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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第7章 ~神の炎の恐怖~
100/168

〔F⇒E:Mission 21〕最前線戦闘哨戒 2/2

―TST:PM13:00 同空域上空13,000ft 『IJYA隊』【交戦開始】―







《はぁ!? エース部隊!?》


 それプラス、エリートね。

 ……とんでもないものを出くわしてしまった。


 中国のエリートかつエース部隊……。台湾も相当数被害を受けているのか。

 わざわざこっちに報告してくるほどだ。相当な相手に違いない。


《間違いない。……赤い星に跨る龍の部隊マーク。向こうは『閃龍隊』と呼ぶそうだ》


「閃龍?」


 これはまたかっこよさそうな名前を出してきたもので。

 赤い星に跨る龍ねぇ……。こっちは桃色の桜の形の模様の上から上の花びらだけが見えるように日の丸の赤い丸がかぶせられて、その上にさらに二つの刃が見えた状態の日本刀が交差している模様の模様ですがね。

 龍なんてめちゃくちゃ固い日本刀で即行でぶったぎってやんよ。


《閃龍ねぇ……。なんとなく飛びながら川柳読んでそうだな》


「なんでやねん」


 向こうは中国人だって。そんな川柳なんて日本文化楽しんでる暇あるかいな。


《とにかくそういうことだ。各機、交戦は避けらんだろうから十分注意しろ。以上》


 注意ね……。注意して乗り越えれるような相手ではなさそうなんですがそれは。


《了解。各機、編隊を組みなおせ。一度体勢を立て直して再度……》


 今一度、部隊をしっかり整えようと隊長が指示したときだった。


 ……敵はそんな暇を与えちゃくれないらしい。


「……ッ! 敵機が増速。こちらに急速接近!」


 そんな編隊を組んで云々の時間を与えるほど向こうは甘くなかったようだった。

 向こうも向こうでまだ編隊組みなおしきれてないのに、こっちに各個で突入を仕掛けてきた。

 ……奴らも、ここまできたらどうせなら逃げれないことを悟ってむしろやる気になったのかな?


 まあ、ぶっちゃけ互いに逃げれないことは悟ってたし仕方ないね。


《チッ、奴ら、格闘戦ドッグファイトを仕掛ける気か》


《どうします隊長? 逃げれそうにありませんよ?》


《わかってる。……互いに6機。それぞれで1対1の真っ向勝負だ。各機、今こそ俺たちの力を見せろ! 閃龍だが天龍だが知らねえが、向かってくるんならこっちとてお相手するぞ!》


「状況から考えて、互いの連携は出来なくなります。まさに1対1の真っ向勝負6番対決です」


《おもしれえじゃねえか! やってやるぞ!》


 はは、この状況を面白いと捉えるか。ある意味、隊長らしい考えでありますな。


 だが、どっちにしろこれしか方法はないっぽいな。仕方ない。やってやる!


《各機かかれ! 日本のF-15乗りイーグル・ドライバーの実力を見せ付けろ!》


「了解!」


 そのまま敵に対して真正面から突っ込む。

 スロットルも上げた。A/B寸前。Gがあまりかからない程度にセットする。

 向こうもかかってくる。こっちと同じく、1対1の6番勝負で挑んできた。それぞれに1機づつ。僕にも1機やって来る。

 ……なるほど。隊長の言うとおりだ。確かに、これは面白い展開だわ。

 燃える展開ともいう。邪魔は入らない。正真正銘の、実力勝負の1対1。

 こっちは近代化改修されまくったF-15MJジャパニーズ・イーグル。対する向こうはロシア最新鋭のものをさらに改修させまくったSu-35チャイニーズ・フランカー

 ……うん、相手に不足は無し。互いに高性能機対決となる。

 しかも、考えて見ればこれ西側戦闘機代表と東側戦闘機代表の対決になるのか。これなんて胸熱展開だよ。


 どれ、ではこっちもまず挨拶代わりのAAM-5Cを……。


「……あれ?」


 ……ちょっと待って。そういえばこの僕に向かってる1機、最初編隊の中央にいたよね? V字編隊の中央に。つまりV字の下先の尖がってる部分。

 一応この部隊を確認したときどれがどれにいたかは軽くだけど記憶した。先頭にいたやつなんてわかりやすくて覚えるのは別段難しくなかった。


 で、この先頭にいるのって大抵……、


 ……やっべ。


「……これ、」







「……絶対向こうの隊長機じゃん……」







 ……ヤッヴァイ。よりにもよってとんでもないやつに対戦カード当たってしまった。ていうか、向こうから喧嘩吹っかけられた?

 出来ればこういうのは隊長に任せたいところなんだけど……。


 ……仕方がない。


「……こうなったら先手必勝だ!」


 幸いAAM-5Cの準備は出来ている。

 ミサイルはすでに真正面から来る敵Su-35に狙いを定めている。

 シーカーオープン。ターゲットロックはすでに完了済み。ミサイルマーカーがその敵を捉えて電子音を発していた。

 射程的には向こうもそのはずだ。だから、こっちから先に撃たせてもらう。


 お初にお目にかかります。これはその挨拶代わりだ。


 ミサイルの差し入れもってきましたよ。たっぷりお受け取りください!


