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アイス  作者: 魔桜
1.5
11/39

××××視点(1)


1.5


 私は昔から他人から疎まれていた。

 私から嫌われるようなアクションを起こした記憶はない。それでも他人から攻撃されるということは、私に何かしらの原因があるのかと、深く思い悩んだ時期もあった。

 だけど、どれだけ考えたところで結論は出なかった。もしかしたらそれは、私がそれだけ考えが及ばない馬鹿なのかもしれない。

 けれど、これだけ考えても結論がでないということは、おそらく理由なんてない。……そう考えるようにもなった。

 きっと私の中から出てくるオーラというか雰囲気。

 私の存在そのものが気に食わないからだ。

 だとしたら悩むだけ無駄で、行動するしかない。

 ——そして私は、思いつく限りの方法で、今までの自分から脱却することを決意した。

 馬鹿な人間を演じた。

 人と関わる時には太く一本の線を引いて接するようになった。

 わざと軽口を叩くことによって、その場の雰囲気を明るくしようとした。

 それらのことを実行する事によって、どんなに我が儘を言っても、私なら仕方がないという構図を作ることに成功した。

 そうやって上手い具合に、その場その場を立ち振る舞っていればいるほどに、自分の心のどこかがぽっかりと穴が開いているような感覚に襲われた。どうしてそうなったのか解らなかった。その問題を解決することができずに、怠惰で我が儘な人間を演じていたある日のことだ。私は自分の本心に気が付いたのだ。

 ――自分の気持ちを本気でぶつけたい、ということを。

 自分らしくない自分が日常化したために、私の瞳は濁っていた。友達はたくさんいる。だけど、上辺だけの関係で、四六時中傷のなめ合いをして満足しているような人間ばかりだった。それでいて、本人のいない場所では罵詈雑言の嵐。

 私はそれが耐えられなかった。

 だから——

「ごめんなさい。私、あなたにこれっぽちの興味もないの」

 私は今の気持ちを、素直に伝えた。それが正しいことだと信じて。

 もしも私が、今のままでいいと自己暗示をかけていたら、あんな最悪の事態に陥ってしまったのかも知れない。

 発端は、その当時の親友との仲たがいだった。今となっては、どうしてあんな人と仲良くしていたのかは分からない。とにかく、あの時の私に人を見る目がなかったことは確かだ。

 彼女の彼氏がどうやら私のことを好きになったらしく、それはそれは酷い振られ方をしたらしい。

私はその彼氏に全く面識がなく、告白された時もきっぱりと断った。

 それで、彼女は逆上した。

 腹いせというか、完全なる逆恨みなのだが、私をグループの輪の中から弾こうと私の親友は画策した。そして彼女の思惑通り、歪曲した噂が学校中に飛び交った。

 あの女は遊び人で二股、三股しても平気な面をしているだとか、人の彼氏を寝取るのが趣味だとか、ありもしない出鱈目は、伝言ゲームのように私の周囲に一斉に広まり、私に友達といえるような人間はいなくなってしまった。

 昨日まで、実のない話で盛り上がっていた人たちは、嘲笑を浮かべながら私を突き放した。

 友人だけじゃない。

 学校の誰もが、私を遠巻きにして私の悪口を言っていた。

 それから私は軽い人間不信に陥った。

 他人に本音を話すことがどれだけ愚かな行為なのかを知った。

 余計に私の心の穴は広がっていくような気がした。

 虚ろな瞳に映るのは、モノクロな世界。

 追い風で簡単に吹き飛ぶ、作り物の人間関係。

 紙のように薄っぺらい自身。

 これが、私なのだろうか?

 周りの重圧に敗北し、立ち上がることもしない。

 そんな負け犬なのだろうか?

 いや——違う!

