
いやそうでなくて。
「いや、でも……、僕新人ですよ? ほかに適任いっぱいいると思いますが。古泉少尉あたりとか」
「まあ、そうっちゃあそうなんだが、簡単に言えば適性というやつだ。俺に言わせれば何か突発的なことが起こったときはお前のほうが判断が早い。スクランブル任務では一番重要な能力だ」
「そ、それはそうですが……、ていうか早いですか?」
「むしろ自覚してなかったのに驚いた。……訓練で遺憾なく発揮してるだろ」
「……あ、あれで早いんですか?」
「遅いと思ってたのか……」
そんなことを苦笑いしながら言われた。
……いや、だってACM訓練で隊長と組んだとき大抵最初判断下すの隊長だし、それに個人での戦闘時だってよく優柔不断になるし……。
断然ほかが早いように感じるのは自分の感覚がおかしいのかな?
「まあでも、お前の能力は俺が認めてるんだ。少しは自身もちな」
「は、はぁ……」
「とりあえず、この要綱読んどけ。スクランブル時の手順とか対処とか全部書いてるからな」
「りょ、了解です……」
「じゃ、俺は後で。この後訓練報告あるんでな」
「まだしてなかったんですか……」
昼食前にさっさとしちゃえばいいのに……。
そんな僕のツッコミを気にせず、隊長僕に数枚の紙ががいったファイルを渡すとさっさとほかのところに行ってしまった。
……はぁ、
「……来月からかぁ~」
僕は手渡されたファイルから取り出した一枚のを見ていった。
そこにはスクランブル時の心構えとか、上に上がったときの国籍不明機に対する要綱が書いてあったが、まあ無駄に長いしこれは後からゆっくり見るとして……、
「……いいのかなぁ~新人の僕で」
とりあえず適当なソファに座りつつつぶやいた。
確かに、最近訓練の成果もあって隊長から結構ほめられる場面は多くなったけど、まだまだ新人であることに変わりはないし……。
こんな大役まかされたがはたして遂行できるだろうか……。
「……くらい顔してんな新澤。何かあったか?」
「? ああ、先輩」
そこに来たのはうちの先輩パイロットの人だった。
よく声をかけられる。まあ、僕の性格の関係か。
「まあ……、これですよ」
そういって手に持っていたファイルを渡す。
先輩もそれの中身を見始めると……、
「スクランブルの要綱……? なんだ、お前スクランブルに入るのか?」
「隊長直々のご指名ですよ……」
「ほ~、すごいじゃないか。俺をさし抜いて先にそんな大役を任されるとはな」
ファイルの中身を見つつ先輩はそういった。
大役ね……、
「誇りにおもいな。新設されたこのエリート部隊の新人なのに即行で隊長ご指名のスクランブル要員なんてほとんどいないからさ」
「いやまあ、悪くは思っていませんが……」
というのも、僕が所属するこの部隊『第9航空団第210飛行隊』は、憲法改正後数ヶ月経った後に、戦力強化の関係で当時使われなくなってぶっちゃけ放置同然だった『下地島空港』を改造して空軍基地にした時に新しく作られた部隊なのです。
まあ、第9航空団の時点でもう新しいんだけど、その中でこの第210飛行隊は、今現在第9航空団唯一の戦闘機部隊で、下地島という結構国防上重要なポジションにいる関係で、日本全国から選りすぐりを選んで編制した、まあ簡単に言えばエリート部隊。
特に隊長なんてさっきも言ったように朝鮮戦争の生き残りかつ7機も落とした事があるエースパイロット。
この部隊編成にはその隊長の意向も含まれてるとかどうとか。詳しくは知らない。
……まあ、そんな中で僕は唯一の新人なんですがね。……はぁ。
「でも、大丈夫ですかね僕で……、先輩とかまだパイロット経験あるでしょ? そっちのほうが……」
「いやいや、俺なんてスクランブルとか責任重過ぎてやばいって。絶対ヘマ犯す」
「僕も僕でへましそうですがね……」
ある意味僕よりしっかりしてるでしょあんた。
僕よりしっかり者でしょうに。一体どの口がいっているのか。
「でも、もう決まったことだろ?」
「ええ。来月かららしいです」
「じゃあもう覚悟決めろ。大丈夫だって。今のご時勢ここいらにやってくるっつっても電子戦機とか偵察機ぐらいだって」
「まあ、そうでしょうね……」
ていっても、最近じゃその類すらやってこないけどね……。
「どうせ入ってきても警告して追っ払うだけだ。もちろん戦闘の可能性もあるけどな」
「でも今の時代それほとんどないでしょう。したらしたで後が怖いですし」
「日本も昔ほどではないしな。制裁厳しくなった関係で最近すっかりやってこなくなって暇なくらいだしな」
「ほんとですよ。最後にきたのいつでしたっけ?」
「半年くらい前じゃね?」
「そんなに前ですか……」
もうそんくらい来てないのか。
3年前に憲法改正した関係で、この領空侵犯時の対処も見直されて、最悪撃墜もやむなしなんていう昔じゃ考えられないくらい厳しくなった。
それのせいか、今まで領空侵犯していた常連国(といっても大抵は中国とロシアだけど)はすっかりおとなしくなった。
……そのおかげで今度は空軍が暇になったんですがね。訓練以外。
「……じゃ、俺この後少し用事あるんでな」
「用事? 何かありましたっけ?」
先輩が持っていたファイルに紙を入れつつ言った。
「ちょっとさっきの訓練関係だ。隊長と少し会談よ」
「……反省会でもするんですか?」
「似たようなもんだな。じゃ、そういうことなんで俺はこれで」
「はーい、いってらっしゃーい」
先輩はファイルを返した後また子の場を去ってしまった。
……はぁ、
「……まあ、決まっちゃったもんは仕方ないか」
どっちにしろ新人でこれは名誉というか、すごいことには変わりはない。
やるからにはしっかり遂行せねば……、
……さて、
「……じゃ、さっさとこれ読んじゃうか……」
そして、そのまま僕はそのファイルの中身を読みふけった…………




