運命の魔女、再び。
誤字等は後で修正予定。気持ちが乗ってるうちに投稿。
「頭をお上げ」
当たり前のようにそこに立つ老婆を、イザベルは愕然と見つめた。
「運命の、魔女・・・さま」
特別な時にしか現れない、稀有な存在。
どんな姿なのか誰も知らないはずなのに、会えば必ずわかるのだという。
「・・・あの娘だけだったね。そんな目を向けなかったのは」
そこで運命の魔女は口を噤んだ。喉元には剣の切っ先が光っている。
「何者だ」
エルンストが突きつけていた。
殿下、と呼びかけようとするが声にならない。運命の魔女は、そんな状況にも関わらず、微笑んだ。
「何がおかしい?」
「いくら何でも、哀れだと思ってね。あんたが無くしてしまったものが、あんたにとって大きすぎたのかと思うと」
「どういう意味だ?」
イザベルには、その意味はわかったが、運命の魔女がそれを言い出した意味がわからなかった。運命の魔女は、同じ人物の前に二度現れることはないと聞いているからだ。
(・・・ありえないことが起きているっていうの?)
イザベルが混乱しているのが、表情でわかったのだろう。運命の魔女は、今度はイザベルに微笑みかけてきた。心配することはない、と言われたような気がして、イザベルの肩から緊張が抜けていく。
まず、いま為すべきことは。
「エルンスト殿下。剣をお納めください」
「お前に口を出す権利はない。それに、突然現れたこの女こそ、俺を害するものだろう?女、答えろ。お前は何者だ」
ふと、イザベルは気づいた。
エルンストは苛立っている。フランカのかけた魔法の反作用で感情を見せなくなったはずなのに、確かにこの瞬間は苛立っている。
「答えたら、剣を下ろして話をさせてくれるかい?」
黙っているエルンストに、イザベルは声をかける。
「殿下、危害を加える方ではありません」
「・・・」
「でしたら、こうしましょう」
イザベルは、運命の魔女に背を向けるようにして、エルンストとの間に立った。こうしなければ納得しないだろうから。
エルンストは剣を下ろした。
それを見届けてから、イザベルも身を引く。
「私は、運命の魔女さ。あんたのような名前もあったが、誰にも呼ばれなくなったから忘れてしまった」
「その魔女が何の目的があってここにいる?」
「本来、運命というものは難しそうに見えて簡単なものなのさ。前にいくつもの道が分かれているように見えて、どれを選ぶのかは定められている。けれど、それをよしとしない者がいたのさ。あんたの近くにずっといたあの魔女、それがそうだった」
「・・・近くにいた?」
「ああ、そこにいる娘とよく似ているね。まったく、想いの力というものは」
指し示された先にいるのは、さっき出会ったばかりの黒髪の女性だった。不思議なことに、瞬き一つせずそこに立ち尽くしていたが。
「その娘があんたのところに現れたのは、偶然ではないよ。あんたの心が呼んだんだ」
「意味がわからない・・・どうしろと」
運命の魔女は、それには答えずにイザベルを見た。
「城の魔女、頑張っていたのに申し訳ないんだけど、魔法を解くよ?」
「・・・はい!」
イザベルは、大きく頷いた。涙が溢れる。
これで大丈夫。全てがうまくいくだろう。
運命の魔女が、空に向かって杖を掲げた。
イザベルも力を添えるために右手を掲げる。
パリン、とガラスが割れるような音が耳に届いた。