 ——そして私は完全に開き直った。

 噂の重圧のせいで私が辛い思いをするぐらいなら、その噂通りの人物になってやろうじゃないか。

 そうしたら思い悩むことはなくなり、新しい人間関係を築くことができるはずだ。

 今までいた友達と廊下ですれ違っても、気まずげに視線をそらす関係を修復することは、これから先できないだろう。できたとしても、私のことを平気でカイロのように使い捨てにするような人間と仲良くなれるとは到底思えない。

 だったら私は別人のように振る舞って平穏な日常を送ろうと思う。たとえ穴が広がり、この心が空っぽになったとしても、私は他人に縋ったりするような、見っともない人間になりたくない。

 親友だなんだといいながら、いざとなったら平気で裏切るようなあいつらと一緒にいるぐらいだったら、最初から何も期待しなければいい。

 きっと、私には私に相応しい場所がある。

 それから私はまず見た目の印象を変えることから挑戦した。ファッション雑誌や大人の服を観察しながら、どうすればいいか研究し見栄えを整えた。

 そして私は、自分から積極的に夜の街に何度も繰り出して、性格そのものを変えてしまおうと考えた。

 他人から与える印象も変える為、他人に嘗められないようにする為、どんな人間の前でも私は何度も遊んでいますという態度を崩さなかった。そうすることによって私は新しい自分を形成していった。

 どうすれば自分を変えられるのか分からなくても、教えてくれる人間を探すのには苦労しなかった。

 夜の街を歩いているだけで男の方から声をかけてきたので、あっちが行きたいところに行って、あっちが満足するまで適当に一緒にいた。

 毎日私は深夜まで遊んだ。

 家の人間は私のことを心配するなんて、まともな神経は持ち合わせていなかったので、深夜三時ぐらいに帰ってもお咎め一つなかった。

 家族であっても私は一定の距離を保っていなければ人間関係を築けなくなっていった。

 それは私の家族も同じ意見だったらしい。

 夜の街を練り歩かなければ、家族の真意もわからなかっただろう。それ以前は私の家族は普通だと思っていたのに、深夜家に帰ってくれば家の中は真っ暗で、私に帰ってきてほしくないかのように玄関の鍵が閉まっていた。

 その徹底ぶりには私も思わず苦笑してしまった。

 もしかしたら心配してくれている、なんて大層な幻想を抱いていたことが恥ずかしかった。

 たとえ土日の昼間に家にいたとしても、両親は家にはいなかった。

 みんな思い思いのことを自由にやっていて結構なことだ。

 そんな時に私は暇つぶしにテレビを見るのだが、たまにドラマの再放送が流れることがある。

 そして、友情だとか愛情だとかドラマの俳優が言葉にする度に私は寒気がした。そんなものは画面の向こう側だけの話であり、現実は、少なくとも私には縁のない話しだ。

 私はそういう時はテレビを消して、自分の部屋に引きこもる。分厚い壁がそのまま私達家族の心の壁のように思えて息苦しかった。

 認めてしまうと、やっぱり一人で居続けるのはやっぱり寂しい。

 けれど、一人の時間が長ければ長いほど、ネガティブな思考になっていった。

 深い人間関係を築けば、それだけたくさんのしがらみを抱えることになる。

 友達なんてものは足の引っ張り合いをするだけで、思いやりなんて言葉とはかけ離れている。そんなことはみんな知っている。

 だからみんな他人を蹴落として自分をより高い位置に見せることを日々考えているんだ。それを非難するのはお門違いだ。

 その真実に気付かなかった私が悪いんだ。

 退屈を埋めるつなぎとして、他人を友達と呼称して利用し合う。

 それが、私が生まれ来て分かったことだ。

 だから、無知で無邪気な人間を見ているとはらわたが煮えくり返りそうになる。

 どうでもいい悩みをさも一大事のように語ってくる人間や、アホ面をぶら下げて全く空気の読めない人間、何も言わずとも相手に自分の意思が伝わると思っている人間。

 そんなくだらない人間と友情ごっこに興じようとも思わない。

 一生一緒だとか言いながら、学校を卒業したらそんな約束も互いに忘れてしまっている。忘れていなくても、そんなのどうでもいいよねっ、という態でまったく意に反さない。 

 そんな茶番はもうたくさんだ。

 だからこうなってしまっても私は全然後悔していない。

 ……しちゃいけないんだ。








 過去と現在がごちゃごちゃしていて解りにくいのは、あえてです。

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