艦との日常
―5月22日(金) PM13:20 横須賀港 DCGやまと右舷見張り台―
「……よし、艦橋内にはほとんどいないな」
俺は右舷見張り台につながる隔壁扉から中を見つつそういった。
2,3人しかいない。よし、これくらいならいいな。
そして、俺はさっさとその隔壁を閉める。
艦魂とのまさかの出会いから数日後。
なんだかんだあったけど、とりあえずこの艦魂との生活にもなれた。
案外人間のなれってこういうとこにも適用されるようです。
……で、今何してるかって言うと、
「おーい、出てきていいぞー」
昼食終わって暇なのでいつもどおりの場所に来ています。
すると、俺の隣で青白い光とともに彼女が現れた。
本艦の艦魂である『やまと』だ。
「もう誰もいません?」
「いませんな。……はぁ、お前はいいよなぁ。いちいち飯食う必要なくて」
「? なんでですか?」
「だって、うちらの場合ひどいときはずっと並んでるんだぜ? ……あれほんと疲れてさ……」
「あ~……、お疲れ様です。ちなみに今日は?」
「まだいいほう。……今日カレーじゃなかったら気力うせるわ」
「はは……」
こいつとの関係も結構良好になってきた。
向こうも素直で助かったでよ。
こいつだけじゃない。
艦魂の中では、最近俺は結構な有名人になりつつあるらしい。
……まあ、艦魂見える人間とか向こうからすりゃビックニュース以外の何者でもないだろうしな。
……また、それもあってか、
“やまとさーん、訓練終わりました~”
こんな感じでまずほかの艦魂の方の声が聞こえてくるようにもなった。
……どうやら俺のこの能力はやまと限定ではないらしい。
「お疲れ様。そっちも最近訓練ばっかりで忙しいね」
“ほんとですよ~。たまには休みの時間もですね……”
ちなみに、この声はおそらく『いなづま』さんだと思われる。
いなずまといったら旧日本軍駆逐艦『電』を思い出す。というか、そこからとっている。
電の太平洋戦争時のイギリス兵救出の話は結構泣けるというのは知っている人は知っているな。
あれは当時まだガキだった俺をなかせるには十分すぎる話だったな。
潜水艦うようよしている中でのあの自殺行為とも取れる救出劇は、中々感動できるものがある。
知らない人はさあ調べよう。
「訓練お疲れ様です。帰還待ってますぜ」
とりあえず礼儀は尽くす俺。
実はこれ、届くんですよね向こうに。
“は~いどうも~。……、ん?”
こんな感じにね。
何でかは聞くなよ? 俺だって面白半分で試してみたらマジで通じて俺だけじゃなくてやまとやその声がけを受けたやつ計3人そろって「えええええ!!??」ってなったんだからな。
どんどんと明らかになっていく俺の特殊能力。
“……え? 今の誰ですか?”
「……あ、そっか。いなづまさん長期航海に出てたから知らないか……」
“? ……??”
いなづまさんは俺とやまとが出会う前日あたりから太平洋での長距離航海に出ていて留守だったな。
そりゃ、長距離になるとこうやって交信……、というか会話もできないし、向こうが知ってるはずもないな。
「いや、それがね……。この人、艦魂見えるらしくて」
“やまとさん今日エイプリルフールじゃないですよ?”
「「えちょ即答?」」
そんな待ってくださいよ。いくらなんでも即答はないでしょ即答は。
そんなに信じられなかったのかね?
「……エイプリルフールじゃないのは知ってるわよ。これ本当の話よ。さっきの声聞いたでしょ? 男性の声」
“いやいやそれはそうで……。あ、でもそうですね”
「でしょ? ……何なら帰ってきたら紹介してあげようか?」
“……本人はオーケーなの”
そこで、俺のほうにアイコンタクトをとってきた。
「つれてきていい?」ってことだろう。
……まあ、別にかまいはしませんが。
「……俺は一向に構わんが」
「いいって」
“あ、じゃあ即行でいきます”
「え?」
……ん? 今何したんで向こうは?
「……おう?」
すると、艦橋内から声が聞こえた。
少し声がでかいな。なんだ?
