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次に目の覚めたのは午前十時過ぎ、もう随分明るくなって、カーテンの無い窓から耐え難いほどの日光が入ってきている時分だった。ううう。小さく唸って身体を起こす。寝すぎなのかなんなのか、酷い頭痛が僕の頭を重く揺らす。
今朝のあのとき、結局いつ寝たのか僕自身よく分からない。僕が眠った後も歌子さんは笑い続けていたのか、それとも歌子さんは僕が寝る前にもう部屋を出て行っていたのか。気が付けば眠っていたけれど、それは夢を伴った浅い眠りで、夢の中でさえ歌子さんはバスタオルを巻いただけの姿で平坦に笑い続けていた。はっは、はっはっは。あんまり怖くて背中を向けて逃げ出そうとする僕の左手首をがっしりと掴んで、歌子さんは笑い続けた。あれはもしかしたら夢でなかったのかもしれないと思うくらいに鮮明でくっきりとした、妙な夢だった。
そんなこんなで部屋に足を踏み入れるのに結構勇気が要ったのだが、覗いてみると歌子さんは背中を丸めてワイドショーを見ていた。後姿からしてひどくつまらなそうだが、とりあえず普通そうではある。僕は半ば安心し、明け方のことはとりあえず全部夢だったのだと思うことにして、その背中に声を掛けた。
「朝ご飯、食べられました」
「食べてないわよ」
無愛想な返事。思わずほっと胸を撫で下ろす。
「なんか作りましょうか」
「要らない。君いつもこんな時間から食べるの?」
振り返った歌子さんに向かって小さく頷くと、「そう、変なの」と吐き捨てるように言ってから、思い出したように付け加えた。
「それよりさ、紙無いの。ポスト何にも入ってなかったしさ、丸めたのをもう一回使う気にもなれないから、仕方なくこれ見てたんだけど」
「え、ポスト。覗いたんですか」
「そうよ、今朝。なんも無かった。で、無いの」
ポストに無いなら無いですね、と僕は答えた。蜜柑の写生ごときに僕の大切なレポート用紙を進呈するのはさすがに憚られる。
「そう、じゃあなんか買ってきて」
「今日バイト行くときに買ってきますよ」
歌子さんは満足そうな不満そうななんともいえない表情で頷いて、視線をワイドショーへ戻した。無意識なのか何なのか、長いストレートの黒髪の毛先をくるくると弄んでいる。僕は寝癖の付いた髪に手をやった。髪、直してこようか、ていうかパジャマのままだけど構わないだろうか。しばらく逡巡した末に、まあいいかと首を振り、いつもどおり食パンを二枚トースターに突っ込んだ。一人分では何かを作る気も起こらない。
これで三分の一か、半分か、もうそのくらいです。
短いおはなしなので(^^;)
ここまでお付き合いありがとうございます!
残る三分の二(ないし半分)も温かく見守っていただければ幸いです*




