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最終話 マネージャー反撃回──恋はブレーキより速い

「えっと……今日は、私から少しだけ」


配信開始三分。


画面の中央には、たかなしさん。


隣には、いつもより少し大人しい朝霞ちよる。


コメント欄はすでにざわついている。


《反撃回きた?》

《マネさん覚醒する?》

《胃薬準備》


高梨は、深く息を吸った。


「前回……半分、って言いました」


コメント欄が止まる。


「でも、半分って、ずるいなって思って」


ちよるが、そっと視線を上げる。


「仕事とか、立場とか、いっぱい理由つけて」


「……」


「でも、本当は」


高梨は、一歩近づく。


「怖いだけでした」


正直な言葉。


配信中。


逃げ場なし。


でも、逃げない。


「ちよるちゃん」


「はい」


「私は、君のマネージャー」


「はい」


「守る側」


「はい」


「でも」


一瞬、間。


「守るだけじゃ、足りなくなった」


コメント欄、爆発。


《うわあああ》

《言った》

《完全に言った》


ちよるの目が、見開かれる。


「だから」


高梨は、ゆっくりと腕を伸ばす。


そして。


ぎゅっと。


不器用に。


ぎこちなく。


でも、まっすぐに。


ちよるを抱きしめた。


静寂。


数秒間、コメント欄が止まる。


《……あ》

《あああああ!?》

《マネさんからいった!?》

《尊死》

《胃薬どころじゃない》


ちよるの体が、ほんの少し震える。


「マネージャーさん……?」


「……高梨でいい」


小さな声。


でも、はっきり。


「仕事は仕事」


「うん」


「でも、これは」


少しだけ、抱きしめる力が強くなる。


「私の意思」


ちよるの手が、そっと背中に回る。


「うれしい」


それだけ。


その一言が、胸を満たす。


数秒後。


高梨は我に返る。


「……配信中」


「はい」


「めちゃくちゃ見られてる」


「はい」


コメント欄は祭り状態。


《昇天マネさん逆転》

《攻守交代》

《これはガチ》

《推しマネ最強》


ちよるが、カメラに向かって小さく笑う。


そして。


唇に指を当てる、内緒のポーズ。


コメント欄、再爆発。


《ちよるちゃん!》

《なんですか?》

《それはあざとい!》

《無自覚です》


配信終了。


スタジオの灯りが落ちる。


二人きり。


さっきの抱擁の余韻が、まだ残っている。


「……ごめん」


高梨が言う。


「配信で」


「ううん」


ちよるは首を振る。


「うれしかった」


その笑顔が、まぶしい。


「これで、半分じゃなくなりました?」


高梨は、少しだけ照れながら答える。


「……八割くらい」


「じゃあ、残り二割は?」


「ゆっくり」


ちよるは、うれしそうに頷く。


「待てます」


その言葉に、もう迷いはない。


数日後。


社内会議室。


『推しマネ正式ユニット化案』という資料が回る。


「いけます」


「数字安定してます」


「炎上もありません」


高梨は、深く息を吐く。


胃は。


痛くない。


代わりに、胸があたたかい。


夜。


事務所を出る。


並んで歩く二人。


「マネージャーさん」


「高梨」


「……高梨さん」


「なに」


「好きです」


高梨は、小さく笑う。


「知ってる」


そして。


そっと、手をつなぐ。


配信も、仕事も、立場もある。


それでも。


恋は、ちゃんと選べる。


マネージャー高梨ひかり。


ついに、自分の気持ちを選んだ。


胃と愛の境界線は。


もう、揺れていない。


──第二部・完──

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