「……なんだ? 一隻速度が上がってるやつがいるぞ?」
「コードDD-105? ……汎用駆逐艦のいなづまか?」
「おいおい港湾速度限界だぞ? 向こうは何やってんだ?」
観測用レーダーで捉えていたんだと思う。
それを見ていた乗員が不審に思い始めた。
……てか、DD-105のいなづまって……、
「……おいまさか」
いやまて、艦魂ってやろうと思えば艦の操作掌握できたっけ?
そんな感じの子と聞いたけどマジで?
「……いなづま、今何してる?」
やまともいやな予感を敏感に感じ取ったらしい。
即行で聞いた。
“え? とりあえず機関回転数上げて速度上げてますけど?”
「……乗員からの操作あった?」
“いえ、別に”
お い こ ら 。
「さ っ さ と 戻 し な さ い 今 す ぐ」
“アッハイ”
あのやまとですらこの即答である。
あのな、これ乗員からしたら結構怖いんだぜ? 何気に操作利かなくなった艦とか恐怖なんだぜ?
お~怖い。
……まあ、やまとがそんなことするわけはないだろうが。
「ちゃんと待ってるから乗員のいうこと聞いてゆっくり来なさい」
“は~い”
……となると、しばらくここで待ってることになるのか。
大体30分くらいかね。来るとしたら。
どれ、少し待つか。
……で、そのまま待った結果、
「ええ!? ほんとに見えるの!?」
「ええ、まあ……、見えます」
この質問攻めである。
だが、安心してくれ。ここまではテンプレだ。
ほかの艦魂の反応も似たようなものだったからな。
「……なんで見えるんですか?」
「理由なんて俺が聞きたいんですよねぇ……」
しいて言うなら神にでも聞くんだな。
「ね? だからいったでしょ?」
「ほんとですね……。いるんだ見える人……」
その方はとても驚いた表情だった。
艦魂といえど服装は同じなのね。
国防海軍服の第一種夏服。それも下はちょい短めのスカート。
短髪なのには変わりはないな。でも色は少し茶色。
……で、向かって右の頭には105の白くあしらわれた髪飾り。
……え、なに、この髪飾りってもう決まってるの? 艦番号つけるって法則あるの?
「う~ん……」
「……?」
すると、いなづまさんは俺のことをジロジロ見始めた。ジロジロと。
「……な、なんですかね?」
「う~ん……」
「?」
「どう見てもただの人間なんですけど」
「あんたは俺を何だと思ってるんだい」
まあある意味艦魂見える時点で厳密にはただの人間ではありませんがね。
でもそれをとったらただの人間ですよ。普通の人間ですよ。
「そりゃそうでしょ……、つい最近まで見えてなかったんだから」
「あー……ですよねー……」
それで納得するんか。随分と単純な理由で……、
「しかし……」
「?」
「……これは修羅場になりますね」
「「……は?」」
なんで修羅場なんだ? どこにそんな要素が……、
「だって、私たち艦魂の知る仲では唯一の男性です。しかも、性格的にも私的には高ポイント……」
「はあ……、そりゃどうも」
まあ、評価高くて悪い気分はしないが……、それが?
「……私以外でもそう考えるのはいるだろうし、これは……」
「私たち艦魂同士で取り合いが発生しますね」
「「あ り え な い あ り え な い」」
そんな恋バナでありそうな争奪戦の真っ只中にある男子みたいなことを俺がするわけがあるまいて。
いくら高評価でもそんな争奪戦が勃発するレベルではなかろう。
「あ、でも新澤さんはやまとさんの乗員だからやまとさんとつながる確立が大かな」
「「そ う い う 問 題 で も な い」」
やまと一人勝ちの前に戦闘自体が勃発しないと何度いったら(ry。
俺なんか恋とは無縁だって。そんなキャラでもないって。
顔とか容姿とかも可もなく不可もなくなレベルだし。
「でもいいな~……、それだとやまとさん暇しないですよね?」
「まあ、しないわね」
「……うちにいないかな見える人」
「がんばって探しなさい」
「はぁ……。もしいたらいたで、」
「私のとことやまとさんのとこのカップルどっちが似合ってるか対決できるのに」
「「だ か ら 恋 バ ナ に 当 て は め る な よ」」
艦魂にとっては男性絡むとどうしても恋バナに発展するのか……。あ、いや、この方だけか。
その後、しばらくこの向こうの恋バナ妄想に付き合わされることになる。
疲れるわ…………




