雛原詩織視点(14)
あの時の私は、高校生になることが楽しみだった。
高校生になれば、今よりもっと私は幸せになれるって子どもの頃は信じていた。
けれど、実際に高校生なってみて分かったこと。それは輝きに満ち満ちていた日々が、だんだん薄暗くなっていくということだ。
今ではもう、月明かりほどの照明しかない。
それでも少しの明るさに望みをかけて、馬鹿みたいに勇んで一歩踏み出したその一寸先は、闇が広がっている。
希望を持っても、奈落へ突き落される。
できることなら私は、子どもの頃に戻りたい。私の両親がそろって、そして黒葛くんと無遠慮に話していたあの頃に……。
私は、夜の公園で膝を抱えながら滑り台に座っていた。滑り台の横幅は、ちょうど私の身体が収まりきる大きさで、体育座りをするには丁度良かった。滑り台は冷たく、手が置けなかった。
寒さで歯をがちがちと鳴らしながら、少しでも自分という存在が小さくなるように背を丸める。
携帯電話の電源を入れると、不在着信やメールがたくさん。こんな時に、優しさで顔を歪めてしまう自分が嫌だ。
ああ、私はみんなから心配されている。
この世界にいてもいいんだなって、再確認することができる。そんな小っぽけなことしか考えることしかできない。
「どうして、こんなに最悪なんだろな私」
こうして私が姿を消してしまえば、黒葛くんは私を探す時間だけは、きっと私だけを考えてくれる。
……気持ち悪い。不潔だ。最低だ。
こんなことをやっても、私は彼に嫌われてしまうだけなのに。
それとももう、本当に心底嫌われてしまったのだろうか。
いつまで待っても、彼は私を見つけだしてくれない。ずっとここにいるのに。ここは、私と彼が将来を約束した場所なのに。……忘れてしまったのかな。
私はこうやって、黒葛くんが私のことをどう思っているのか試してしまっている。あんな態度をとる彼が私のことをいいように思っているはずないのに。
まるでおみくじが、大吉になるまで引くようなものだ。全く意味がない。
「……うっ」
顔にぽつぽつと水滴が落ちる。私は瞳を閉じる。
そして私の頬を伝った雨は何回も何回も、地面に落ちていく。