第2話 清楚という名の最終兵器
「……ええと、デザイン案、出揃いました」
会議室。
高梨ひかり(29・胃薬常備)は、タブレットを机に置いた。
隣には浅香千代。
育成枠なのに、すでに社内で“次の目玉”扱いの少女だ。
理由は簡単。
癒しが、本物すぎる。
「どれが好き?」
モニターには三つの立ち絵案。
①王道清楚ワンピ
②ちょい甘ロリ寄り
③大人びた白制服
千代は真剣に画面を見つめる。
足を揃えて座るその姿勢が、すでに完成されている。
「……これがいいです」
指さしたのは、①。
白基調ワンピ。淡いリボン。花飾り。
守ってあげたくなる系。
高梨は内心でつぶやく。
(違う)
(守られる側じゃない)
(君は“壊す側”だ)
「清楚すぎない?」
「そうですか?」
「ほら、“守ってあげたい”って言われそう」
千代は少し照れたように笑う。
「守ってもらえたら、うれしいです」
その視線が、こちらを向く。
(だめだ)
刺さる。
「たとえば……」
千代が続ける。
「がんばったんです、って言ったら」
「うん」
「スパチャ、飛びます?」
真顔。
無垢。
完全に本気。
高梨はカップを持つ手を震わせた。
「……飛ぶ」
「やった」
「やったじゃない!」
沈黙。
そして、ふいに。
「マネージャーさん」
「な、なに?」
「今日も忙しそうですね」
距離が近い。
「無理しないでくださいね?」
声がやわらかい。
ただ、それだけなのに。
心臓が跳ねる。
「……膝枕、いります?」
「会議室!」
「じゃあ廊下で?」
「悪化してる!」
高梨は冷静になろうとする。
これは仕事だ。
これは育成だ。
これはマネージャー業務だ。
(これは恋じゃない)
たぶん。
きっと。
おそらく。
「……千代ちゃん」
「はい」
「配信では距離感、ちゃんと考えよう」
「どうしてですか?」
「君は無自覚で刺すから!」
「刺してないです」
「刺さってるの!」
千代は少し考えたあと、ふわっと笑った。
「でも」
「うん?」
「マネージャーさんが困ってる顔、ちょっと好きです」
心停止。
「……なんで?」
「わたしのことで困ってるってことだから」
高梨の胃が、きゅっと縮む。
これは。
清楚の顔をした。
最終兵器だ。
会議が終わり、資料を片付けながら。
千代がぽつりと呟く。
「マネージャーさん」
「なに」
「デビューしたら、もっと忙しくなりますよね」
「なるわね」
「そのときも、ちゃんと隣にいてくれます?」
一瞬、言葉に詰まる。
仕事としては当然だ。
でも、その聞き方は。
少しだけ。
違う。
「……いるわよ」
高梨は、ゆっくり答えた。
「マネージャーだから」
千代は少しだけ微笑む。
「よかった」
その笑顔が、やけにまぶしい。
(まずい)
高梨は心の中でつぶやく。
看板カップルがリアル化。
新人は無自覚魔性。
自分は胃薬増量。
そして今。
この清楚少女に。
ほんの少し。
揺れている。
(これはまずい)
とてもまずい。
でも。
ちょっとだけ。
悪くない。
▶︎つづく




