んな幽霊じみたもの……
―PM13:13 やまと食堂―
「は? 艦魂?」
俺は開口一番そんな言葉を言った。
「そ。艦の魂って書いて艦魂ってやつ。お前も船乗りだから知ってはいるだろ?」
「まあ……、知らないことはないが」
こいつが聞いたのは、艦魂のことだった。
艦魂。
文字通り艦の魂で、それはほぼ例外なくそこに艦があれば一人宿っているといわれている。
……まあ、さすがに木製の手漕ぎボートとかカッターとかそういうのにはないだろうが。
船乗りの間で結構昔から語り継がれていて、俺も何気に長生きでまだ元気に生きてる祖父から聞いたことがある。
……うちの爺さん90とっくに過ぎてんのに。
それは、例外なく女性の姿をしていて、その艦の守り神だったり、またはそれに憑依した魂だったりっていろいろ言われてる。どれも同じんた気がするが。
そして、それを見ることが出来るのはごく僅かな人間だけらしくて、その対象は霊感がクソ強かったり、その艦に思い入れが強かったり、挙句の果てにはその艦魂から選ばれた戦士たtじゃなかった選ばれた人たちだったりなど、いろいろといわれてるけどどんなもんなのか俺は知らない。
「お前の爺さんも見たことあるんだっけ?」
「ああ。……結構記憶に残ってるらしいぜ」
……そう。俺の祖父はそれを見たことがあるとか言っていた。
というのも、俺の祖父はあの戦艦大和の元乗組員だった。
まだ未成年なのに徴兵制的なアレで軍に入れられたけどそのときはもう日本の情勢は絶望的だったそうな。
……尤も、当時の祖父にはそんなこと知るよしはなかったそうだが。
その祖父曰く「泣いていたよ。思いっきり泣いていた。でも、彼女には失礼だが、とても綺麗な人だった」らしい。
……よくそんな状況で見れたなおい。
そんな話を昔子供のころよく聞いていた。
中々面白い話だったので、よく祖父に頼んで何度も話してもらった。
向こうも、結構この話は好きらしくて、何度も何度も話してくれた記憶があるわな。
……まあ、今はクソ忙しくなってそんなの聞いてる暇はなくなってしまったがな。
「それがどうしたんだよ?」
「いや、なんとなく気になったんだけどさ……、ほんとにいるんかな?」
「は?」
「いや、だからさ……、ほんとに艦魂とかいるのかなって。結局は幽霊みたいなもんじゃん?」
「ふむ……。確かにな」
まあ、その疑問は一理ある。
普通に考えよう。そんなひ科学極まりないものがあるとか、幽霊とか宇宙人とかならまだしも、軍艦なんていう〝機械〟にそんな魂とかあるわけない。……と、一般人は考えるだろう。
俺だってそうだよ。いくら万物に神が宿る伝説がある日本という国が生んだとはいえ、さすがに機械にまで……。
……でも、実はそんな疑問はとっくの昔から持っていて、当時無邪気で遠慮など知らなかった俺は問答無用で祖父に聞いた。
「でも軍艦って機械だよね? 機械に魂ってあるの?」
……ってね。
だが、俺の祖父は即行でそれを肯定した。
「ある。あのときのワシの目が映したのは幻覚などではない。それは、自信を持っていえる。……軍艦といえど、魂はある」
……そう、自信満々に言ってたよ。
あんまりに気合が合ったんで俺もそれ以上いう気がうせたんだがな。
「……半信半疑、とでも言っておこうかな。普通に考えればいるはずないけど、だからといって完全にいないって証明できるわけでもあるまいし」
「ふむ……。なるほどな」
「それに」
「?」
「……ぶっちゃけそれはそれでロマンあったほうが良いだろ? いろいろと面白くなるし」
「……なんだ? お前の爺さんの影響か?」
「影響ねぇ……、まあ、否定はしないわ」
あんだけ昔から聞いてたらそりゃ影響するだろうな。あんだけ聞いてたら。
「でも仮にいたとしても俺達には見えねえよ。いようがいまいが変わらんな」
「だな。……でもマジで見えるようになったらどうする?」
「ああ、それなんだけどさ……。俺の祖父曰く兆候があるらしいぜ、それ」
「兆候?」
「ああ」
そう。これも祖父から聞いたことだ。
艦魂が見える少し前、なんとなく心当たりがある兆候が会ったらしい。
それも、一回だけじゃない。同じことが何度もだ。
「なんだよ、その兆候って」
「……声が聞こえるらしいぜ」
「?」
「声だよ。艦魂が見える少し前から、誰かの声がかすかに聞こえるようになるらしい」
「……声?」
「ああ、声」
これも祖父に聞いたら、幻聴でもなんでもないって一蹴されたよ。
