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精鋭無比! ……で有名な第1空挺団の日常

―6月5日(金) PM12:25 静岡県東富士演習場―






《……いまだ。撃て》


 指示を受けて、私『新澤真美』は腹這いになって草の陰に身を隠しながら目標の敵兵に狙いを定めた。

 左目の前にあるHUDで得た敵情報を元にそこにいる敵に向けてカーソルを合わせて、手に持っていた89式5.56mm小銃の引き金を引く。

 今回使う89式は、『ハチキュー』の愛称で知られる自動小銃。64式の後継。

 64式の性能を一回りアップさせた高性能自動小銃。

 最近ではさらに改良されて、装弾数も上がりました。

 といっても、交戦用訓練装置バトラーのレーザー光線を撃つだけだけど。

 それでも、擬似発射音はなる。

 数発放つと、狙っていた敵兵に命中判定。

 HUDにも“hit”と表示され、その敵兵はその場でさらに伏せた。

 これで「自分はやられました」って意思表示になる。

 以後、あの人はもう起き上がりません。


「……隊長、前方の敵戦力30%減衰。後退していきます」


 敵は損害を恐れてそのまま後退していった。

 そして、ここぞとばかりに隊長は命じる。


《確認した。総員突撃!》


 それと同時にサッと立ち上がり、私は腰を低くして走りつつ前進。

 それ以降は、敵が撃ったら伏せて、逃げたらまた前進して、また撃ったら伏せての繰り返しだった。


《澤がやられた。部隊の残存を確認》


《敵戦力右翼にまだ残存。誰か増援を》


A-5アルファ・ファイブ、お前らが一番近い。いけるか》


《いけます。C1-D5チャーリーワン・デルタファイブに向かいます》


 それぞれで無線が騒がしくなる。

 敵さんも追い詰められてるからいろいろと策を講じてきたわね。


 ……でも、


「(……こっちの存在忘れないでよ)」


 対する左翼に展開している私たちはそのまま進軍した。

 敵の壁が薄くなったところを突いて、私たちは一気に攻勢をかけた。

 ……もうすぐライン。


「……よし、敵排除」


 敵を何人か撃破した後そのまま撃破ラインまで到達。

 ……あれ? 私一番乗りじゃない。


「こちら新澤。ライン入りました。確認お願いします」


《了解。……よし、ラインへの進入を確認。全部隊に告ぐ。A部隊がラインを超えた。訓練終了。繰り返す、訓練終了》


 その宣言とともに、訓練は終了した。


 ……結局、戦闘終わらせたの私だったわね。誰かMVPくださいな。






「……よし! 状況終了だ。各員休憩に入れ!」


 隊長のいつもどおりの威勢の良い声が無線に響いた。


 その瞬間私たちは腹這いで伏せていた己の体を起き上がらせて「ひぃ~」とか「ふぅ~」とか悲鳴を上げつつ後片付けを始める。もっとも、私は元から立ってたけど。

 もちろん、その中には今回の場合は少数ながら使われた、砲弾の薬莢すら含まれている。

 予算が全然ない自衛隊時代からこうやってほかの国では捨てるものを拾っては再利用するのはもはや伝統よ。

 ……まあ、現実問題今は予算アップの関係もあって別段それしなくてもよくなったんだけどね。

 でも、まあさっきも言ったように伝統よ。伝統。


 さっさと薬莢とかも拾い終えて、兵員建屋に向かおうとしたときだった。


「……新澤、またお前腕上げたろ」


「え?」


 後ろから声をかけられた。

 隊長の『鈴鹿潤一郎』中佐だった。


 私が所属する第1大隊の中の第1中隊、の中の第1小隊の隊長。

 かつ、その第1中隊の隊長でもある。

 何かと厳しい人で、私も最初は結構しばられたけど、最近では結構かわいがられてる。

 ……いろんな意味で。

 まあ、でもそれだけ頼りになる人には違いない。


「HUDからの情報では、お前の射撃命中率は8割越えだ。……新人にしては中々の実力じゃないか」


 ここでいうHUDっていうのは、私たち陸軍兵士が頭に付けているヘルメットに付けられているもので、左目の前に備えられている。

 そこにはヘルメットに付けている小型の情報収集・解析システムから得た情報を表示することが出来て、そこには自分自身の生体情報(ヘルメット自体から特殊な電波を発信して生体状況を脳経由で確認する)や、手持ちの火器を連動させて照準器みたいに照準カーソルを出したり、はたまた近隣のマップを出したり敵の熱源を捜索したりなど、性能は多岐にわたる。

 これは世界から結構ウケが良くて、在日米軍将校に「なにこのチート(原文ママ)」と片言日本語で言わせたのはなんでもないこの装置。

 私たちも結構愛用させていただいています。

 これのおかげで戦場でのデータリンク網に参加できるからめっちゃ効率的な戦闘が可能なのよね。


 ……で、やろうと思えば今みたいに訓練中にその射撃時の命中率の算定をすることも出来る。

 何気に8割超えてたみたい。我ながらよく当てたわね。


「日ごろの訓練の成果ですよ。別に不思議じゃないでしょう」


「はは、まあな。……しかし、それでも若いながらこれは良い腕だ。初めての東富士での演習にしては中々のものだ。本番までにもっと鍛えてくれよ」


「りょ~かい」


 そう。今回は8月での富士総合火力演習、略称『総火演』での演習で、新規で編制された私たち第1普通化大隊が参加するので、その舞台となる東富士演習場での演習に慣れるためにここを借りてバトラーを使った演習をしていたのである。