「IJYA02、FOX2! FOX2!」


 すぐに右手の親指でミサイル発射ボタンを二回押す。

 機体の両主翼から1発づつ、短距離ミサイルのAAM-5Cを放つ。

 真正面に飛んでいった。


 ……と、まさにそのタイミングで、


「……ッ! きた!」


 コックピット内にけたましく響くアラート。


 ミサイルアラート。向こうも同じこと考えてたか。


 くそっ、ほとんど差ないから先手の意味ないじゃん。そう簡単にはことは運んではくれないってことか。


 互いに相対速度がハンパない。ミサイルも、すぐに僕の目の前に迫ってきた。

 同じく2発。もう視認できそうな距離。


 ……いや、訂正。たった今視認した。


 2発並んで突っ込んでくる。

 AAM-5CにはAAM-4A/B/Cから引き継いだミサイル迎撃能力がある。でも、こんな速度には対応しきれるとは思えない。

 それに、後々のことを考えるとやっぱり温存しておきたいし……。


 ……とはいっても、やっぱり背に腹はは得られない。


「……仕方ない。1発使うか」


 サラッととんでもないことを抜かすようだけど、ぶっちゃけ今から回避する余裕ないし、もうむしろそのまま突っ込んで落として突破口開いたほうがまだ生存の可能性はあるっぽいと僕は見た。

 敵ミサイルは並んでいる。右側のにAAM-5Cを1発分照準を合わせる。

 これはもともと今までのAAM-5系統にはなかった機能なんだけど、まあ簡単に言えば付与というやつです。魚雷で言うATT機能みたいな。

 1発勝負。大丈夫、こっちに向かって一直線に突っ込んできてるからまだ当てやすい。

 それに、お隣のミサイルとの距離も結構近い。ミサイル爆発時の爆風に巻き込まれて飛翔に支障が出るはずだ。そして、向こうの撃ったあれは短距離ミサイルゆえ赤外線誘導の熱源探知タイプのはずだから、うまくいけばその爆発時の熱源を目標と勘違いしてくれるかもしれない。それこそ、さっきのR-77みたいに。


 とにかく、時間はない。


 即断即決。何があってもそれはやり遂げる。それが僕のやり方なのです!


「……照準、よし」


 ミサイルシーカーが敵ミサイルを捉えた。

 時間はない。即行で撃つ。


「……シーカーオープン。ロックオン、IJYA02、FOX2!」


 宣言とともに操縦桿についてるミサイル発射ボタンを右手の親指で押して右主翼から発射。

 その突っ込んでくる敵ミサイルに向かっていった。

 僕は回避せずそのまま突っ込む。


 一瞬の間をおいて、敵ミサイルがいる方向で爆発が起こる。


 何とか当たった。いや、正確には近接信管が作動して自動的に爆発したか?

 それによって、狙われた右側のミサイルが爆発に巻き込まれ爆発を起こした。

 そして、そのお隣にいた敵ミサイルも、その爆風にやられて大きく飛翔航路を外れた。

 急いで軌道修正に入る。しかし、もう目標である僕との距離は近い。つまり、今さら遅い!

 速さが足りない! 軌道修正の早さが全然足りない!


「っおら!」


 そのまま一気に左にタイミングよくロールを展開。

 ちょうど左に90度傾いたとき、その残ったミサイルが僕の機体の頭上を音速を超えたスピードで通り過ぎた。


 向こうからの御挨拶ミサイルは回避成功。そのままロールしきり、一回また水平になったときだった。


「……ッ! げっ、まだいるよあいつ!」


 向かってくる敵機はまだ健在だった。

 あの2発のAAM-5Cを回避した? 敵のほうを見ると、何やら大きな爆発煙が見える。


 ……さらに、


「ッ! 突っ込んでくる!?」


 その黒い煙を突っ込みぬけ、こっちに一直線に向かってきた。


 まずい、このままじゃぶつかるわ、その前に機銃弾ばら撒かれる!


 ヤバイ! 今すぐ回避を!