なんでも、大体一週間くらい前から女の子の声がしていたらしい。
それこそ、はっきり聞こえたわけではないのでその時は単なる気のせいかってことにしたらしいが、心当たりがあるっていったらこれくらいしかないらしい。
……まあ、でもこれに関してはそのじいさん本人がその艦魂の声聞いたわけじゃないからあくまで関連性あるとしても可能性の域を越えないらしいがな。
だが、結構可能性としてはあるかもしれないともいい加えていた。
「なんでも一週間くらい前からかすかに聞こえていたらしい。……俺はそんなの聞いたことないからな。まずあり得ない」
「……でも当時のひとの話ってだけでなんとなく信憑性あるな。マジモンの大和の元乗員だしさ」
「でもこればっかりはちょっと微妙だぞ? その艦魂見たときって、沈没直前の脱出したあとらしいから、負傷してたろうしたぶん……」
「まあそうかもしれないけどさ。……面白いだろ? そういう話って」
「まあ……、否定はしないけどさ」
しかし、その見たときの状況が状況だからな……。
いろいろと負担かかる状況だったろうし、別に信じないわけじゃないが、マジで幻覚・幻聴の可能性も捨てきれん……。
「隣いいか?」
「? お、砲雷長。お疲れ様です」
そのとき、俺達の隣に来たのは砲雷長の『島田優』少佐だった。
カズと同じCIC勤務でそこのリーダーたる砲雷長をしている。
普段は物静かなとんでもなく真面目なメガネ野郎だけど、それでも休憩時とかはこうやって一緒に飯食っていくくらいの明るい一面はある。
今はその明るい一面。
「こんなところでまで砲雷長はやめてくれ。普通に呼んでくれて良い」
「はは、そりゃ失礼」
「島田少佐! 一つお聞きしたいんですがね!」
すると、今度はカズが前のめりになって島田少佐に迫った。
……テーブル越しにだけど。
「お前はその呼び方か……。まあいい、なんだ?」
「……島田少佐って、艦魂いると思います?」
「艦魂? ……艦魂といえばアレか? 艦に宿る精霊か?」
「……まあ、間違っちゃいないっす」
……こうやって解釈が人によって違うのも、艦魂自体が結構あいまいな存在である証拠です。
この人にとっては艦に宿る精霊って解釈のようですな。
「……まあ、いたらいたで面白そうだがな。……だがぶっちゃけいないだろそんなもの」
「う~ん……、島田少佐はいない派か」
ふむ。まあ、その意見も出るだろうな。
……そもそもこれに関しては賛否両論どころか、
いる:いない、でやったら2:8位で圧勝だと思うんだが。
「大体今の世の中科学でいろいろ解明されてる時代じゃないか。その幽霊関係も一部は昔の人が考えた迷信であろうに……」
「それだと宗教まで否定することに……」
「宗教は別だ。仏教信仰だぞ俺は」
「あれ? 艦魂って日本仏教関連の万物の神の話の延長だよな……?」
「それ日本神道だよ……。仏教はインドの宗教だぞ?」
万物の神が云々なんて考えてんの俺の知る限り日本くらいだしな……。だから太陽にも天照大神って神がいたりするし。
「そもそも、いるとしてもどんな人かわからんしな……。一応その艦の神ってくらいの存在だから後光でも差してるのかね?」
「後光とかこれ神道の話なのに仏教の仏ないしキリストの聖人ですかい……」
もはや神道とか関係なくなってきた。おい日本人。
「お前の爺さん曰く綺麗で美しいって言ってたんだよな?」
「ああ」
「あ、そうか。新澤少尉の爺さんは確か元戦艦大和の……」
「ええ、乗員でした。で、その艦魂を見たって」
「ふむ……」
そういえばまだ島田少佐には話してなかったわな。
「まず綺麗って言ってんだから、貫禄あるんだろうな。なんとなくだけど」
「戦艦の艦魂だしな。……そこそこ年いってるけど20代後半くらいの若い女性なんだろうな」
そんなことを言いつつ脳内妄想。
……やっぱり日本の戦艦だし……、
「あとは日本らしく浴衣か?」
「いや、そこは軍服だろ」
「……あ、そうか」
確かに、浴衣は軍艦には似合わんな。
アカンアカン。どっかの戦艦が濃霧から出てきて人類襲うSF漫画思い出したわ。
「何はなしてんの?」
「?」
「艦魂と聞いて飛んできた」
「艦内で飛んでくるな」
……そんな会話を少ししていたときだった。
結構周りにも響いていたらしくて、周りの乗員がどんどんとその話に乗ってきた結果、なんでか知らないけどいるいないの話と同時にどんな感じの子かって話になりまして……。
その結果……、
Q.艦魂いるとしてどんな感じ?
