表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイス  作者: 魔桜
2
17/39

雛原詩織視点(10)


 

 待ち合わせ場所はこの前と同じ噴水前。違うのは集合する人数が四人から、二人に変わったというところだけ。それだけなのにも関わらず、この前とは違った緊張感に包まれる。

 周りを見渡すと、みんな楽しそうに騒いでいる。まるで私だけこの世界から切り離されてしまったかのようだ。どうしてだろう、私は今あの人達と同じなはずなのに、なぜか私はここにいちゃいけないような気がする。

 いや、ただの考えすぎだ。

 私は辺りを歩き回る。そして、待ち合わせ相手が退屈そうにしているのを見つける。今度は私が一番乗りじゃないらしい。

 石の椅子に座って、携帯をいじっていた橋下くんに声をかける。

「ごめん、待たせちゃった?」

 橋下くんは携帯を閉じてこっちを見上げ、明るく話しかけてきてくれた。

「いいや全然」

「そう?」

「でもよかった。雛原が来てくれて」

 橋下くんはゆっくりとベンチから立ち上がり、ポケットに手を入れる。

 こうして並ぶと橋下くんの長身に気が付く。肩幅が広く、服の上からでも腕の太さが分かる。

 いつも橋下くんは飄々としていて、異性としてあまり意識していなかった。だからこそ、彼が男であることを意識してしまうと戸惑ってしまった。

 テンションが高く、喋っていないと死んでしまいそうな橋下くんは、今日に限って落ち着いている様子だった。こうやって、改めて見てみると私と同年代とは思えないくらい大人びて見える。

「……それは、橋下くんから相談事があるっていうからだよ。橋下くんが困っているなら私は聞くよ。……でも、やっぱり私なんかでいいのかとは思うけど」

「いいや、これは雛原、お前にしか相談できないことだから」

 最近よく他人に相談される気がする。それはきっと他人に頼られるってことだから、やっぱり嬉しい。これだけ短期間で二人の人間に相談されるっていうことは、私も少しは頼りがいのある人間になれたのだろうか。

 噴水から水が噴き出す。

 耳に水飛沫がかかる。いつの間にか噴水に近づき過ぎた為、私はこの肌寒い時期に、頭から水をかぶってしまいそうになる。

 やばい、と気が付いた時には頭がパニック状態になっていて避けられない。こういう風に突発的な出来事があると、私はつい硬直してしまう。

 なんとか顔を手で覆い濡れないように庇うが、ぐぃとその腕を引かれる。あっと思った時には彼の胸の中にいた。

 噴水の勢いが収束する音がする。

 子ども達がはしゃいで、走り回っている声がする。

 一瞬時間が止まったような気がした。

「ご、ごめん」

「いや、こちらこそ。それよりもう大丈夫だろ」

 自分がどういう態勢でいるかに気づき、ぱっと離れる。彼のゴツゴツした胸板が見た目よりよっぽど逞しくて驚いた。

 私としては女の子と遊ぶのに慣れているイメージがあった橋下くんだったが、彼は頬を染めたことを悟られないようにそっぽを向いていた。

 そんな彼がちょっぴりかわいいと思った。

 やっぱり、あの黒葛くんの友達なのだからそんなはずはなかったんだ。

 彼も硬派というか、かなり不器用らしい。二人の性格は正反対だと思っていたけれど、実はなんだかんだ似た者同士なのかもしれない。

 二人とも変なところで口下手。それに、たまに優しいところがある。

「なに笑ってんだよ」

「笑ってないよ」

「笑ってんだろ、っておい、逃げんなよ」

 私はちょっぴり早歩きで駅の改札口へ駆け込む。

 呼びだされる前は正直、あまり乗り気じゃなかった。教室で二人きりで話したためしがないから、私と橋下くんで場が持つかどうか分からなかった。どんな話をしたらいいのか不安だった。

 ……だけどこの分なら大丈夫のようだ。二人きりになって初めて分かったことだけど、私達は意外と気があうらしい。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