「ッィ!」


 僕はエンジン出力をそのまま、とっさに左に操縦桿を倒して一回転のすばやいロール機動を取った。

 そして、牽制のために機銃弾を少し放つ。大体0,5秒ほど。2回に分けて。

 向こうもそれに同調した。あたかもこっちの動きを読んでいたかのような機動だ。

 同じく左にロール。さらにこれまた同じく機銃弾を放った。

 でも、これは牽制じゃない。最初から当てる気満々だ。

 とっさにロールしたおかげでそのさっきまで左主翼があった場所に機銃弾が飛んで来る。危うくあれにやられるところだったけど、一瞬で回避した。

 互いに回避は取らない。いや、時間はそれをする余裕を双方に与えてくれなかった。

 ロールで左に90度回転したとき、まさにそのタイミングで、僕と敵、互いが超近距離ですれ違った。

 その目の前に、Su-35の灰色で全体的にスラッと無駄がなく洗礼されたボディが見える。

 互いに、頭上にその自分の敵が通り過ぎるのを確認。一瞬、コックピットの中も見えた。パイロットも視認。

 ヘルメットをかぶっているため顔とかはさすがに見えないけど、向こうもこっちを一瞬見ているのは確認できた。敵同士とはいえ結局は互いに人間。考えることは同じか。


 敵側が照準を合わせやすいようにスピードを抑えていた関係か、すれ違うときの衝撃は思ったほどなかった。しかし、それでもすれ違う一瞬機体が大きく揺れる。

 それを耐えつつ、互いに高速ですれ違い、ロール機動を展開する。

 ロールを終えたさらにそのまま300度ほどレフトロールし、軽い右旋回をしつつ僕は即行でいったん敵から離れ、その様子をすぐに確認しつつ、機体状況を確認。


 ……どうやら、敵の機銃攻撃は不発に終わったみたいだ。こっちに被弾した箇所はなし。自己診断プログラムも異常無しの結果を目の前のディスプレイ上に表示している。

 さっきのすれ違い時の衝撃も、さほど戦闘飛行に影響が出るほどのものでもなかったようだった。


 そして敵。まあ、牽制だし最初から期待してなかったけど、機銃弾の命中はなし。

 レーダーで見る限りでも、ほとんど戦闘飛行に支障はなさそうに見えた。


 つまり、互いに挨拶は不発に終わったって事か。


 ……しかし、あのAAM-5Cを回避するとか。いったいどうやってやったんだ?

 まさか、こっちみたくミサイルで? ……いや、あれはただの3発分のミサイルじゃない。それにしては小さすぎる。

 それに、向こうとて中距離ミサイル全部撃ちつくしたはずだし、そうなると今使えるのは短距離ミサイルだけだけど、敵の撃ってきたこの短距離ミサイルはロシアで使っているR-73。あれにAAM-5みたいな迎撃能力はなかったはず。


 ……つまり、


「……機銃で落とした?」


 おいおい、僕の考えることは向こうでも考えるのか。

 ある意味ミサイル当てるよりむずいじゃん。しかも突っ込んでくるのを落とすって相当なんだけど? それも2発。

 ……今の僕みたいに、1発に当てて後もう一つを回避したか?

 こっちでいうミサイルの役割を機銃が代わりにしただけか。


 ……でもまずいなこれ。

 そうなると、ミサイル数でこっちが不利じゃないか。


「……とにかく、不利なら力ずくでも優位にもっていくしかない」


 僕は操縦桿を右に倒しつつ、そのままさらに手前に引いて降下開始。

 敵の後ろを追いかける。こっちがレフトロールの後すぐに軽く右旋回を始めていたおかげで、運のいいことに敵は後ろをさらけ出している。


 敵もそれを承知らしい。すぐにハイGターンで回避に入った。

 だけど、簡単にはそうはさせない。

 すぐにそれに喰らい付いた。


 残り1発のミサイルを準備。


 敵は不規則にハイGターンを繰り返す。あいつ、こんなにGかけて平気なのか? こっちはすでにGやられまくってやばいってのに。

 ……さすがはエース部隊の隊長さんだ。腕がハンパじゃない。


「くっ……、中々ロックしてくれない……」


 必死に喰らい付いてはいるものの、その敵の不規則な急制動機動にミサイルシーカーが付いていけてなかった。

 だが、もう少しのはずだ。敵とて何度もハイGターンをしていられるほどタフではないはず。


 もう少し……、もう少し……、


「(……ッ! 機動がゆるくなった!?)」


 一瞬敵の機動がゆるくなった。

 ハイGターンをしすぎたか、いったん水平に戻そうとしているみたいだった。


 ……よし、いける。

 今ならミサイルシーカーも敵を捉えれるはずだ。


 ……よし、


「今だ!」


 そして、そのままミサイルシーカーが敵を捉えようとした。


 ……まさに、そのときだった。


「ッ!?」


 敵が一気に左回りでハーフロールしたと思ったら、そのまま一気に降下していった。

 戦闘マニューバの一つ、『スプリットS』。180度のハーフロールからのピッチアップ、そして180度のハーフループを行なうことによって、高度を犠牲にする代わりに縦方向のUターンをする機動だ。