 HUDはこのバトラーの訓練しように対応させて、自分の被弾の判定とか、自弾の射撃命中判定とか表示させるようにしている。

 HUDに表示するから結構確認しやすい。ちなみに、自慢じゃないけど私このタイプの訓練で一回も被弾判定受けてません。

 ……まあ、今はまだ良いけど、最初のころとかまず攻撃より被弾をしないようにって思って積極的に突撃とかしなかっただけなんだけどね。

 それゆえに隊長からよくご指摘を受けてしかられてました。


 そう私が返事すると、隊長はほかのところにいっちゃった。


 ……って言いたいことそれだけなのね。


「……うへぇ~体いてぇ~」


 そういって私の後ろからへたへたと歩いてきたのは、私の小隊の副隊長である『羽鳥京』大尉だった。


 まあ、はっきりいうとこの人それといった特徴ないのでもうめんどくさいし割愛します。


「……羽鳥さんいつもひーひーいってますね」


「それだけひどいんだよ最近……。お前よく耐えれるな」


「昔っからこういうハードトレーニング離れてますので。むしろまだゆるくないですか?」


「こ、これでか……?」


 ……そんな驚くこと?


 むしろ昔通ってた高校の陸上部とか、元々陸自(当時)の教官やってたらしい人がコーチやってたからいろいろとひどかったわよ?

 高校の中で「退部者量産機」の異名まで付いたヤバイ人よ?

 ……まあ、だからうちの高校の陸上部全国大会常連なんだけどね。

 あと、それ私は耐えたんだけどね。むしろそういうの燃えるから。

 萌えるじゃないわよ? 燃えるよ?


 ……たまに部内でも「うちらの萌え担当」とかいわれたけど。それほど私かわいくないわよまったく。


「私より先輩なんですからがんばってくださいよ? 私の所属部隊の副隊長なんですから」


「それはそうだんだがなぁ……。やっぱきついもんはきついわ」


「それでよく空挺団入れましたね……」


 まあ、適性ってやつなんでしょうね。

 でももう少しがんばりなさい。うちの兄さんでもまだ根性あるわよ。


「もう飯食いてぇ……。今日何曜日だっけ……」


「金曜日です」


「おう、金曜日だ」


「うわぁ!?」


 すると、いつの間にか私の隣に隊長がいた。

 あのですね、そんないきなり出てこられてもですね。心臓に悪くてですね。

 ……はぁ。


「海軍では金曜はカレーを食うと聞いたんだが、マジか?」


 あー、海軍カレーね。

 というか隊長軍人なのにそれ知らなかったの?


「ええ、まあ」


「というか隊長知らなかったんですか?」


 ということを代わりに羽鳥さんが聞いてくれました。


「根っからの陸マニアだったからなぁ……。海とか空はさっぱりなんだわ」


「はぁ……」


「確か、海といったらお前の一番上の兄さんだろ?」


「ええ」


 大樹兄さんのことですねわかります。


 根っからの海軍大好きだったし根っからの軍オタミリオタだったからそれが高じてらしいけど、それでもよくあそこまでねぇ……。

 今では最新鋭艦の乗員よ。


「……で、空はその一つしたの同い年の弟さんか。見事に陸海空そろってやがるな」


「はは……」


 そんでもって同い年だけど向こうが一つ上ってことになってる友樹兄さんが空軍のパイロットですよ。

 こっちもこっちで優秀ですよ。なんせこの若さでイーグルドライバーだもん。

 ……なに? うちの兄さん達どっちも優秀すぎない? 私の平凡っぷりよ。


「おまけにお父さんがサブマリナー。……とんだ軍人家庭だな」


「ですね」


 そんでもってとどめに私のお父さんは潜水艦乗り。

 すばらしいぐらいの軍人家庭です。


「お前も兄さん達に負けるなよ。いざ空挺するとなるとまず次男坊の護衛を受けることになるがな」


「その後陸に着いたら海からの支援もありえますね」


「お、それもそうか!」


 そういって二人でハハハッと笑い出した。

 ……これ、そっちは笑っていられるけど何気にプレッシャーなのよ? 兄弟の、しかも年上の兄さん達の護衛を受けてるとか……。


「(……まあ、なんとなく乙女を援護する騎士みたいで面白いけど)」


 騎士が三人に乙女が一人よ。

 しかも、私の場合戦うから戦乙女だけど。


「あらさわーッ!」


「?」


 そしたらまた後方から叫び声……、って、


「……え、ちょ、な」


 大群だった。

 いや、大群というか、集団か。

 私に向かって突っ込んでくる男性人の大群が……、

 ……で、その向こうからの次の声……、というか要求が……、






「「「「一緒に飯食おうぜーーーッ!!」」」」


「あんたら全員とつきあえるかぁぁぁあああああ!!!!」






 無茶言わないでよ! あんたら全員と付き合ったらせっかくの休息で休んだり出来ないじゃない!


「いや、あんたら突っ込んでこないでって! ちょ、え、ええーーーー!!??」


 向こうは無視して突っ込んできた。

 あんたら、さっきまでの訓練の疲れはどこいったのよ。


「く、くるなあーーーーー!!!!」


「総員、逃がすな! 追えええーーーー!!!」


「「「うおおおおおおおーーーーー!!!!!!!」」」


 そこから私と男性人との追いかけっこが始まった。

 ……こっちは訓練で疲れてるのにいったいなんなのよもぉ……。


 ……で、かすかに聞こえた……、




「……あいつも人気者だな」


「仕方ないですよ。あいつ、うちら空挺団の中でいまんとこ唯一の女性隊員ですもん。それに、容姿や性格、キャラも男性受けいいですし。いわばうちら男性陣の清涼剤です」


「だな。……あいつもあいつでそろそろ自覚するときかな?」


「ですね。そろそろ懲りて諦めるんでは?」


「はははッ! それもそうか!」




「「ハハハハハハッ!」」










 こんなことをいっていたあの二人は後で締め上げないとね……、まったく…………

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