黒葛陸視点(3)
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詩織には俺がついてやらないと駄目だった。
他人よりも行動するのが鈍く、それでいて能天気な性格が災いしてクラスメイトからはいじめ同然のことをされていた。
あえて本人に聞こえるような声量で詩織の悪口をみんなで囁いたり、授業中に先生が黒板に文字を書き始めた時を狙って、消しゴムの残りカスを後頭部めがけて投げたりと、陰湿ないじめが続いていた。
その程度どうってことないと思うだろうが、小さなことが積み重ねって行けば神経が磨り減るような大事に発展していくのは世の真理だ。
詩織はこんなのいじめじゃないって強がってはいたが、俺が見る限りでは、眼に見えてやつれていっているように見えた。
そんな詩織を見るのが嫌で、いじめのようなことが起こる度に俺は詩織を庇い、二人きりになった時は慰めてきた。皮肉にもそれがさらに二人の仲を急接近させる要因になったのだから、人生ってやつは分からないものだ。
そして、いつの間にかいじめっ子たちの標的は詩織から俺にすり替わっていた。
そのいじめ方は明らかに詩織の時よりエスカレートしていた。おそらく、俺が男だからという理由で、多少厳しく当っても平気だと踏んだのだろう。そんなところで過大評価されてもらっても全く嬉しくなかったが……。
みんなは直接俺にかかっては来ず、いじめ独特の陰険な手で俺の精神をどんどん削っていた。
椅子の上に画鋲を置いたり、上履きを分かりにくい校庭の影に隠したり、教科書にいたずら書きをされたり、ノートを何枚も破かれていたりと、犯人が特定できないようなやり方は俺を徐々に辟易していた。
もしも俺に直接的に攻撃してくるなら立ち向かうか、大人に告げ口をするかどうかしていただろう。
あり得ないことだが、もしも俺にその勇気がなかったのなら無視することもできた。
だけど、やられてみて初めて解ったが、いじめっていうやつは、自分をいじめている相手が分からない状態というのが一番キツかった。
相手がどんな想いで俺を苦しめているのか分からない。
いつになったらこのいじめの連鎖から抜け出せるのか予想ができない。
ーーまるで、生き地獄。
いじめられる度に俺の身体の中では、なにか、どす黒いモノが溜まっていき、毎日吐き気がした。このままじゃ俺は精神が破綻してしまうのではないかという、大げさでない危惧すら感じるようになってきた。
辛かった。
誰かに相談したかった。
だけど……。
いったいこの感情の捌け口をどこに向けてやればいいのか分からなかった。
次は早めに更新します。