 これで回避するつもりか。だが、そうはさせない。


 それにも即行で喰らい付く。同じく左回転でハーフロールをすると一気に操縦桿を引いてピッチアップ。しかし、ここからでは海面が近い。このままじゃ海面に突っ込む。

 エンジンを一気にアイドルに絞った。自然とハイGターンになり、僕に対してとてつもないGが襲い掛かる。

 視界がにわかに暗くなるが、でも耐Gスーツのおかげでそれは最小限に抑えられる。それにそれは一瞬だった。

 すぐに海面が視界に入る。


「あがれぇぇぇええ!!!」


 僕は思わずそう叫んだが、別に結果的にみれば叫ぶまでもなかった。

 高度は確かに危なかった。HMDに表示された高度計でははすでに100ftをきっている。

 超低空飛行。敵もその海面を這うように飛行している。

 ……ただのループでは回避できないと見たのか? でもなんで海面を這うんだ。


 しかし、何らかの意図があるに違いない。その前に、僕は行動にでる。


 敵に対して改めてミサイルシーカーを展開する。

 機銃弾を使って針路妨害。敵が高速でとことによって起きた波しぶきが左右に起きる中、その間を通る。


 少し敵より上から、機銃弾を放つ。敵は針路を変えようにもそれに阻まれていた。

 それでも、敵はその中で細かい機動を繰り返し、ミサイルシーカーから逃れていた。


 もう少し……、そのままの機動で……。


「……よし、もう少しだ」


 と、ミサイルシーカーが今度こそ敵を捉えようとしたときだった。


「……ッ! なッ、ミサイルアラート!?」


 いきなりコックピット内にけたましく響くミサイルアラート。

 攻撃? でも今敵は後ろをさらしている状態だ。まさか新手がきたわけじゃ……。


 そう考えているうちに、


「ッ!」


 目の前の敵から1発のミサイルが汎放たれた。

 前方にむけて撃ったと思ったらそれは、一気に反転してきた。


 ……反転? ……あ!


「(しまった! R-73は“全方位赤外線誘導”だった!)」


 つまり、自分の前方はもちろん、真横にいようが後ろにいようが、果ては下にいようがうえにいようが、どこにいても射程距離内なら普通に捉えて撃てるのがこの全方位赤外線誘導!

 しまった、この“全方位”ってところを見逃してた! 普通に後ろに撃てるじゃんあれ!

 いつどきかの領空侵犯のときのSu-27よろしく後ろ向きにミサイル付けてなかっただけタイムラグがあるのが幸いだけど、でもどうする?

 ここからだと回避してる余裕がない。距離も短いから、今すぐにも弾着する。


 ……ッ! そうだ!


「なら、敵にくっついちまえばいいんだ!」


 敵は今高速で進んでいる。それに突っつけば、少なくとも敵の未来針路を予測して突っ込んでくる敵のその性能を逆手に取れるかもしれない。

 敵のケツにピッタリとくっつく。それを保っていれば、敵ミサイルが未来針路先に向けて飛んでいったところに目の前にいる敵機がいることになり、そこに突っ込むか、または巻き込むことができる。

 敵とてそれをわかっているはずだ。だから、それをきらってあわててミサイルを自爆させることができるかもしれない。

 敵は海面スレスレで細かく回避機動をとっているからミサイルの捕捉は少し難しい。だから、今は回避優先だ。


 すぐに行動に移る。


 スロットルを一気に押し上げると、そのまま敵に向けて一直線。

 敵のケツに追いつくとそれにピッタリとくっついた。さすがにここだとミサイルの最低交戦距離内。ミサイルにはそれぞれに最低交戦距離が定められている。この距離以内で撃つと、そのミサイル弾着時の破片や爆風などに巻き込まれ、最悪自分達も巻き込まれてしまう。それを防ぐために設定されたのがこれだ。