A.かわいい短髪ロリッ娘←いや長髪クール美女だ←ポニー安定だろうが何言ってんだ。
ど う し て こ う な っ た ?
「いやだから、どう考えても今現代生まれなんだからアニメ見たくロリッ娘方針に則ってるって! 神様も流行捉えてるだろ」
「いやいや伝統遵守という言葉があってだな。ここは昔を引き継いでかつての雰囲気に則ったクールで長髪美女であるに違いない」
「お前らな、ここでポニーを省くとか良い度胸してるじゃねえか。戦艦といったら戦うだろ? 戦闘で長髪は邪魔でしかない。となったらそれをまとめて結うポニーが一番じゃないか」
「アホか。ポニーとか軍艦に似合うわけねえだろ」
「にわか乙」
「おうお前らポニーテール舐めるなよ! どこぞの戦艦擬人化ゲームじゃ大和含めていくつかの戦艦はポニーテールなんだぜ!?」
「お前提督だったのかよ」
「古豪の提督舐めんなよお前ら!」
「一方ポニーやってる艦は少ない模様」
「くそがぁぁぁあああああ!!!」
「お 前 ら 一 体 何 の 話 し て や が る」
一体どこからこうなってしまったのか。
というか、俺が言ったの忘れたんか?「とても綺麗な人」だぞ?
そこからどうやったらロリとかポニーとかって話になるんだ? うん?
てか、いつの間にかその議論にカズと島田少佐もさりげなく参加してるじゃないですかやだー!
「……お前ら一体何を求めてるんだよ」
「かわいい娘です!(懇願)」
by全員
「……俺は綺麗な人だって言ってたんだがそれを忘れたんか?」
「綺麗ということはかわいいということやろ?」
「それなんつう暴論だよ」
「ロリは至高。異論は認めない」
「異論する気もないしどうでもいいけどいつの間にロリで決定してんの?」
「ロリは至高」
「もういいわ」
「はっきり言おう。そこそこ年言った女性よりロリが需要あるしそもそもかわいい」
「それもうどっちかって言うとお前の願望だろうが」
ここには変態しかいないのか。
これなんつう違う意味でのブラック企業ならぬブラック艦船ですか?
「とにかく! 今までロリッ娘でそんなクール系などあったキャラは見たことない! どう考えても間髪でかわいい娘だ!」
「いや、だから……」
「かわいいからなんだ! クールなら一週回ってそのかわいさも栄えるじゃないか!」
「いやいや、そうでなくて……」
「お前らの目は節穴か!? ポニーの娘は大体元気っ娘のかわいい系だって相場が決まってんだよ!」
「いや、もう本来の話題から離れて……」
「いやだから、軍艦なら短髪でないと激しく動けないだろ! 長髪もポニーもじゃまだろうが!」
「……」
「長髪ってお前艦魂自身が動くわけねえだろ!」
「そうだそうだ! それなら例の擬人化ゲームで出てる長髪キャラは一体どうなんだよ!」
「んなのゲームの話だろ!? どう考えても実用性考えると短髪であったほうがな……!」
「………」
…………ブチッ
「お前ら全員変態かアアああーーーーーーーー!!!!!」
ええい、このどうしようもない変態どもをどう処理したら良いんだ。
一体どこからこうなってしまったのか。どこから脱線して変態どもの巣屈となってしまったのか
……誰かにヘルプミーしても意味はないだろうな。周りに俺の味方らしい味方がいないわ……。
〝………フフッ〟
「……え?」
俺はとたんに後ろを向いた。
声がした。
いや、単なる幻聴かもしれない。かすかにだったし。
……でも、一体誰だ……? 女の人の声だった気はするが。
……ま、
「(……どうせ気のせいだろう)」
今目の前の変態どもに大量にツッコミ入れてきたばっかだし、俺も疲れてるんだろう。
……何気に幻聴とか久しぶりだわ。
「……なにやらにぎわってるじゃないか。何か良いことでもあったのかね?」
「? ……あ、艦長。お疲れ様です」
俺は直立しなおし敬礼した。
そこに来たのはこの艦の長こと艦長である『織田秀介』大佐だった。
彼自身は結構すごい人で、5年前の朝鮮戦争の日本派遣艦隊旗艦だった『軽空母CVL-183〝いずも〟』の艦長として日本艦隊の指揮やいずも自体の操鑑で大いに腕を奮ったりと、経験も豊富なベテラン中のベテラン。
この最新鋭艦の艦長になるのも納得だわ。
それに、艦長本人が人命第一主義、しかも乗員との関係重視なタイプなこともあり性格がめっちゃ気さくで、ほんと階級とんでもなく上なのにこうやって下っ端な俺でも話しやすい人です。
……良い上司です。こんなろくでもないクルーとは大違いです。
