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時計台から流れる、五時のチャイムの音で目を覚ました。うーんと小さく唸って隣に目をやる。おじいさんは居ない。当たり前か、そう思いながらもなんだかほっとして、ぐうっと大きく伸びをした。重い頭を支えていた首と背中が痛い。ぐるぐると首を回すと、灰色の厚い雲に覆われた空が目に入った。雨を降らせそうな雲だ。寝すぎた、早く帰ろう。そう思いビニール袋を持って立ち上がった僕の頬を、空から落ちてきた雫がぴちゃん、と打った。続いてもう一滴。また一滴。やばいやばい。僕は慌てて駆け出した。
アパートの玄関に着く頃には太陽も沈みかけて空はますます暗くなり、雨も本降りとなっていた。途中で諦めて走るのを止めたせいもあって、僕はひどく濡れていた。ジーンズの裾が跳ねた水を吸っていて重い。と言ってあの日の歌子さんのように絞るほどではなく、僕はさっさと階段に向かった。早く部屋に帰ってバスタオルで身体を拭こう。歌子さんは相変わらず絵を描いているかな。くしゃみがひとつ、唐突に僕の口から飛び出す。その時だった。
かんかんかん、ごんごんごん、がんがんがん。
何かに何かを打ち付けるような音が、アパートに響いた。