 だから、いまの攻撃手段を言えば実質機銃しか使えない。


 敵もこっちの意図を悟ったのか、さらに海面スレスレを左右に激しい機動で振り切ろうとする。

 だけど、無駄ですよ。こっちは死に物狂いで喰らい付いているんでね。F-15MJこうてつのわしのしぶとさを舐めないでもらいたいね。


 すぐに敵ミサイルは反転して近づいてきた。


 思ったとおり、未来位置に向けて突っ込んでくる。その先には先行している発射母機であるSu-35がいるとも知らずに。

 ……いや、知ってても回避も何も出来ないか。


 機銃を使って敵をそのままの針路で行かせる。あんまり動いてもらってはいかんのでね。


 ここからはどこに同回避しようとしても無駄だ。

 その未来位置の修正を小さくさせるために一気に速度を落とさせようにも、後ろは僕がしっかりくっついているから無理。

 逆に速度を上げようにそれだとまさに僕の思う壺。

 左右は同じく僕に妨害されて無理。下は海面だから論外。


 ……つまり、







 ミサイル自体を自爆させる以外方法はない。







 敵ミサイルが確認できる。

 そのまま突っ込んできた。未来位置を予測して……、どちらかというと“前方の敵機より”に。


「よし、あと5秒!」


 もう少しで弾着するというところだった。


「……ッ!」


 いきなりそのミサイルが爆発した。


 何も目標はない。やっぱり、自爆を選択したか。


 少し自爆の決断が早い気がするが、でも、それでも別段問題ない。いずれにしろこっちの計画通り。全方位だからってやる場所を間違えたね。


「(よし、じゃあいったん後退して距離を置きつつさっさとミサイルを……)」


 ……だが、そのときだった。






 こっちの思惑通りには進んではくれるとは限らないことを改めて悟った。






「……ッ!?」


 いきなり敵機が僕の目の前に迫ってきた。

 機体の針路はそのまま。ケツのエンジンノズルが目の前に迫ったと思ったら、そのまま機体自体が上を向いた。


 ……これは、


「(……こ、コブラ機動!?)」


 Su-35を初めとするスホーイシリーズの戦闘機が得意とする戦術機動。

 水平飛行状態から高度と針路をほとんど変えずに、ピッチ角度90度で上を向いてまたもとの水平飛行に戻る。元は戦闘中ではあまり使われず、航空祭や航空ショーとかでの機動飛行展示でよくスホーイ戦闘機の機動性の高さを見せ付けるためにやることが多い。


 でも、その敵機はそのコブラ機動中の自然と起こる減速と若干の高度の上昇変動を使って一気に僕の機体の上を通っていった。

 そのノズルが僕の真上を通る。


 ……まずい。


「……やっばい、嵌められた!」


 そうか。最初からこれが狙いだったのか。

 こうやってわざわざ海面スレスレを狙ったのも、ただのループで回避するよりは少し危険があるけどこっちでやったほうが確実だから。

 そして、わざわざ僕に攻撃させたままでいたのも、まずその短距離ミサイルを後方に向けて撃つとき、機体後部に向けてのレーダー照射に時間がかかったからってだけ。

 そして、いざ後方に向けてミサイルを放ったとき、僕がこっちにピッタリくっつくことも予想してたんだ。

 さっき早々とミサイルを自爆させたのが何よりの証拠だ。予測してなかったんならほかのもっと回避機動とってから最後の手段で自爆させるはずだ。

 そして、その間最低交戦距離に入るからミサイルは撃てない。機銃も細かな機動で避けれる範囲でよければいい。

 そして、こっちが完全に懐にはまった隙にコブラ機動で一気に後方に……。


 ……あの距離なら機銃を撃つまでもなかった。近すぎるから機銃撃つ前に敵は機銃の攻撃範囲から抜ける。


 ……そうか、すべては敵の計算どおりだったてことかよクソッ!


「(まずいな……。今後方に退いて、最低交戦距離から抜けるために距離を置かれたら、敵がもってる最後のR-73ミサイルの餌食になる)」


 さっさと回避しないといけない。でもどの方向に行っても同じ気がする。

 ぶっちゃけ形勢がまるっきり逆転したんだ。どうやっても敵ミサイルから逃れられない。

 さっきからけたましくまたミサイルアラートがなり始めた。もうこっちを捉えたってのか。早すぎだろクソッ!


 ……どうすればいい? とにかくまずは上昇して……。


「……ッ! いや、まてよ……?」


 だがちょっと待て。この状況、もしかしたら……。


 ……いや、確かにそうだ。この状況なら、もしかしたら……。


 ……というか、ぶっちゃけこれしかない。

 これで、やるしかない。


 どっちにしろ向こうのミサイルは1発だ。これに後フレアも大量に使ってやる!