「うむ。お疲れさん。……で、あのにぎわいようは何だね?」
「ああ、それなんですが……」
……事情説明中……
「……というわけで今絶賛ろくでもない変態どもがよくわからない口論を展開しております」
「ははは……、そういうことか」
そういった艦長も苦笑いである。
隠しても無駄です。全部お見通しです。
「ま、そんな会話が出来るだけ今が平和な証拠だろう。多めに見てやれ」
「まあ、めんどくさいんで別にとめる気もないですが……、どうやったら止まりますかね?」
「私は止めれんぞ?」
「……デスヨネー」
艦長権限でもアレをとめるのは至難の業……、いろんな意味で。
「……ちなみに、」
「?」
「……艦長はいたらどう思います? 艦魂がいたら」
「……すまんが、私みたいな老体にはそこらへんの発想がうまくいかんのでな。新澤少尉のお爺さんが言っていたような綺麗な人ということしか想像できん。……そういうのは若い君達のほうが得意であろう?」
「まあ……、そういわれればそうですね」
でもまあ、老体といいながら見た目結構若い感じですが。
「……あ、では自分はこれで。交代の時間がありますので」
「うむ。お疲れ。……では、私も暇だし少し参加してくるかな」
「マジですか……」
お気をつけください。あそこはもうロクでもないクルーどもの巣屈状態でありますゆえ。
「では、失礼します」
「うむ」
そういって、自分はその場を離れて艦橋に向かった。
そして、艦長はマジでその場に……。
……マジで行ったよあの人……。
「お疲れ様です。交代します」
艦橋に付いた俺は、操舵を交代してさっさとその持ち場に着いた。
即座に航海長が話しかけた。
「食堂のほうなんかにぎわってなかったか? 俺さっき休憩がてら飲み物買いに行ったとき通り過ぎたんだが」
おっと、航海長も知っておられたか。
……ふむ、とりあえずこの人にも事情を話しておこう。
「あー、いやまあ、あれはですね……」
……再び事情説明中……
「……てなわけで今度は艦長も加わりました」
「艦長ああいう系の話付いていけないと思うがなぁ……」
そういったのは海原副長だ。
尤もだわ。こういうのって若い俺らだから付いていけるのであって、世代が違う艦長が果たして付いていけるかどうか……。
「はは……。とんでもないことで議論になるなうちのクルーは」
「まあ、テーマがテーマですから……」
万物の神が宿る国だと神やら魂関連だと即行で話題沸騰になるよな。
……たまにこんな感じによくわからん方向に行くが。
「……しかし、中々面白い話ではあるな。いたらいたで万物が云々は本当の話だったと立証することにもなるしな」
海原副長がいった。
……まあ、確かに立証はされるな。
それも、この考えは軍艦どころか機械なんていう概念すらない古代に作られたのに現代の機械というか、軍艦にも適用されることになるしな。
「……いたら一番歓喜するのはお前かな。思い入れ高いだろうしな」
そういったのは潮崎航海長である。
……否定できないから困るんだわ。
「まあ、確かにそうですね。最初に配属されたのがここですし」
「それに、お前の爺さん元大和乗員だろ?」
これはほかの航海科の人だ。
まあ、これはほかのやつらも知ってる事実だしな。
「そうそう。だから、この艦には結構な思い入れもあるしな」
「ついでにそれを一言で表すと?」
「一言で? え~っと……」
いきなり言われたな。
えーっと、そうだな……、しいて言うなら……、
「……そうだな。航海科の操舵になったし、俺が……」
「お前の行くべき道に導いてやる!」
「……ていう決意の元にこの艦に常務させていただいて……」
「……」
「……あれ?」
……あれ? 何この沈黙?
決まったろ? これは確実に決まったろ?
キリッてしていいところだろ?
「……相変わらず良い天気ですな~」
「いやいや航海長? それ少し前に聞きましたよ?」
「もうすぐ横須賀だな」
「おいおい、話しずらすなよ」
「房総半島も見えてきた。もうすぐだな」
「あのですね副長、見え見えですよ? 無理やりずらしてるのが見え見えで……」
「さ~て戻ったらなにすっかな~」
「いやだから……」
「とりあえず寝るか~(笑)」
「お前らわざと無視するなあああーーーーー!!!!」
そんな悲痛というか悲しみというか単なるツッコミというかそんな叫びが艦橋内にこだました。
……その横、隣の露天艦橋繋がるドアから……、
〝………フフッ〟
かすかに笑う存在がいたが、俺はそれを聞き取ることはできなかった…………