「……にしても、」


 ……結局、さっきまで使う使うといいつつ形勢が逆転されてしまったからその出番はなくなったと思ってたけど……。





「……とっておいてよかったわ……」




 僕は心底そう思いつつ、親指をボタンの上に乗せてそのタイミングが来るのを待った……。



















「……あのF-15、いったいどんな機動をしているんだ?」


 私は静かな驚愕の念を覚えずにはいられなかった。


 私の狙った敵のF-15MJは、思ったより軽がるとした機動を発揮していた。今までの敵とは何か違う、只者ではない雰囲気を感じ取ることは出来た。

 最初のあのすれ違いざまの機銃をはじめ、その後の後方からの追撃も思ったよりしつこく、少しの間苦戦を強いられたのはもはや隠すまでもない。


 だが、何とか海面スレスレをわざと飛行して、罠に嵌めることはできた。

 まさか、あそこまで機銃弾を使ってうまく針路妨害までしてくるとは思っていなかったが、それでも、結果的にはこちらの思惑通りに“無理やり”ことを運ぶことが出来た。

 そして、海面スレスレでコブラを展開。あれには少し勇気がいるものだったが、それでも何とか敵機の後ろの回りこむことに成功。

 向こうは速度を上げまくっていた。最初、こっちに合わせるために。

 まあ、それもこっちの思惑通りだ。ミサイルが敵に向かうからこっちにくっつけば、という判断をさせやすいし、それにいざ嵌めたら後はこっちが減速したらすぐに距離が開く。

 つまり、最低交戦距離を早くでやすい。まさに、一石二鳥だ。


 もうすぐその最低交戦距離から出る。

 敵も細かな機動でそのロックを外そうとする。しかし、悪いがもう捉えたのでな。

 機銃でその回避機動を妨害する。このSu-35に搭載されている機銃弾は30mm弾150発と結構少ないが、まあどっちにしろこれで決めるから問題ない。

 案の定すぐになくなった。だが、それでも、もう時間だ。


「(……すまぬが、結局は作戦勝ちだ)」


 ロックは済ませた。

 後は撃つだけだ。


 敵が妙に大きな回避機動を取らないのが少し気がかりだが、まあ向こうも覚悟を決めたのだろうか。

 何でもいい。理由は知らんが、あんまり動かないならそれでもこっちとしてもありがたいからな。


「……よし、でた」


 何とかすばやく最低交戦距離を脱出。ここからなら、敵に向けてミサイルを放つことができる。

 敵の短距離ミサイルは全方位発射にも対応されていたはずだが、でも後方にロックをかけるのには時間がかかる。今さら捉えようったってそうはさせない。


 ……悪いが、これで終わりだ。


「……ターゲットロック。閃龍01シャンローン・ゼロワン、FOX2!」


 こっちがもっている最後の短距離ミサイルのR-73を放つ。

 左主翼のパイロンから放たれたそれは、一気に音速の壁を越えて敵に向かって突っ込んでいった。

 敵は中々回避に入らない。……まさか、もう諦めたか? あそこまで追い詰めておいて、まさかそれはないと思うが。


 ……だが、いずれにしろもう終わりだ。ここは海面スレスレ。ここでフレアを放ってもすぐに海面に落ちるからあんまり効果はないはずだ。


 距離も近い。すぐに弾着する。


 もう、ここから回避することは出来ない。


「……すまないが、チェックメイトだ」


 そう、勝利を確信したときだった。




 敵は、私の予想だにもしなかった驚愕の行動にでる。





「……ん?」


 敵機から何かが落とされた。

 小さい。さっきまでもっていたミサイルだろうか?


 それは、母機の後ろのほうに流れると、一回海面を跳ね、そのまま私が放ったR-73のほうに向かった。

 針路的にはその方向だし、そのまま行けば近くは通る。


 ……何をする気だ。まさか、回避に邪魔だからと捨てたか?

 だが、今さら捨てたって回避できるはずが……。


 ……と、そう思っていたときだった。


「……ッ! 爆発!?」


 その捨てた敵ミサイルがいきなり爆発した。

 そのまま水柱がでかでかと立つとともに、その水柱に敵ミサイルが突っ込んだ。


 ……そして、その突っ込んでしまったというところが、私の今回の災難だったらしい。


「……ッ! み、ミサイルの反応が消えた!?」


 水柱に突っ込んでしまったがために、それによってバランスを崩されたか。

 私が放ったR-73の反応が、その水柱の立ったあたりで忽然と消えた。


 ……まさか、最初からそれを狙っていたのか? あのイーグルのパイロット、策士か!?


「クッ、こっちも減速せねば!」


 左右に回避してる余裕はない。

 とにかく一気に減速して、この水柱に突っ込む衝撃をやらわげなければ。


「ッ……、早く落ちろ!」


 もちろん、速度に対していっている。

 だが、いくら加減速レスポンスが高くなったとはいえ、完全には落とすのは無理だ。

 まだ少し速度がある状態でその崩れかけている水柱に突っ込んだ。

 水柱自体は一瞬だった。キャノピーが水で洗われるが、幸い機体に異常はなかった。

 エンジンも無事。よし、これなら何とかなる。

 キャノピーに付いた水も、速度の関係もあって即行で後ろに流れて、目の前の視界のゆがみがなくなった。


「……ッ!?」


 だが、災難はそれだけでは終わらなかった。


 気が付けばその目の前にいたF-15MJが目の前に迫っていた。

 回避する暇さえなかった。その敵機は減速しつつ右回転でロールしていたのだ。


 クソッ、オーバーシュートか! リスクは高いが、一気に減速することによってうまくいけば即行で敵の後ろを取れ、一瞬の内に形勢逆転を狙える。

 いや、さっき私も似たようなの下から、オーバーシュートで返したということか。


 ……というかそれ以前に、


「こ、こんな超低空でロール機動なんて正気か!?」


 こんなあの不安定なロール機動をすれば、それこそ一瞬の操縦ミスですぐに海面に突っ込む。

 ただ右に操縦桿を倒せばいいってもんじゃないのだぞ。あれはロール中も細かく操縦桿を操作しないと、その高度と針路を維持することすら困難だ。


 それが……、その敵機は、右回転でほんの少し右にずれながらロールし、またもとの針路戦場に戻る機動を展開した。

 つまり、ライトロールで私を避けつつまた針路上に戻って、なおかつ後ろに付く……。


 ……いったいどう操縦すればこんな機動ができるんだ。しかも、こんな海面スレスレでやるなど、あのパイロットは相当肝が据わっていやがる!


「クソッ、減速が間に合わない!」


 そのまま減速は続けていても、その敵のF-15MJも加減速レスポンスを極限まで改良しているらしい。さっきのあの速度からこの短時間でここまでとは、私の知っているF-15はここまでレスポンスはよくなかったはずだ。


「ッ!」


 すぐに敵機がロールしつつそのままバックするかのように私の右真横を通り過ぎた。

 そのタイミングで、敵機はコックピットがこっちを向いていた。そして、一瞬そのパイロットの顔も見える。

 さっき会敵したときと同じく、こっちを向いていた。ヘルメットでわからんがな。


 そのまま敵機は後ろに流れる。

 レーダー上では、少し右にずれていたのをまた左にずれなおして私の真後ろに付いた。

 ……あのオーバーシュートしつつロールする機動でこんなことができるというのか? 私はF-15のことをまだよく知ってはいなかったようだな。


「ッ! いかん、ガンで捉えられている!」


 すぐに回避機動を取る。

 上昇しつつ、ハイGターンを掛け捲って、とにかく逃げに専念した。

 こっちはもう弾薬がない。もう後は逃げて向こうの弾薬切れを狙うしかない!


「ッ……! クソッ、こいつ!」


 中々しぶとく付いてくる。

 こっちは本気でやってるんだぞ? それでいてここまでの急制動に寸分狂わずピッタリとくっついてくるなど、あのパイロット、相当なタフ野郎だな!


「(クッ……、さすがにハイGターンをかけすぎた。こっちはもう限界だぞ!?)」


 だが、未だについてくる敵機。

 さすがに向こうも疲れたのか、機動が若干ふらついてきたが、だがそれでもしぶとく付いてくる。

 まるで、一度獲物に噛み付いたら中々離さない狼のようだ。


 ……そのうち、


「……ッ! 被弾!?」


 右主翼あたりからカンッという金属音が聞こえた。

 ついに被弾したようだ。被弾するなど、若いとき訓練で何度かやられたとき以来だ。実戦での被弾など、かすり傷程度ですら一回もない。

 幸い、今回のそのかすり傷らしい。右主翼に2,3発ほど命中したが、それほど大きな損傷にはいたらなかった。

 運がいい。だが、全然素直に喜べない。


「(クソッ……、まだか? そろそろ弾薬が尽きてもいいはずだぞ?)」


 だが、F-15MJの機銃弾はこっちと違って多い。こっちは30mmで威力が高い分装弾数が少ない。対するF-15MJは20mmで威力が若干低い分、その分を900発以上の高い装弾能力で補っている。

 こっちは撃てば一瞬でなくなるのに対して、向こうはじっと押しっぱなしでも全部なくなるまで10秒近くかかる。


 ……そう簡単に即行でなくなるはずはない。


「……早く……、早く……ッ!」


 私の人生、これほど焦ったことはなかった。

 弾薬がなく攻撃できない、そして、主導権が向こうに完全に渡ってしまっているということを考えると、どうにも焦らずにはいられなかった。

 ……いくら周りからエースとちやほやされるとはいえ、結局はただのフランカー乗りか。


「頼む……、早く……ッ!」


 急制動をかけてギリギリで避けながら、そう強く願っていたときだった。


「……お?」


 敵の攻撃がやんだ。機銃弾の音も、その光跡も見えない。


 ……や、やっとか。


「……ふぅ、どうやら、やっと弾薬切れのようだな」


 向こうがやっと弾切れを起こしてくれたか……。

 向こうも機動がゆるくなった。こっちも少し水平飛行に移行するとしよう。


 ……ふぅ~。


「……危ないところだった……」


 私はヘルメットのHMDを上げて手で顔を仰いで風を送る。

 私がここまで追い詰められるとは……。

 敵を侮っていたわけではないが、私の予想以上の機動を仕掛けてきたな……。

 ……あのパイロット。相当なベテランか。


 ……興味がでてきたな。


「……どれ、やつの顔を拝んでみるか」


 ちょうど向こうも近くにいる。互いに弾薬がないんだし、攻撃もされまい。

 私はそう思いつつ、機体を軽く右旋回させてその“元”敵のF-15MJの左横に付くようにむかった。

 接近するに当たり、軽くバンクして攻撃の意思がないことを告げる。……というか、しようにも出来ないがな。


 向こうもそれを察してくれたようだ。バンクで返して、針路を何一つ変えずこちらの接近を許してくれた。

 私はその彼の左側に付く。右側にはそのさっきまでともに戦っていたF-15MJの灰色のゴツゴツしたその姿があった。

 傷は何一つない。あれだけ攻撃したというのに、これっぽっちも被弾がないのか……。


 ……相当なベテランだな。私より年いってるかもしれん。


「……とは言っても、顔が見えんな」


 やはりヘルメットのHMDが邪魔でみえんな。

 だが、体つき見る限りは……、どうも若いっぽいか?

 いや、単にそう見えるだけだろう。あの腕前、若者のものでは……、


「……お?」


 すると、こっちの考えてることを悟ったのか、向こうもHMDをあげてくれた。


 その顔を拝見できるか。なに、自慢ではないが目はいい。ここからでも十分見え……、



 ……ッ!?



「なッ……!? ま、まだ断然若いぞあいつ!?」


 そのF-15MJのパイロットはまだ断然若かった。

 そこいらにいる若者と対して変わらない顔立ちをしている。まだ20代の前半か?

 ということは、まだ見た目的にも新人の類ではないか。


 ……あんな若造が、あそこまでの戦闘能力を……?


「……日本はとんでもないやつを生んだな」


 私は首を軽く横に振っていった。


 あの若い年であそこまで私を追い詰めるとは、最近の若者も捨てたものではない。

 ……まあ、まだ私もギリギリ40になってないからまだ若い方の類に入るがな。


「……将来はエースか」


 同時にそう確信する。

 あの若さであそこまでやれるなら、将来はとんでもない腕のエースとなっているだろう。おそらく、沖縄あたりでも相当数を落としてきたに違いない。

 アレを切り抜けて、今ここで健在しているのも納得だ。


 ……いい相手だった。


「……いつか、また“違う形で”勝負してみたいものだ」


 彼とはいい勝負相手になれそうだしな。


 ……と、そのときだった。


《隊長、司令部より帰頭命令です》


 部下からの無線だった。

 っと、そろそろお帰りになる時間か。

 となると、他でも戦闘は終わったか。

 ……結構思ったより長く感じるな。いや、実際長くかかったか。


「了解した。今編隊に戻る。……うん?」


 すると、右にいたF-15MJのパイロットが左手を軽くあげて挨拶すると、そのままHMDを下ろして、増速しつつ機体を2,3回バンクで翼を左右に振った。そして、そのF-15MJは軽く上昇しつつ、この場を去った。

 すぐ彼の機体の影が小さくなっていく。

 ……向こうでも、戦闘終了に伴い帰頭命令が下ったか。


 私もすぐに機体を反転させ、部下達の編隊に合流していった。


「各機に告ぐ。これより基地に帰頭する。損害は?」


《損害はありません。何機か被弾したものはいましたが、撃墜はなく、全員無事です》


「そうか……。全員無事か」


 あのパイロットがいるほどだ。他の者も相当な錬度のやつらがそろっていたはずだ。

 それを見事交わしぬいたか。何とか一安心だな。


《……ですが》


「?」


《……その代わり、対する敵に対しても損害を与えることは出来ませんでした。こっちと同様何機か被弾をさせたようですが、それでも撃墜にはいたらず弾切れで……》


「ふむ……。撃墜は出来なかったか。まあ、こっちもこっちで苦戦したがな」


 錬度が高いのはどいつも同じか。

 ……撃墜は出来なかったが、何らかの損害は与えれたか。しかし、我々をもってしても、その程度にとどめてしまうとは……。


 ……あの若造といい、あの部隊、相当な手だれぞろいだ。


 日本の錬度は高いことで有名だが、彼らはその中でも屈指の者たちなのだろう。


 ……まったくもって、厄介な連中が台湾に来てしまったものだ。


「……よし、わかった。とにかく、ひとまず基地に帰頭しよう。とんだ空中戦になってしまったからな」


《了解》


 そのまま編隊を組み直し、それを維持しつつ我々は基地に帰頭した。


 私を含め全6機。うむ、確かに、全員いるな。

 何機か被弾しているようだが、ここからは確認できない。

 基地に帰ったらどんなもんだったか確認してみよう。


「……」


 私はふと後ろを見た。

 右側。そこには、さっき被弾でかすった後が見えた。

 灰色の塗装がはがれ、内側の金属が見える。


 ……この程度のかすり傷でも、あんな高い音が鳴るのか。


 私は少し顔を上げて、さらに遠くの空を見る。


 そこには、同じく撤退中の日本のF-15MJ部隊がいるはずだが……。


「……しばしのお別れだな」


 また、彼らとはどこかで出会うことになるだろう。

 そのときは、まだ戦争の終わっていない本当の戦場でとなるだろうが、そのときは、今回みたいな結果となるのかそうでないのか。

 それは、我々と向こうにかかっている。


 ……だが、


「……いずれにしろ、“いい相手”だった」


 焦ってしまってはいたが、こうして最後は気持ちよく終えることができる空中戦は初めてだ。


 正々堂々とは、まさにこれのことを言う。


 ……いい腕の連中だ。我々としても、もう一度お手合わせ願いたいものだ。



「……ぜひ、もう一度彼らと会いたいものだ。……特に、」








「あの、若造にはな……」











 私はそんなことをつぶやきつつ、そのまま部下とともに基地に帰頭していった…………

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